「病が語る日本史」

★ 書名 「病が語る日本史」 (酒井シヅ著、講談社、2002年、1800円)

★ 筆者紹介

 酒井氏は1935年、静岡県生まれ、三重県立大医学部卒、東大大学院修了。歴史学専攻。
順天堂大医学部教授。野間科学医学資料館理事。著書に「日本の医療史」など。


★ 書評(中島)

 「東京大田区で発掘された六世紀の女性の骨に脊髄カリエスの跡を見つけている。
女性背骨は胸椎の七番目から二番目の腰椎までが癒着して、一つの骨に固まっていた。
これでは腰をかがめることができない」

 ほーっ。世の中にはこんなことを研究している学者や医師もいるのだなあ、と目から
ウロコが落ちるような思いをさせられる本である。古病理学というらしい。酒井氏はその方面
で随一の女医さんだという。自分で石器を埋めて発掘を捏造する破廉恥な考古学者もいると
いうのに、世の中には地道な人たちもいるのだ。
 たとえば、縄文人の骨から発育不全の人骨が見つかることもあるという。

 「宇都宮市大谷寺洞窟から四歳くらいのポリオ(脊髄性小児マヒ)の幼児のほかに、
女性の成人三体と生後数ヶ月の乳児が一体、合計五体が発掘された。(中略)女性の頭蓋
骨には蓄膿の跡があり、肘や膝は関節炎を患っていた。小児の下肢は左右で発育が違っ
ていた。(中略)この子は脊髄性小児麻痺であったと診断している」 

  ポリオの歴史は古く、紀元前三千年ごろのエジプト王朝の壁画に、すでにその姿が描か
れているという。それは洋の東西を問わないというから、障害というものははるか昔からわれ
われ人間にとって決して避けて通れない身近なものであったことがわかる。

 このように、古代から現代までの「病」というものを通して、日本の歴史をあくまで科学的に
見直そうというのがこの本の真骨頂である。最近注目されている「障害学」の貴重な資料とも
なるだろう。それによって日本の歴史がさらに豊かなものになるだろう。

 その他、扱われているのは、疫病、ハンセン氏病、糖尿病、物の怪、マラリア、眼病、
寄生虫、癌、結核、風邪、脚気、コレラ、梅毒、天然痘、水銀中毒、ジンマシン、ペスト、
中気と中風、伝染病、生活習慣病、医原病、公害病、職業病、労働災害などなど。 

 最終章では「新しく現れた病気」として新興感染病なども扱われているが、その他にたとえ
ば炭鉱の落盤事故やスポーツ事故や交通事故による脊髄損傷・頸髄損傷の増加も触れて
くれてあれば、大いに参考になるところであった。




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