メタボリックドミノとは:近年、もともとの生活習慣に問題点があり、そこが増えると次々とドミノ倒しのようにいろいろな疾病が起こってくる状態を「メタボリック(代謝)ドミノ」と提唱される先生がいます。問題ある生活習慣から肥満が生じ、インスリン抵抗性となり、高血圧、糖尿病、高脂血症、から血行障害へ進み、最終的には腎不全や失明、下肢切断となったり、脳卒中、心筋梗塞、心不全という恐ろしい病気になっていきます。このような恐ろしい病気にならぬように、病気をなるべく上流で食い止めよう、というのが現在の考え方になりつつあります。k25-01.pdf 790kb
脊損者の生活習慣病とその予防 水口 正人
神奈川リハビリテーション病院内科部長/副院長
*
2004年11月20日、神奈川リハビリテーション病院にお
ける「第2回脊損リハビリ講習会」講演より〔事務局編〕。
いかなる因子によって動脈硬化が生じやすいかを、1000人について8年間追跡したフラミンガム・スタディという有名な調査があります。これは動脈硬化の危険因子をコレステロールの有無、耐糖能異常*、糖尿病、喫煙、心肥大に分け、さらに収縮期血圧が105、150、180の人と分類して調べたものです。
その結果、収縮期血圧が105くらいでコレステロールが正常、耐糖能異常もなく、喫煙もせず心肥大の問題がないという人が、心血管系の病気になる確率が最も少ないということがわかりました。
- *:インスリン作用の低下した(インスリン抵抗性)生体は正常な糖代謝を維持しようと、インスリンの量が血液中に増加する(高インスリン血症)。インスリン抵抗性が強くなるにしたがい血糖値は正常域を超え、糖尿病準備状態となった状態。
我が国では年々高齢者人口が増加してきています。脳血管障害の死亡率は日本では減少していましたが、1995年頃を境に逆に増加に転じてきています。しかし他の先進諸国はだいたい右肩下がりに下がってきていますので問題です。
脳梗塞、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、脳出血の推定患者数のなかでは、脳梗塞が非常に増加しています。心筋梗塞は1990年頃から死亡実数・死亡率ともに横ばいです。しかし虚血性心疾患は医療の進歩によって死亡率は減っているものの患者自体は増加してきています。
脳梗塞では致死的な脳卒中が減り、軽症の脳卒中患者が増えています。特に、高齢者人口が増えると、脳梗塞が増加することが知られています。
健康という状態が死ぬまで続くことは少なく、人の多くは生活習慣病を経て、臓器障害を経て亡くなるわけです。臓器障害を起こす手前の活動的平均余命、それから脳梗塞・心筋梗塞等になって不自由な体で亡くなるまでを全平均余命としますと、全平均余命ばかり長くするのではなく、活動的平均余命を長くし全平均余命に近づけるのが皆様の願いであり、我々の目的だと思います。
生活習慣病:生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発展・伸展に関与する症候群」と定義されています。
上記のものが生活習慣として定義されます。それで現在、生活習慣病から生じる、特に動脈硬化に関連する疾患の増加が指摘されております。このなかで、受診されていない患者の割合が非常に高いのが心配です。
食 習慣:NIDDM(インスリン非依存型糖尿病)、肥満、
高脂血症、高尿酸血症、循環器疾患、高血圧症、
大腸癌、歯周病等
運動習慣: NIDDM、肥満、高脂血症、高血圧症
喫煙習慣:肺扁平上皮癌、循環器疾患、慢性気管支炎、
肺気腫、歯周病
飲酒習慣:アルコール性肝硬変
糖尿病患者の推移ですが、平成9年から14年のここ5年間で、糖尿病が強く疑われる人は全国で690万人から740万人へ、その可能性を否定できない人が680万人から880万人へ、合計では平成9年の1370万人から14年の1620万人と急増しています。
主な疾患 推定患者数 受診者割合
高血圧症 3300万人 50%
高脂血症 2300万人 20−30%
糖 尿 病 1620万人 20−30%
生活習慣病は生活習慣が大きく関わって発症する疾患ですから、予防には子供時代から生活習慣の改善に取り組まなければなりません。いわば個人のライフスタイルを改善していくことが大切となります。
受傷による変化:脊髄損傷では受傷後に次のような変化がみられます。
脊損者では身体活動性が低い、すなわちいわゆる歩くことが出来ず、車椅子での運動や手の運動に終始してしまいますので、生活習慣病が進行しやすいという問題がここにあります。
・立位、歩行等からの隔離
…→筋肉量減少・脂肪量増加→骨粗しょう症
・自律神経障害…→低血圧、膀胱直腸障害、過反射による昇圧
・関節運動の減少…→関節拘縮
・麻痺領域の血液循環低下…→浮腫、静脈血栓症
・感覚脱失…→褥創
・低身体活動…→生活習慣病→心・脳血管障害
脊髄損傷者の運動能力を考える場合、胸髄Th1〜11番が呼吸機能・呼気筋群に関与をし、Th5〜12番は内臓神経中枢が、Th1〜5番までは心臓神経中枢があります。これを勘案しますと運動機能にもかなりの差がありますが、身体活動能力的には、頚髄C5番以上の頚髄損傷の方、C6番以下の頚髄損傷の方、Th1〜5番までの胸髄損傷の方、Th6番以下の方、と分けて考えていただくとよいと思います。
海外における1994年の報告では、脊髄損傷患者100人の糖代謝検査において、正常は44%、糖尿病が22%、境界域が34%でありました。また、これも海外の報告ですが、1984年にHDL=身体活動度と善玉コレステロールの関係を見た報告があります。そのなかで、善玉コレステロールは運動をすると増え、マラソンやジョギングをしていますと、75%くらいの人はHDLが60くらいと非常に高い値になりますが、脊損の方はHDLが低いままと述べられております。運動習慣がないと善玉コレステロールが減少してくるのです。
脊損では、HDLという善玉コレステロールが非常に低い方の割合が多いのです。健常者では低HDLの人が20%くらいなのに対し、脊損では50%くらいの人がHDLが低いのです。もう1つ、悪玉コレステロール=LDLですが、これも一般人でLDLが異常な人は10%くらいですが、脊損では40%くらいいますので(2001年の報告より)、動脈硬化の進展が非常に危惧されます。
インスリン抵抗性:動脈硬化になりやすいいくつもの素因を持っている状態を「マルチリスクファクター症候群」と呼びます。1980年代末頃から言われ始めたもので、カプラン(1989)はこういう素因を持つ人は非常に脳血管障害や心臓血管障害になりやすいということで、「死の四重奏」と命名しています。インスリン抵抗性症候群とか、内臓脂肪症候群とも呼びますが、どれも高血圧・耐糖能異常で中性脂肪が高い特徴を有します。この3つに肥満とインスリン抵抗性があると、動脈硬化促進に対する共通項目になるといわれています
この考え方の根源は「インスリン抵抗性」と「高インスリン血症」であります。この2つは同じ現象を指しています。インスリンは糖を下げるホルモンで、このホルモンは膵臓から分泌されますが、組織でインスリンを使って糖を代謝しますので、組織の取り込みが悪くなるとインスリンは自らの出しているホルモンの効きが悪いので、さらにインスリンの値を上げます。そうしたことが、血圧とか耐糖能異常とかHDLが低いとか肥満とか中性脂肪の原因ではないか、といわれています。すなわち、氷山の一角が血圧であり、耐糖能異常であり、低HDL血症であり、中心性肥満、高脂血症(高TG血症)である、ということになります。この病態を少しでも改善するには、適切な食事と運動が一番良いとされています。適切な食事と運動によって血圧が下がりますし、耐糖能異常も改善されますし、低いHDLが上昇します。その結果、動脈硬化や心不全が抑制されてくると現在は考えられております。
なぜ肥満によりインスリンが抵抗性を持つのでしょうか。過食からは当然肥満になりますが、肥満症においては、脂肪組織は肥大しても数は増えずに1つひとつの体積が増えるといわれています。体積が増えたときにTNFやレジスチンといった生体内生理活性物質を出し、それらが骨格筋や肝臓に対しインスリン抵抗性をもって血糖を十分に下げない状況となります。
肥大した脂肪細胞はレプチンとかレジスチンなどを出し、これらがインスリン抵抗性、糖尿病、高脂血症、高血圧などを引き起こすと考えられています。運動をすればこの脂肪の体積そのものが小さくなり、それぞれの分泌が減るのでリスクそのものが減ると考えられています。肥大化した脂肪細胞が一番問題になるわけです。糖尿病が境界領域から糖尿病領域へと進展していくとともに、動脈硬化も進展していきます。その原因の1つは食後に血糖が高くなり、高い糖が血管内皮を障害していくことにあります(「糖毒性」という)。またインスリン抵抗性によって、脂質代謝異常と高血圧が起こることも分かってきており、このようなことが動脈硬化を進展させるのです。
糖尿病か否かを見分けるブドウ糖負荷試験(75gOGTT)では、糖だけでなくインスリン分泌も測定します。そのインスリンの測定値の「ピークIRI」(免疫反応性インスリン)の値が150以上かつ120分値「IRI」が60以上の人は「高インスリン血症」と考えられます。もし血糖に異常がなくとも、インスリン抵抗性がある「糖尿病予備軍」です。OGTTの結果、正常ないし境界の場合でも、高インスリン血症を呈することがあります。
脊損者と高血圧:私は以前、522人の脊損者の血圧を研究させて頂きました(30−84歳、平均49.6歳±11才)。その研究のなかで、2次性高血圧の原因がなくて、便がたまるとか膀胱におしっこが溜まりすぎるとか、膀胱内に結石があるとかの原因で過反射の結果昇圧している人は何人かいましたが、胸髄の5、6番を境に、それより高位の人には本態性高血圧患者さんがいないことが判明しました。したがって、胸髄の4、5番以上の障害で、例えばC5、6頚髄損傷の方で血圧が高いという人がいれば、不全損傷であるとか、膀胱結石等による一過性昇圧であることになります。
高
血
圧
の
罹
患
率
%
障害レベル
基本的にはTh5番以上の高位完全損傷の人には、高血圧は存在しないと考えます。Th5番以上の高位での高血圧を認めたら、慢性腎不全などの2次性高血圧か、自律神経過反射による一過性の昇圧を疑うべきでしょう。血圧の乱高下があれば、自律神経過反射を疑います。脊損者では、多くは褥瘡、尿路疾患(膀胱充満・結石)、直腸充満による一時的な昇圧が多く、一通りのチェックが必要と考えます。
糖尿病と内臓肥満:冠動脈疾患の原因となるものは高脂血症、糖尿病、高血圧が多いのですが、現在そのおおもとと考えられているのは内臓脂肪の蓄積です。その認知方法としては、@ウエスト周囲径は日本では脊損患者のものはないのですが、一般人では腰周りが男性では85cm以上、女性では90cm以上の場合とされます。女性の場合は内臓脂肪ではなく皮下脂肪なので、90cmを越えれば内臓脂肪が溜まっていることになります。また科学的な認知方法としては、A臍の部分でCT検査を行いまして、内蔵に脂肪が蓄積しているかどうかを見ます。もう1つは、BDXA(デキサ)法です。これは2種類の放射線を当て脂肪の量を測定します。我々が現在あるメーカーと調べているのがCイーピーダンス法です。市販されているイーピーダンス法はあまり正確な値ではないので、もう少し正確な測定法を求め研究しているところです。
臍部CT検査による内臓脂肪と皮下脂肪の計測では、男性では臍の部分の内臓脂肪面積が100cm2以上ある人が、女性では90cm2以上ある人が、内臓脂肪が蓄積している人になります。
図の左は内臓脂肪蓄積の方で、皮下脂肪はあまりありませんが内臓脂肪が蓄積しています。腸の外側が「油だらけ」という状態です。この方は内臓脂肪が約300cm2くらいで、皮下脂肪は100cm2以下と、比率が内臓脂肪に大変偏っています。
内臓脂肪蓄積例 皮下脂肪蓄積例
右側のは内臓脂肪が100以下ですが、皮下脂肪が250くらいで、皮下脂肪蓄積の方です。内臓臓器的にどちらが悪いかといいますと、内臓脂肪蓄積型のほうが断然悪いとされています。皮下脂肪蓄積型は、見た目は悪いかもしれませんが、それほど内臓的には悪くありませんし、サバイバル環境では皮下脂肪が生き延びる上で役立つわけです。
我々の病院で脊髄損傷患者さんを対象に糖負荷試験を行いました(糖尿病と判明している人は除く)。正常と思われた101人のうち正常は21%だけで、糖尿病型が16%、境界型(糖尿病予備軍)が63%となり、80%弱が耐糖能異常という結果になりました。
同時にインスリンを高い方の比率を調べましたら、20%が高インスリン血症でありました。また6、7割の人が内臓脂肪を蓄積していました。つまり耐糖能異常と高インスリン血症を併せ持つ人が非常に多いこと、また耐糖能異常と内臓脂肪蓄積を併せ持つ人も非常に多いことがわかりました。高インスリン血症の人とそうでない人を比較すると、明らかに内臓脂肪の蓄積の量に有意差が見られました。
脊損者のBMI*:97人のBMIと内臓脂肪面積を比較すると、下図になりました。一般の人のBMIの正常値はだいたい20から22で、22がもっともベストな体重といわれておりますが、脊髄損傷の人でBMI=22で線を引きますと内臓脂肪を蓄積されている人がたくさんおります。内臓脂肪蓄積の観点からは、脊髄損傷の人では、BMI=22というのは、かならずしも健康ではないということになります。
*:ボディマスインデックス。体重(kg)÷身長(m)の
2乗、で測定する肥満度の測定法。
その原因の1つは、脊損者では足の筋肉が減りその代わりに脂肪が蓄積し、見た目には体重が正常となっているところにあると考えられます。では内臓脂肪面積が100を越えないところを考えますと、MBIが19あたりになりますので、脊損の方の場合はBMIの値を算出してその値に3を足した数値が、だいたい一般の方のBMIと同意義になると考えられます。
脊損患者における糖尿病と内臓肥満のまとめですが、8割の人に耐糖能異常症例がありました。BMI=24以下でも内臓脂肪蓄積が多く認められ、BMI=19が脊損者の場合の正常値にあたると考えられます。脊損者の代謝特性としては、耐糖能異常、インスリン抵抗性、内臓脂肪蓄積が多く認められ、動脈硬化の進展が大変危惧されます。
食事療法:その目的は以下の3点が挙げられます。
@ 膵B細胞(膵臓のインスリン分泌細胞)の疲弊軽 減、機能回復:余分なエネルギー摂取をさけ、食後の血糖上昇を抑えることにより、インスリンの必要量を節約する。 A 高脂血症、高血圧の是正を計る:脂肪や塩分の節制。 B 肥満の是正:肥満は(糖尿病の90%を占める)2型糖尿病の増悪因子であり、インスリン抵抗性、高インスリン血症を助長する。
内臓脂肪の蓄積し易い食事としては、 @ 高脂肪食(揚げ物、炒め物):私が患者さんに重ねてお願いする内容は「揚げ物、炒め物は出来る限り避けて下さい」ということです。オリーブ油ならよいのかといいますと、医学会でオリーブ油と他の油を比較した研究では有意な差は出ていません。脂肪摂取で唯一良いとされるのは魚油で、イワシ、サバ、サンマなどですが、これらは不飽和脂肪酸で推奨されます。肉はあまり食べないようにして、唯一食べてよいと思われるのはトリのささみとか、ブタのヒレ肉です。高級牛肉や皮のついたトリなどはコレステロールが高くなりますから必ずやめてください。それから、鶏卵もコレステロールが上昇するため、高脂血症の方は週に1〜2回として下さい。 A 高ショ糖食(甘いもの):せんべい・饅頭・ヨウカン、果糖類(果物) B 高カロリー食(食べすぎ) C 低繊維食(緑黄色野菜の不足) D 濃い味付け:これは塩分をとりすぎるだけでなく、食欲をそそり、過食となり脂肪がたまります。
食事の問題は、脊損患者さんだけの問題ではなく、ご家族全体で考えてほしいと思います。
脊損患者における虚血性心疾患:その症状には、感覚障害や運動負荷量が低いことから非典型のことがあり、特に頚損患者においては無症候性で発症しうるため注意が必要です。
また、狭心症で特徴的な胸痛などの症状が無くとも、脊損期間が長い方に対しては家族歴、高血圧、喫煙歴、耐糖能障害、高インスリン血症、高脂血症、低HDL血症や内臓脂肪蓄積の有無を調べ、数個以上の因子を持っている人は症状が出ていなくても積極的に「負荷心筋シンチ」等のスクーリング検査を行い、必要に応じ心臓カテーテル検査により対処すべきものと考えられます。
運動療法:運動療法の目的には、
@ インスリン抵抗性の改善:継続した適度な運動により、末梢組織、肝のインスリン受容体数の増加と受容体結合後のインスリンの作用が増強される。 A 糖代謝の是正:筋肉へのブドウ糖の取り込みと利用が促進される。 B 脂質代謝・肥満の是正:脂肪組織からの脂肪の放出と、筋肉での脂肪の利用が促進される。 の3つがあげられます。また、運動療法の対象者は、肥満(内蔵脂肪蓄積)、高血圧、糖代謝異常、脂質代謝異常、脂肪肝、家族歴のある方です。対象者の身体状況、体力、原因となる生活習慣、運動習慣を把握し、目標とする心拍数は、 @ 予測最大心拍数(=220−年齢)×0.5〜0.7 又は A 「138−(年齢÷2)」 とし、この心拍数で1回の持続時間が10分以上、1日での運動時間が20分以上、1週間の運動頻度が3回以上が望ましいとされています(1989、厚生省)。目標心拍数と運動時間は以下のとおりです。 運動処方では、運動の種類、強度、時間、頻度、期間をプログラムとして設定します。
年齢階級 20代 30代 40代 50代 60代
目標心拍数(拍) 130 125 120 115 110
1週間の合計運 180 170 160 150 140
動時間数(分)
運動をしなくてもなんとかいい方法がないかとよく聞かれます。大変難しいと思われますが、開発中のものとしてはβ3−ARが期待され、これを服用すると脂肪が燃焼されるというものです。ただ、現実的な適応においては、個人の受容体の変異が大きすぎて、誰でも有効というものに開発されるまで、もうしばらく時間が要るようです。
脊損者の脂肪・筋肉・骨密度:内臓脂肪を計る方法として先にDXA法(デキサ法)を紹介しましたが、脊損者ではとくに体幹部と両足の脂肪が非常に多く、両足の筋肉量が低いというのが特徴でした。
骨密度を健常者と比べると、脊損者は極端に低下しています。なぜなら、立位姿勢が取れませんから重力方向の負荷がかからないこと、そして筋のマヒのため筋の張力がなく、次第に骨密度が下がってくるのです。
部位による骨密度の相違を頚髄損傷と胸髄損傷で比較すると、胸髄損傷では腕が動かせるので骨密度は1近くと正常ですが、頚髄損傷では非常に低下(0.58)しています。椎骨も胸腰髄損傷(1.35)に比べ頚髄損傷(1.20)のほうが低下していることが分かります。
頚髄損傷では上肢の骨密度や筋肉量が低下し、上肢の脂肪が多いという結果が出ています。
次に全身脂肪率とBMI(肥満度)を見てみます。健常者と脊損者を比較すると、同じBMIでも脊損者のほうが全身脂肪率が高く、脊損患者さんではBMI値に3を足さないと一般人の値にならないことが分かります。
今日の一般人と脊損者の脂肪量の部位別比較では、平均年齢は脊損者のほうが高いのですが、足と体幹の脂肪量が圧倒的に脊損者が多いことがわかります。一般人と脊損者の筋肉量の部位別を比較すると、両足の筋肉量は一般人の半分で、体幹部も低下していますが上肢はそれほど変わりません。全身的には筋肉量はかなり低下し脂肪量が増えています。一方、骨塩量ですが、一番低下が激しいのは両下肢で、およそ一般人の半分ぐらいです。
脂肪量の部位別比較(DXA法)
健常者(左):33名、年齢38.5歳±11.2歳
脊損者(右):30名、年齢59.4歳±11.9歳
生活習慣病の予防
食事の面で言いますと、高血圧を防ぐ食事としてDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)をとるよう心がけて戴ければと思います。果物は糖分の問題としてはとりすぎは決して良くないのですが、カリウムを多く含んでいることにより、塩分を多く摂取している人に対してナトリウムを排泄する利点があります。果物と野菜を多くし、適切な量の果物をとり、飽和脂肪酸および全脂肪含有量を減じた低脂肪食とするものがDASH食です。魚油は推奨品です。これらによる収縮期圧の低下幅は8〜14mmHgと10前後になることが知られています(米国高血圧合同委員会;JNC7)。
家庭内の血圧測定法としては、1日2回、朝と夜の2回の計測が勧められます。朝は起床1時間以内、座位、排尿後、1−2分の安静後、服薬前、朝食前に行ってください。夜は座位で就寝直前に(飲食後でも入浴後でも可)、他には具合の悪い時や昼食前後に追加計測していただければ結構です。
JNC7と日本高血圧学会ガイドラインにおいて、すべての年齢で、正常血圧は120未満・80未満の両方を満たしているものと定義されており、収縮期血圧が140あるいは拡張期血圧が90を越えたものを高血圧としています。
ライフスタイルの適正化(JNC7)
・減量:正常体重を維持(BMI18.5−24.5 kg/u)
→収縮期血圧5〜20mmHg低下
・DASH食:果物、野菜を多く取り飽和脂肪酸を減ら
した低脂肪食に→収縮期血圧8−14mmHg低下
・塩分制限:1日摂取量6g以下に
→収縮期血圧2〜8mmHg低下
・アルコール制限:エタノール換算で30 ml/日以下
つまりビールは720ml/日以下、ワインは
300ml/日以下で週に1、2日の休肝日を設ける
→収縮期血圧2〜4mmHg低下
・運動:急ぎ足などの有酸素運動を30分/日以上を
ほぼ毎日する→収縮期血圧4〜9mmHg低下
高脂血症:血液中に含まれる脂質にはコレステロールだけでなく、トリグリセライド、リン脂質、遊離脂肪酸などがあります。高脂血症とは、この血清脂質が上昇した病態で、
血清総コレステロール値・・・220 mg/dl以上
血清トリグリセライド値・・・150 mg/dl以上
の双方またはどちらかがこの基準値を超えたものを指します。ただコレステロールは悪い作用だけでなく、@細胞の膜を作る、Aステロイドホルモンの材料となる、B胆汁酸の材料となるといった、生体に不可欠の役割も果たしています。
実際、問題となるのはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)で、その値を下げるには、タマゴ、スルメ、アンキモ、レバーなどは含有量が多いので注意してください。中性脂肪(トリグリセライド)は、肉では皮下脂肪として蓄積されていますが、注意していただきたいのは、脂肪食以外にお饅頭などの炭水化物からも合成されることです。中性脂肪の役目としては、@エネルギーの貯蔵庫、A断熱作用、Bクッションとして働きますので、ある程度の値は必要と考えられます。
血清コレステロールが高い患者の食事療法としては、@コレステロール摂取300mg/日以下、A食物繊維を十分取る、B植物性たんぱくを多めに取ることが必要です。
血清TG(トリグリセライド)が高い患者には、@エネルギーの適正化(25kcal/kg 標準体重)、A糖質、特に砂糖や果糖を制限、Bアルコールの制限を行います。
高脂血症は以前にも述べましたが、特に高LDLコレステロール血症が動脈硬化を引き起こすことから重要な問題となります。高脂血症等により引き起こされる動脈硬化は、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や脳血管障害の基盤を形成します。
高中性脂肪(TG)血症がなぜ悪いのかと申しますと、@悪玉コレステロールがさらに悪玉化する、A血栓が生じ易くなる(PAI-1が上昇することにより)、BTG上昇は善玉コレステロール(HDL)の減少を伴うからです。
最後に、私が提案致します脊損患者さんのための「生活習慣病予防十か条」を紹介致します。
1 ベルトの穴 気をつけよう 内臓肥満 2 油断は出来ない BMI 22 3 目指そう BMI 19 4 始めよう DASH食 5 カルシウム と ビタミンD も豊富に 6 アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒 7 定期点検 高血圧 糖尿病 高脂血症 8 時々点検 狭心症 脳梗塞 9 たばこ を止める意志を持とう 10 体力とレベルに見合った 運動 続けよう