筑波メディカルセンターに直接搬送された68例を検討した。治療開始時間は
24〜 82分で平均 42分。外来死亡 26例は致命的損傷で治療開始時間の長短が予後を左右しなかったが、26例中
10例および入院後死亡 14例中13例は超早期治療開始による救命の可能性が示唆された。生存
28例では治療開始が遅れると17例は生命予後に11例は機能予後に影響を及ぼしたと考えられた。
メーデーシステムやヘリ搬送などにより超早期治療が開始できれば救命の可能性が見出せる症例が死亡
40例中23例 58%に存在し、交通外傷患者の治療開始時間短縮は生命機能予後を改善させる可能性が示唆された。
救命救急センターと脊損医療
3次医療機関としての救命救急センターは平成12年度現在、全国で149ヵ所設置されている。しかしその医療の質にはばらつきがある。
杏林医科大学の島崎修次は「救急医療における診療の質の向上と評価」として、次のように報告している(日救急医会誌、2000−11)。
「(救命救急センターの)活動を見ると実績に差がありすぎる。一方厚生省からの補助金は従来より実績に関係なく交付されており、この点が問題になっていた。」
「行政は独自の評価法で全国の救命救急センターを3つのランクに分類した。
その結果、Aランク(30点満点の 16点以上)として
85施設、Bランク(10〜15点)は 29施設、Cランク(9点以下)は
28施設で、これをもとに厚生行政は補助金を再考することが可能であった。」
多発性外傷患者の治療手順として世界的に用いられているのがアメリカ外科学会(AHA)の定めた「ATLS(Advanced
Trauma Life Support)」である。4年ごとに改定され現在の最新版は1997年版。世界30カ国以上、約30万人の医師が受講しているが日本では受講できず、一部の医師が海外で受講しているのが現状である。
頚椎損傷については、病院前介助や診療過程での不用意な取り扱いが頚椎損傷(ことに頚髄損傷)を悪化させる恐れから、かねてより頚椎の固定が強調されているが、ATLSでは初版から、バイタルサインが安定するまでは頚椎を固定または愛護的に扱い、状態の落ち着いた時点で頚椎損傷を精査することとし、さらに細かい手順を定めている。
急性期においては不全損傷も完全損傷も同様に扱うべきことは、国立病院東京災害医療センターの加藤宏らが「脊髄麻痺を伴った頚椎損傷の治療」として報告している(日救急医会誌、2000−11)。
すなわち、不全麻痺では6時間以内の除圧であれば良好な麻痺の改善が図れること。受傷時完全麻痺と予測される場合は早期除圧も効果に乏しいが、本来は回復能を有する不全損傷(脊髄ショック期)が潜在する可能性もあり、急性期は臨床的に不全麻痺と同様に扱うべきである、としている。
救急ヘリコプター
現場から医療機関へ、また2次医療機関から3次医療機関への搬送にヘリコプターは大きな効果がある。
平成10年3月、消防法施行規則が改正され、ヘリコプターによる救急隊(隊員2名以上)が消防法上の救急隊として明確に位置付けられたことから、国および地方公共団体においてヘリコプターなどの航空救急防災体制への積極的な取り組みがはじまった。
また平成12年2月には航空法施行規則が改正され、ヘリが臨時に着陸する場合の事前申請が不要になった。
しかしヘリコプターによる救急業務については、救急搬送の実施基準、ヘリコプターの出動基準や出動までの手順の確立、医療機関との連携や離着陸場の整備等のシステム整備が不可欠になる。
ヘリコプターの利用が進まない理由として消防庁は次の点を挙げている(「消防・防災ヘリコプターによる救急業務について」平成12年3月)。
(1) 119番受信時に重傷と認識されず、救急車到着時に重傷と判明しても、救急車のほうが早い場合。
→対策:受信時に重傷度・緊急度が認識できれば、救急隊の到着を待たずヘリコプターが要請され、手遅れにならないケースが増えてくる。
(2) ヘリコプターのほうが早いと思われても、要請に煩雑な手続きがあるケース。<ヘリ運行規定は自治体により様々である>
→対策:地方自治体の事情もあるが、出動手続きの簡略化を図る。
(3) ヘリコプター活用を躊躇してしまったケース。→対策:信頼性の高い出動基準を作成する。
消防庁のヘリ搬送出動フローチャートでは、例えば交通事故で重症が疑われる場合、次のような基準の1以上に該当することが出動条件となる。
1.自動車事故:車からの放出、同乗者死亡、横転、車が概ね50cm以上潰れた、客室が概ね30cm以上潰れた場合。歩行者もしくは自転車が跳ね飛ばされ、または引き倒された事故。
2.オートバイ:時速35キロ以上で衝突した事故。
運転者がオートバイから放り出された事故。重症でなくともヘリにより30分以上搬送時間が短縮できる場合、現場隊員から要請がある場合、出動できるとしている。
また現行のヘリ出動基準では、「3次救急医療機関が各都道府県にあり……脊髄損傷等の都道府県域内医療機関では対応できない症例を除いて傷病者の搬送が基本的には単一の都道府県域内で行うことで足りることから、各都道府県を単位として作成する」とされている。
「ドクターヘリ」事業
消防庁とは別に厚生省の「救急医療体制基本問題検討会報告書」は「都道府県及び2次医療圏単位の協議会を活用し、救急搬送にヘリコプターを効率的に運用できる体制を整える必要がある」として、厚生省は平成11年度より「ドクターヘリ試行的事業」を開始した。
東海大学医学部付属病院(伊勢原市)、川崎医科大学付属病院(倉敷市)に救急専用ヘリコプターを配備し、毎月20件程度の救急搬送を実施している。
東海大学でのこの試行的運用について、馬上喜裕らは次のように報告している(日救急医会誌2000−11)。
「ドクターヘリで搬送されてきた87例(99年10月から6ヶ月間)では、ヘリ輸送により重症例における死亡例は6名減少し、重症例における軽快症例は21名増加。治療開始時間短縮効果は、予想救急車搬送時間がおおむね8分以上の場合に認められた。
ドクターヘリには治療開始時間短縮効果があり、生命・機能予後を改善する。特に初期治療開始までの時間を短縮すべき重症例に対しては、治療上有効であると推察された。」
厚生労働省は平成13年度より全国6ヵ所で本格展開する予定であるが、東海大学病院は神奈川県が財政難でその中止を決定したと報道されている(朝日新聞2001年1月31日)。東海大学病院では年間281件の搬送があり、ヘリ搬送により14名が助かったと推定されている。しかし1ヶ所につき年間1億8000万円の経費がかかり、国はその2/3のを負担するが、残り6000万円の負担を神奈川県が拒み、この3月には休止されることになってしまった。目先の財政再建が「避けられた死」を増加させ、高額医療費負担の増大を招くことは火をみるより明らかであろう。
さまざまな取り組み
東京消防庁は救急専用ヘリを導入し、ヘリコプター基地周辺の救急医療機関から医師をピックアップして、救急現場に出動する方式をとっている(都内には11病院にヘリポートがある)。
また東京都、横浜市、京都市では救急医療に精通した医師が消防機関等の司令室に常駐し、救急隊員に指示を与えている。
札幌市や船橋市では、消防機関の救急車やドクターカーが医療機関内あるいは敷地内に常駐し、医療機関内からオンラインのメディカル・コントロールがなされている。
医師が乗り込むドクターカーは厚生労働省補助金により全国51ヶ所で運営されているが、そのほとんどが病院間搬送で、消防機関との密接な連携が図られていないことが問題点として挙げられている。
欧米の救急活動ではDOA(病院到着時死亡)症例で日本よりも救命率が高い。それは米国やイギリス、カナダの場合にはパラメディック(救急看護士)という資格をもつ救急隊員がある程度の医療行為を許されているからである(「デス・ウオッチング」90.9)。
日本では厳しい教育訓練をへた救命救急士が活躍しているが、救命措置は未だ医師法の制約から十分ではない。
ドクターカーは本来、DOA減少と機能予後の改善をめざすのためのシステムであり、待機医師の確保という大きな問題があるにしても、さらなる改善を望みたい。
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