| SSKU 特定非営利活動法人 Japan Spinal Cord Foundation |
| 日本せきずい基金 設立準備会 ニュース No. 2
|
【せきずい再生研究・資料】
神経再生研究の現状は
京都大学医学部・再生医科学研究所教授 清水 慶彦
聞き手/串田
■串田 私は、3年前プールに飛び込みの際首の骨を折り、以降、頚髄損傷で四肢麻痺状態です。
■清水教授 それは、大変な事ですね、さぞかしご苦労な事が多いと思います。
■串田 はい、しかしそれは私だけに限らず、日本には約6万3千人の四肢麻痺対麻痺者がいます(平成9年度の『障害者白書』による)。早速ですが、平成10年4月に教授の研究が「進む組織再生医学」と題して毎日新聞に紹介されましたが(次頁参照)、その事に付いてご意見をお伺いしたいと思います。
1)毎日新聞の研究紹介について
質問1 この度の技術は、幹細胞があれば、末梢神経のみならず中枢神経を再生したり、中枢神経と末梢神経の接続、ひいては頚髄損傷、脊髄損傷による四肢麻痺及び下半身麻痺治療まで拡大することは可能でしょうか。
■清水教授 自分としてはその様に考えています。イモリなどは、尻尾や体の一部を切っても再生するように、人間にも再生能力は潜在的に存在しています。例えば、指を切りそのままだと、血が流れっぱなしになるので先ず、止血のための血小板などが傷をふさぐ、これと同じように神経も損傷を受けたままではいけないので、神経の傷口をふさぐ作用が優先し再生作用を妨げていると考えられます。
従って、その作用を押さえ且つ、赤ちゃんが細胞組織を伸ばすような環境さえ整えられれば、あらゆる臓器で再生が可能と考えます。
現に末梢神経段階では、神経組織が伸展して連絡するための足場を用意すると80mmの欠損でもつながる事が証明されています。白血病などに効果のある骨髄移植などと原理は同じです。
ただ骨髄移植の場合は、骨の中に骨髄という足場が自然に備わっているから可能なのです。脊髄の場合は、その様な「揺り篭」のような場所がない事と、末梢神経よりもう少し複雑で、再生した伝導路が中枢と末梢で一対一に正しくつながらなければ機能が発揮されないという難しさがあり、さらに、脳脊髄は脳血液関門という特殊な装置で護られた別空間であるため、工夫が必要になります。
そして今、我々の研究はマウスより一回り大きな子犬などで実験中です。
質問2 実際の臨床応用は、いつ頃から実施する予定でしょうか。
■清水教授 時期は未定です。今の所なんともはっきりした事は言えません。
質問3 臨床応用を実施するとなったら、 中枢神経を損傷した直後の人達だけでなく、頚髄損傷等、けがをしてから数年経った人達でも再生が可能と考えますか。
■清水教授 脊髄損傷の場合、損傷部から末梢の脊髄も生きており、独立した働きをしている部分がありますから再生研究がうまく行
■ 毎日新聞 1998年4月14日号より転載
進む組織再生医学
食道や神経細胞ができた!
幹細胞の分化促進 腎臓、せき髄を目標に
イモリの足を切ると、新しい足が生えてくる。人間には同じような再生能力はないとされてきたが、適切な条件を工夫すれば、失った組織や臓器を再生できる可能性もあるようだ。京都大と大阪大の研究者が臨床と基礎という異なった医学の立場から組織再生に取り組み、食道や神経細胞の再生に成功した。いろいろな細胞に分化する能力を持つ幹細胞が再生のカギを握っているという。
★京大・清水教授 京大再生医科学研究所(京都市左京区)の清水慶彦教授(人工臓器学)はもともと胸部外科医。多くの肺がん手術を手がけていた1970年代は、肺、食道などがんに侵されたすべての部分を除く拡大手術が主流だった。「摘出した組織の代わりにプラスチック製の胸壁や動脈を補うので、優れた人工組織を作りたかった」ことが研究に取り組むきっかけになった。
当初は失敗続きだった。免疫機能が働く結果,生体にとって異物であるプラスチックはいぼのようになったり、位置がづれて役立たなくなったりした。そこで水に溶けるプラスチックや天然コラーゲン(にかわ状のたんぱく質)などさまざまな材料で試してみた。
93年に初めて食道の再生に成功した。シリコンチューブをスポンジ状のコラーゲンで覆った人工食道を、切り取ったイヌの食道の代わりに埋め込むと、4週間で元の食道が再生した。
「コラーゲンのすき間に幹細胞が染み込み、各種の細胞に分化する.2週目で表面に粘膜や毛細血管ができ、3週目には筋肉もでき始めた」と振り返る。同様の方法でネコの座骨神経の再生にも成功した。
2)Nature medicine論文について
(論文:「自分のマクロファージ(大食細胞)を活性化して損傷部に注入すると、対麻痺ラットの脊髄に部分的再生が見られた」。執筆者:Rapalino, O. et al. Nature medicine 4(7),814-821,1998)
■串田 最近、「ネイチャー・メディスン」という医学雑誌に、脊髄再生に関する記事が載っていましたが、清水教授はこの研究発表に付いてどのようにお考えでしょうか。
■清水教授 「ネイチャー・メディスン」の
★阪大・岡野教授 一方、大阪大学医学部バイオメディカル教育研究センター(大阪府吹田市)の岡野栄之教授(神経機能解剖学)は脳の発生メカニズムの解明に取り組んでいた。脳は神経幹細胞が神経細胞(ニューロン)になり、互いにネットワークを張って形成される。赤ちゃんのときにできた神経細胞は再生されず、1000億個以上ある神経細胞は成人になると1日数万個ずつ減っていくという。
岡野さんは「再生とは正常な発生の過程を再現することだ。神経細胞を再生できれば痴呆や脳外傷によって神経細胞が減った患者を治療できるかもしれない」と考えた。
岡野さんは米の研究者とともに、ヒトの成人の脳内にも神経幹細胞があることを発見した。97年にはこの神経幹細胞を試験管の中で分裂させ、神経細胞に分化させることに成功した。成人の脳の神経細胞は再生されないと考えられてきたが、「成人の脳には神経幹細胞が極端に少ない。そのうえ再生できる環境にない。しかし、分化能力を持つ幹細胞を補い、分化を促進する成長因子を加えるなど条件を整えれば再生できる」と説明する。
★実用化目指す 清水さんは今後、腎臓やせき髄の再生に取り組む。いずれも複雑な機能を持つ組織だが、「幹細胞があれば、条件を工夫することで再生は可能だ」と自信を見せる。「再生とは自然治癒力を最大限に生かすことだ。臓器の機能がなくなった患者に対して、人工臓器や移植とは違う新たな治療手段として実用化したい」と意気込む。
岡野さんは「脳にも神経幹細胞があるのだから、脳は再生できる」としながらも、それがネットワークを構築し、脳の機能回復につながるかどうかは別問題で、今後の課題だ。脳よりもせき髄の方が実用化に向けた技術的、倫理的な問題が少ないのではないか」と予測する。
2人はそれぞれ異なるアプローチで再生の研究を進めているが、「再生のカギを握るのは幹細胞」という点では共通する。当面の目標がせき髄の再生で一致しているのも、単なる偶然ではなさそうだ。
論文の要旨を紹介すると下記の様になります。が、幾つか画期的な実験結果があります。
▼ 論文の要旨 …………………………………
*目的 中枢神経系は、神経の再生能力が極めて低い。この理由として、神経周囲の環境が神経再生を抑制していることが考えられる(ミエリンによる突起伸展阻害など)。
中枢神経系は、免疫反応とは隔離された組織であり、末梢組織の様なマクロファージの異物除去、修復等の機能が働かないことが神経の再生を妨げている可能性がある。筆者らは、以前、視神経切断ラットに摘出した神経片で刺激したマクロファージを切断場所に注入することにより、再生が起きることを見いだした。今回、脊髄切断ラットにおいてマクロファージの効果を検討した。
*実験 ラットの胸椎8と9のレベルで脊髄を切断。マクロファージ:血液から採取後、坐骨神経の摘出片で刺激、切断直後、マクロファージを注入。
*測定 運動能力、Cortically evoked MEP(筋電図)、免疫組織化学的分析、前方向への物質輸送能力の追跡により脊髄の再生を確認。
《結果》
- 切断後、マクロファージ注入群で15週以降に運動能力が部分的に回復。無刺激のマクロファージ注入群では回復しない。
- 脊髄の再生であることを証明するために、大脳皮質刺激による後肢の筋電図を記録した結果、回復群では刺激により MEP が記録される。
- 回復群で神経繊維の染色により、切断部分で神経がつながっていることが認められる。
- 中枢方向への物質輸送の追跡でも、神経がつながっていることが認められる。
*結論 活性化したマクロファージにより、
神経再生を誘導することができる。
*メカニズム ミエリンという神経繊維をカバーしている物質の変性したものを取り除く速さを促進したこと、グリア細胞による瘢痕組織の形成を抑制したことが考えられる。
ミエリンやグリア細胞が、中枢神経の突起伸展を抑制することが報告されている。
今回の結果は、神経が再生できる環境をマクロファージが作り出したことにより再生が促進された可能性がある。
マクロファージを事前に坐骨神経摘出片で刺激したことがポイントとなっている。
注) マクロファージとは:
身体に外部から侵入した異物や、体内で生成された老廃物の処理をする、大食細胞と呼ばれている細胞。身体の中に広く分布している。しかし脳・脊髄には存在しない。特に炎症を起こした部分で、炎症を抑えるための物質を活性化させる。また、細胞や神経の増殖・成長因子を分泌する能力も持っている。
注) マクロファージの注入方法は:
論文では、マクロファージの調整は末梢血モノサイト画分をパーコールを用いた1回の遠心分離で得ている。このサスペンションを直接シリンジを用いて注入している。注入部位は損傷部位、並びにやや離れた遠位の両方同時に注入しているようである。
……………………………………………………
この報告は、血中マクロファージを使用したことにより、中枢神経が再生することを示した最初の報告であり、今後の治療に役立つかもしれない。この研究発表で非常に画期的で評価できる点は、(以下、清水教授談話)──
今まで脊髄(中枢神経)に末梢神経や、胎児の脊髄の一部等を繋げて成功した例は有ります。胎児の脊髄移植は、成功して機能回復が得られています。しかし、末梢神経で繋いだ例では、繋いだ部分だけが機能しただけです。
ところが、この実験で画期的な事は、血中マクロファージの注入により、残存中枢神経自体が再生した事にあります。そして、再生率は50%であるという事。また、マクロファージは、血中に存在し脳血液関門内の脊髄には存在しないため、脊髄損傷の部分を持ち込んで脊髄再生に役立たせた事も画期的です。そして、実用化されれば、手術する方の事前準備は大変かもしれないが、手術自体はそれほど難しいものではなく、患者の身体的負担は少なくて済むだろうと考えられます。そして、「マクロファージ」(神経再生用に活性化させておいた)とフィブリンの注入だけでなく、これに現在我々京大・清水研究室で研究を行っている、再生を邪魔するものを防御する接合管を加味すれば、もっと良い結果が得られるかもしれません。
■串田 最後にお伺いします。近い将来、中枢神経は医学的に再生は可能でしょうか。そしてまた我々は歩けるように成るとお考えですか。
■清水教授 当然我々科学者はそれを目指して日夜研究していますし、医学はここにきて、日進月歩で進歩していますので、希望を持って宜しいと私は考えます。
【この研究を始め、日本の最先端の研究を紹介したビデオがあります。
ご希望の方は、事務局まで】
NEXT ページ2 3ページあります。