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【目次】
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ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞 )
樹立の意味するもの
2007年11月21日、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らと米国ウィスコンシン大学のトムソン教授らの2つのチームが、ヒト万能細胞の樹立に成功した。以下にこれに関する報道をまとめた。
〔事務局〕
【研究内容】 2006年に山中教授らは、マウス体細胞に4つの因子(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4)をレトロウイルスベクター で導入することにより、形態や増殖能がES細胞と類似し、分化多能性も持った人工万能幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功した。
そして今回、ヒト成人皮膚に由来する体細胞に、マウスと同じ4因子をレトロウイルスベクターで導入し、その後、ヒトES細胞の条件で培養した。そして、形態や増殖能に加えて、遺伝子発現パターンもヒトES細胞と類似したヒトiPS細胞を樹立しました。ヒトiPS細胞は、神経、心筋、軟骨、脂肪細胞、腸管様内胚葉組織などさまざまな細胞へと分化することができる。
(科学技術振興機構/JSTのHPより)
山中教授らは、36歳の白人女性の顔の皮膚から採取した細胞〔研究用市販品〕にウイルスを使って4つの遺伝子を組み込み、1ヶ月培養するとヒトES細胞と同じ形状の細胞が出現した。
培養条件を変え、この細胞が神経細胞や心筋細胞に変化できる万能性を備えた人工多能性細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)だと確認した。その後、神経や筋肉や筋肉、肝臓など約10種類の細胞に成長した。
「ヒトiPS細胞は患者自身の皮膚細胞から樹立でき、脊髄損傷や若年型糖尿病など多くの疾患に対する細胞移植療法につながるものと期待されます。」(JST)
【期待と懸念】 本人の皮膚細胞を使うことで、胚を壊すというES細胞利用への倫理的批判を回避でき、採取による侵襲のリスクや移植時の拒絶反応を回避できる。
細胞の分化誘導のコストやタイムラグ、レトロウイルスによる発がん性の問題、さらには理論的には精子と卵子に誘導できる可能性が指摘され、研究の促進にはルール作りが必要とされている。
*注: 12月1日、山中教授らが、ガン遺伝子であるc-Mycを用いず、それ以外の3つの遺伝子でヒトとマウスの万能細胞の作成に成功し、臨床応用にさらに一歩踏み出した、と報じた。
しかし、遺伝子のベクター(運び屋)のレトロウイルスは、宿主内のDNAに入り込み自らのウイルスを増殖させることから、がん化のリスクは残されている。
【世界の報道は】
「再生医療にとって飛躍的な進歩」(BBC)
「試験管内の奇跡」(インデペンデント紙、UK)
「価値ある進歩。しかし従来のES細胞研究が時代遅れになるわけではない」(タイムズ、UK)
「生物学的錬金術が先例のない飛躍を見せた。2つの研究チームがES細胞と同様の医学的有望性を秘めた幹細胞に変化させることに成功した」
(Science Daily News 論評、20 Nov. 07)
【専門家は】
【国レベルのバックアップを】 (京都新聞11/21)
- 岡野栄之・慶大教授「非常に重要な成果だ。細胞移植医療への応用が見えてきた。我々が行っている脊髄損傷患者への再生医療研究にも、ヒトiPS細胞を利用したい。医療に応用するにはがん化の危険性を払拭するのが課題」(読売11/21)
* 京都新聞(11/21)は、「山中教授と岡野教授らは、脊髄損傷モデルマウスにiPS細胞を注射すると、機能の一部が回復することを確認した」と報じている。- 西川伸一・理研幹細胞研究グループ・ディレクター「患者の細胞を使った医薬品開発や病気の解明などの研究が可能となり、これまでとぜんぜん違う成果が生まれる時代が来る。」(毎日11/21)
- 中辻憲夫・京都大学再生研所長「日本にとって誇るべき大きな成果だ。病気の患者の細胞をもとにこの多能性細胞をつくれば、病気のメカニズムの研究や、薬の安全性を確認する研究にすぐに役立つ。・・・化学物質にさらすなどの安全な方法を開発できれば、まさに夢の万能細胞が実現する。」(中日新聞11/21)
「・・・米国は国や州が幹細胞研究に多額の資金を投入、主要な大学には幹細胞研究センターが設置され、多様な分野の研究者が集まっている。ES細胞よりも制約が少ないため、iPS細胞の研究者はさらに増えるという。
山中教授も今年7月に米国の大学〔カリフォルニア大学UCSF〕内に研究室を開設し、日本では認可が難しく実質的に不可能なES細胞との比較研究を進めているが、「個人ではどうにもならない。iPS細胞は日本で生まれたのに、このままでは全部持ち去られてしまう」(山中教授)と危機感を抱く。日本の研究者が切り開いたiPS細胞研究を日本で進められるのか。中核組織や研究事業の立ち上げなど、国の機動的な対応が問われている。
「山中教授は“マラソンだとゴールが見えた感じで、再生医療研究が一気に進む可能性がある。でも日本がそのままゴールできるか分からない。『国立幹細胞研究所』のような体制が必要だ”と話している」
(東京新聞11/21)
JST/社会技術研究開発センターのフォーラム「ライフサイエンスの倫理とガバナンス」が11月23日、都内で開催された。
加藤尚武・東大医学部特任教授(法哲学)は「ライフサイエンスの倫理的チェックポイント」と題した講演で、わが国のヒト胚をめぐる論議の混迷には、研究の促進に反対する人々の基本的な倫理原則の誤解があることを指摘した。さらに、米国では大統領委員会が大統領からの指示で2週間で見解をまとめることさえあると述べ、今回のiPS細胞に関するルール造りではそのような愚を繰り返してならないと、強く警告した。
最後にJSTの北澤理事長は、山中教授の研究がJSTとの共同研究*であることを紹介。わが国において研究を促進する基盤を作り、山中教授が米国へと頭脳流出をしないように努力したい、と述べられた。
*JST研究課題:「真に臨床応用できる多能性幹細胞の樹立」(今年度5,500万円)。および、医薬基盤研究所(NIBIO)の「人工万能幹細胞の創薬および再生医療への応用」による。JSTはさらに山中グループに年度内に数億円の追加支援を決めた。(毎日12/4)
【5年で70億円?】 文部科学省は今後5年間に70億円を投入し、①ヒトiPS細胞のなどの万能細胞の開発、②サルなどの動物を使った再生医療研究、③研究用ヒトiPSバンクの整備を重点的に進めるという(読売11/23)。大リーガーの松坂投手の年俸は5年間で70億円。ノーベル賞級の成果にこの程度でよいのか。これこそが政治家の出番でないか――とTBSラジオのコメンテーターは嘆いていた。
シンポジウム「脊髄損傷――そのときが来た?」
“Spinal cord injury: time to move? ”
2007年11月、カリフォルニア州サンディエゴ市でNeuroscience2007(北米神経科学会総会)が開催された。
ICCP総会が同時開催され、基金役員2名が参加した。
脊髄再生シンポジウムでは、司会のRossignol S(モントリオール大学)が、世界の主な脊髄再生の臨床試験(細胞療法および薬物療法)を紹介した。
○ 自己活性マクロファージ(プロニューロン社 イスラエル) フェーズⅡ移植:神経保護的/神経再生療法:脊髄損傷急性期(一時休止中) ○ 自己骨髄間質細胞の注入:フェーズⅡ(ブラジル、慢性脊髄損傷) ○ 慢性の横断性脊髄炎後の自己骨髄間質細胞注入:フェーズⅠ(チェコ) ○ 鼻粘膜からの自己OEC〔嗅神経鞘細胞〕細胞移植:フェーズⅠ (オーストラリア、慢性脊髄損傷) ○ 急性脊髄損傷へのミノサイクリン(MINO):フェーズⅠ(カナダ) 細菌感染症に広く効果がある抗生物質。最近、パーキンソン病などの神経変性疾患で改善効果が報告されている。 ○ 神経保護/神経再生療法としてのRhoキナーゼ抑制剤;CethrinTM(BA-210とも言う。Alseres社):フェーズⅠ(カナダ、アメリカ、急性脊髄損傷)
Rho-キナーゼは血管系の治療薬の有望な標的タンパク質として知られる。Cethrin はフェーズⅠ/Ⅱの臨床試験が米国〔及び日本〕で予定されている。○ 神経保護/神経再生療法としてのATI355(Nogo抗体):フェーズⅠ(Novartis社、急性脊髄損傷) ○ 急性脊髄損傷のためのRiluzoke:フェーズⅠ/Ⅱ(NACTN:リーブ財団がバックアップする米国・カナダの8研究機関のネットワーク) ALS患者の延命、呼吸器使用の延期に使われている。
Schwab M (スイス)は、軸索再生阻害因子Nogo-Aの抗体による脊髄再生研究をスイスの研究機関やリーブ財団、国際製薬企業のNovartis社などとともに展開。
マウスやマカク(サル)への注入が軸索再生を増強することを報告した。成体マカクの実験ではC6-7の損傷4週後に注入している(実験群・対象群各6匹)。
Fehlings MG (トロント大学) は、ローキナーゼ抑制剤CethrinRのフェーズⅠ/Ⅱaの臨床試験(BioXone社、37例に実施)を報告。ASIA-Aの64歳の患者が受傷1年後にはASIA-Dまで回復したビデオを放映した。
* 11月3日開催したICCP総会には各国からせきずい基金も含めた7団体が参加。昨年まとめた「脊髄損傷の臨床試験に関するガイドライン」は5万件以上ダウンロードされた。このガイドラインの精密化を計るか患者登録を進めるか、さらに討議を進めることに。
▼ 国際的科学専門誌 Nature 誌が、日本せきずい基金と研究者などを取材し、治療研究の促進を求める患者団体の困難さを浮き彫りにした。その概要を紹介する。
〔原文および事務局による試訳は基金HPを参照〕
大濱眞には、2つの大きな人生のゴールがある。1つは彼自身の手を使って食事をすること。62歳の彼はラグビーでタックルを受けて頸部を損傷して以来30年間、首から下のマヒを抱え、そのゴールに到達するには、再生医療の目覚しい進展が必要であることを自覚している。2つ目は、せきずい基金の理事長として、いつか彼自身や他の患者のために治療研究を促進することである。しかし、日本でのこの控えめな目標は、その控え目さと等しく遠くにあるようである。
せきずい基金は脊髄損傷を専門分野とする日本の主要な非営利団体だが、かろうじて事務所を維持し公共的活動をする資金を賄える程度である。これでは研究者に援助できる資金はない。日本では、ごくわずかな社会貢献的資金に頼るしかない。個人的な寄付が「ただ流れ込む」欧米とは異なり、大濱は「日本では贈与への意志は弱い」と語る。
しかし〔研究助成する〕財団の存在は、政府によって取り残された穴をふさぎ、若い研究者を支援する際に重要な役割を果たす。「こうした財団は、長期間研究をサポートでき、政治的な矛盾とバランスをとることができる」と、西川伸一(理化学研究所)は語る。
最も豊かなアメリカ人は、注目すべきドナーである。ビル・ゲイツは、1995年から2005年の間に約110億ドルを寄付し、その多くがゲイツ財団へ渡った。
ウォーレン・バフェット〔フォーブスの長者番付で全米1〕は、昨年、435億ドル(過去最大の社会貢献の寄附)をゲイツ財団を含むいくつかの組織に約束した。
日本で最も豊かな孫正義(58億ドルの価値がある通信事業を独力で築いた大立者)は、地震のような自然災害の時以外は慈善事業に寄付をしない。日本で2番目のお金持ち・不動産業界の大物、森章(57億ドル)のスポークスマンは、森氏個人や森トラストが慈善基金を作るかどうかに言及することを拒絶した。
大濱は1997年に非営利団体を設立するのに必要な300万円を集めるために、3年間毎月、街頭募金活動をした。せきずい基金は現在、年平均2,100万円を集めるが、その半分は補助金と助成金から成る。
対照的に、フロリダの四肢マヒ治療に対するマイアミプロジェクトは単独の基金調達イベントで何百万ドルも得て、その収益の85%は科学研究に使われる。カナダ(患者数は日本の約40%)のリック・ハンセン財団には、毎年のキャンペーンで年間約150万カナダドルが寄せられている。それは日本せきずい基金の平年の募金額の8倍以上に達し、その半分が脊髄損傷治療研究にまわされている〔共にICCPのメンバーである〕。
日本の経済政策は、社会貢献活動を妨げている。厳しい規則により、日本の32,000の非営利団体のうち、現在71団体にしか免税の寄付を受ける資格がない。西川は、いくつかの組織がそれらの基金調達とロビー活動で団結する一層の変化を見たいと思っている。
武田製薬は最も大規模なファンドである武田科学財団を持っているが、2005年には生物医学研究で10億円の助成を与えた。他の企業関連の三菱財団やトヨタ財団が行った助成額はその半分以下である。
産業界と結びついた財団は、それらの自主性を犠牲にする。「あなたは、あなた自身を身奇麗にするのに苦労する」とR.ゴールドスタイン(米国若年性糖尿病研究財団)は語る。「あなたは、自分の影響力を失う」。
脊髄損傷研究のためにより多くの資金提供を政府に働きかけたい大濱にとって、基金のように独立性を維持することは組織にとって鍵となる。
彼はまた、胚性幹細胞(ES細胞)に対する規制の緩和を求めている。日本には表面上、幹細胞研究に関するあいまいな政策があるが、規制措置のハードルが研究の進展を阻んでいる。
日本は3種のES細胞株を樹立し保有しているが、しかし研究者はこれらの分配を受けて研究をするためにさえ、別々の施設で研究することを求められている。
彼らが研究プランを変えるか、新しい研究者を研究チームに加えるたびに、新しい研究体制について承認を得る必要がある。
「医師はそこでは様々な規制への不満を言うことができない。しかし患者として我々はそう言うことができる。日本のES細胞研究には、あまりに多くの規制がある」と大濱は語る。しかし、資金なしでは、彼のロビー活動は弱い。
西川は、責任の一部が医師の責任にあると言う。「医師と研究者は、患者を協調し一緒に働く重要なグループとは考えない。患者との連帯がない」と、彼は語る。「これは、医師が変わらなければならない」。
彼は、科学者が患者のグループに接触することを奨励しているさまざまな学術会議で会談をした。しかし、彼は苦戦に直面する。日本の患者は彼らが、特に遺伝性疾患の場合、患者自身や家族が社会的な注意をひくことを恐れるので、それらの問題で進み出るのを嫌う。日本には、パーキンソン病におけるマイケル・J・フォックスやアルツハイマー病におけるレーガン家のような、スポーツ界や映画界のスターのような、人々の意識を高めるセレブリティが存在しない。
「私は、疾患に関わる他のいかなる有名な日本人も思い出すことができない」と西川は語る。今のところ、大濱の基金は、そのシンボルとしてクリストファー・リーヴを用いている。■
2007年10月8日、東京・お台場の東京国際交流館・国際会議場で、第3回脊髄損傷者支援イベント:Walk Again2007を開催した。これは日本損害保険協会の自賠責運用益からの3ヵ年の助成事業で、最終年である本年は300人が参加して、「神経再生研究に関する国際シンポジウムを開催した。
〔Walk Again 2007 報告〕 神経再生研究に関する国際シンポジウム報告
主催: 日本せきずい基金 協賛: 日本損害保険協会
報告1.損傷脊髄の再生に向けて
:現状と展望
中村 雅也
慶応大学・整形外科専任講師
損傷脊髄への2つの治療戦略 1つは、受傷後の2次損傷を食い止める: 抗インターロイキン-6抗体(IL-6抗体)や、肝細胞増殖因子HGFといった炎症を抑えるアプローチ。もう1つは、軸索、神経線維の再生を促す細胞移植療法:軸索の伸展を阻害する物質 セマフォリン3Aを抑制する薬剤を開発すること。
肝細胞増殖因子HGF:種々の臓器に対する内在性修復因子。ラット受傷6週間後にHGFの投与群で非常に大きな神経線維の再生が見られた。運動機能もこの薬剤の投与群で有意に改善することが分かった。
次にサルのクモ膜下腔に持続的にHGFをポンプで注入すると、投与群は一目瞭然、動きが違い、オリも登ってしまう。1つの薬剤投与だけでこれだけ機能評価が違ってくることは臨床へ向けた大きな1歩となる。今後東北大学の神経内科と一緒に、ALS(筋萎縮性側索硬化症)においても臨床利用を検討していく。
細胞移植療法 我々はまず2002年にラットの脊髄損傷にラット神経幹細胞を移植し、その有効性を報告した。さらにコモンマーモセットという小型のサルに対し、ヒトの中絶胎児由来の神経幹細胞を移植した。移植したサルではケージにつかまっていたりして、約7~8割までの機能回復が得られた。中には止まり木に座っていたりした。報道から4年経っているが、国のガイドラインが胎児組織利用をペンディングにしているため、ヒトでの研究には入れない状況にある。
自家移植の可能性
ES細胞:ES細胞を神経幹細胞へ誘導するには、最初に胚葉体を作って神経幹細胞の塊の継代培養をし、もう1回ばらしてさらに2次スフェアを作る。
この細胞の分化誘導でニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトになる。マウスの脊髄損傷に移植してみると、どんどん増殖して腫瘍化することなく、移植細胞の2割くらいで落ち着いていく。1次ニューロスフェアではなく、2次スフェアから誘導したものでは機能の改善が得られた。
iPS細胞:京都大学の山中伸弥先生が昨年開発されたラットの誘導型の多能性幹細胞を、免疫不全マウスの不全脊髄損傷群に移植してみた。iPSとES細胞から持ってきた神経幹細胞を移植すると、ともに機能的改善が得られることがわかった。〔p.1参照〕
神経堤幹細胞:移植細胞としては骨髄間質細胞や鼻の細胞、皮膚などが用いられてきたが、これらの細胞の中に1つのキープレイヤーがいて、それが神経堤幹細胞であることが近年わかってきた。これは第4の胚葉とも言われ、受精初期に神経管が閉じられようという時期に体のあらゆる組織に移動して行き、未分化の状態で止まっていたことが我々の研究で分かった。
骨髄や皮膚などに神経提からの細胞が残っていて、その細胞には条件を整えれば自己複製能と多分化能を持っていることを突き止めた。ラットやサルの脊髄損傷への神経堤幹細胞移植の有効性を検討中である。
セマフォリン3A 抑制剤:ラットの脊髄を切断すると損傷部にグリア瘢痕ができ、そこにセマフォリン3Aの遺伝子の高い発現がある。このセマフォリン3Aのシグナルを抑制するために我々が住友製薬との共同研究で使った物質がSM-216289である。この薬の濃度を段々高めていくと神経線維がどんどん伸びていく。
ラット脊髄の完全切断モデルにこの薬を4週間投与すると、約4倍から5倍の再生する神経線維が見られた。しかし、運動機能面は改善しても「有用性がある」レベルまでにはいかない。 薬剤1つだけの治療法ではこれが限界だろうということも事実である。
今後の展望 脊髄損傷という疾患はあらゆる意味で非常に多様で 、みんな同じ治療法とはいかない。
急性期には強い炎症反応を抑える抗インターロイキン6抗体や肝細胞増殖因子HGFの使用。亜急性期から慢性期には、細胞移植の足場を同時に入れることも考えられる。「神経が伸びたら機能が必ず改善するか」とよく聞かれるが、ポイント・ツー・ポイントの再生は無理であり、機能的に意味のあるシナプスが神経の繋がりを強化していくリハビリも重要である。
最新のMRIの撮影法では、3種類の神経線維をはっきりと見ることが出来、評価法も進歩している。
「車椅子の生活は、10年、20年たとうが慣れることはないんです。たとえ良くなる可能性が低くても、実験材料でもいい。何とか移植をしてほしい」
……こういった患者さんの心の叫びを常に真摯に受け止めつつ、ここに紹介した研究が患者さんに反映できる日、応用できる日がそこまで現実にきている、と私は思っている。■
報告2.脊髄損傷に対する骨髄
由来細胞移植の治療効果
國府田 正雄
千葉県立東金病院整形外科部長
骨髄間質細胞 骨髄には造血だけでなく、間質細胞という造血作用を支える細胞がたくさんある。それが骨髄間質細胞である。これは採取も培養も簡単で、増殖能と多分化能があり、いろんな種類の細胞に変えることが出来る。その反面、神経ではない細胞を神経に入れることで、いくつか問題点がある。移植細胞の生着が悪いことや神経以外の細胞となる可能性もある。
我々の共同研究者の京都大の出澤真理先生が、骨髄間質細胞に様々な栄養因子を加え、シュワン細胞や神経細胞、神経前駆細胞や筋肉細胞に分化誘導するテクニックを開発した。これは実際に筋ジストロフィーの動物モデルに移植して成功し、注目を集めている。
シュワン細胞移植 末梢神経は再生能力を持ち、末梢神経系のシュワン細胞が神経線維を取り巻いている。
この移植には本人から採取する際の合併症が問題で、また必要な細胞量の確保も困難である。
我々は、ラット脊髄完全切断モデルに骨髄間質細胞由来シュワン細胞移植を行った。6週後には神経線維が再生して後肢で体重を支えるまで回復し、移植細胞はそのままの性質を保っていた。
次にラット脊髄の挫滅モデルに受傷1週間後に移植した。空洞がかなり縮小し 神経線維の伸びも良く、足への加重もできた。ヒト骨髄間質細胞をシュワン細胞にしてラットに入れてみた。やはり機能の回復は得られ、ヒトから採った細胞でも十分に働くと思える。
神経前駆細胞移植 次に骨髄間質細胞を神経前駆細胞に変えたものを移植してみた。発生段階で働くノッチ遺伝子を間質細胞に入れ、神経前駆細胞にさらに栄養因子を入れると本当の神経細胞が出来る。この神経前駆細胞をマウスの脊髄損傷モデルに入れたら、神経線維が伸びて足が良くなった。この細胞自体はサンバイオ社の製造したものである。
骨髄間質細胞移植の課題 この利用にはいくつかの問題点がある。採取からシュワン細胞で移植するまでに約2週間、前駆細胞では6週間ほど掛かるという移植のタイミングの問題。経過観察はまだ1ヶ月半程度なので、半年や1年後の安全性も検討中である。
今後はサルなどでの安全性試験が必要である。移植細胞が生き残りやすいよう足場(スキャホルド)になるものの開発のために、京都大学再生医科学研究所の先生との共同研究を開始している。有効性がすでに確認されている薬剤、例えば「ファスジル」(エリル)というクモ膜下出血後の治療薬で、神経軸索の伸びを良くする薬との併用も考えている。あともう1つ、慢性期の機能再生のために、損傷部に出来た瘢痕を何とかうまく制御するための実験を始めたところである。■
報告3.SB623(骨髄由来神経前駆細胞)
の神経変性疾患への応用
森 敬 太
サンバイオ社 Co-CEO
私たちは、再生細胞薬の実用化を目的にして2001年にカリフォルニア州にサンバイオ社を設立した。創業科学者の岡野栄之慶大教授、出澤真理京大助教授の研究を基盤に事業化を行っている。
臨床試験段階に入った再生細胞薬 私たちで取り組んでいる4つの疾患(脳梗塞、脊髄損傷、パーキンソン病、多発性硬化症)に関する臨床試験は、私が調べただけで世界各国で20件はすでに行われている。
パーキンソン病が先行していて、スウェーデンの臨床試験では10年以上効果が持続しているなど、非常に可能性を感じる結果が報告されている。
脳梗塞ではカリフォルニアにある別のバイオベンチャーが、慢性期の脳梗塞の臨床試験を行い、運動機能、認知機能の回復が一部報告されている。また次に講演される内田伸子先生のステムセル社では、すでに神経幹細胞による臨床試験が始まっていて、私たちサンバイオ社でも来年に脳梗塞の臨床試験を開始する。
再生細胞薬の技術的特徴 私たちは神経損傷回復テクノロジー・プラットフォーム〔共通技術基盤〕に、骨髄から再生細胞薬に適した細胞として神経前駆細胞、シュワン細胞の大量製造技術を保有し、その事業化を目指している。このテクノロジーの特徴は、
1) 慢性疾患に対する機能回復の実現が期待出来る 2) 1種類の細胞で、脳梗塞に限らずパーキンソン
病や脊髄損傷にも応用が可能である3) 1人のドナーの骨髄液から数千人分の再生細胞
薬を製造することが可能である
2つの再生細胞薬 私たちの開発したSB623は、骨髄から誘導し大量製造した神経前駆細胞である。この製品を投与すると、脳内で神経細胞に誘導、変化する。2つ目のSB618は骨髄由来シュワン細胞で、これは軸索の髄鞘を再生する。このように違ったメカニズムで、中枢神経の治療薬を開発している。
臨床試験の開始 これまでにGMP基準〔適性製造基準〕をクリアし、来年前半にFDAにIND〔臨床試験の実施承認〕申請をして、脳梗塞での臨床試験開始を計画している。脳梗塞の治療薬の「tPA」は発症後3時間以内に投与する必要があるが、私たちは発症後3ヶ月、12ヶ月、そしてリハビリ後に慢性的に障害が残っている患者を最初の患者群として予定している。
このように来年に脳梗塞で臨床試験を開始、そして第Ⅲ相の臨床試験を完了し、2012年の製品化を達成すべく現在動いている。
そしてパーキンソン病、脊髄損傷、多発性硬化症の治療薬も、順次並行して研究を進め、3年以内に臨床試験入りを目指して開発を行っていきたい。■
報告4.神経幹細胞移植治療と
セルバンクの開発
内田 伸子
ステムセル社副社長
私たちステムセル社(カリフォルニア州のバイオベンチャー)では神経変性疾患や脊髄障害の治療を目指して、神経幹細胞バンクの開発と治療研究を進めている。
神経幹細胞の大量培養 私たちはセルバンクの構築するために、CD133〔細胞表面の抗原の分子の1つ〕に対する モノクロール抗体〔特定の抗原に結合〕を用いて、稀少な神経幹細胞の分離精製に成功した。また3種のサイトカイン〔細胞から分泌されるタンパク質〕を使い、無血清の条件下で神経幹細胞を選択的に大量培養に成功した。この2つのコア技術により、高品質で均一的な神経幹細胞の構築と保存が可能となった。
移植治療の実現化に向けてヒト神経幹細胞の同定とその多分化能を解析するするために、基礎レベルの研究から、動物モデルに移植する前臨床実験、セルバンクの品質管理・安全性を確認するトランスレーショナルリサーチ〔基礎から臨床への橋渡し研究〕に至るまで、幅広く研究開発を行っている。
神経難病への臨床試験 現在ライソゾーム病の一種で 、一定の酵素が作れず脳に不要物が蓄積し、多くが10代までに死亡する神経系セロイドリポフスチン症(NCL病/バッテン病)という小児神経難病の臨床治験の実施中である。これはオレゴン大学医学部の医師と協力して行っているが、米食品医薬品局(FDA)から未分化な神経幹細胞の移植の承認を得たのは当社が初めてである。申請にあたり神経疾患のマウスモデルにおいて移植の有効性を示した。今回の治験では、人での安全性を確認することが主な目的である。
脊髄損傷への応用 脊髄損傷のマウスモデルでは損傷部にヒト神経幹細胞を移植し、障害の機能改善と修復のメカニズムを解明しようと試みた。胸髄 T7に損傷を受けたマウスは、神経幹細胞移植により前後の脚の動きを協調させて歩けるまで回復した。
また機能改善が見られたマウスの脊髄では、移植した細胞がオリゴデンドロサイトに分化し、ヒト由来のミエリンが再形成された。これは脊髄損傷の障害を引き起こす脱髄性疾患に有効であることを証明している。
移植は痛みを誘発するか 最近の研究では、細胞を移植するとアロディニア〔普通では起こりえない痛覚の過敏〕を引き起こしたの報告がある。神経幹細胞移植の安全性を考えるために、私たちも移植後にアロディニアを生じているかを調べている。機械的刺激に対する反応は、コントロール群も神経幹細胞移植群でも差異がなかった。脊髄損傷30日後に神経幹細胞を移植してもアロディニアを生じないことを証明した。
今後とも、ダメージを受けた脳および脊髄の修復メカニズムを解明し、再生医療へ貢献していきたい。■
報告5.幹細胞をベースとした
脊髄損傷治療
H.キーステッド
カリフォルニア大学
リーブアーバイン研究所准教授
ES細胞をオリゴデンドロサイトへ ヒトのES細胞を使うためには、それが確実に特定の細胞のタイプになることが必要である。ES細胞を10数種類の成長因子とともに42日間培養すると、高純度のオリゴデンドロサイト*の集団ができる。
成体ラットの胸髄損傷モデルで、ミエリンがなくなった(脱髄)部分にオリゴデンドロサイトの前駆細胞を移植した。損傷7日目に移植し2ヵ月後に観察すると、ミエリン化(再髄鞘化)が観察され、運動機能も上下肢の協調運動と下肢で体重を支えており、かなりの回復が見られた。
*注: 中枢神経系に特異的なグリア細胞。ミエリン(髄鞘)を伸ばし軸索を何重にも巻いて軸索の一部を絶縁し、軸索内の電気的活動を飛躍的に高める。
頚髄損傷ラットの移植2ヵ月後の顕微鏡画像では、細胞が生着し、予想以上のかなりの組織が回復していた。グリア瘢痕の中心部に組織が出来上がっており、この治療法が脱髄化を標的にした、かなり魅力的な治療法であることがわかった。
また、オリゴデンドロサイトが成長因子を分泌し、それが再ミエリン化に寄与することも明らかにされた。
現在、臨床試験へ向けた安全性試験では、移植がデメリットを起こさないことを確認した。FDAの要望で移植細胞の体内分布データも出す。移植による腫瘍形成や毒性物質、疼痛に関する安全性検証も行ってきた。大形動物〔サル〕での前臨床試験はこの場合は必要ではない。2007年末に臨床試験へ入る予定である。
運動ニューロンが再生した 現在論文作成中であるが、慢性の脊髄損傷患者を1年~1年半観察してきた結果は運動ニューロン*の再生を示すものであり、慢性期の患者の朗報になるものであろう。
運動ニューロンの前駆細胞は、実はオリゴデンドロサイトと同じであることが分かった。様々な成長因子やホルモンが関与し、オリゴデンドロサイトになるか運動ニューロンに分化するかが決定される。
早期に運動ニューロンへの分化を促進すると、4週間の処置後に98%が運動ニューロンになった。これは非常にワクワクする結果で、ドーパミン作動性ニューロンをパーキンソン病治療に使うことが可能になる。
*注: 骨格筋を支配している末梢神経の母体である脊髄前角細胞、その脊髄前角細胞に随意運動のための刺激を送ってくる大脳皮質の運動神経細胞を言う。
ヒトの筋原細胞を筋管細胞へと成長させ、運動ニューロンへの分化を6週後に確認した。運動ニューロンは運動神経細胞と接触することで筋肉細胞が収縮する。これが四肢マヒで臨床応用できるか、ALSでは移植後に横隔膜まで到達できるかが重要である。軸索が筋肉の中に進んでいく実験系を作成すると、85%の有効性で運動ニューロンの形質移入が実現した。
3段階の治療法の開発 急性期にはIP-10による抗体療法がある。受傷後12時間までに使えば、タンパクの反応をブロックし、2次損傷を効果的に防止することが出来る。この治験は2006年1月に開始し、本年末には結果が明らかになる。
亜急性期(受傷後数週まで)は幹細胞治療で、ジェロン社の治験が2008年に開始される。
慢性期(数週~数十年)には、幹細胞治療の中でも運動ニューロンの治療法が使え、前臨床段階にある。
2008年には、乳児脊髄性筋萎縮症に対する運動ニューロン・幹細胞治療を開始する。これは1歳まで生きることの困難な致死性の疾患だが、生後3ヵ月例でスタートし、その上で慢性脊髄損傷の治験を開始する予定である。■
■ パネルディスカッション
司会 岡野 栄之
慶応大学医学部教授
岡野 日本ではヒト幹細胞を用いた厚生労働省のヒト幹細胞臨床研究指針が去年の9月から施行されました。このヒトES細胞は範疇に入っておらず、基礎研究では大きな有効性が証明されている胎児由来の神経幹細胞移植はペンディング状態になっています。
本日の配布資料に『脊髄損傷の実験的治療』*という資料があります。脊髄損傷を対象とした先端医療をどのように進めていくかに関して国際的な議論がありました。スタンダードでクオリティの高い脊髄損傷の臨床研究をどう進めるかを世界中の科学者を集めて議論をしてこのような結論に至ったわけであります。
この冊子のポイントについて、この編集委員会に参加された中村雅也先生からご紹介いただけますか。
中村 これは患者さんがワラにをもすがる思いで実際に臨床治験に参加しようとした時に、その臨床治験が本当に妥当性のあるものかどうか――その際の判断基準になるような情報を提供することを目的としています。(以下、冊子の各章の概要を紹介)
*注: 基金も加盟するICCPが各国の専門家の協力で編集した「脊髄損傷に関する臨床研究ガイドライン」をもとに、一般向けの手引書としてまとめたもの。希望者は基金事務局まで申込を(無償配布)。
岡野 今日はカリフォルニアを代表する3人の精鋭の方々に来ていただきました。胎児由来の細胞あるいはヒトES細胞など日本では比較的議論が進んでいない/議論を避けてきた問題にも踏み込んで、実際の患者さんに応用を始めていますので、その辺のアドバイスも含め、ご発言をお願い致します。
内田 バッテン病の治験は2006年11月に開始しました。神経幹細胞移植〔中絶胎児由来〕の臨床試験で、FDAの認可が下りたのは当社が始めてでした。1番重要なのはセーフティであることです。腫瘍を形成しないこと、脳に移植後に他の臓器に問題を起こさないことなどをクリアして認可がおりました。6人の患者さんに低用量と高用量投与の安全性を見ますが、3人への低用量投与が終了したところです。
岡野 中絶への見解など、宗教的な背景がIRB 〔施設内倫理委員会〕 の議論に反映したりしますか。
内田 胎児組織を使うことに関しては、FDA及びNIH〔国立衛生試験所〕がガイドラインを出していて、まず安全面をクリアすればよいとされます。倫理問題というのは正解のないところかと思います。
岡野 日本でも中絶反対のご意見があることは分かりますが、それは再生医療における患者さんの安全性を確保することとは別の問題であると思います。
キーステッド先生はヒトのES細胞を使って最初に臨床試験を始める方ですが、FDAに申請をした時にどういう問題があったでしょうか。
キーステッド FDAには“科学に遅れている”というフラストレーションがあり、その結果、産官学のコミュニケーションが何よりも必要だと考えています。科学的には腫瘍の問題が一番大変だと考えていました。
ヒトES細胞をヒトに入れる場合、分化した細胞のほうが安定的であり、臨床試験ではまず動物に対し最終製剤として分化した細胞を移植することにしました。
しかし、マウスやラットは小型なので、ヒトに必要なまでの細胞量は入れられない。そこでFDAは動物による前臨床試験において、未分化細胞の比率を20%→30%→50%と次第に高めて、腫瘍化のリスクを確認することを求めてきました。
岡野 ES細胞治療に際し FDAが徹底して安全性を問題にしている良い例かと思います。 ブッシュ大統領はヒトのES細胞利用に反対ですからNIHの予算は使えない。その辺の問題はどうでしたか。
キーステッド FDAとしてはNIHと全く異なる立場で作業したわけです。NIHは連邦の予算ですが、FDAとは独立した形での話し合いが出来たと思います。
岡野 実際にFDAに申請中である森さん、日本のストラテジーについて何かアドバイスがあれば。
森 2001年に会社を設立した際に、日米を比較するとアメリカのほうが新しい臨床試験により早く入っていける体制があることはかなり明らかでした。すべてリスク・ベネフィットのバランスで臨床試験の許可をしていこうという体制です。日本の技術は優れていて、それをいち早く製品にするにはアメリカでスタートするのが早いだろうということでアメリカに会社を設立をして、現在は臨床試験の準備をしているわけです。
岡野 日本での再生医療関係の治験では、テルモ社の筋芽細胞シートによる心筋再生、バイオ皮膚を使ったジェネテック社の皮膚細胞、日本ケミカルリサーチの骨髄間質細胞による再生医療と、徐々に進みつつある。ただ残念ながらFDAが認めたから日本でも認めよう、というパターンが多い。やはり日本でも独自の審査がきちっと出来るようにしなければいけない。
アメリカはヒトES細胞や神経幹細胞に関してみても、同じゼロからのスタートでも非常にフレキシブルに出来てきたわけで、わが国で学ぶべき点ではないか。
では、実際毎日臨床に携わっていますお2人の先生が居られますので、ご議論いただきたいと思います。
國府田 骨髄治療では倫理が大きな壁になることはなく、細胞の誘導に掛かる時間などのテクニカルな問題が壁になっています。慢性期に対する治療をもう少し何とかしないと、なかなか臨床にまでに行きづらいということを本当に今強く考えています。年間の脊損患者数は4000人台に減っていっても、慢性期の患者さんは約20万以上。外来では車いすの結構高齢の方もいて、そういう人たちから「何とかなりませんかね」と言うことをいつも聞いて、強く我々は感じています。
中村 臨床も研究もやっている立場で申します。
私たちがラット脊髄損傷に対するラット神経幹細胞の有効性を示したのが2002年。サルに対するヒト神経幹細胞の有効性を示したのが2004年です。それから3~4年経っています。「効く効くと言っていて臨床へ行かないじゃないか、なんで行かないんだ」と。やっぱりその思いは私も持っています。
私がいつも考えているのは、日本と欧米との違いです。ラットとかサルの実験結果を国際学会に持っていくと、みんな「臨床へはいつ行くんだい」と聞いてくるんです。欧米の人達に言わせると、日本では基礎研究が永遠に続くんです。そしてある時期になるとオーバーラップして臨床治験が始まるんです。欧米の人は臨床治験が一発目で完全に成功するなんてだれも思っていないんですね。臨床試験で問題があれば、ブラッシュアップして改良して、また1歩上の臨床治験を行う。欧米にはこういうスタンスがあるんです。
岡野 文科省や厚労省のヒアリングではかならず意見を言っていただいた基金の大濱さんのご意見は。
大濱 文科省や厚労省の審議会をずっと傍聴してきて感じたことは、生命倫理の問題と実質的な安全性の問題がぐちゃぐちゃに議論されていることです。胎児の細胞をについても最終的にはっきりしなくなって、実際今は使えないという状況です。
私は先生方にお会いするたびに「日本は諦めてアメリカでブレークスルーして下さい」と何度の申し上げてきました。慢性期での可能ならば第Ⅰ相でいいから、臨床試験に入って貰いたい。やはり、本当に困っている私たち自身が大きな声を社会に向かって発信して変えていかないと、このままでは日本はなかなか進まない。
岡野 この休日にご来場いただいた厚生労働省・研究開発振興課の梅垣課長補佐にお話をうかがいます。
梅垣 7月まで脳神経外科の臨床医として、脊髄損傷や脳損傷の患者様に接してきた経験もあり、神経再生が早く出来ないだろうかと願っておりました。
昨年9月に臨床研究指針が施行以降、現在4件*の申請が了承され、臨床研究の実施に移る見込みです。
審査は細胞自体を扱う施設に関する安全面をまず厳しく見ております。それから倫理性、患者様への説明文書をチェックしています。今回の指針から申請が現実に4つ通ったこと自体、これからの幹細胞治療に関してブレークスルーになるのではないかと思います。
*注: 大腿骨骨頭壊死、手の骨、心筋組織、脳梗塞の4件。12月には骨髄幹細胞による椎間板の再生医療が承認となる見込み。
岡野 医師であり立法を代表しまして、古川俊治先生に何かコメントを是非とも頂きたいと思います。
古川〔参議院議員〕 臓器移植法が改正の時期にあり、まずここから切り崩していきたい。我々政治家がすべきことは、現在の患者さんの状況を少しでも良くすることだと思います。慢性期の治療に対する更なる医療の充実も、我々の役目だと考えております。
研究者としては、移植医療が進まない中で期待が大きい臓器再生、多能性・全能性を持った幹細胞をどうやって作っていくか研究を続けなければなりません。
岡野 今日は非常に白熱した議論と有意義なディスカッションであったと思います。特に生命倫理に関して、まずは患者さんを第一に考えていくべきことを我々は再認識させて頂きました。アメリカからの3人の友人からは、非常によいアドバイスを頂きました。
また患者さんからは、再生医療の実現への痛切な思いを聞いて、我々はさらに意を深く致しました。
そのための研究システムを作っていくためには、やはり行政の方、立法の方、そして患者さんの皆様、医療担当者、研究者と、みんなで大きな輪を作って考えていかなければならないのではないかと思います。
皆さま、ご参加頂きありがとうございました。■
来賓挨拶------- <要旨/順不同>
○ 山加 朱美(都議会議員) 私は35歳から3年間、大腿骨頸部骨折で骨頭壊死になり、車イス生活となりました。今は人工股関節を入れ、見た目はふつうですが、その際には本当にWalk Again 「もう一度歩けるなら何もいらない」と本当に思いました。医学の進歩でもう一度この両足で立つことを実現してほしい。私は都議会の世界から一生懸命応援させて頂きたい。 ○ 高木 美智代 (衆議院議員) 私の弟は25年前に交通事故で重症となり、脳挫傷となりました。今日は、ここまで大きく医学が進歩してきたことを実感し、更に政治として何を後押し出来るかを考えていきたい。 ○ 古川 俊治(参議院議員、慶應大学外科医 ) 私は岡野先生の後輩で、2001年には脊髄損傷治療のためのバイオベンチャーを設立しました。その後先進医療を支えたいという一心から弁護士になりました。
皆さんと心を1つにして、障害を1つひとつ払っていくことが私の政治家としての使命と考えています。○ 陶山 哲夫(埼玉医科大学リハビリ科教授) 今日の議論は大変感銘深く、今後世界に大きな影響を与える議論だと思います。脊髄損傷者には非常に大きな希望でなり、それこそWalk Againのモットーだと感じています。来月9、10日に大宮で日本脊髄障害医学会を私が会長で開催しますので、是非皆様お出かけ下さい。■
〔学会報告〕 第42回日本脊髄障害医学会から
2007年11月9~10日、さいたま市の大宮ソニックシティにて第42回日本脊髄障害医学会(会長:陶山哲夫埼玉医大リハビリ科教授)が開催された。基金のブースでは「臨床研究の手引き」や「リハビリDVD」の無償配布を行った。傍聴したシンポジウムの概要を紹介する。なお来年は11月6~7日に札幌市で開催される。
シンポジウムⅢ:脊髄障害者の挙児 座長 牛山武久(国リハ病院長)
古谷健一(防衛医大産婦人科教授)
日本では生殖補助医療によりこれまでに105万人(新生児の80人に1人)が生まれているという。
男性不妊については大阪の星ヶ丘厚生年金病院の百瀬均医師が1991年に導入したEE法(electroejaculation)について報告した(自費診療)。
また不妊治療の専門クリニックとして平成11年に開院した「木場公園クリニック」(都内江東区木場)の吉田淳医師が、男性脊髄損傷の51症例について報告。
車イス用トイレも設置し、人工授精や体外受精、顕微授精など脊髄損傷者の治療を積極的に行っている。
脊損女性の妊娠・出産については、星ヶ丘厚生年金病院に勤務後、大阪府交野市に開院した「よしだレディースクリニック」の吉田雅代医師が報告を行った。
1988年~2006年の星ヶ丘病院産婦人科の二分脊椎16例、脊髄損傷4例について報告。脊損女性の妊娠・出産を成功させるためには、泌尿器科と連携し腎機能を良好に保つこと、排泄障害のコントロール、産科的異常の早期発見と早期介入、次善の緊急対応策やできれば産科での妊娠前相談の必要性を指摘された。
国リハ病院の道木恭子看護師が脊髄障害女性の育児について報告。車イスでの授乳、おむつ交換、沐浴など、育児は脊髄障害女性には至難の技とも見える。しかし、ベビーベッドの改良や様々な育児用品の活用、援助者の確保などにより十分可能であることを、これまフォローしてきた56事例の紹介から明らかにした。
■ 近刊 『私も、ママになる!
脊損女性の出産と育児』
牛山武久・古谷健一
道木恭子・吉永真理/編著第1部:私の出産・育児体験
(10人の体験事例集)
第2部:安心できる出産・育児のために
総論(古谷)、妊娠出産への保健指導(道木)
育児のバリアフリー(吉永)他B5版、140頁、5000部、森村豊明会助成事業☆2008年2月刊予定。
希望者にのみ無償布します。
せきずい基金事務局までメール(jscf@jscf.org)、
またはFAX(042-314-2753)でお申込み下さい。
〔ドリームキャッチャー〕
那覇から慶良間諸島へ 以前、毎年のようにダイビングに行っていた沖縄に受傷してから7年後、初めてのダイビングに今回妻と2人でチャレンジしました。
沖縄の中心、那覇から海上を西に30、40km行ったところに大小20あまりの島々からなる慶良間諸島がある。世界でも有数の透明度と珊瑚礁に恵まれた島々のひとつ、阿嘉島という島に行きました。
羽田空港から2時間半で那覇空港に到着し、タクシーで15分位のところに離島便が発着する泊港まで行く。船は1日2便しかなく出港時間まで4時間ちかくあるので、友人2人(海と星が大好きで東京から沖縄に移り住んだ自称フォトグラファーとダイビング協会の会長)が会いにきてくれました。
雑談していると、あっという間に出港時間に。車椅子の場合、自動車の乗下船口から乗り、エレベータで客室まで係員が誘導してくれます。高齢者、障害者対応の個室に案内されたのですが、クーラーがききすぎて脊損者の私にはちょっと辛いものがありました。
バリアフリー民宿 所要時間1時間半で到着。阿嘉島は人口340人、港近くに集落が点在しています。太平洋戦争の時、米軍が沖縄で最初に上陸した島で、いまだにその時の弾痕が残る旧家もあります。港に車で迎えに来てくれた民宿のオーナーの車には乗ることが出来ず、車椅子で5分ほどの民宿に向かいました。
今回再び、この島に来ることができたのも、バリアフリーの民宿ができたからです。オーナーは自分たちが高齢になった時のことを考えバリアフリー民宿を作ったようです。玄関にはスロープ、部屋、食堂、バスルーム(沖縄の民宿にはバスタブはない)は段差なしで移動可能。事前に友人に様子を確認してもらいました。
翌日は以前お世話になった知人宅に挨拶に行き、その後、軽トラに乗り7年ぶりの島巡りです。途中、人間に慣れてしまった天然記念物のケラマ鹿に遭遇したり、以前は浜辺までの道がなかったところに舗装された道が整備されていたり。車椅子ユーザーとしては環境は良くなったのですがその分、島の素朴さがだんだんなくなったようで少し寂しい気がしました。夜は友人たちが民宿に集まり、泡盛を飲みながら再び阿嘉島に来れたことを喜んでくれました。
珊瑚の海の中へ 3日目、いよいよダイビングにチャレンジです。沖縄に行く前から「船にどうやって乗ろうか」と悩んでいましたが、満潮時に船を接岸させ段差を最小限にして両足をもってもらい、船に乗り込むことが出来ました。ダイビング機材をスタッフに装着してもらい(なぜか足ヒレもつけてもらう)、船の縁からバックロールで海に飛び込みました。
海の中では足が動かないためか、体がローリングして水平に保つのが難しく、手だけで泳ぐのは前に進まず、ダイビングガイドさんに手を持ってもらい移動しました。
珊瑚の美しさと色鮮やかな魚たちの中で、常に足の痛みと痙性があるのですがまったく忘れて、50分間無重力の世界を満喫しました。船に上がる方法をいろいろと悩みながらスタッフと打ち合わせし、船の上から両腕を抱え上げもう一人のスタッフに下から押し上げる状態で、なんとか無事に乗船することができました。
本島巡り 4日目は那覇にもどり、友人と「沖縄美ら海水族館」に。美ら海水族館は敷地が広く勾配も結構あるのですが、電動車椅子の貸し出しがあるので楽に移動できました。ここは各所に車椅子トイレがあり、必死にトイレを探すこともなく、慌てないで済みます。
珊瑚礁、黒潮の海、深海と様々な海の生物を紹介しており、なかでも世界で初めて長期間飼育に成功したジンベイザメやマンタが人気の展示となっています。
その後那覇に戻り、牧志公設市場に行きました。終戦後ちいさな闇市からはじまって発展した市場は、現在は約400もの店舗が軒をつらね、いまだに現役で働く元気なオバァたちの顔を見ることができます。
1階は南国の原色の魚が並ぶ鮮魚コーナーや、琉球料理に欠かせないティビチ(豚足)・チラガー(豚の顔の皮)などが売られている精肉コーナーがあり、2階は食堂街になっています。今回は1階で魚を購入し、2階で調理料金を払って調理してもらいました。
沖縄本島は、2000年の沖縄サミット後、街や交通機関のバリアフリー化がすすんでいるようです。
受傷後はダイビングは諦めていましたが、友人の協力もあり、再び海を楽しむことが出来ました。これからも挑戦していきたいと思います。
沖縄の方言で「なんくるないさー」とは「なんとかなるさ」いう意味ですが、私のこれからの人生も「なんくるないさー」で、楽しんでいきたいと思います。
美ら海(ちゅらうみ)水族館
〔参加者募集〕 JDRF Juvenile Diabetes
米国の患者会活動に学ぶ
<東京‐神戸> 連続シンポジウム
Research Foundation
米国若年性糖尿病財団 科学部長
Robert A. Goldstein MD. PhD
稀少疾患であるⅠ型糖尿病の親たちが設立した米国若年性糖尿病財団(JDRF)は、年間200億円の募金を集め、そのうち150億円を糖尿病の研究に投じています。
糖尿病治療研究の世界的なリーダーシップをとるJDRFの役員を招き、患者・市民と研究者の協働による先端医療の促進について語り合います。
【東京会場】
「患者の手で再生医療の促進を 」
主 催: NPO法人日本せきずい基金
日 時: 2008年2月2日(土) 13:00-16:30
日仏会館・ホール (開場12:00)
渋谷区恵比寿3-9-25 Tel:03-5424-1141
(恵比寿駅7分下車、ガーデンプレイス北隣)
講 演
①:R A. Goldstein MD. PhD(JDRF)
基調講演「JDRFの募金活動と研究支援」
②:井上 龍夫(日本IDDMネットワーク理事長)
「I型糖尿病及びその研究基金について」
③:岡野 栄之(慶応大学医学部教授)
「ヒトiPS細胞と幹細胞研究の新次元」
パネルディスカッション:
司 会:東嶋 和子(科学ジャーナリスト)
*対象者:患者・家族、患者団体、医療関係者、
一般市民、学生
逐次通訳あり <定員100名、無料>
申込:日本せきずい基金事務局まで申込んで下さい。
希望者は住所・氏名・電話番号を下記宛に。
メール;jscf@jscf.org
FAX:042-314-2753
【神戸会場】
「先端医療と市民の協働を考える」
主 催: 同シンポジウム実行委員会
日 時: 2008年2月3日(日) 13:00-16:30
臨床研究情報センター(TRI)
2F:研修室 (開場12:00)
神戸ポートライナー「三宮駅」から乗車12分
「先端医療センター前」駅下車すぐ
講 演:R A. Goldstein MD. PhD(JDRF)
基調講演「JDRFの募金活動と研究支援」
講師紹介・まとめ……西川伸一/理化学研究所
パネルディスカッション:
中原 武志(がん医療を考える市民グループ代表)
黒田 裕子(NPOしみん基金こうべ理事長)
川瀬 喬 (兵庫県臓器移植推進協議会 事務局長)
村上 博 (ユニコの森代表取締役/予定)
米田 寛子(NPO神戸市難病連 事務局長)
*参加呼びかけ:兵庫臍帯血バンク、婦人会、
市内の医療福祉NPO、中高大生、企業etc
逐次通訳あり <無料>
問合せ:〔神戸〕先端医療推進財団
クラスター推進センター・横山まで
TEL:078-306-0710 FAX:078-306-0752
私たちは、身体の不自由な方へ 介助・介護 を行います。
私たちは、障害者が地域で自立した生活を営んでいくため、またご家族の介護負
担を軽減するため、ホームヘルパーの派遣を行い、介護や家事などの日常生活の
サービスを提供しています。(居宅介護自立支援法事業)
利用ご希望の方、話を聞いてみたい方ご連絡下さい。
担当者がご説明にお伺いします。(都内及び近郊)
NPO ピッケルニ
〒152-0031
東京都目黒区中根2-13-14 1F
Tel.03(3725)8836
Fax.03(3725)8837
E-mail:piekernie@kjd.biglobe.ne.jp
居宅介護支援事業所番号
居宅介護:1311000564
介護保険:1371002336
基金の活動はカンパで支えられています
▼ 振込先(口座名は「日本せきずい基金」)
郵便振替 No.00140-2-63307
銀行振込 みずほ銀行 多摩支店
普通口座 No.1197435
インターネット イーバンク銀行サンバ支店
普通口座No.7001247 ニホンセキズイキキン
★ 同封の振替用紙は、カンパやこの機関紙購読料の支払
いを求めるものではありません。
発行人 障害者団体定期刊行物協会
東京都世田谷区砧6-26-21編集人 特定非営利活動法人 日本せきずい基金・事務局
〒183-0034 東京都府中市住吉町4-17-16
TEL 042-366-5153 FAX 042-314-2753
E-mail jscf@jscf.org
URL http://www.jscf.org/jscf/* この会報はせきずい基金のホームページからも
ダウンロードできます。 頒価 100円