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〔臨床試験〕
嗅粘膜移植による脊髄再生について
■ 大阪大学脳神経外科の臨床試験計画
 7月11日、大阪大学脳神経外科の吉峰俊樹教授、若月幸一助手が上京され、嗅粘膜による脊髄機能再生の臨床研究に関する当基金との懇談会が開催された。
 これはポルトガルのカルロス・リマ医師らのグループが数年前から、これまでに90人以上の慢性脊髄損傷者に実施されている手法である。今回の臨床試験は、嗅粘膜移植を研究している各国の研究者の連携機関が組織され、9月にはフィレンツェの会議でリハビリのプロトコルの検討が行なわれるという。
 ヒトの体で生涯にわたって神経細胞が再生している場所は、脳の海馬と嗅球-鼻粘膜 の2ヶ所しかない。
 移植では、患者自身の嗅粘膜を内視鏡下で1/4程度剥離し、患者の脊髄の損傷部位の瘢痕組織を顕微鏡下で除去し、そこに細かく刻んだ嗅粘膜を移植するものである。阪大では効果を高めるために、術後から神経軸索伸張効果を有する薬剤の点滴を希望者に実施することにしている。  

 移植対象患者は以下の条件が想定されている。
1)  対象患者は以下のすべてを満たす者。①受傷後6ヶ月以上、②両下肢の完全麻痺(ASIA-AかB)、③MRIで脊髄の損傷部位の長さが3cm以下、④鼻腔に感染症(有害な菌)がない、⑤40歳以下(理解力を考えて7歳以上)。
<40例の実施を予定>
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 9月中旬以降、大阪大学病院未来医療センターに専門外来を設置し、11月以降に手術に入る見込みである。詳細は順次未来医療センターホームページに掲載される予定〔懇談会報告は基金ホームページに公開済〕。

 ■ ポルトガルにおける鼻粘膜移植
 ポルトガルでの移植成績に関して、本年春に初めてリマ医師らの治療成績が専門誌に発表されたので、以下にその抄録と、米国の代表的なリハビリ施設であるケスラー・リハビリ研究所の医師の同誌でのコメント、それへの反論の要旨を紹介する。
  (Carlos Lima et al.“Olfactory Mucosa Autografts in Human Spinal Cord Injury”J. of Spinal Cord Medicine vol29 no.3 2006)〔事務局試訳〕

 〔抄録〕
 背景/目的:嗅粘膜は嗅神経鞘細胞や幹細胞のような前駆細胞からなる、神経の修復にとって容易に得ることの出来る材料である。外傷性脊髄損傷患者に対し、嗅粘膜自家移植の安全性と可能性を検証するためにヒトへの前臨床試験が実施された。
 方法:18~32歳の7人の患者(ASIA-A)は、受傷後6ヶ月~6年半経過した時点でこの治療を受けた。嗅粘膜自家移植片(OMA:Olfactory Mucosa Autografts)は神経学的な損傷レベルC4からT6の患者の損傷部位の1~6cmのギャップに移植された。手術は2001年7月~2003年3月まで実施された。MRIや筋電図、ASIA評価や耳鼻咽喉学的評価は術前、術後に実施された。
 結果:MRI検査では、損傷部位を適度に完全に満たしていることを示した。2人の患者は膀胱感覚の回復を、そのうち1人は肛門括約筋の随意的な回復を得たことが報告された。7人のASIA-Aの患者のうち2人はASIA―Cになった。全ての患者がASIA運動スコアを回復させた。四肢麻痺患者3人の上肢機能の有意な回復は6.3± 1.2(SEM:標準偏差)で、対麻痺患者4人の下肢の有意な回復は3.9±1.0だった。
 ASIA知覚機能スコアが改善した患者(1人を除く全員)の有意な増加は、触覚で20.3± 5.0、痛覚で19.7± 4.6だった。ほとんどの患者で、当初損傷部位より下部の回復した感覚は減少した。感覚スコアの減少を含む有害事象は1人の患者で起きたが、損傷部位への移植が困難だったことに起因する。一過性の疼痛が2~3例あり薬剤で鎮静された。患者が運動を指示されたときに、筋電図は運動単位のポテンシャルを示した。
 結論:この研究は、ヒトへの嗅粘膜自己移植は実現可能性があり、比較的安全で、潜在的に有益であることを示している。手術の手順は、全ての手術にありうる危険性を含んでいる。長期間の患者モニタリングが、遅延性の副作用やさらなる改善を評価するために必要である。

 ▼ リマ論文へのコメント:Steven Kirshblum, MD
 論者は、リマ医師らが、動物実験を経ずに人間で実施したこと、41例実施しながら7例しか報告されていないこと、受傷後1年未満の患者の回復は自然回復の影響を排除できないこと、などをを批判的に指摘。さらに、臨床試験のあり方として5点を挙げている。
1) 臨床研究に先立ち前臨床試験の動物のデータが必要で、それは長期的な臨床の利益を予測可能にすると考えられる。侵襲が大きくなればなるほど、より高度な前臨床段階の安全性と効果が必要とされる。
2) 安全性の分析は文書化されることが必要で、損傷部位より上部の機能の維持を分析するのと同様に、痛みの計測は最高度に含むべきである。
3) 機能的転帰を客観的に示す機能的有効性の証明が必要である。
4) 動物モデルにおける機能的回復は、臨床試験の潜在的危険性を正当化するために充分な規模と継続期間が必要である。
5) 可能ならば、実験的な試験はプラシーボ統制群を使用すべきである。

 そして最後に次のように記す。「我々は脊髄損傷研究の分野で刺激的な時期を過ごしており、多くの研究を現在実施しており、近い将来多くの臨床試験が実施されるだろう〔とりわけCethrin(BA-210)、HP-184、抗ノゴ抗体、ミノサイクリン〕。脊髄損傷の治療法の研究はここ数年着実に前進が続いている」。

 ▼ このコメントに対しリマ医師らは、受傷1年未満は被験者とすべきでなかったこと、排尿機能の回復の術前評価に不備があったことを認めている。さらに、嗅粘膜移植の効果を最大にするために、術前・術後の数ヶ月間、集中的リハビリが必要であると述べる。■


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