〔学会報告〕
再生医療とリハビリテーション
岡野栄之慶応大学教授の講演より

 2005年6月16日、金沢市で第42回日本リハビリテーション学会が開催された。参加した基金スタッフにより、以下に岡野教授の講演要旨を紹介する。 

 〔抄録から〕 損傷を受けた中枢神経の再生の戦略としては、神経栄養因子およびその関連遺伝子導入による神経保護、神経軸索伸長阻害因子の機能抑制による軸索再生、内在性神経幹細胞の活性化、神経幹細胞あるいは胚性幹細胞由来の細胞移植、骨髄間質細胞等の非神経系細胞の分化転換の利用等多岐に渡っている。
 これらの中枢神経系の再生医学的なintervention<介入>は、発想的には、中枢神経系の発生の初期過程を人為的に再現させることに他ならないが、リハビリ医学を組み合わせることで、神経活動に依存した後期過程を再現することが可能になり、機能再生を含む真の意味での中枢神経系の再生医療が実現されるであろう。

 幹細胞システムを用いた再生戦略〔講演要旨〕
  1. 内在性神経細胞の活性化
     (1) 神経幹細胞の活性化
     (2) 中間的前駆細胞の分裂と移動
     (3) 新生ニューロンの成熟 

  2. 細胞移植療法:移植をするタイミングがもっとも大切である。
     急性期:炎症反応(フリーラジカル等)が非常に盛んで、幹細胞を移植しても定着せず意味がない。
     慢性期:マウスに移植してもグリアにしかならずニューロンにはならない。空洞拡大し瘢痕組織が著名。神経幹細胞が生着しても有効に働かない。
     亜急性期:再生しようとする動きがある。血管再生も見られ、移植の至適期の存在がわかった。しかし、内在性の幹細胞組織が少なく、あってもほとんどがグリアになってしまい、内在性の幹細胞での修復は非常に難しい。この時期に外から幹細胞の移植を行えば利くのではないかと考えラットに実験を行った結果、有効な機能の回復が見られた。

  3. 霊長類への移植:ラットの胎児組織の脊髄損傷ラットへの移植は、そこそこの有効性が得られている。しかし人間に関しては、胎児細胞の量的・倫理的な問題があり現在は実験ができない。そこで行った実験として、試験管で増やした神経幹細胞を脊髄損傷のラットに移植した結果、有効な回復が得られた。
          ↓(臨床応用)
     ラットと霊長類では、脊髄の構造と機能が相当違うため、ラットのモデルが実際に霊長類に機能するか不明。このためやはり霊長類での試験が必要となる。
          ↓(霊長類への移植)
     頚髄損傷したサルに人間の神経幹細胞を移植した。タイミングよく(亜急性期)移植することによって、運動機能に有意な回復が見られた。
          ↓(今後)
     この実験を臨床の場に持っていくためには、細胞を非常にクリーンな状態(GMPレベル:医薬品優良製造基準)で培養することが要求される。また、供給システムを確立するために、慶応義塾大学・国立病院機構大阪医療センター・産業技術総合研究所の3ヵ所で共同研究を進めている。研究例としては、
     (1)100日で神経幹細胞を100万倍に培養。
     (2)移植できる環境下での細胞ストックの準備、等。
          ↓(展望)
     慢性期の脊髄損傷患者では10%〜15%の軸索再生を行うことができれば、リハビリと組み合わせることによりかなりの機能回復が期待できる。
     慢性期の脊髄損傷患者に対しては、グリア瘢痕など神経軸索伸長阻害因子の抑制、損傷脊髄の移植できる環境調整が必要。
     急性期においては抗IL〔インターロイキン〕‐6の投与が有効だが、慢性期の患者では神経軸索伸長阻害因子(グリア瘢痕等)への方策が必要がある。そこで
1) 阻害因子(グリア瘢痕)を破壊する酵素(コンドロイチナーゼABC)*を加えると、みごとにグリア瘢痕が壊された。瘢痕組織などのバリアのない状態で神経幹細胞を移植することによって、相乗的に効果がある。
*: 椎間円板内の髄核に含まれるコンドロイチン硫酸を特異的に分解して脊髄に対する圧迫を減弱させる酵素。
2) 軸索再生を阻害するセマフォリン3A(軸索伸長阻害因子)の対策としてsm‐216289(住友製薬)が効果あった。そこでラットの完全損傷モデルに投与したところ、軸索が瘢痕組織を横切って再生することがわかった。フルスコアではないが回復があった。神経幹細胞を組み合わせることで、軸索再生をより誘導させるために、住友製薬と共同で今後も研究を重ねる。

 まとめ


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