「 車いすでアジア 」
| ★ 書名 「車いすでアジア」 (山之内俊夫著、小学館、2000年、1200円) ★書評 (勝矢光信) 「あなたが楽しければ、息子も楽しい」。 最初のテーマであり、終局に導く天からの言葉。そして、介助関係の中で、交互に 揺れて漂う波を表現している。名文であり、読者を引き込む力のある名作であった。 人間関係の機微をみごとに表現してある。自分の心情を正直に述べることからしか、 文学は始まらない。 23歳の時に障害者となり、30歳の時にアジアを旅行。旅の介助者は初対面のネ パール人であった。障害者の旅行は、介助者との関係を描き切る事で魅力が増す。 彼がだれを介助者にするかの選択・決定に至る部分が重要な位置を占めている。 あまりにも旅なれた介助者であれば、介助者のペースに飲まれてしまう。従って、 ジュカライ君のような旅行経験のない純真な介助者を選んだことで、新鮮な旅行を 味わえた。 彼の正確で慎重な判断力が、アジア旅行を魅力的なものとした。4ヶ月目に、スリ ランカでジョージというアメリカ人に「彼には体を洗ってもらったり、トイレの始末を させたりしているんだろ。なのに、彼はただのヘルパーなのか?」と言われ、それ以 後、自分の思いをジュカライ君に話す様になり、お互いに遠慮が無くなった。 ヘルパーとの人間性のある関係が、成功の元であった。 ヒラリー卿がテムジンと協力してヒマラヤを征服したのと同様に、困難は良い協力 関係で乗り越えられるという「人間方程式」を学んだ。彼自身の素質によるところも 大きいが、障害をマイナスと考えないで、乗り越える方法を見つけて、プラスの方向 にみごとに導いている。読んでいる私たちまで、幸福な気分に満たされる。 アジアは近くて、安くて、魅力的であるが、車イス障害者には困難のほうが多かっ た。衛生面でも不安は尽きない。しかし、彼独自の工夫で、みごとに乗りきった。 浣腸の代わりの石けん水、体温調節用霧吹き、エアーマット、シャワー用カバーなど、 持ち物を軽くする工夫がみごとであった。 ジュカライ君の父が「あなたが楽しければ、息子も楽しい」という言葉は、人間関係 のすばらしさを教えてくれる。この本を通して、気まずくなったり、けんかをしたり、苦 しい経験もあるが、お互いを尊重しあう中で、良い人生を築いていくという障害者の 生活の基本を学んだ。 |