「夜明けの闇」


★書名 「夜明けの闇」 (中島虎彦著、アピアランス工房、2001年、1500円、200部)

★書評 (煙男)

  中島虎彦氏は1953年、佐賀県嬉野町生まれ、佐賀大学三年の1974年、器械体操の
クラブで錬習中事故にあい頸髄損傷(5、6番)となる。入院中の76年ぐらいから短歌を
つくり始める。歌歴は25年にもなるが、これが処女歌集である。ここには最近20年間の
作品350首が収められている。難しい漢字使いもなく、口語自由律で読みやすい。
カバーの写真は自分で撮ったものを使っている。作者の電動車いす生活のすべてが叩
き込まれている。

  1997年には初めての著書となる評論「障害者の文学」(明石書店、3800円、1500部)を
出版している。こちらはまだ残部があるそうだ。現在は文筆業と学習塾を自営している。
福岡の「WORKING  QUADS」の編集スタッフ。また「日本せきずい基金」のホームページ
で関連著書の書評欄を担当している。
読んでやろうという奇特な方は、下記のところまでご連絡ください。


★引用

どんぐりをぷちりぷちりとこれだから電動車いすはやめられません
粗相してヘルパーさんが来るまでの夜明けの闇がもっとも深い 
その折りの恋人も読んでいるはずの新聞ずいそうを書きついでゆく
秋ふかく芸能人がヒャアヒャアとれんこん掘って帰っていった
パッとみてハゲが一人もないような集まり眉に唾をしてゆく
笑われているような気がしてみればお山はすでに青葉に若葉
いちめんの菜の花畑れんげ畑ダム事務所から植えさせられて
つくづくと犬はどうして人間を信じてくれるのだろうあんなにも
施設とは天文台じゃあるまいし山坂道をたどってゆく
飲んでいて電動車いすのまま小一時間も居眠りしてしまう         
木はみんな本質的に雨の木で愛のしずくを垂らしてやまず
人生の試練とは円ショップ武富士のCMのようなもの
どうしたら世界がぜんたい幸福になどと口走りそうになる
おふくろのうしろ姿に絶句するよりほかの誠実さを知らず
うしろからそうっと肩に手を置かれおとなしくなっている夕焼け 


  歌集「夜明けの闇」「あとがき」から

  私は一九七六年ごろから見よう見まねで短歌をつくりはじめた。二、三年短歌結社に
属したこともあるが、大所帯になじめず退会した。新聞や雑誌の歌壇にもしばらく投稿
していたが、いつのまにか遠のいた。それを機に文語定型から口語自由律へと移り変
わっていった。その後は個人歌誌や同人詩誌や雑誌などに寄稿しながら、納得のいく
ものを気ままにつくってきた。そういう私に業を煮やす方もいたし、本腰を入れてつくって
みないかと励ましてくれる方もいた。陰に陽に私を導いてくださった方たちにはお詫び申
しあげるしかない。とはいえそれが自分らしい短歌をつくるのに最もふさわしいペースで
あったと言えよう。

  その間、詩や小説や評論も手がけてきた。「障害者の文学」(明石書店)という本も出
した。つまり短歌からいつ離れてもおかしくない身であったが、どういうわけか今日まで
細々と(と言おうか累々と)続いてきてしまった。やはり私は短歌が好きなのだろう。
『なぜ短歌なのか?』という問い(今どきそんな問いが存在するのかどうか知らないが)
にはうまく答えられないが、好きなのだからどうしようもない。この歌集を通じてそれに答
えられていたら幸いである。

  ここには一九八〇年ごろから二〇〇一年まで、およそ二〇年間の作三五〇首を収め
ている。並べ方は年代順というわけではない。そもそも私は自作にいちいち日付を記し
ていないし、頻繁に旧作を推敲したりするので、並べようがないのである。とはいえおお
よそ年代順とは思う。

  それにしても二〇年間で私の歌稿ノートに蓄えられていたのはわずか一三〇〇首ほ
どである(文語定型はのぞく)。たとえば毎日十首を自らに課しているというような奇特な
歌人もおられるというのに、私の歩みはいかにのろいものであったかわかろうというもの
である。だから二冊めの歌集を出すということはおそらくないだろう。そのため欲張って
三五〇首も収めてしまい、読んでくださる方をうんざりさせないか心配である。
  それから、数年前同人雑誌に発表した英訳短歌一〇〇首をそのまま載せないかと奨
めてくれる方もあったが、いろいろ考えた末このような体裁になった。もちろん英訳のほう
にも愛着があるが、それはインターネット上の私のホームページに一五〇首ほど発表して
いるので、むしろそちらのほうで世界に開かれていってくれるだろう。

  さて、新世紀になってもろくでもないニュースばかり聞かされなけれぱならず、なにくそ
という顔はしているが、心の奥では泣いている。そんな日々の中でもなんとか自分を奮い
たたせてゆかねばならない。たちこめた深い海霧の中を手さぐりで進んでいるようなてい
たらくではあるが、夜明けまぢかの闇がもっとも深いともいう。してみるといつかは清冽な
夜明けが訪れてくれるだろうと信じたくて、歌集のタイトルとした。

  最後にこの歌集をまとめるに当たって、何かとアドバイスしていただいたアピアランス
工房の吉岡誠二さんに、お礼を申しあげたい。  
                   
        二〇〇一年六月某日 うれしの温泉の隣村にて 中島虎彦  




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