「夕やけ空のオニヤンマ」

★書名 「夕やけ空のオニヤンマ」
(牧口一二著、吉田たろう絵、明石書店、1991年、1800円)

★書評 (中島)

  牧口一二氏は1937年、大阪生まれ。兄弟三人。一歳から
ポリオとなり松葉杖歩行。障害者運動家、作家、グラフィック
デザイナー。「おおさか行動する障害者応援センター」主宰。
1979年から河野秀忠(1942年生まれ)氏らと「そよ風のよう
に街に出よう」誌を発行し編集長をつとめる。1982年からは
井上章氏らと「障害者文化情報研究所」を主宰する。大阪市立大学非常勤講師。

  松葉杖をついて全国の小学校などを講演して回る。またNHK教育テレビの「あすの
福祉」「にんげんゆうゆう」「キラっと生きてる」など数々の番組にコメンテーターとして出
演している。コンクールの審査員なども数多くつとめている。おそらく日本の障害者運動
家の中で最もよく知られた一人であろう。この書評欄としてもまっ先に取り上げねばなら
ない先達である。

  著書(分担執筆も含む)として「夕やけ空のオニヤンマ」(吉田たろう絵、明石書店、
1991年、1800円)、「障害者と差別語」(生瀬克己編、明石書店、1996年、
2400円)、「われら何を掴むか」(自費出版)、「LOVE」(聞き書き集、長征社、
一九八三年)、「ハートで描く心のメッセージ」(NHK「障害者の日」福祉キャンペーン
入賞作品集、足達由美ら挿し絵、NHK)など多数。「LOVE」などは障害者の性意識
の本音に赤裸々に取り組んださきがけとして値打ちがある。

  この本でも子どもの頃の近所の幼馴染にまみれての遊びの体験を、実に生き生き
と講演しているさまが描かれている。小学校の体育館で松葉杖を使ったパフォーマン
スや、マヒした足を正直にさらした説明や、身近な信号機、手話、エスカレーター、筆
談などについても具体的な提案をしている。それに対する子どもたちの素朴な反応や
質問や手紙が、実に新鮮でドキリとさせられる。大阪弁の力も大きいだろう。

★引用

  「もし『相手の国が攻めて来たら、どうするん?』と尋ねられたら、どんな風に説明し
たらいいのか、とドキドキ。
(中略)そこで世界の恒久平和の実現に向けて、力を注ぐのは軍備ではなく、マスコミ
と交通の国際化ーつまり、二ユースなどは世界中をネットにして同じものを流すーなど、
それを拒む国を世界中の民意で許さないのです。まず、秘密を持たず、お互いの交流
を深めて、よく知り合うこと。これが最も有効な平和への道だと」

  「子どもたちの声が小さい」

  「オニヤンマをパチンコで打ったら目に当たって頭が吹き飛んだ、どうしようと後悔し
てパチンコを母に渡してやめた」

  「あいさつを運動にしてはいけないのではないか」

  「日常会話の中に、《腹が立つ、肩身が狭い、(中略)》と、肉体の名称を借りて表現
を具体化している言葉は非常に多い。(中略)この作業を進める中で、驚いたことに言葉
の意味が、なぜか圧倒的にマイナスイメージであることに気付いたのである。(中略)
人間の深層心理と深い関係があるのではないか、障害者への差別語が生まれた根底
とつながっているのではないかという予感はするが・・・(中略)これら肉体の名称と、そ
の働きには“標準”があり、それを“正常”とした上で、言葉が作られている(中略)大きす
ぎても、小さすぎても、標準の枠からはずれると“異常”すなわちマイナス要素となるわけ
である」              

  「たとえば、テレビのある対談中に、いびつな状態を『まるで片端のようだ』と発言した
後で、『先程、不穏当な発言がありました。謹んでお詫び申し上げます』とアナウンスが
入る。どの言葉が、どのように不穏当だったのか一切説明しない。これでは余計に単語
だけにこだわっているように聞こえる。(中略)
  『只今、いびつな状態を“かたわのようだ”と発言してしまいましたが、これは障害者の
人びとが、まるでいびつな人間であるかのような表現になり、明らかな誤りです。発言者
の潜在意識の中に障害者に対する偏見と差別意識があったことの現れです。発言者と
関係者はそれに気付きましたので、ここにお詫びいたします』ぐらいのことが、なぜ言え
ないのだろうか」
   
「マスコミ各社では、それぞれ社内向け『言い換え集・禁句集』を作っている(中略)
かたわ、不具者  =身体障害者、身体の不自由な人
ちんば、びっこ   =足の不自由な人
いざり        =両足の不自由な人
めくら        =目の不自由な人、視覚障害者
めっかち       =片目の不自由な人
つんぼ        =耳の不自由な人、ろうあ者、聴覚障害者
おし         =言葉の不自由な人、ろうあ者、言語障害者        
どもり        =吃音者、言語障害者                  
きちがい、きじるし =精神障害者                   
つんぼ桟敷     =疎外される、聞こえない所
めくら滅法      =むやみに、見当もつけずに
めくら飛行     =手探り飛行
めくら判       =いい加減に押す判
片目があいた   =やっと一勝をあげた
あきめくら      =見ても気付かない、(文盲)
盲愛         =ネコかわいがり、溺愛
片手落ち      =不公平
てんぼう       =手や腕に障害をもつ人
○○きちがい    =○○マニア
 その他に、(中略)めくら蛇におじず、めくら千人目明き千人、めくらに提灯、めくら将棋、
きちがいに刃物、馬鹿に付ける薬なし、馬鹿の一つ覚え、馬鹿と鋏は使いよう・・・・など
が挙げられている」

「それはさておき、余談になるが、大学生たちから『あなたなら、どう答えるのか?』と
詰問されて、思わず『(障害者とは)お見合い話の来ないひと』と答えた」
「障害者と差別語」から)




書評 TOP   HOME