会報10号 最終ページ24


 おわりに

  救命救急医療の現実の一端を見るとき、避けられた死、避けられた障害の多さに慄然とさせられる。脊髄損傷や脳血管障害はとりわけ、時間との闘いであり、そこにおける医療の質が予後にストレートに影響を与える。救急医療関係者の日夜にわたるご努力には感謝しつつ、さらなる充実もまた緊急の課題としてあることをここに記した。

  本稿では、救急隊員の医療行為や日本救命救急医学会が長年求めている、診療科としての救急科の設置の問題には論及しなかった。

  私たちとしてまずは、すでにあるヘリコプターさえもが十分に使われていない現実に対して、運用の改善を国や地方自治体に強く求めていかなければなるまい。
<編集部>



■リハビリ・トピックス

ICチップが歩行を可能にする――研究者の取り組み

コンスタント・ブランド (Constant Brand、AP通信記者)

2000年4月21日、ベルギー、ブリュッセル発(AP)

  自動車の衝突事故で下半身麻痺となったマルク・メルジェ(Marc Merger)は、事故後十年の今、体内にコンピューター・チップを埋め込んでもらうことで再び歩く能力を得た。 フランス生まれの財務コンサルタントである39才の彼は、チップの埋め込み手術を受けた最初の患者である。その手術は、歩行能力を失った人々を助けるために、ヨーロッパの研究者集団によって開発されたものであった。 去年12月、外科医師達は、メルジェの足の神経と筋肉とに15個の電極を埋め込み、つぎに、それらを腹部に埋め込まれていた1個のコンピューター・チップに導線で接続させた。残念なことに問題が生じたために、2月に再手術がなされた。

  3月の初めに、メルジェは独力で立ち上がることができ、そして4月に入り先週の金曜日には最初の一歩を踏み出したのである。 「私のように、この処置を必要としている沢山の人達がいますが、彼らがもう歩けないとは、思えません。」と、メルジェは月曜日のヨーロッパ連合(EU)本部での記者会見中に語った。

  この研究のコーディネイトに当たった、フランスのモンペリエ大学(Montpellier U.)のピエール・ラビション教授(PierreRabischong)は、埋め込まれたチップがメルジェの足に人工的な筋肉運動を起こさせていると語った。  「私達は、神経や筋肉に電極を使って、脳の中で起こっていることを再現しようとしています。私達はここで奇跡を行っているのではなくて、患者に自分の筋肉を使って立ち上がるようにさせているだけなのです。」と教授は述べた。 科学者たちのねらいは、やがて患者が、リモコン操作できるよう現在開発中の歩行杖にあるボタンを押して自分の動きを制御できるということである。今のところは、科学者がコンピューターにより患者の腹部に埋め込んだチップへ指示を与え、信号が足の電極に送られ、筋肉の動きに変換されていく、という方式を取っている。

  「私達は決して終着点にいるのではないのです。まだ必要とされている仕事が沢山あります。」と、ラビション教授は語った。 メルジェはあの月曜日の生き証人であった。EUの本部での記者会見の場で歩くという彼の実演は、コンピューターの突然の故障で延期された。この故障で、チップへ情報が伝わらず、歩くことが出来なくなったからである。

  23才のガブリエル・トロンコニ(Gabrielle Tronconi)は、今年後半に埋め込み手術を受けることになっている6人のうちの1人である。  「私の望みは、今できないことが少しでも減って、今より少しでも多くのことができるようになることです。私は研究の発展のために歩くことを望んでいます。」と、この23才のイタリア人は話した。  ヨーロッパには、下肢に麻痺がある人が30万人以上いて、その平均年齢は31才であると、ラビション教授は述べている。  EUと域内6カ国(フランス、オランダ、ドイツ、デンマーク、イタリア、イギリス)は、1996年から共同でこの技術の開発に取り組んできている。

  ナオミ・クレイトマン(Naomi Kleitman)は、マイアミ医科大学(U. of .Miami. School of. Medicine) における麻痺治療のためのマイアミ・プロジェクトの教育部長であるが、「従来の電子的方式でも麻痺患者が立ち上がり、歩行器を使って時には1.6キロ以上も歩く事が出来た。」と語った。この方式は皮膚にテープで貼った電極を使う方法である。 「コンピューター制御された電極を埋め込む方式は、この方式と同様に長年に渡り実験室で試験されてきた。埋め込んだ電極の長期に及ぶメインテナンスには問題が残るものの、この方法は足の神経や筋肉に対するより精巧な制御が可能になるだろう。」と語った。
(訳者 後藤 京子)


*「オンライン毎日」(2000年3月24日)掲載の米国 BM社の記者発表により、以下にこの補足する。


・これはEUが資金の半分を提供し150万ユーロをかけた医療技術開発プロジェクトの初の成功例であ  る。

・埋め込まれたチップはSUAW (stand up and walk )と呼ばれ、起立動作、歩行動作をコトロールする。そのサイズは3.9mm×4.5mm。

・開発したのはフランスIBMの研究所。

・皮下埋め込みのチップから電極が筋線維に接続され、電気信号として足の筋肉を刺激して動かす。

・適応:筋肉が正常で神経系に問題のある下肢麻痺者。


◆トメ





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