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特定非営利活動法人   Japan Spinal Cord Foundation
日本せきずい基金ニュース
No. 19


        −【目次】
坂口厚労相に再生医療の促進を要望

第3回脊髄再生研究促進市民セミナー報告

講演会「QOLを高める呼吸療法」案内

J.バック教授について(石川悠加)

高位脊髄損傷患者への非侵襲的換気療法の選択

慢性異常疼痛発症に関与する新たな蛋白質の発見

再生医療推進センター講演会案内

頸髄損傷後のマヒの推移

「Yes, You Can !」増補改定版、ほか


〔行政折衝〕

 坂口厚生労働大臣に再生医療の促進を要望
 2003年7月22日、
日本せきずい基金役員は
厚労省大臣室にて坂口大
臣に面会し、下記の要望
を行なった。


 再生医療について

  1. 「ヒト幹細胞を用いた臨床研究指針(ガイドライン)(案)」のあり方に関する厚生労働省の専門委員会は、平成14年度中に指針案を作成する予定であった。しかし、昨年12月中には当事者団体からのヒアリングを終えて指針案が作成される予定が大幅に遅れ今日に至っている。

     一部の厚生労働委員の意見により専門委員会の審議が大幅に遅れるのでは、専門委員会のありかた自体が問われかねない。最先端医療研究の必要性、再生医療促進の必要性は、苦痛と日々闘い、死と隣あわせで生きている人、その家族、友人の多くがその治療を待ち望んでいる。

     「ヒト幹細胞を用いた臨床研究指針(ガイドライン)(案)」が一日にも早く作成され臨床に移行する事が望まれる。

  2. 再生医療の早期実現ついて:再生医療の基礎研究において、日本では脊髄損傷と網膜の再生がすでに臨床へ移行する準備段階に入っています。このような現実を踏まえ、脊髄損傷や網膜の損傷により、日々その障害による苦しみと戦っている多くの障害者がその臨床応用を切望している現状を十分に御配慮願いたい。

     国はこのような現状を認識し、多くの可能性を秘めた幹細胞研究を促進し、しっかりとした基礎研究に基づいた臨床応用を支援するよう切に要望いたします。

4月から中断していた専門委員会は8月21日に第13回が開催され、本年12月をめどにガイドラインをとりまとめる見込みである。




【報告】

  第3回脊髄再生促進市民セミナー

 2003年6月9日、(社)全国脊髄損傷者連合会との共催で岡野栄之慶応大学医学部教授を講師にセミナーを開催した(かながわ県民ホールにて、参加者200名)。

 以下に、最近の研究動向に絞って岡野教授の講演のポイントをまとめた。

現在のステロイド(メチルプレドニゾロン)大量療法では様々な副作用が出る* 。受傷1週間以内には炎症を起こすIL6(インターロイキン6)が大量に出る。このIL6の働きを止める抗体の作成に大阪大学で成功し、臨床試験は第3相に入っている。マウスの実験でも、グリア瘢痕の減少や運動機能の回復が確認されており、近々、新しい治療法としてスタートとさせたい。

 メチルプレドニゾロン(MPSS)大量療法の副作用:
 急性期の標準的治療法とされるMPSS大量療法に対して近年、敗血症と肺炎の呼吸器合併症、高血糖などの副作用が指摘されている。2002年3月の米国脳神経学会のガイドラインでは「臨床的有用性以上の副作用」を考慮し使用すべきとし、論議を呼んでいる(「脊椎脊髄Jnl」2003-4p.343f, 417f)。

軸索の再生の問題では、受傷により髄膜由来の繊維芽細胞(フィブロブラスト)が損傷部位を覆い、セマフォリンという軸索成長阻害因子を出している。このセマフォリンの活性をブロックする土壌のカビが発見され、現在、製薬会社と共同研究を行なっている。セマフォリンは亜急性期から慢性期に活発に発現するため、その阻害剤は急性期以降の治療法として大変期待できる。ラットへの実験でもこの阻害剤により軸索が切断点を越えて再生し、機能的にも見事に再生した。

米国のベンチャー企業との共同研究も開始した。神経幹細胞移植によって神経細胞の再生ができるが、この薬を使用することによって加速することができる。

共同研究の推進によりわが国から初の、脊髄損傷の新しい治療法を何とか発信していきたい。自信を持って皆様に提供できるには、もう5年くらいかかるのではないかと思う。最初の1例から1万例に達するまでに、我々だけでなく多くの方々の協力を頂ければより短くなるのではないかと思います。

(文責:編集部)





〔講演会案内〕

QOLを高める呼吸療法

−−非侵襲的呼吸療法の実際−−

J.R.バック
ニュージャージー医科歯科大学
リハビリテーション科兼ニューロサイエンス科教授

日時: 2003年11月16日(日) 13:30〜16:30
会場: オリンピック記念青少年総合センター 国際交流棟2F(セミナー室)
交通: 小田急線参宮橋駅より徒歩5分(参宮橋駅は車椅子アクセス可、有料駐車場あり)
後援: みずほ福祉助成財団
協賛: Plumonetic systems Inc.(米国)
入場無料・通訳あり、定員80名
申込み受付中!

事務局まで電話・ファックス、メールにて、氏名(所属)、呼吸器・車椅子使用の有無、障害レベルをお知らせください。




■ J.バック教授について

国立療養所八雲病院 石川 悠加

 小学校通学のための気管切開チューブ抜管

 Tちゃんは、3才の時、交通外傷による頚髄損傷(C2)により、「気管切開による人工呼吸療法」(TIPPV)を開始した。最初は24時間のTIPPVであったが、次第に呼吸器からの離脱時間が増え、4才時には、睡眠時のみのTIPPVとなり、自宅へ戻った。

 地域の小学校に一人で登校することを希望したが、昼間でも、留置した気管切開チューブの吸引を要するため、受け入れ困難か、母の付き添いを要すると判断された。そこで、気管切開チューブを抜去し、睡眠時「非侵襲的換気療法」(NIV)移行と排痰方法習得のため当院に入院した。

 メールでバック教授からアドバイスを戴きながら、本人ご家族の努力が実り、無事気管切開チューブを抜管して非侵襲的呼吸療法へ移行できた。気管切開閉鎖から5年、今では風邪をひいてもほぼ自力の咳で痰が出せる。希望通り、地域の小学校に通学している。バック教授は、1998年の札幌講演で、Tちゃんに会っている。


 日本せきずい基金での講演準備

 その後、Tちゃんのことを会のホームページでご覧になった名古屋のK様のお姉様と主治医から連絡を戴き、24時間のTIPPVからNIVへの移行に成功されている。その後、日本せきずい基金代表の大濱様が、1999年徳島の講演会場までBach教授に会いに来られ、今回の講演を実現したい意向を話された。


 Bach教授のご紹介

氏名:
ジョン・ロバート・バック医師(John R. Bach,  MD)

現職:
ニュージャージー医科歯科大学(UMDNJ)リハビリテーション科兼ニューロサイエンス科教授、大学病院呼吸管理および呼吸リハビリテーションセンター長、大学病院付属ジェリー・ルイスMDAクリニック部長

所属学会:
米国リハビリテーション学会、米国胸部疾患学会、ニューヨーク科学アカデミー会員、米国パラプレジア学会など

略歴:
1976年 ニュージャージー医科歯科大学医学部卒業
1977年 ニューヨーク大学小児科インターン修了
1980年 ニューヨーク大学リハビリテーション科レジデント修了
1980-81年 ニューヨーク州ゴールドウォーター記念病院人工呼吸管理室部長
1981-83年 フランスPoitier(ポワチエ)大学リハビリテーション科Rideau(リドー)教授のもとに客員教授として招かれ、Delaubier(デラビエール)医師らと共に世界で初めて換気不全患者に対する鼻マスクによる非侵襲的間欠的陽圧人工呼吸の臨床効果を報告。
1984年〜現在 ニュージャージー医科歯科大学リハビリテーション科助教授、Kesslerリハビリテーション研究所人工呼吸管理および呼吸リハビリテーションセンター長を経て1995年より現職。

研究内容:
気管内挿管や気管切開チューブを回避して非侵襲的呼吸療法を活用する神経筋障害患者のリハビリテーションのパイオニアである。

 例えば、神経筋疾患患者に対する電動車椅子上のロボットアームを初めて実用化。自力呼吸ができない患者での、リップシールによる睡眠時間欠的陽圧人工呼吸、気管内挿管や気管切開チューブの抜管基準を示した(基金ホームページに全訳を掲載)。

 器械による咳補助(MAC)を再導入。自発呼吸ができない患者で、オープンシステムのNIVが効果のメカニズムを記載。私との共同研究で、神経筋疾患における心筋症のマネジメントを初めて報告。呼吸筋力低下患者において、呼吸器合併症、入院、気管内挿管、気管切開を防ぐ呼吸筋補助手段を開発。これまで気管切開による人工呼吸以外では自発呼吸ができなくなる神経筋疾患(脊髄性筋萎縮症T型)の乳児で、ICUで気管内挿管チューブを抜管して非侵襲的呼吸療法を行なう方法を開発した。呼吸器疾患および神経筋疾患の、人工呼吸とリハビリテーションにおけるQOLとコスト効果の重要な研究成果を発表している。

受賞の一部:
米国リハビリテーション学会より、1990年と1994年に優秀論文賞、および1994年と1997年に最優秀研究論文賞、1999年The American paraplegiasociety(米国パラプレジア学会)A. Estin Colmer記念クリニカルサービス賞など

論文、著書、講演:
神経筋障害と呼吸医学に関する160の研究論文、80本の章、9冊の本、37カ国での講演。

その他:
全米トップドクター(The National Registry of Who’s Who)、NY市街地域トップドクター(Castle Connelly Guide)、ニューヨークマガジンによるNY地区ベストドクターとしても紹介。


 バック教授と日本

 1994年国際神経筋会議(京都)に招待講演で来日以来、今回で6度目の来日である。今年は、初めて、大好きな相撲(福岡場所)を見ることができそうである。1994年国立療養所兵庫中央病院院長高橋桂一先生と共に観戦して以来、阪神ファンでもある。地元では、もちろんNYヤンキースの熱烈なファンで、松井の働きぶりをしっかりチェックしている。

 私は、1994年に、Bach教授のご指導のもと、ニューヨークの24時間NIV使用の方々のお宅を訪問した。また、2年前の落下事故で高位脊髄損傷のため24時間のTIPPVを要する奥様を、ご主人が一人でケアをしておられた。夜間の頻回の気管内吸引がご夫婦にとって苦痛だったことから、NIVへ移行し、奥様が涙を流して喜んでおられた姿は忘れられない。

 今回の講演に合わせて、「非侵襲的呼吸療法ガイドブック第1版」(日本プランニングセンター)もバック先生に推薦文を戴いて、出版予定である。


(文献) 
1) Bach JR, ed.Management of patient with neuromuscular disease、Hanley& Belfus Inc.Medical publishers、affiliated Elsevier, Philadelphia、2004
2) Bach JR, ed. Noninvasive mechanical ventilation、Hanley&Belfus Inc. Medical publishers、Philadelphia、2002
3) Bach JR著、大澤真木子監訳、神経筋疾患の評価とマネジメント.診断と治療社、東京、1999




高位脊髄損傷患者への
非浸襲的換気療法の選択


John R. Bach Augusta S. Alba

Chest 1990; 98:613-19  


 「非侵襲的換気療法」は気管内挿管や気管切開をせずに、鼻マスクで呼吸管理を行なうもので、会話や食事が可能となり、感染症や呼吸器合併症を回避できる。

 ここに、長年にわたり米国で非侵襲的換気療法を実践してきたJ.バック教授の論文概要を紹介する。なおこの全訳及び 「気管内挿管・気管切開チューブの抜管基準」は基金ホームページに掲載する。

〔翻訳:赤十字語学奉仕団 鈴木みかこ、新谷進〕



〔要約〕 人工呼吸器依存の外傷性四肢マヒ者25名に対し、「非侵襲的換気療法」(NIV)で換気補助を行なった。25名中24名の初期管理は気管内挿管で、うち23名はNIVへの転換前に気管切開による「間欠的陽圧人工呼吸」(IPPV)を使用していた。この23名中17名には「舌咽頭呼吸」(GPB)の使用を除けば有意な呼吸器からの離脱時間*はなかった。


*注 : 換気不足または疲労のため人工呼吸補助に戻る必要があるまで、自発呼吸できる平均時間。25名のうち有意な離脱時間がなくても1年以上NIVを使用した7名の平均使用期間は7.4±7.4年(1〜22年)。

 もっとも多く使用されているNIVの形式は、日中夜間とも、マウスピースやリップシールによるIPPVであった。長期にわたる呼吸補助には、「体外式陰圧人工呼吸器」や「間欠的腹圧式呼吸器」(IAPV)、GPBも使われた。

 通常、外傷性高位脊髄損傷患者は、年齢が若いこと、精神状態・延髄筋系が健全であること、および閉塞性肺疾患のないことが認められれば、NIVが有益であり、適応であると結論づけられる。


 気管切開によるリスク 

 病院を退院して、自宅など地域社会で療養する人工呼吸器依存の高位四肢マヒ者数が増加している。こうした患者の換気療法の選択肢として、「横隔神経電気刺激呼吸」(EPR)と気管切開によるIPPVとの併用、またはいずれか一方の方法があった。

 気管切開には長期におよぶさまざまな合併症の可能性があり、EPRは非常に高額なうえ、使用症例の大部分で長期使用のための選択肢として効果的な方法とは認めらなかった。

 気管切開術と気管切開によるIPPVは、すべての高位脊髄損傷患者の長期管理に必須であると考えられてきた。EPR使用患者には睡眠中に上気道の虚脱を起こす傾向があり、突然警告なしに横隔膜のペースメーカーが故障したり、その結果無呼吸となることがあるため、通常は気管切開も施される。これらの方法に伴う合併症発生率と致死率は高い。

 Whiteneckらは、気管切開によるIPPVかEPRを行なっていて、慢性的に人工呼吸に依存している脊髄損傷患者76名のうち55%に、年平均22日の入院を要する肺関連の問題が発生したと報告した。生存率は、受傷後1年:86%、3年:70%、5年:63%、7年:59%、9年:63%であり、受傷後5年から9年でそれぞれ約40%の患者が死亡している。

 Splaingardら(1985)は、気管切開によるIPPV使用の外傷性脊髄損傷患者26名(内、C1,2の四肢マヒ者20名)の3年以内の致死率を37 %と報告している。うち2名は突然の人工呼吸器回路(蛇管)の接続部のはずれによる死亡であった。

 Carterら(1984)は、気管切開によるIPPVやEPR下にある人工呼吸依存の四肢マヒ者35名のうち17名は各々平均して受傷後1.5年、または横隔膜ペースメーカー装着後4年で死亡したと報告した。このうち少なくとも9名の突然死は気管切開自体に関連したものと考えられる。これら2つの方法に共通の危険事項には、人工呼吸器回路のはずれ、急性気道閉塞にともなう粘液栓、気管軟化症、気管狭窄、出血、苦労して行なうチューブ交換に伴う肉芽腫や痂皮(カシ:かさぶた)、化膿性気管支炎にともなうグラム陰性菌の慢性的なコロニー形成などがある。


 非侵襲的換気療法

 慢性呼吸不全患者のための、気管切開によるIPPV(間欠的陽圧人工呼吸)に替わる選択肢として、NIV(非侵襲的換気療法)への関心が高まりつつある。NIVは大部分が筋ジストロフィー患者やポリオ患者の長期管理法として著述されてきた。

 最近まで、NIVに関する文献はほとんどが、しばらくの間は効果的だが不都合も多く、使用不可能な患者が多い「体外式陰圧人工呼吸」に限られていた。一部の患者は30年以上にわたりIAPV(間欠式陽圧式呼吸)を問題なく使用してはいるが、それも他の体外式陰圧人工呼吸と同様、加齢や進行性疾患にともなう肺容積の減少や伸展性の低下により、時間とともに効果が薄れる傾向にある。

 われわれの知るかぎり、体外式陰圧人工呼吸の使用のみにより高位脊髄損傷患者を完全に長期に換気補助し得たという報告はこれまでにない。

 近年、マウスピースやリップシール、鼻マスク、ストラップのない口鼻インターフェイスを通してのIPPVなどのNIVについて述べられている。肺活量や人工呼吸器をはずしていられる時間がほとんど無いかゼロである患者100名以上に対し、NIVによって、気管切開をせずに完全な換気補助を行ない、40年にわたり成功を収めてきた。急性上気道炎や気管支炎の際には、気管内挿管や気管内吸引をせずに、徒手や器械的補助による効果的な咳で管理する。

外傷性高位脊髄損傷の管理にNIVを使用した報告はまだなされていない。ここでは、気管切開によるIPPVからいくつかのNIVの選択肢へ移行できるためのガイドラインを呈示する。


 対象患者と方法

 1965年から現在〔1990〕までに、人工呼吸器離脱困難な患者の呼吸管理と呼吸リハビリを行なうため、外傷性四肢マヒ者80名を受け入れた(受傷時平均年齢21.9±5歳、男性64名;女性16名)。

 うち78名は気管内挿管で管理され、うち77名は損傷後の急性期中の一時期は気管切開で管理されていた。このうち4名が損傷後(1例)、あるいは気管切開口が閉鎖できた後(3例)、2〜29年を経て遅発性呼吸不全を発症した。

 患者は表1に示した管理プロトコルに従った。終末呼気CO2〔end-tidial PCO2〕モニターとパルスオキシメーターによる睡眠時継続的非侵襲的呼吸モニターは、カフを膨らませた24時間の気管切開によるIPPVからの離脱や低侵襲の換気補助方法への移行過程の各段階で有用であった。終末呼気CO2は、1965年以降、患者の補助換気の経時的評価にも使用されている。


表1  気管切開をした高位脊髄損傷者の呼吸リハビリテーションのステップ


 TIPPV=気管切開による間欠的陽圧人工呼吸、vent=人工呼吸器、MIPPV=マウスピースやリップシールによる間欠的陽圧人工呼吸、GPB=舌咽呼吸、PB=Pneumobelt(ニューモベルト)を用いて間欠的腹圧式呼吸器(IAPV)、N=鼻マスクや鼻プラグによる、M=マウスピースやリップシールによる、mask=フェイスマスクによる、IPPV=間欠的陽圧人工呼吸


 気管切開によるIPPV患者の段階的マネージメント

■ステップ〔1〕 患者の全身状態を安定させ、酸素付加は中止ないし最小限にした。気管切開せずにNIV〔非侵襲的換気療法〕を使用している患者同様、気管切開によるIPPV〔間欠的陽圧人工呼吸〕の一部患者のために、気管内吸引の代わりに積極的な徒手による咳補助、または機械的咳補助を行なった。


■ステップ〔2〕 患者は全員、携帯型従量人工呼吸器*を、あるいは患者の要望があれば従圧式人工呼吸器**を装着した。カフのエア抜きについては、患者が日中ずっとエア抜き状態に耐えられるようになるまで、エア抜き時間を毎回1時間ずつ延長していくことで完全なエア抜きを行なった。

*従量式:調整・補助換気時に、設定した換気量を送り呼気に移行する。

**従圧式:調整・補助換気時に、最大吸気圧まで速やかに吸気を送り、設定した吸気時間内は圧を維持して呼気に移行するタイプ。

 その後、夜間はカフ内のエアを一部減らした状態で使用した。人工呼吸器の圧をカフを膨らませた状態と等量に保つため、流量を増やした。必要な場合には、発話に十分な漏れがえられるように患者の気管切開チューブの直径を変更した一方で、流量を通常1〜2Lにし、補助換気の有効性が保てる程度に調整し維持しておいた。流量設定を調節し、PCO2〔炭酸ガス分圧〕レベルを35〜40 mm Hgに保った。

 気管の健常性、気管切開チューブの太さ、および舌と声帯の意志運動により、各呼吸ごとに、声帯経由の吸気量と「リーク」する量が決まる。このリークを利用し、人工呼吸の吸気相で発話した。終末呼気CO2に加え、さらに最近では睡眠時モニターにもオキシメトリーを使用した。睡眠中は、酸素飽和度が85%を超えた数値になるよう保ち、95%以上の平均値となるよう維持した。 

 声量は、気管切開チューブのカフエアを抜いてIPPVを装着している間、人工呼吸器のサイクリックなリズムにともなって強くなったり弱くなったりした。声量が弱い場合は、不適切な流量、太すぎる気管切開チューブ、もしくは、肉芽組織起因であることが多い声紋閉塞のいずれかの徴候であった。こうした患者はカフのない気管切開チューブを使用すること、直径の小さい気管切開チューブを装着すること、または手術適応であれば肉芽組織を切除することで、正常な換気および声量の改善に適した流量がえられた。ある男性患者のために呼気弁に逆流防止弁を取り付けたところ、継続的な会話が可能になった。


■ステップ〔3〕 患者はカフの空気を抜いて24時間の気管切開によるIPPVを使用できるようになった。カフ内のエアを減らす方法は、時間の経過にともない看護スタッフが徐々に(カフ内の)エア量を増やしてしまう傾向があることから推奨されなかった。

 一部の患者には、気管切開チューブの開口部を開放したまま鉄の肺や体外式陰圧人工呼吸器による換気補助を導入した。気管切開チューブを鉄の肺のカラー(訳注:首の密閉箇所)より上部に維持するよう注意を払った。


■ステップ〔4〕 患者全員に、気管切開チューブに栓をした状態で、日中の換気補助用にマウスピースによるIPPVの使用訓練を受けさせた。患者は各自、鼻からのリークを防ぐために軟口蓋で鼻咽腔を閉じることを学んだ。一時的に外鼻孔をつまむことで、患者がこの訓練の必要性を理解する一助となった。

 長期間カフを膨らませて使ってきた患者は、マウスピースによるIPPVの試用中にまず、完全に内転してしまっていた自分の声帯を以前していたように動かし始めた。患者はみな、自分でフローを閉塞させていることには気付いていなかった。これを気管狭窄と間違われることは少なくない。

 患者は各自、効率的なマウスピースによるIPPVを可能にする反射的声帯外転をうまく再習得した。これには数分間の試みからはじめ、毎日試み続けて数週間という期間を要したが、一度マスターしてからは日に三度試すマウスピースによるIPPVのセッションを徐々に長くしていき、日中ずっと耐えられるようにまでなった。

 日中のマウスピースによるIPPVを一度マスターしてしまえば、気管切開チューブに栓をしたままで夜間の補助に「体外式陰圧人工呼吸」を使用することが可能である。体外式陰圧人工呼吸の使用は、陽圧人工呼吸による気管切開孔への空気の吹きつけを軽減して気管切開の傷口を閉じやすくするだけでなく、早期に使用すれば試用初期の呼吸困難の恐怖を軽減し、マウスピースによるIPPVのトレーニングも容易にする。

 マウスピースによるIPPVは会話のリズムを正常化し、日中の正常な換気をもたらし、自分の意志による吐息や大声、補助咳のための「息溜め(airstacking)」を可能にする。

 有窓の気管切開チューブへの変更は、気管切開チューブに栓をしたままでカフの空気を抜いて体外式陰圧人工呼吸を使用する有効性の向上、ならびにマウスピースによるIPPVの有効性を向上させることが多かった。また、マウスピースによるIPPV下では、あるいは人工呼吸器からの離脱が可能な例では、離脱時の会話の声量が向上した。しかし、市販のチューブでは時として、開窓部が気管後壁に接した位置にきてしまい、気管粘膜が開窓部内へ陥入し、有窓チューブとしての効果をなくしたり、肉芽形成の悪化を招いて出血の原因となることがある。開窓の適切な位置は、有窓チューブのオーダー・メイドや小さい径への変更で達成できた。


■ステップ〔5〕 患者は、カフなし気管切開チューブを使用するところまで進んだ。大多数の患者は、適正な換気と声量の保持に気管切開チューブ径の変更は不要だったが、リーク増加分を補うために呼吸器の流量を倍程度にしなければならないことは多かった。

 患者は、腹部・骨盤開口術、または留置カテーテルをつけていない限り、全員がIAPV〔間欠式腹圧式呼吸器〕による換気補助を試みた。IAPVが適正に換気を増やせるようになるまでには、ベルトの適正なサイズと位置、バックルやVELCRO〔マジックテープ〕ストラップの適正な圧を見極めるために数回の試用が必要になることが多かった。患者は自分の呼吸をIAPVに合わせることも習得した。

 IAPVは肺活量が測定できない数多くの患者の換気に有効だったが、著しい背骨の変形や内因性の肺疾患が存在する場合や、患者が30°以上の角度で身体を起こしていない場合には通常、効果はなかった。IAPVは美観にすぐれ、IAPVにより、患者は自由に口を使うことができた。


■ステップ〔6〕 人工呼吸器からのウィーニング〔離脱〕は、マウスピースによるIPPVにより簡易化された。患者の口の近くにマウスピースを固定し、患者が首を廻せばアクセスが可能であるようにした。患者が必要とする補助換気の減少にともない、マウスピースIPPVの使用も自然に減少し、自力でウィーニングを行なった。自発呼吸中に気管切開IPPVをはずしていると不安になる患者が多いが、この経口IPPV法を行なうことで、患者の不安は軽減された。

 夜間にも、ベネット社製のリップシールによるIPPVを使用した。栓をした気管切開チューブ周辺の気管切開部のエアリークを最小化するために褥瘡用ドレッシング(訳注:デュオアクティブなど)を貼ることもあった。

 意欲的な患者全員にGPB〔舌咽頭呼吸〕を教授した。GPB習得の第一の適応者は、肺活量が500 ml以下で気管切開しておらず、口腔咽頭筋が健全で人工呼吸器からの離脱時間がない患者であるが、一部のGPBは気管切開チューブに栓をし、カフの空気を抜いたり、カフをはずしていても可能である。

 患者のGPG習熟の進行状態をモニターするために、一呑込み(one gulp)で何mlの空気を吸い込むか、一呼吸に相当する呑込み回数、分時呼吸数またはGPB分時換気量について、毎週観察を行なった。


■ステップ〔7〕 NIVの有効性が確立されたら、通常は気管切開チューブを気管切開ボタンに交換し、その後、最終的に気管切開部位を閉じることができるようになる。


■ステップ〔8〕 総じて、患者は各種の様式のNIVを試し、有効な方法かつ好みにあう方法が使用できた。ストラップのない口鼻マスクを作ることは、今回はなかった。夜間にリップシールによるIPPVを受ける患者に鼻からの過剰なリークを防ぐために綿の鼻栓を必要とする者はいなかった。

 他の状態にある患者と同様、気管切開しておらず、NIVにつながれており、ある程度の人工呼吸器からの離脱時間のない患者は、歯の処置の際には、経鼻IPPVかIAPVを使用した。

 上気道炎や単純な肺炎の間、一部の患者は一時的に鉄の肺やPorta-lungという体外式陰圧人工呼吸器(コロラド州ボールダー所在のPorta-lung社製)を使用した。これにより、マウスピースを一時的に除去して口から吸引や気道分泌物を除去する間、効率的な換気を確保することができた。

 他の患者は、排痰のために咳を強めようと、より深くより頻回に深呼吸をし、そのために疲労が増したため、さらに長い時間マウスピースによるIPPVを続けた。一部の患者はこうしたエピソードの間、体外式陰圧人工呼吸器とマウスピースによるIPPVを同時併用した。

 挿管を必要としたのは、NIVと最小限の酸素付加による代償が不適切だった肺炎および著しい換気/血流不均等の患者だけであった。標準的ケアには適切な診断、抗生物質、頻回の呼吸理学療法、体位ドレナージ〔体位排痰法〕を含んでいたが、こうしたエピソードの間には支持的ケアも不可欠であった。


 結 果


〔表2〕 非侵襲的換気療法(NIV)を受ける患者の人工呼吸器使用のパターン



TIPPV=気管切開による間欠的陽圧人工呼吸
MIPPV=マウスピースやリップシールによる間欠的陽圧人工呼吸
GPB=舌咽頭呼吸 IPPV=間欠的陽圧人工呼吸
PB=Pneumobelt(ニューモベルト)を用いて間欠的腹圧式呼吸器(IAPV)

 考 察

 体外式陰圧人工呼吸、およびマウスピースかリップシール、鼻マスクによるIPPV〔間欠式陽圧人工呼吸〕を含む非侵襲的陽圧換気療法(NIV)は、高位四肢マヒ患者の適切な肺胞換気を維持することができる。これには、肺活量がほとんどない・もしくは測定されうるほどない離脱時間ゼロの患者も入る。この方法の禁忌とされるのは、うつ病状態および重症の口咽頭筋力低下である。

 われわれの睡眠ポリグラフの研究から、睡眠中の患者はリップシールによるIPPV使用時に過度の鼻孔からの換気リークを防止し、また鼻マスクによるIPPV使用時に口からの換気リークを防止するために、条件反射運動を続けることができることが判明した。

 受傷時から最適の換気を受け、呼吸中枢の化学調節系に異常がない患者は、カフなしのチューブを挿入した気管切開、マウスピースかリップシールによるIPPV、鼻マスクによるIPPVのいずれの換気補助を受けているかを問わず、正常の睡眠時の血液ガス値を維持する傾向がある。

 日中に換気低下したままの患者や、高炭酸ガス血症が酸素の恒常的付加により悪化した患者の換気は、睡眠中はさらにNIVにより正常化することが困難になる。これは睡眠中に過度の換気リークを防止する反射的な中枢性呼吸調節機構に関連しているようである。フェイスマスクやリップシールによるIPPVでの綿球による鼻栓使用が必要な患者もたまにいるが、今回の研究の対象患者にはいなかった。

 NIVへの移行は、気管切開からよりも気管内挿管によるIPPVからのほうが簡単である。しかし残念なことに、気管内挿管中に呼吸リハビリ室に移される患者はほとんどいない。それでも、日中気管切開チューブを閉鎖し、マウスピースかリップシールによるIPPVを導入し、GPB〔舌咽頭呼吸〕を習得することに意欲的であった患者は、首尾よく24時間NIVに切り替えることに成功した。

 呼吸筋機能がほとんどないまたは全くないこれらの患者には、介助なしの咳では排痰効果がほとんどない。通常の肺炎発症率よりもはるかに高い発症率は、よくある良性の上気道感染をきっかけとして起こる。徒手による咳補助は技術を要し大変骨が折れる。器械による咳補助(訳注:MAC=Mechanically assisted coughing:カフアシストやカフマシーンによる)は気管切開した患者にも気管切開していない患者にも、気管分泌物を取り除くのにきわめて効果的である。

 MACの器械は、調節可能な陽圧(通常40mmHg)による深吸気を行ない、その後に0.2秒(訳注:最近はこの数字が記載されている)で調節可能な陰圧(通常は−40mmHg)に転じる際に通常約80mmHgの圧降下をした後、1、2秒陰圧が持続されるものである。これよって気道分泌物が口まで運ばれ、さらに口から吐き出される。

 MACの器械を個々に所有することを患者は渇望しているが、過去25年間製造されていない。現在、われわれは新モデルの試作機を開発中である


*訳注:これが1994年にはカフマシーンとして米国FDAで医療機器として認可され、唯一のMAC市販機器として普及。2000年には、EUでの医療機器としての輸入が認められたのをきっかけに、ニューモデルのカフアシストが製造されるようになった。日本でも現在輸入販売されている。

 結論として、外傷性高位四肢マヒ者に対する長期NIVは、気管切開によるIPPVまたはEPR〔横隔神経電気刺激呼吸〕の代替法として安全で効果的な方法となり得る。

 気管切開部位の閉鎖とGPBの習熟により、数時間の離脱も可能になり、気管切開チューブの接続部のはずれによる呼吸停止事故が突然起こりはしないかと心配しないですむようになる。外傷性高位四肢マヒ者におけるNIV(陽圧も陰圧も含めて)、とくに新たに記載した陽圧式NIVの使用について、さらに研究を進めるに値する。




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