会報10号 ページ9


おわりに:介護の標準サービスモデルをめざして


  最後に、重度頸髄損傷者などの全身性障害者における介護保障のあり方について考察することにしたい。老人介護については少子・高齢社会の急速な伸展を背景に、2000年4月から介護保険法が施行された。介護保険法では周知の通り、要介護度に応じたサービスモデルが提示されている。このモデルについては、要介護認定において心身の障害のみにもとづいており家庭やその他の環境的要因を考慮していないことや、サービスの水準が極めて低いことなど、様々な批判がなされている。しかしそうであっても、介護の必要度を時間数や金銭タームで現そうとしたこと自体は評価されるべきである。介護の必要性は感情的に訴えるだけでは不十分であり、科学的・客観的な評価が不可欠である。障害者福祉の分野においても今後、介護の標準サービスモデルが提示される必要がある。そこで以下では、標準サービスモデルを構築するための予備的な検討をしてみたい。


(1)モデルにおける対象者区分の設定について

  介護保険では心身の障害度にもとづいて対象者の区分がさなれている。このような区分にあてはめると、本調査の対象者は全員が「要介護度5」ということになる。しかし、「要介護5(訪問型)」では訪問介護は(1日ではなく)週にわずか13時間であり、重度の全身性障害者の介護モデルとしては全く不十分である。したがって「要介護度5」より重度の対象者区分を、設定する必要がある。

  この点に関して第一にタイムスタディ調査によれば、1日あたりの生命維持レベルの介助時間(及び総介助時間に占める構成比)は、「人工呼吸器利用」は238分(28%)、「〜C4」は219分(24%)、「C5〜」は146分(17%)であった。「人工呼吸器利用」及び「〜C4」と「C5〜」には介助時間等に差があり、上腕の機能として指でスイッチが押せるかどうかのレベルで、先ずは1つの区分を考えることができよう。


表5−1 介助者の拘束度(人)−障害の部位別−
. ほとんど
常時
1〜2時間不在
でも支障なし
2時間以上不在
でも支障なし
それ以上不在
でも支障なし

人工呼吸器利用 12 1 1 1 15
〜C4 12 10 3 1 26
C5〜 4 - 3 - 7


  第二に、表5-1は介助者の拘束度を尋ねた結果であるが、「人工呼吸器利用」では「ほとんど常時」が15人中12人を占めている。人工呼吸器の故障や痰が喉につまった状態でいると、3分間程度の介助者の不在であっても死亡事故を招くためである。これに対して「〜C4」の26人では、「ほとんど常時」と「1〜2時間不在でも支障なし」に分かれ、それぞれ12人と10人となっている。「C5〜」の7人では「ほとんど常時」が4人であるが、「2時間以上不在でも支障なし」も3人いる。このように常時の見守りの必要性という観点からみると、「人工呼吸器利用」「〜C4」「C5〜」の3グループの間には介助のニーズの明らかな違いがあることが示されている。

これらから頸髄損傷では、「人工呼吸器利用」「〜C4」「C5〜」の3区分が適当と考えられる。


(2)直接的な介助時間

  第3章で示した1日あたりの総介助時間は、「人工呼吸器利用」は853分、「〜C4」は909分、「C5〜」は849分であった。これらの介助時間をどのように保障すべきかを検討する前に、これが十分であるかを考える必要がある。第4章では事例を参加の質の類型別に紹介したが、類型TやUは標準的なレベルとしては不適切である。類型Wは自助努力で達成すべきレベルであるとしても、類型Vは「標準サービス」として公的制度において保障すべきではないだろうか。

  このように考えると「〜C4」及び「C5〜」の総介助時間は多くの場合、類型Wの参加を達成するには不十分であるが、類型Vとしては妥当な時間となっている。しかし、「人工呼吸器利用」ではこの時間数では生命維持レベル以外の介助時間が削減されてしまう。そこで、本調査で「人工呼吸器利用」で類型Vに該当する人の基本的生活レベルでの介助時間(646分)、及びQOL向上のための介助時間(185分)を必要時間と考えた。このようにして算定すると、妥当な総介助時間は1068分となる。

  したがって、介助時間(家事の代行時間も含む)はおおよそ、「人工呼吸器利用」が18時間、「〜C4」が15時間、「C5〜」が14時間である。1日の生活において起きている時間は、タイムスタディ調査からは午前7時半から午後10時30分までの約15時間が標準である。つまり、起きている時間に介助者は常時必要であり、「人工呼吸器利用」では時間帯によっては複数の介助者が配置される必要があることを意味している。


(2)就寝中の拘束時間

  就寝中については、介助が必要な回数について尋ねている。表5-2をみると、障害の部位との関係が明瞭に示されている。「C5〜」では62%の人が必要がなく、他の38%も1回程度である。しかし、「〜C4」では必要なしは26%、1回程度は33%であり、他の4割では複数回必要である。「人工呼吸器利用」では2〜3回が40%と最も多いが、それより多い回数が必要である人も33%いる。

  このように「人工呼吸器利用」や「〜C4」の場合には介助者は睡眠時間がたびたび分断されてしまい、就寝中の約9時間も拘束時間と考える必要がある。したがって、覚醒時と就寝時を合わせた1日の介助時間は、「人工呼吸器利用」が27時間、「〜C4」が24時間、「C5〜」が14時間である。


表5−2 就寝中の介助必要回数(%)−障害の部位別−
. 必要なし 1回程度 2〜3回 4〜5回 6回以上
呼吸器利用 7 20 40 20 13 100
〜C4 26 33 26 11 4 100
C5〜 62 38 - - - 100


(3)必要な介助体制

  以上の必要な介助時間を確保するために、何人の介助者が必要になるかを試算した結果を表5-3に示す。これによると「人工呼吸器利用」では5.0人、「〜C4」では4.5人、「C5〜」では3.0人となる。このことは「人工呼吸器利用」では家族が1人分を分担する場合であっても、8時間労働の介助者が他に4人必要だということを意味している。


表5−3 必要な介助体制
. 直接介助 就寝時
見守り
必要
時間数
人員換算
*1
必要介助者数
*2
呼吸器利用 18時間 9時間 27時間 3.3人 5.0人
〜C4 15時間 9時間 24時間 3.0人 4.5人
C5〜 14時間 - 14時間 2.0人 3.0人

*1;1人あたりを8時間労働として換算している。

*2;介助者のうち3分の2が介助労働にあたり、
   3分の1が休みと考えている。


(4)残されたテーマ

  本調査で主介助者が介助できない場合についてどのように対応するかを尋ねたところ、「〜C4」「C5〜」では「ヘルパーなどの外部のサービス」を利用すると半数の人が回答している。これに対して「人工呼吸器利用者」では、「他の家族・親族」が半数を越えていた。人工呼吸器を利用している当事者にとって、家族の方が安心という想いがあることも無視できない事実である。しかし他方で、1日24時間が介助や拘束時間となっている家族の主介助者の現状も深刻である。

  家族がどの程度の介助を担うべきかについては、本調査では検討すべきデータを持ち合わせていない。また、本報告書の課題の範囲を越える問題である。必要な介助体制がたとえ客観的・科学的に捉えられたとしても、最終的にはこのような価値にかかわるテーマが残されるのである。




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