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              右端の数字は本誌のページ番号です。
【目次】
Walk Again 2008 開催へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
臨床試験とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.臨床試験 2.阪大の嗅粘膜移植
3.千葉大の急性期臨床試験 4.セスリン
人工多能性幹細胞;今後の技術的問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
米国の患者会活動に学ぶ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.患者の手で再生医療の促進を〔東京〕
2.先端医療と市民の協働を考える〔神戸〕
『社会参加マニュアル』無償配布のお知らせ・・・・・・・・・・・・・・・
開催支援カンパのお願い/ブックガイド他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
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【お知らせ】


 開催概要
2008年10月5日(日) <開演時間未定>
東京国際交流館・国際会議場 にて
(東京・お台場、ゆりかもめ・船の科学館下車5分)
シンポジウム i PS細胞と再生医療の近未来
〔ヒト万能細胞〕

独)科学技術振興機構「JST News」
2007年12月25日特別号表紙
 
 【講 演】(仮題)
山中 伸弥 京都大学教授(iPS細胞研究センター長)
「iPS細胞の樹立とその展開」
中内 啓光 東京大学医科学研究所教授
「iPS細胞による臓器再生」
高橋 政代 理研神戸・網膜再生研究チームリーダー
「iPS細胞による網膜再生」
澤 芳樹 大阪大学大学院医学研究科教授
「心筋の再生医療の現状と展望」
岡野 栄之 慶応大学医学部教授
「iPS細胞による脊髄再生」
司会:高橋 真理子・朝日新聞科学エディター
〔敬称略、順不同〕
*主 催 日本せきずい基金・・・・・・・・・・
定員400人、参加申込み要領は次号に掲載

 企画に当たって 脊髄損傷者支援イベント“WalkAgain”は、日本損害保険協会から毎年300万円の助成を受け、2005年から2007年の3ヵ年、日本せきずい基金が主催して開催してきました。当初、本年は助成金が得られないため開催しない予定でしたが、山中伸弥京大教授らによるヒトiPS細胞(inducedpluripotent stem cell:人工多能性幹細胞)樹立のビッグニュースが昨年11月に飛び込んできました。
 私たちは山中教授に、再生医療におけるiPS細胞の可能性についての患者向けの講演をお願いし、山中教授からは超多忙なスケージュールにもかかわらず快諾して頂きました。そこで“Walk Again 2008”の開催を急遽決定し、さらにiPS細胞による臨床研究のトップランナーと目される研究者の方々に、最新の研究報告をしていただくことになりました。

 朝日賞受賞記念講演会では 3月21日、有楽町朝日ホールでの講演会で山中教授は、万能細胞による難病治療について、「元整形外科医としては特になんとかしたいのが脊髄損傷です」と述べ、すでに米国で胸損ラットへのES細胞移植で下肢の運動能力が回復している画像を紹介しました。四肢マヒとなったクリストファー・リーブは「50歳の誕生日には自分でワイングラスを手にして、お世話になった皆さんにありがとうという」ことを実現するために懸命にリハビリに挑戦した。山中教授はこの逸話を引いて、ラットの回復状況からみて「もしこれぐらい人間が回復したら、ワイングラスを持ち上げるぐらいには絶対行けるわけですから、患者さんにとっては全く違う暮らしになる」と述べています。

  昨年11月の「ヒト万能細胞樹立」の発表以降、わが国では前例のないほど急ピッチに、オールジャパンの研究体制の整備が進められている。またiPS細胞による脊髄再生は岡野慶大教授らとの共同研究が着手され、すでにその有効性が確認されている。
 10月5日には、山中先生にiPS細胞研究のここ1年間の進展と、難病治療研究への応用、薬剤開発への利用、などについてお話いただく予定です。



〔臨床試験〕
臨床試験とは
―― そのプロセスと実施状況 ――
日本せきずい基金事務局編
 はじめに
 京大の山中伸弥教授へEメールを送ると、次のようなメールが自動返信されてくる。
 「iPS細胞を患者様の治療に利用できるようになるまでは、最低でも数年の基礎研究が必要です。1日でも早く患者様のお役に立てるよう、研究員一同全力を尽くしております」。
 では、有望な治療法が見出された時、実際に患者の治療に用いられるにはどのような段階を踏むのかを、まず簡単に整理しておこう。(ICCP編『脊髄損傷の実験的治療』、2007年、日本せきずい基金刊も参照を。基金ホームページからダウンロードできる)

 ◆ 1.臨床試験  臨床試験と臨床研究
1) 臨床試験
薬(または医療器具)に関するヒトでの有効性や安全性を調べる試験。
治験:厚生労働省から薬として承認を受ける(医療保険が適用となる)ための臨床試験。
厳格な基準でで実施され製薬会社が行うことが多い。稀少疾患を対象とする治験では医師が中心になることもある(医師主導治験)。
自主臨床試験:治験以外の医師が主導する臨床試験。保険適応につながらないが、薬の新たな効能を発見したり確認する手段として実施する。
2) 臨床研究
臨床試験のように薬剤や医療器具の効能を調べるのでなく、人の血液や組織を利用した研究を一般に臨床研究という。

 臨床試験のプロセス
1) 前臨床試験
基礎研究の積み重ねの中で有望な治療法が見出されると、ヒトで行う臨床研究の前に動物実験によって安全性や効果が検討される。実験動物としては入手が容易でさまざまなタイプが研究用に市販されているマウスやラットが使われることが多い。
 次の段階として、臨床試験に入る場合と、大型動物で効果と副作用を検討する場合がある。わが国ではコモンマーモセットという小型の霊長類が研究用に入手可能でこれが使われることが多いが、海外ではブタやイヌ、ヒツジなども使われることがある。
 わが国の医薬品の審査機関である医薬品医療機器総合機構では、臨床試験を実施する前にカニクイザルでの1年間の安全性試験を申請者に求めている。
2) 臨床試験の4段階
動物実験で効果と安全性が確認されると、ヒトでの臨床試験の段階に入る。研究者は臨床試験計画書(プロトコール)を作成し、施設内審査機関(IRB)で研究計画が承認されると臨床試験の実施となる。
 臨床試験は4つの段階(第Ⅰ相〔フェーズとも言う〕
~第Ⅳ相)からなる。
 以下に『脊髄損傷の実験的治療』(pp.10-11)から、臨床試験の4段階を概説する。
 第Ⅰ相臨床試験 <安全性検証>
 新たな生物医学的治療法(介入)の安全性(安全な投与領域の決定、副作用の特定等)を少数グループ(20~80人)において初めて評価する。さらに薬剤が体内でどのように反応するか、体内での吸収や体組織への分布、代謝・分解・排泄に関する時間に重点をおいた薬物動態の検討が行われる。

 第Ⅱ相臨床試験 <治療的探索>
 生物医学的または行動療法(介入)の有効性、及びさらなる安全性を多数(数百人)において検討する。
 前期(Ⅱa)と後期(Ⅱb)に分けて行う場合もある。
 治療研究では、健常者に対する第Ⅰ相試験ではなく、少数の患者で安全性と有効性をみるフェーズⅠ・Ⅱa試験として実施されることもある。

 第Ⅲ相試験 <治療の有効性>
副作用を監視するとともに治療法(介入)を他の標準的又は実験的治療法(介入)と比較しながら、治療の有効性を多数(数百から数千)のヒト被験者において検討する。

 第Ⅳ相試験 <治療的使用>
 治療法(介入)が市場に供された後に実施される。
 本試験は、承認療法の有効性を一般集団で監視するとともに汎用に伴う有害事象に関する情報を収集するように計画されている。
 これは実施されないこともあるが、昨年10月にわが国の承認第1号再生医薬品である自家培養皮膚表皮がでは市場化後の第Ⅳ相試験 が義務付けられた。
 * 各段階の試験実施とその評価に1年~1年半程度を要している。

 ◆ 2.阪大で嗅粘膜移植実施
 2008年2月7-8日、大阪大学未来医療センターにおいて慢性脊髄損傷者に対する嗅粘膜移植が行われた。数人に対して実施したものと推測されるが、半年~1年後の治療成績が期待される。手術の翌日、第1回嗅粘膜移植研究会〔会長:吉峰俊樹阪大脳外科教授〕が阪大・中の島センターで開催されたので、以下にその概要を紹介する。〔記:伏見良治〕
 今回の嗅粘膜移植法については、2001年からポルトガルのリスボンを中心にCarlos Lima 医師 らが130例以上の症例を有しており、現在も積み重ねられている。Lima 医師の講演を中心に報告する。
なぜ嗅粘膜を使用するのか――嗅粘膜は頭蓋外で唯一、神経再生が生理的条件で再生する部位で発生学的には全く中枢神経であり、ES細胞に近い基底細胞〔表皮の最下層にある細胞〕と考えられる。
治療法――この治療法は、全ての患者に有効なものとは確認できておらず、以下の制限を設けている。
  • MRI検査で脊髄損傷部位の長さが3cm以下であること 。
  • 損傷した軸索が損傷部を越えて進展し、2次ニューロン〔神経細胞〕にシナプス〔神経の繋ぎ目〕を形成しなければならないため、その距離が長くなればシナプスの形成は困難になる。
  • 40歳以下であること。40歳以上になると嗅粘膜の量、再生能力が減少する。
    治療は3つの段階に分けられる。①手術:瘢痕の除去、②手術:嗅粘膜細胞の植え付け ③手術後のリハビリテーション。
    手術後のリハビリテーションが、機能回復に影響を与える。
機能回復
  • 機能回復の程度は、損傷の程度・部位にもよるが、個人差が激しい。
  • 回復の期間にも個人差があり、5年以上リハビリを続けて更に回復している患者もいる。
感想
脊髄損傷における機能回復の方法は、一つではない。今回のワークショップでは、主に細胞移植(嗅粘膜)及びリハビリテーションを用いる機能回復法が紹介されたが、細胞移植においても骨髄細胞やiPS細胞などを用いる方法、薬剤を用いる方法、サイバネティクスによる機能の補助などもあり、今後、種々の方法に関しても研究、臨床が加速していくことが期待できる。

 ◆ 3.千葉大で急性期の臨床試験へ
 千葉大学整形外科の脊髄損傷研究グループ〔山崎正志准教授、國府田正雄医師ら〕では、脊髄損傷の受傷直後のマヒの拡大の抑制に寄与すると期待される薬剤の「自主臨床試験」を計画し、3月に施設内審査機関の承認を得て本年5月頃から実施する予定。

 G-CSFについて
 これは顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colonystimulating factor)と呼ばれる、血球系に作用する増殖因子で、すでに白血球減少症などに用いられている。
 脊損マウスでの実験では、G-CSF投与例は非投与例に比べて後肢の有意な機能回復が見られたことから、今回、脊髄損傷の急性期治療に向けた安全性試験を行うこととなった。

 作用メカニズムとして想定されることは――
G-CSFにより動員された骨髄由来細胞が脊髄損傷部に生着する。
直接的に細胞死を抑制する。
オリゴデンドロサイト〔神経線維を覆う絶縁体〕の細胞死を抑制し、髄鞘を保護する。
急性期に細胞毒性を発揮し組織破壊に関与する炎症性サイトカインの発現を抑制する。
血管新生を促進する。

 臨床試験デザイン
 目的:脊髄損傷に対するG-CSFによる神経保護法の安全性を検討すること。従来、急性期には炎症を抑制するためにメチルプレドニゾロンというステロイド剤の大量療法が唯一あるのみだった。しかしその効果が近年疑問視され副作用の問題もあるため、神経保護作用をもつ薬剤の開発が急務となっている。
 対象者:受傷後8時間以内の急性脊髄損傷者で、16歳から70歳。本人の自由意志による文書同意が得られ、試験薬に影響を及ぼす疾患がない者など。

 試験のアウトライン:
 ステップ1
:5例にG-CSF(フィルグラスチム)を5μg/kg/日×5日間点滴静注 し、1ヶ月間観察。全例に問題なければ、 ステップ2:10μg/kg/日×5日間点滴静注。
 これはフェーズⅠ/Ⅱa段階の臨床試験に当るもので、これにより安全性が確認できれば、薬剤の効果を確認するために、症例を増やしコントロール群(薬剤を投与しない)を置いた、フェーズⅡb/Ⅲ試験を計画していく予定。
 脊髄損傷後の二次損傷を抑制するために、後述のセスリンを始めさまざまな薬剤の研究が行われてきているが、臨床研究にまで踏み込むものは数少ない。すでに他の効能で使われている薬剤はその安全性も高いものと思われ、急性期損傷脊髄への効果の検証へと進むことが期待される。

 ◆ 4.急性期治療薬セスリン
 米国ボストンの創薬ベンチャーであるアルセレス製薬(Alseres Pharmaceuticals)の副社長が来日し、2008年3月には基金役員と懇談を行った。
 同社は2007年1月にカナダのバイオエクソン社からセスリン(Cethrin®)の独占的ライセンスを取得した。今後、北米、ドイツ、日本においてフェーズⅡbの臨床試験の実施を目指している。

 ローキナーゼ(Rho kinase )
 脊髄を損傷すると、損傷部ではRhoキナーゼという酵素が軸索伸展を阻害するスイッチ機能を果たしていることが分かってきた。このRhoキナーゼの伝達経路を化合物や薬剤で抑制することによって、受傷後の軸索再生と運動・感覚機能の回復に貢献することを目的にセスリン(Rho Inhibitor)が開発された。
 セスリンは遺伝子組み換えによる融合タンパク質を用いた治験薬であり、重度の脊髄損傷における軸索再生・回復への効果が期待されている。

 セスリンのフェーズⅠ/Ⅱa臨床試験
 この治験では多施設、オープンラベル〔対照群を置かない〕、用量漸増によるセスリンの安全性、許容量、薬物動態をみる試験を頚髄損傷と胸髄損傷の患者に行った。2005年2月から開始し、2006年6月までに37人の患者が米国・カナダで治験に参加した。
 脊髄損傷者の2/3の患者が脊椎の除圧と安定化のための手術を受けている。この手術時にセスリンの一定量をフィブリン・シーリング剤を用いて、直接、脊髄の損傷部に注入する。
 投与量は0.3mgから開始し、6mgまで完了した。
 9mgまでの治験は両国の規制当局の許可を得ており、今後実施の見込み。
 なお、血液凝固剤のフィブリンは米国でC型肝炎の要因となり、日本では不活性化処理がされて問題がないと見られていた。しかしミドリ十字が米国の売血を混入していたことからC型肝炎患者が報告されている。現在国内で販売されているフィブリンは、こうした問題は当然クリアしたものと思われる。

 フェーズⅠ/Ⅱa臨床試験の結果
 結果はアメリカ脊髄損傷協会の評価尺度(ASIA)で評価された。
 術後6ヵ月後にASIA-AからBへ改善した者は、従来は7%以下であったが、セスリン投与群では平均して従来の4倍の27%、そのうち胸髄損傷で17%、頚髄損傷で46%であった。頚髄損傷の約半数がBレベルに回復したことは、胸髄に比して頚髄のほうが細いため結果的に薬剤濃度が高くなることによると解釈され、現在のところ投与量の大きいほうが回復を高めるものと思われる。

 フェーズⅡb臨床試験計画
 フェーズⅡbではセスリンの安全性と効果的な投与量を見る。2008年6月から200例を実施し、2010年6月までに一次データの集約を予定している(日本では30例程度を見込んでいる模様)。
 投与は受傷後72時間以内に行われる。非投与群、1mg、3mg、6mg、9mgの投与群が設定され、日本では6mgまでを想定している。
 対象者は18歳~62歳、ASIA-Aの完全麻痺、運動機能の神経学的レベルがC5、C6、C7で、頚椎の除圧固定術を受ける患者。
オーファンドラッグこれは稀少疾患用の薬剤を指し、その開発を支援するために制度的な特典がある。米国では患者数が20万人以下の疾患が対象となる。セスリンは米国FDA(食品医薬品局)によってオーファンドラッグとして指定されている。これによりセスリンについてはFDAが認可後7年間の独占販売権のほか、類似品の排除、税金の助成、治験開発基金からの特定の補助を受けることができる。
 アルセレス製薬は日本でもオーファンドラッグとして開発するパートナーを求めている。
 なお米国では年間1万1000人が脊髄損傷となっているが、同社の資料では、ASIA-Aの平均的な生涯ケアコストは約2億9000万円($2.9million)、これをセスリンの開発が成功しASIA-Cレベルとなった場合の生涯ケアコストは7000万円($0.7million)と1/4に低減するとしている。



〔ドリームキャッチャー〕
人工多能性幹細胞 今後の技術的な問題
伏見 良治
 私は7年前にバイクの事故で脊髄を損傷し、現在は車いすで生活しながら、㈱島津製作所・基盤技術研究所〔関西学研都市〕で次世代医療に関する調査、研究に携わっております。
 人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem cell:iPS細胞)を用いた脊髄損傷治療法の確立に対して、分子イメージングという新しい測定・評価技術を交えて、必要となる研究の説明を致します。

 iPS細胞  脊髄損傷の治療に有効と考えられている胚性幹細胞(Embryonic Stem cell:ES細胞)の特徴は、①いろいろな細胞に分化する力(多分化能)を持っている、②多分化能を維持したまま無限に増殖できることですが、再生医療に使用するには、受精卵より作成するという倫理的な問題と、他人の細胞から作るため拒絶反応が起こるという免疫的な問題がありました。
 今回、京都大学山中教授により作成されたiPS細胞はES細胞と同等の機能を持ちながら、患者自身の細胞を使用するために、上記の倫理、免疫に関してES細胞の持つ問題がなく、再生医療の次世代の主役として世界的に注目されています。

 治療法確立までの道筋  iPS細胞は脊髄損傷の治療法に大きな効果を及ぼすものと期待されておりますが、治療法を確立するためには、基礎研究と臨床研究の双方の進展が必要です。
 まず、基礎研究で解決しなければならない問題として、安全性・再現性・有用性、があり、これらの問題を全て解決して臨床研究に入らねばなりません。
 安全性は、真っ先に解決しておかないといけない大きな問題です。つまり、「脊髄損傷治療のために生体内に入れた iPS細胞が、生着しない」「分化したが神経細胞にならずにガンになった」「神経の部分に他の組織ができた」などでは困るからです。実際、慶応義塾大学医学部の岡野教授のご研究から、マウスに植えられた第一世代のiPS細胞が、ガン化したことが報告されております。
 再現性に関してですが、「同じ条件で実験をしたのに、同じ結果が得られない」「ある研究所でしか望まれる結果が出てこない」ということでは治療法となりません。
 有用性についてですが、「安全性も確認された」「再現性も確認された」、しかし目的の機能を発現しない、ということでは確立された治療法とはなりません。

 基礎研究  ここでは、基礎研究での技術的問題点に限定し説明します。また、新しい分子イメージング技術についても触れたいと思います。
 基礎研究ではさらに細かい段階があります。各段階について見ていきますと、
ⅰ) 細胞レベルでの研究では、○ iPS細胞の作成、○有効な iPS細胞の選別、○選別された iPS細胞の大量培養、○ iPS細胞の神経前駆細胞への分化〔損傷マウスに移植し症状を改善〕、についての検討が相当進んでおります。
ⅱ) 動物実験に関しても、ある程度、検討が進んでおります。ES細胞では、実験動物の種類を変更した場合、結果が異なることが報告されており、小動物だけでなく、霊長類を用いた研究も必要となります。ところが、動物を使用した場合は細胞を使った研究と異なり、動物の体内に入った細胞がどのように分化しているのかは外から判断できません。
 現在は、実験動物を解剖し病理診断することにより確認を行っていますが、実験動物の使用個体数が多くなるため効率的とは言えません。

 分子イメージング  分子イメージングという技術があります。この技術は、ターゲットとなる生体内組織中で形・位置・機能の確認を、生体に負担をかけず行う技術です。実用化されている例としてはガンを見つけるPETがあります。これはガン組織に集まる習性を持つ物質(分子プローブ)にシグナルを発する機能を付加し、体外からガンを見つけることができます。
 脊髄損傷の治療法検討においては、再生されつつある脊髄神経へ選択的に集まっていく分子プローブを創ることができれば、動物実験中に動物を殺すことなく脊髄神経の再生具合を測定・評価することができ、非常に効率的に実験を進めることになります。
 さらに、○分子プローブの選択性・シグナルの強さ、○測定装置の感度・分解能、を向上させることができれば、組織よりも小さな細胞単位で神経細胞の測定・評価ができることになります。
 今後、分子イメージングによる生体組織の測定・評価技術が発達することにより、動物実験の効率化が行われることになると思われます。

 治療法確立について  基礎研究の後、iPS細胞を用いた脊髄損傷治療の臨床研究(臨床試験)が始まります。
 さて、治療法確立の時期ですが、個人的には3年以内に臨床試験が始まり、その後、治療法の確立には5年程度かかるように思います。しかし、はっきりしていることは、「これからの2年は、今までの2年とは異なる」と言うことです。
 遠くに、ゴールが見えて来た、と思います。再び自分の足で歩く日を一日も早く実現するため、行政、研究機関に、個人及び団体でどのような支援ができるかを考え、行動いたしましょう。■



〔シンポジウム報告〕
米国の患者会活動に学ぶ
――米国若年性糖尿病財団――
2008年2月2-3日、米国若年性糖尿
病財団(Juvenile Diabates Research Foundation:
JDRF)のゴールドスタイン科学部長
(Robert A. Goldstein ,M.D., Ph.D) を迎え東京と
神戸で連続シンポジウムを開催した。
〔文責:事務局〕

1.患者の手で再生医療の実現を
【東京会場】
 2月2日に、東京・恵比寿の日仏会館にて日本せきずい基金が主催してシンポジウムを開催した。ゴールドスタイン氏の講演に続き、日本IDDMネットワークの井上龍夫理事長が「1型糖尿病とその諸問題解決に向けての患者会活動」について報告。ついで岡野栄之慶大教授がヒトiPS細胞樹立の意義と幹細胞研究の新展開について講演。さらに科学ジャーナリストの東嶋和子さんの司会で討論を行った。

 1) JDRFの活動
 JDRFは1970年代米国の若年性糖尿病〔1型糖尿病〕の子供の親たちにより設立された。その使命は、1型糖尿病とその合併症の治療研究に助成することである。治療研究の目標は、血糖値の維持、合併症の予防、その治療法の開発、再発の予防にある。
 現在は年間200億円以上集めているが、その95%が個人献金である。150億円を世界規模で研究助成しており、その約35%を米国外の研究者に助成している。
 これがなければ、米国における1型糖尿病の研究費は約半分に落ち込んでしまう。NIH(米国立衛生研究所)やCDC(連邦疾病予防センター)、NASAなどと連携し、研究費の獲得に協調的に働いている。

 研究者との関係  JDRFは研究に関しては研究者と 対等な立場と考えており、研究テーマをJDRFが提示し、それに対して研究者が応募してくる。研究テーマはJRDFの使命に合致する研究かどうかを二重に厳重に審査し、2006年には21カ国の研究者に1億500万ドルを助成した。臨床試験への参加は、患者からのボランティアが主体であり、医師からの呼びかけではない。

 政府を動かす力  ワシントンDCの議事堂前で200人もの患者たちが1型糖尿病研究への政府の援助を訴えた。その訴えに応え連邦政府は10年間で約1千億円以上もの追加投資を決めた。少なくとも米国では、政府を動かすのに最も影響力があるのは市民活動である。
 患者・家族の一人ひとりの声を戦略的に広報していくことで、非常に大きな影響力になっていく。

 国際的活動・研究への助成  連邦政府以外にもカナダや欧州の財団と強力な連携を結んでおり、これらの国際的活動を通し、これまであまり1型糖尿病研究に活発ではなかった国の活性化に成功したと信じている。
 1988年にウイスコンシン大学のグループがヒトES細胞の作成を発表した際、JDRFはすぐにサポートを開始した。2000年には、世界で最高水準のヒト幹細胞研究者がメンバーに名を連ねる幹細胞研究に関する国際委員会を創設した。
 JRDFはヒトES細胞のみならず1型糖尿病への成体幹細胞治療の研究支援を行い、2007年7月までに幹細胞研究に7億2千万円以上を助成した。これはインスリン産生ベーター細胞への分化研究を重点的に行っている。JRDFの支援する国際幹細胞フォーラムは、21カ国にわたり幹細胞研究の倫理面の論議や、情報交換を行っている。また米国にすでに存在していた幹細胞研究のガイドラインを普及させる活動もしている。更に国際幹細胞研究集会(岡野教授も参加)で、科学者と一般市民の交流をサポートし、web上で幹細胞研究の情報を発信している。

 大切なのは広報活動  JDRFは研究者だけでなく、脊髄損傷のクリストファーリーブ、パーキンソン病のマイケル・J・フォックスなどの強力なパブリック・フィギアと、キャンペーンを協調的に行ってきた。そうした活動により、カリフォルニア州では10年間で3千億円という巨額な幹細胞研究資金の拠出を決定した。
 JDRFにおいて研究費の援助は重要な活動の一つではあるが、政府の方針に色々な広報活動を通し影響を与えるという活動と比べると、大きなものではない。

 効果的な陳情方法とは?  意見を異にする人々とは戦うのでなく、教育することである。例えばES細胞は余剰胚を利用するが、これはもともと5年で廃棄されるもので、それをただ捨てるのか病気で苦しんでいる人を救うために使うのか、どちらが大事かを真剣に色々な人々と討論してきた。
 2~3年議論は続いたが、現在60~70%の人々は、その信仰に関係なくES細胞を難病研究に使うことに賛同している。相手のネガティブなことを言うのでなく、地道な教育活動が重用だ。そして、政治家や行政を動かすにはまず、「私たちの目的に資金提供をすれば、私たちはその活用方法を知っており、とても有効に使う」とプランを見せることが大切である。
 沢山のグループの人々が政治家に「これをしてくれ」と単に陳情するが、JDRFのような少数のグループだけが「あなた方にこれを頼みます、私達はこれをします」と提案し、明確な目標に到達するために共同で働く。少数の人々は明確であるために大きな影響力があり、多数の人々は整理されたプランを持っていないがために影響力は少ない。
 あなたの政治家に与える影響力はあなた次第。どのように政府に訴えるか、注意深くあらねばならない。ロビー活動は、いかにそれによりよいことが出来、いかに科学に貢献するかも示さないと現実化しない。
 これまで米国政府が興味を持たなかったヒト幹細胞研究を動かしたのは、クリストファー・リーブ財団などと協調し、こうしたやり方をしてきたからであろう。

 2)日本IDDMネットワークから
井上龍夫理事長
 1型糖尿病とは  すい臓から「インスリン」が突然出なくなる原因不明の自己免疫疾患で小児期の発症が比較的多い。1年間に人口10万人に1~2人発症し、全国の患者数は10万人程度である。一方、2型糖尿病は生活習慣が原因で、成人の発症が多いく糖尿病全体の99%を占める。1型糖尿病は2型糖尿病と混同されやすく、周囲(職場、学校)の無理解による偏見や誤解から、学校での教育的な差別やいじめの対象となることもある。

 過酷な自己管理  血糖値が下がりすぎると低血糖症で意識を失うため、1型の子どもたちは1に3-4回のインスリン注射が不可欠で、毎回の注射の前には指などから少し血を採って機器で測定する血糖値測定も欠かせない。血糖値の厳しい自己管理や、親からも自己管理を求められ、一生継続する闘病生活に対する不安感、ストレスという心理的問題をかかえやすい。

 治療法の進歩と問題点  強化インスリン療法とインスリン製剤の多様化で、1日4回またはそれ以上の頻回の注射や様々なインスリン製剤の登場で選択肢が拡大したことで、正常な人のそれに近いインスリンコントロールが可能となった。また痛みの少ない注射針や採血用穿刺器具や連続的な血糖モニターが可能となり、QOLが大きく改善し生活の自由度が増大した。
 しかし厳しい血糖値管理は低血糖症のリスクにつながり、重篤な場合は意識障害を招く。逆にルーズな管理で低血糖を回避すると合併症のリスクが待ち受けており、1型糖尿病患者は「低血糖と合併症のわずかな隙間で生き延びる」と言っても過言ではない。

 全国ネットワークの組織化  阪神大震災時(95年1月)の患者同士の助合いをきっかけに各地の家族会が連携し1995年9月に日本IDDMネットワークを結成、2000年にNPO法人化した。運営(役員)は患者・家族を中心に、約30都道府県の患者・家族会および個人が参加。
 ①患者・家族が安心して暮らせるために、②正確で新しい情報を提供し、多様な相談への対応、③質の高い先進的医療を受け、継続できる環境、④災害時など緊急対応とその支援体制実現、を目標に活動している。

 根治療法への期待  1型糖尿病の根治療法に向けた研究は京都大学、千葉東病院、東北大学などで進められている。膵島移植の治験が国内で開始されたが、保険適用(手術、免疫抑制剤)やドナー不足、移植細胞の生着率の向上など多くの課題がある。
 京都大学での万能細胞の発見は、自己の細胞で組織を再生し、完全に拒絶のない組織の移植を可能とするもので大きな期待をもっている。
 1型糖尿病の根治に向けた先進的医療の研究開発を助成するために私たちは「1型糖尿病研究基金」を設立した。まだまだスタートしたばかりだが、多くの方々に研究基金への募金を呼びかけて行きたい。


 3)再生医療:夢から現実へ
岡野栄之慶応大学教授
 ES細胞による治療研究  ES細胞は受精後4、5日の時期の初期胚の内部細胞塊を培養した多能性の細胞である。ES細胞による治療研究としては、糖尿病ではヒトES細胞からインスリン産生細胞をつくるランゲルハンス島様の構造の誘導にアメリカのジェロン社が成功したと報告している。今後はおそらく、肝臓の一部に異所性のランゲルハンス島の構造を作るという治療法の研究が展開されるだろう。
 脊髄損傷では、カリフォルニア大学のH.キーステッドとジェロン社が共同して、ヒトES細胞による脊髄損傷の治療をFDAに申請中で、おそらく今年中に臨床試験は開始されるだろう。
 わが国ではものすごい量の申請書類を書いて、1年も待たされてやっと研究に着手できるという状況であり、我々が始めるころにはアメリカはとうに先に行っているということで、なかなか頭が痛い状態である。

 iPS細胞とは  皮膚細胞のように簡単に採取できる細胞をES細胞のような細胞に先祖がえり(初期化)させそれを受精卵の状態、何にでもできる状態にする技術がiPS細胞のテクノロジーの根幹である。山中先生は、核を抜いたヒト受精卵とES細胞には何か全能性をもたらす何らかの因子があるのではないか、と考えた。簡単にいえば、ES細胞だけで特異的に発現している、あるいはES細胞で非常に大事な役割を果たしている遺伝子を我々の皮膚のような細胞に導入することによって、ES細胞のような性質、すなわち初期化が起きるかどうかを見てみようということである。
 ES細胞だけで特異的に発現している4つの遺伝子を選択して導入することで、皮膚細胞がES細胞のような性質を付与されることが2006年の論文で明らかにされた。誘導性多能性幹細胞、induced pluripotent stem cellの頭文字からiPS細胞と名付けられた。これはマウスの細胞であるが、ついに去年11月、成人の皮膚の線維芽細胞からヒトのiPS細胞を作ることができた。

 熾烈な研究競争  患者自身の皮膚細胞からiPS細胞を作り、それからいろいろな細胞を作って移植が可能になる。これは免疫学的拒絶反応の起きない非常に理想的な細胞である。いろいろな病気の解明や、新しい薬を作る創薬の際の副作用の評価も可能になる。
 その後研究は爆発的に進展している。2006年に山中先生がマウスiPS細胞を樹立後、iPS細胞の第二世代は京大だけでなく、ハーバード・MITの3グループがほぼ同時。薬剤選択なしではハーバード、カリフォルニア大学が先行。ヒトiPS細胞は、京大、ウィスコンシン、ハーバードがほぼ同時。ガンを起こす遺伝子でなしの樹立では京大、MITが成功し、これを使った疾患モデル研究ではMITが最初に行っている。
 我々は2006年の最初の発表の直後から京大と慶応の連携プロジェクトとして、iPS細胞を使った神経疾患の再生医療の開発を行ってきた。

 脊髄損傷治療への挑戦  脊髄損傷でも5-10%の軸索が損傷を免れるか再生できれば、機能的にかなりの改善が期待できる。我々は神経幹細胞移植のベストタイミングが受傷後9日目が最も治療効果が高いことを明らかにした。これに基づき脊損ラットの神経幹細胞移植の有効性を2002年に我々は示した。
 さらにサルの脊損モデルで神経幹細胞移植の有効性を示した。コモンマーモセットという小型の霊長類に、ヒトの胎児由来の神経幹細胞を移植した。それは各種の神経細胞に分化するとともに、サルの運動機能が回復することを、すでに数年前に論文で発表した。
 しかし、胎児由来の細胞を使った移植医療に関しては生命倫理学者が強く反発し、我々はいつでも実施できる準備をしたが未だに実現に至っていない。

 HGFの治癒力  大阪大学の研究者が発見した肝細胞増殖因子HGFは、神経再生の能力があることが示唆されていた。そこで、C5損傷のサルの受傷部直下にポンプでHGFを持続注入すると、衝撃的なまでの治療効果があった。非投与群では立ち上がるのも困難だったが、HGF投与群は歩き回りジャンプもできるという著しい治療効果が見られた。MRIでは損傷部の空洞の体積が著しく縮小し炎症も確実に収束している。現在ある企業と提携し、臨床応用への準備中である。
 神経線維の可視化 昨年我々の開発したMRIの強調拡散テンソル法によって、軸索を可視化することに成功した。C4-5レベルのASIAスケールBで完全麻痺だが感覚が一部残っている患者さんを慶応病院のMRIで見ると、軸索がC4-5で途絶え、一部が残っていることがよく分かる。非侵襲的イメージング法により神経軸索の可視化が可能になったことで、脊髄再生の治療法に開発の評価に役立つことが期待される。

 iPS細胞による研究  iPS細胞からいくつかの段階を経て神経幹細胞を作ることに成功している。iPS細胞由来の神経幹細胞は試験管内でニューロン、グリア細胞であるアストロサイト、髄鞘形成細胞であるオリゴデンドロサイトに分化する能力を持っていた。
 これは第二世代のiPS細胞をによるものだが、iPS細胞は株によって腫瘍化にも大きな相違がある。iPS細胞は皮膚の組織片からでも非常に多くのiPS細胞の株を作ることができるので、今後は多くのiPS細胞を作り、そのなかで一番安全性と有効性の高い、確実なiPS細胞を使って臨床研究を進めていくことが必要。
 iPS細胞由来の神経幹細胞移植では、下肢の運動機能は有意に回復し、iPS細胞はES細胞とほぼ同等の治療能力があることがわかった。
 iPS細胞自身の治療法はやはり亜急性期の患者さんを対象である。慢性期の患者さんの治療法の開発に関しては、瘢痕組織を何らかの酵素学的方法で分解して、神経幹細胞を移植する。さらにリハビリを組み合わせる。さらに軸索再生。慢性期の治療法としては、これらすべてのファクターを組み合わせた併用療法を現在検討している。


 ◆ パネルディスカッション
東嶋和子さん
 東嶋:1型糖尿病団体はなぜ資金が潤沢なのですか?
 ゴールドスタイン:子どもが不治の病を患っていると、人々は治療法発見に情熱を傾ける。1型糖尿病は患者の落ち度からではないため、子どもを治したい親から親の友人、その会社へと寄付が増えていきます。

 東嶋:日本でも大きな情熱はあると思うのですが。
 井上:患者数が違います。日本は5万人ほどで、米国の1型は100万人以上です。希少疾患で大きな声になったことのひとつに、寄付に税制上の優遇がある文化の違いです。税金で大金を奪われるより使途が明確なほうに寄付する。私たちの運営費の8割が製薬企業からの寄付金です。それと別のファンドとして研究基金をつくりましたが、なかなか理解は得られない。

 東嶋:せきずい基金の大浜さんはいかがですか。
 大浜:企業は、環境問題に資金を提供するこは理解を示すが、脊髄損傷に資金をというと拒まれる。その他の難病を差し置いて脊髄損傷だけに資金提供する理由が見当たらないから。一方、理解を示しても税制面の明確な優遇措置が不可欠となる。

 東嶋:岡野先生は患者団体から研究資金は?
 岡野:私は寄付をする側で研究費は頂いていません。米国でもNIHの研究費だけではヒトES細胞研究はあそこまで進まなかった。それを色々な財団が支援してきたことが大きい。財務省とも話していく必要性を感じます。

 東嶋:JDRFでは1型糖尿病をどのように皆さんに伝え、一番力を入れているのはどんなことですか。
 ゴールドスタイン:寄付をしてくれる人に、どんな到達目標があるかはっきりした計画を示すことです。
 ES細胞では、「あなた方の宗教や意見は尊重しますが私の意見は違います。私の意見を説明させて下さい」と研究の重要性を理解して頂くことを目標にしています。

 井上:外資系の製薬企業は患者へのダイレクトな接触や、製薬会社以外も社会貢献活動の重要性の認識が上がってきて、最近では目的・効果が明確なら寄付できるという気運がようやく出てきています。
 この10年間で膵島移植の技術が上がってきて、700人程がその恩恵を受け、ある比率でインシュリンから解放されています。この最近の進歩の最大の貢献は、JDRFからの資金提供です。たった数人の1型糖尿病の親が30年前作った団体が年間200億円も集めていることを3年前に知り、日本でもと始めたもののなかなか上手くいかず、それでも地道にやってきています。
 ゴールドスタイン:ひとつ補足すると、その病気を最も効果的に説明できる先生は、科学者ではなくボランティアやご家族です。彼らはその病気のメッセージの伝道主であり、喜んでその仕事をしてくれます。

 東嶋:小さい子どもが注射を打つ様子をスライドで見ると、感情に訴えられ早くどうにかしたいと思うのですが、アピールにどんな工夫をしているのですか?
 井上:写真が有効です。外見から見えない疾患の辛さを訴えるには、それなりの工夫が必要です。特に小さな子どもが血糖測定を含め、一日に計8回も注射針をがでやっていることを言葉や映像で伝えることは有効です。あと親の立場の辛さ、自分の子どもが一生注射針を刺さねば生きていけないというどん底の受容プロセスを説明し、共感を得て寄付に繋げています。
 大浜:リーブや白血病の夏目雅子さんのようなスター的人材と、メディアの力はかなり大きいですね。

 東嶋:米国には糖尿病患者のシンボル的存在はいるのかという点と、製薬企業に寄付を募ると制約が発生するから受けない等のルールについては?
 ゴールドスタイン:10年前にはスポーツや映画界など、持病を人前で語るスターは少数でしたが、現在では、病気のために活動をすることで彼ら自身のパブリ ックイメージが上昇します。寄付する人々は特定の医師やプロジェクトに提供する決定権はありませんし、元々規制のない製薬企業からしか寄付を受けません。
 井上:日本でもわりとオープンになってきて、巨人の新浦投手だけでなく、最近はガリクソンさんや岩田君、ジョンソン選手等、注目される野球選手などが、病気のことを語ってくれるようになりました。

 東嶋:患者団体が研究促進に役立つこと・先生方の後押しをすることは出来るのでしょうか?
 岡野:安全性・有効性の確認された治療法が規制故に出来ないのを何とかしてほしいという患者の声があります。生命倫理学者は何か別事と考えているようで、それなりのロジックがあるにしても、その主張により困る方がいることもわかって発言して欲しいと思います。私達が話しても永遠にらちがあかないので、いつか患者さん達と生命倫理学者が直接話す機会を持ってほしいと思います。科学的に証明されたものをいかに世に出すか、というところになると患者団体の声は大きいと思います。

 東嶋:一般人には、生命倫理学者の意見は通りやすいけど、患者の声はなかなか届きにくい。研究者より、患者側が生命倫理学者とじっくり話し、その議論を一般の国民に届けることも大切だと思います。
 ゴールドスタイン:重要な決定を示す時、患者団体の代表者もメンバーに入っていることが大事です。

 東嶋:理化学研究所で網膜再生研究をされている高橋政代先生が会場においでですが、いかがでしょうか。
 高橋:いつも患者会の方たちと話し合い研究を進めてきました。「患者さんが待っている」と考えて研究をすれば道を踏み外すことはなく、力になり、ありがたいことです。再生医療研究では研究者の倫理だけ言われますが、では生命倫理学者やマスコミの倫理はどうなのでしょう。その時の絶対的な倫理は“患者さんにとって良いこと”です。自立し、自分の疾患を理解した強い力のある患者さんであってほしいと思います。

 東嶋:網膜色素変性症の患者団体の方は?
 金井:私達の会は患者・先生方・支援と三位一体で活動してきました。この10年間、先生方に助成金をと活動し、昨年は300万、3名に100万ずつという形です。
 自分達の治療法を自らの手で――これが私達の活動の大きな柱です。実はこれからNPO法人を作り、網膜色素変性症研究基金を立ち上げようと思っていました。
 ゴールドスタイン:一つの言葉を、一人より沢山の声で出すほうが効果的ですね。
 東嶋:沢山の声でひとつのメッセージをですね。
 大浜:これからは患者団体の横の連携が大事だと思います。せめて神経系とか幹細胞関係でも一緒に……

 東嶋:患者団体の皆様も、ぜひ手を繋いでいって頂きたいと思います。最後にパネラーから一言ずつ。
 井上:患者側の熱い期待感を研究者側にちゃんと伝えることで、研究者のモチベーションを上げることになると思います。また行政へのロビー活動を通し、我々から医療者側に支援が出来る。多額でなくとも、患者の“これでなんとかして下さい”という気持ちのこもった研究資金提供がダイレクトに出来れば最良です。

 岡野:患者さん達がいるから研究のモチベーションをいつも保っていられると思っています。我々の研究のノウハウをiPS細胞にどの程度置き換えられるのかは比較的早く決着をつけられると思います。初期胚や胎児組織利用に関する生命倫理的議論に全員一致で同意することはあり得ない世界であり、iPS細胞で置き換えられることは、非常に大きなパラダイム・シフトになると思います。こんなに待っている人がいるのに、なぜ我々の研究を非倫理的だという倫理学者がいるのか全く理解出来ず、一時期モチベーションも下がりつつありましたが、これでまた頑張っていきたいと思います。
 ゴールドスタイン:幹細胞研究は非常に沢山の疾患に影響するため、多くの患者団体が集結するきっかけとなります。そのメッセージをシンプルに保つことで、研究の進展への悪影響を排除し、他国のように予算を増加させることに繋がるでしょう。多くの患者団体がひとつの声をあげることの重要性をより強調したいです。



2.先端医療と市民の協働を考えるシンポジウム
【神戸会場】
 2月3日(日)、神戸市・ポートピアの臨床研究情報センター(TRI)で、神戸の市民団体の実行委員会によるシンポジウムが開催された。せきずい基金役員は当日東京が大雪に見舞われたことから参加を断念し、伏見良治氏にレポートをお願いした。

 ○ 神戸市長及び兵庫県知事の出席があり、かなり注目を浴びている講演会であるとともに、神戸市が医療に力を入れていることが確認できた。講演内容に関して、日本と米国とでは、患者と研究者の立場、考え方に差異があることが確認できた。

 ○ JRDFの報告の後、理化学研究所の西川伸一先生が以下のように総括した。
 海外では、治療法確立に対する患者の考え方も能動的である。臨床におけるボランティアについて、米国では臨床試験の意義を良く理解した上で患者のボランティアで行われている。臨床試験においては治療の効果確認のため、半数の被験者には治療は施されない。
 つまりまったく効果が期待できない治療が行われる可能性があることも理解した上で、患者がボランティアを申し出ている。



〔冊子配布のお知らせ〕

 本書は脊髄損傷者の社会参加の方法を、様々な事例を交え紹介している。脊髄損傷者の症状は患者ひとりひとりの障害のレベルで違い、また、本人を取り巻く社会的条件の違いでも社会参加の意味は変わってくるため、定式化することが困難である。しかし、社会復帰を果たされた人々の事例をより多く知ることで、受傷した本人が目指したいと思う方向性を見出す上で、有益であろう。構成は以下の通り。
  1. 脊髄損傷者の社会復帰に関する総論
    [治療・リハビリとゴール設定、リハビリテーションプログラムの流れ、復学・進学への取組み、住居など]
  2. 社会復帰事例集(事例1~20)
    [復職時に病院から会社に送った申し入れ書とその回答など具体例を含む、頚髄損傷を中心とした事例〕
  3. 私の選択[3名の当事者の手記による、社会復帰までの詳細な道すじ]
  4. 社会復帰のための工学的支援
    [脊損者でもある著者による、住環境改造事例集、公共交通機関のバリアフリー状況など]
  5. 障害者スポーツへの招待[その歴史、分類、競技の種類、車イスアスリートの座談会など]
 参考資料:全国の職業リハビリテーション関係機関、福祉工場、障害者スポーツ関係団体、相談窓口、リハビリ工学関係機関など全国労災病院データベースによれば、受傷後平均5年経過における職業復帰率は24.9%という厳しい現実がある(内田ら、日職労災誌51,2003)。
 本書では、全国の脊髄損傷医療の実績のある医療機関のMSW、セラピスト、看護師らにより頚髄損傷を中心に、20事例の社会参加の経過が紹介されている。
 これは当事者のみならず、リハビリテーションのゴール設定に関わる専門職の方々にとっても有益であろう。
 本書が、難しい状況にあっても人として生きようとする当事者に希望とチャレンジ精神を呼び起こし、積極的な社会参加に結びつくことを願っている。

◆ 無償頒布します  本書を購読ご希望の方は事務局までお知らせ下さい
   (障害レベルまたは職業も記載を/送料も無料)。→メール:jscf@jscf.org
    電 話:042-366-5153   FAX:042-314-2753
* 本書を利用者に配布希望の場合は10冊単位でも贈呈可能ですので、ぜひご利用下さい。




 ◆ せきずい基金活動記録 (07年12月~08年3月)
○12月15日 患者中心の医療を考えるシンポジウム 2007
日本製薬工業協会主催 大手町 役員2名参加
○12月25日
  2008年…
シンポジウム「多能性幹細胞のインパクト」
科学技術振興機構主催、京都、役員4名参加。
○1月15日 NHKTVクローズアップ現代「生みの親が語
る万能細胞が切り開く未来」 役員がコメント
その後教育TV「サイエンスゼロ」に再編集。
○2月2日 シンポジウム「患者の手で再生医療の促進を」
開催 東京・恵比寿;日仏会館ホール 80名
○2月3日 「先端医療と市民の協働を考える」に協賛
神戸市、臨床研究情報センターにて 130名
○3月7日 毎日新聞朝刊・論点「iPS細胞研究支援どう
する」に理事長が寄稿。→基金HPに全文掲載
○3月13
   ~14日
第7回日本再生医療学会 名古屋国際会議場
「市民公開講座」で報告。役員2名参加。
○3月23日 国際生命倫理ワークショップ 京都 役員1名参加



〔ブックガイド〕

頸髄損傷者のための自己管理支援ハンドブック


     国立別府重度障害者センター
     頸髄損傷者自己管理委員会 編著
     中央法規出版 2008年3月刊
     B5判196頁、定価 2,940円

 常時入所者の80%が頚髄損傷者である施設の専門職員からなる頸髄損傷者自己管理委員会では、当事者のADLの向上を目的に、テーマ別のパンフレットを各種刊行してきた。これらを加筆修正したものが本書である。
 12章からなる本書は、二次障害や合併症予防の基礎知識、食事、車イスの操作法、排泄、入浴、性、更衣、自助具、在宅リハビリなど、多数の図版や写真でわかりやすく紹介されている。施設から自宅に戻り、どのように生活していくか、そのために何が必要か、専門スタッフの視点で数々の不安や疑問に答えてくれる。
 病院や施設を出て自立生活の年数を重ねると、始めのころの医学的基礎知識が曖昧になるが、こうした本から改善のヒントが得られることも多々ある。排泄機能障害は頸髄損傷者の社会参加への大きな阻害因子だが、自分なりの方法を確立することで行動範囲が広がり、新たな生活に繋がる。頸髄損傷者の自己管理のための基本的ガイドブックとして、医療福祉関係者にも有益である。

  ユニバーサル・ファッション
        アイディアいっぱい介護服


 高齢者・体の不自由な方のための着やすい服の
 研究グループ「糸の詩」  代表 栗田佐穂子 著
 ブティック社 2008年3月刊
 B5変型96頁+型紙、定価 1,260円

 筆者は、ドレスメーカー学院の副校長を務め、また家族の交通事故をきっかけに、体の不自由な人の自立を助ける服の研究グループ「糸の詩」を創設した。
 本書は、療養中や車イスユーザーなど体が不自由な人、介護を必要とする高齢者のために、既製品をリフォームして着やすくするアイディアや、付属の等身大の型紙で作れるものを紹介。引っ張るだけで付けられるネクタイや、長時間座っていても背中が出にくいズボンなどのリフォーム案なども紹介している。
 「糸の詩」では、6月17日に川崎市の多摩市民館で開催する「ユニバーサルファッションショー&展示会・フォーラム」の、ウエディングモデル、ドレス・日常着のモデルを募集している。

連絡先:登戸ドレスメーカー学院内「糸の詩」事務局
代表 栗田佐穂子 E-mail:dome@n-dm.com
Tel:044-911-2221(午前)044-922-6469(午後)


私たちは、身体の不自由な方へ 介助・介護 を行います。
私たちは、障害者が地域で自立した生活を営んでいくため、またご家族の介護負
担を軽減するため、ホームヘルパーの派遣を行い、介護や家事などの日常生活の
サービスを提供しています。(居宅介護自立支援法事業)

 利用ご希望の方、話を聞いてみたい方ご連絡下さい。
 担当者がご説明にお伺いします。(都内及び近郊)
 NPO ピッケルニ
〒152-0031
東京都目黒区中根2-13-14 1F
Tel.03(3725)8836
Fax.03(3725)8837
E-mail:piekernie@kjd.biglobe.ne.jp

  居宅介護支援事業所番号
  居宅介護:1311000564
  介護保険:1371002336



Walk Again 2008 開催支援カンパの振込先は

▼ 振込先(口座名は「日本せきずい基金」)
  郵便振替 No.00140-2-63307
  銀行振込 みずほ銀行 多摩支店
  普通口座 No.1197435
  インターネット イーバンク銀行サンバ支店
  普通口座No.7001247 ニホンセキズイキキン

★ 同封の振替用紙は、カンパやこの機関紙購読料の支払
いを求めるものではありません。
資料頒布が不要な方は事務局までお知らせ下さい。


発行人 障害者団体定期刊行物協会
     東京都世田谷区砧6-26-21
編集人 特定非営利活動法人 日本せきずい基金・事務局

〒183-0034 東京都府中市住吉町4-17-16
TEL 042-366-5153  FAX 042-314-2753  
E-mail jscf@jscf.org
URL http://www.jscf.org/jscf/
この会報はせきずい基金のホームページからも
ダウンロードできます。      頒価 100円