「よみがえる生命」
「甦る仏教」
「続・甦る仏教 ー21世紀の自然保護運動の中心としてー」


★ 書名 「よみがえる生命」 (向坊 弘道 著  樹心社  1994年) 
★ 書名 「甦る仏教」 (向坊 弘道 著、私家版、1991年)  
★ 書名 「続・甦る仏教 ー21世紀の自然保護運動の中心としてー」


★書評 (中島)

(内容)

  「よみがえる人生」があくまで肉体的な闘病に重点を置かれていたのに対し、
こちらは精神的な支えとなってくれた浄土真宗の教えの本質と、現代における
新たな必要性を解説しようとしたもの。同時に仏の教えを体現するため、フィリピン
に日本人障害者のための滞在所を作り、現地の人たちとの交流や援助をしたり、
インドやネパールまで仏蹟巡拝の旅に出て、その紀行文を書き残している。

  いくらか内容が重複して二番煎じのところもあるが、本の売り上げはネパール
の仏教研究所の運営費に当てるなど、全編を通じて「私する心」というものが薄い
のは、浄土真宗門徒の真骨頂であろう。凡庸な私たちにはなかなか真似のできな
いところである。


  何といってもケイソン歴四十年以上とは凄いし、私たち後輩を勇気づけてくれ
る。さて氏は、フィリピンやネパールで「グリーンハウス」という日本人障害者のた
めの滞在所を運営している。物価や人件費の安さから現地の住民を日本人ケイ
ソンたちの介護者として雇っている様子が報告されている。なにやら華僑のイメー
ジを思い浮かべさせられたり、好奇な世間からは「金満ニッポンの傲慢ではない
か」と見られることも覚悟の上だろう。彼にしてみれば日本では暮らせないから外
国に飛び出していったわけだし、その人格の大きささから現地の障害者たちに日
本の中古車いすを贈ったり、もめ事の相談に乗るなど常に交流をこころがけてお
り、今のところ蜜月が続いているようである。

  また世界中へ講演や旅行に出かけた経過を「よみがえる人生」「甦る仏教」「よ
みがえる生命」というシリーズ本に著し、この手の本としては珍しく数万部の売り上
げを記録している。「よみがえる人生」には仏教観にもとづいた宗教詩がまじえら
れている。星野のキリスト教の場合とおなじく、宗旨を一にする門徒たちからの組
織的な購買が望めるだろう。

  仏教の流布にとどまらず、最新刊の「続甦る仏教」では仏の理念と環境保全を
むすびつけ「サットバ運動」という自然保護を提唱している。障害者本としては珍し
い広がりを見せている。また、ベンチレータの必要な高位ケイソンたちのニュース
レターともいうべき「はがき通信」(松井和子編集)誌を発行し、会員たちのあまり
にも個別的であるがゆえに借り物でない表現を引き出させている。

  そうかと思うと実生活では、株に手をだして「億を越える仕掛けのときは夜も眠
れず、一日中短波ラジオで値段を追う自分の姿があさましくやるせない」(重度四
肢麻痺者就労問題研究会報5号)などと赤裸々に告白したりする。そのラジオも
現在ではパソコンを駆使するようになっている。ただ友人としては彼には株はやめ
てほしい。しょせんはバブルだと思うからである。

  そんな中「よみがえる生命」では次のような印象的なシーンがある。 「しかしな
がら、もっともガッカリするのは、まもなく食事を終えようとする頃、一切れの漬け
物を食べようとして、ポトリと首のあたりに落とすことです。『あっ、冷たい!』と思っ
たときはあとの祭りです。指も利かないし、フォークでも取れません。冷たい一切
れの漬け物が首筋に与える違和感は大変なものです。そのためにしばらく落ち込
みます。冷たさのために平常心を失います。やはり重度の障害者が一人で暮らす
のは無理ではないだろうか。

  そういえば、床ズレもできるし、時にはシビンがはずれてベッドが大海原になる
こともあるしー、などと考えていると、暗い気分になり、ますます一切れの漬け物が
恨めしく思えてなりません。ところが、よくしたもので、一、二時間もすると漬け物が
温まってきます。同時に考え方も落ちついてきます。悲観論は頭を引っ込め、少し
明るさを取りもどします。(中略)

  翌朝ヘルパーさんが来て首筋から漬け物を取り、布団の上にこぼれた食べ物
をきれいにしてくれると、いつもの悪い癖がもどってきて、『矢でも鉄砲でも持って
来い』というような空元気が頭を持ち上げます」 ぺったりと胸に張りついた一切れ
のたくあんが、体温で温もってゆくひと晩のあいだ彼はまんじりともしない。たくあ
んをうんこに置きかえてみてもよい。

  その圧倒的な屈辱と孤独のうちに彼の魂はアクエリアス(星)の彼方までも旅し
てくるのである。それは、仏教徒の向坊には十万億土でもあったろう。この世の無
常からすると、餓鬼がきわまるとすなわち菩薩なのである。自力ではほとんど何も
できないかれらの、自立への渇望と悪戦苦闘ぶりはすさまじいばかりだ。 






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