「デンマークに学ぶ豊かな老後」

★書名 「デンマークに学ぶ豊かな老後」
      (岡本祐三著、朝日文庫、1993年、530円)

★書評 (中島)

  岡本氏は1943年、大阪生まれ。大阪大学医学部卒の医師。専門は内科・老年科
と、日・英・米・北欧の医療福祉制度比較研究。翻訳著に「アメリカの医療と看護」(保
健同人社)など多数。

  デンマークは今では工業国として高い生産性で知られているが、古くから酪農を
中心とした農業国であった。北海に突き出したユトランド半島とシエラトン島が国土の
大多数である。痩せた土地と強い西風にもめげず、営々とした努力によって改良が
積み重ねられてきた。

  障害者や高齢者の福祉についても、その国民性がいかんなく発揮され、今日の
ような先進国となった。それを作者は感嘆の眼をもって、あますところなくレポートして
ゆく。障害者としては、生まれ合わせた国によってどうしてこれほどまでの差が出るの
かと、やりきれない気持ちにさせられるが、それも障害当事者たちのたゆみない働き
かけによって成し遂げられたことを教えられる。

  とはいえ、北欧の礼賛ばかりに安住するわけにはいかない。たとえば過日次のよ
うな記事も見かけた。
 「スウエーデンの歴代政権が、より優秀なスウェーデン人をつくりだすためとして、
一九三五年〜七六年にかけ、ひそかに六万人の男女に強制的な不妊手術を行って
いたことが明らかになり、国民に衝撃を与えている。(中略)手術の根拠となった
断種法は『劣った人』や『多産の独身女性』『異常者』『ジプシー』などを社会から一掃
する目的で、不妊手術を受けさせるべきかどうかの決定権を医師または裁判所に与
えていた。同法は七六年に廃止された」
(1997・8・27 朝日新聞「六万人に不妊手術強制」から)

  これは第二次世界大戦時のナチスドイツの障害者安楽死の政策と、発想としてな
んら変わりはしない。福祉の先進国といわれる国でさえ実状はこうなのであるから、
あまり幻想は持たないほうがよい。それに障害者を厄介払いしようとしても無意味な
ことは、次のような実証もある。

  「1920年代から1950年代までデンマークでは、ほとんどの場合、避妊手術が、
知的障害者が施設を出るときの一つの条件でした。しかしどれほど多くの人に
避妊手術を実施しても、知的障害者の数は減少しなかったのです」 「障害を完全に
なくすことはできませんし、障害者のいない社会はありません。この事実をふまえて、
福祉サービスの計画を立てなければなりません」 (「ノーマリゼーションの父 N・E・
バンクーミゲルセン」(花村春樹訳・著、ミネルヴァ書房、1994年、1800円)から

★引用

  「しかし、日本の歴史をふりかえってみても、全国どこへいってもこの 和式便所」
を、腰掛け式に改良したような工夫の形跡が見当たらない。また車椅子や歩行器の
ような、足腰不自由な人のための補助器具の類も作られた形跡がまったくない。
つまり我が国には、家庭内に年余の長期間にわたって「寝たきり老人」が生活したこ
とは、(中略)歴史的にはほとんどなかったと思われるのである」

 「 ついでに言及するなら、日本の「旧家族制度」にノスタルジーを感じられる向きも
あると思うが、旧「民法」下、法律によって親の扶養を長子に強固に義務づけていた
時代、すなわち昭和ヒトケタ時代の戦前のほうが、老人の自殺率は現在よりもはるか
に高かった(1.7倍)。(中略)伝統的「敬老精神」なるもの、実は神話ではなかった
かとさえ思われてくる」

 「一旦傷病で躓いたら最後、使わないために身体および精神的機能がまたたくまに
衰えてしまう「廃用症候群」に陥ってしまい、いわゆる「寝たきり老人」が大量に発生
したのである」(「新たな老後不安」から)





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