「日本の障害者 その文化史的側面」

★ 書名

 日本の障害者
その文化史的側面


花田 春兆 著

中央法規

1997年10月

2500円

★ 筆者紹介

  花田氏は大正14年生まれ、生まれつきの脳性マヒ、四肢マヒ、言語マヒ、幼い時
から家庭教師がつく。昭和14年東京市立光明学校入学、昭和22年に身障者同人
雑誌「しののめ」創刊。昭和38年に俳人協会全国大会賞「萬緑賞」、平成7年「朝日
社会福祉賞」。現在「日本障害者協議会」副代表、城西国際大学福祉文化学科講師。
著書に「天日無冠」刀江書院、「折れたクレヨン」ぶどう社、「脳性マヒの本」、「日本の
障害者・今は昔」「心耳の譜」「殿上の杖」「鬼気の人」以上こずえ出版など多数、
ビデオに「ゑびす曼陀羅」がある。


★ 書評(中島)

  いきなり編集工学研究所所長、いわゆる「工作舎」編集長の松岡正剛が「この人の
視野こそが日本に広まってゆくべきだと思う」とベタ褒めしている推薦文がある。
松岡の愛読者ならそれだけでこの本に一目置くことだろう。

  好評だった「日本の障害者・今は昔」が障害者の明るく前向きで希望を抱かせる掘り
起こしだったのにくらべて、このリメーク版は「もっと障害者の厳しい現実面を知りたい」
という反響に応えるために書かれたという。ともあれ「もうひとつの日本史を書こう」とい
う氏のライフワークに対する意欲はいささかも衰えることはない。まぎれもなく日本の障
害者の重鎮であろう。

  この本では古代から現代まで、歴史の闇の中に埋もれてきた障害者たちを、特に芸
能や文学の世界にしぼってさまざまに取り上げている。口絵には「一遍上人聖絵」や
「北斎漫画」が載せられ、日本最初の車いすではないかとみられる「足弱(あしよろ)車」
や、手に下駄をはいていざる障害者の姿などが示されている。

  あるいは「平家物語」では、文字だけでなく盲目の琵琶法師たちによって実際に日本
じゅうで語られて共感を呼び、庶民の中に「日本語の原形を確立していった」と、障害者
の果たしてきた大きな役割を再評価している。また能や狂言や浄瑠璃や歌舞伎や俳諧
への造詣も深く、氏の幼いときからの教養の蓄積を感じさせる。

  ただ、どうしても氏と同じ脳性マヒ者に着目されがちなのはいたしかたない。ほかの障
害者たちからは異論もあるだろう。ちなみに中島虎彦の「障害者の文学」(明石書店)も
ほぼ同時期に出されているが、そちらは作者と同じ頚髄損傷者が多く取り上げられるな
ど、誰でも自分の障害を中心に据えて考えることには変わりない。また文章もところどこ
ろこなれていないし、突っこみも物足りない。また資料の少なさから無理もないがあまり
にも推論が多くて、どこまでが一般的な定説となっているのかおぼつかないところも目に
つく。

  それにしても日本史全体に投げかける氏の目配りはぬかりがない。
  たとえば「古事記」のヒルコ、えびすなどの七福神・福助から始まり、スクナヒコナノミ
コト、ヤマダノソホド(クエビコ)、稗田阿礼、ヒョットコ、ホムチワケノミコ、蝉丸、逆髪(さ
かがみ)、信濃の盲僧妙昭、青経の君、京都北部岩倉の里子たち、ゴゼ、くぐつ師、
北山八十間戸のハンセン病者、明石検校(けんぎょう)覚一、弱法師、平景清、
月見座頭、三人片輪、一寸法師、一休禅師の愛人森女、山本勘助、竹中半兵衛、
黒田兵衛、大谷刑部、高山右近、道庵、曽呂利新左衛門、八橋検校、杉山杉風(さん
ぷう)、生田いく一、山田とよ一、塙保己一、徳利子、だるま男、徳川家重、徳川家定、
上田秋成、夏目成美(せいび)、滝沢馬琴、いざり勝五郎、鈴木牧之(ぼくし)、葛原
美之一(みのいち)、沢村田之助、森恒太郎、岩橋武夫、宮城道雄、野口英世、正岡子
規、中江兆民、横瀬夜雨(やう)、長塚節(たかし)、素木志づ(しらきしづ)、村上鬼城、
富田木歩(もっぽ)、夏目漱石、田上耕作、岸辺福雄、北条民雄、明石海人(野田勝太
郎)、玉木愛子、小川正子、山下清、高村智恵子、中村久子、大石順教、中野正剛、
丹下左膳、机龍之助、平手造酒、堀辰雄、榎本健一、村越化石、杉本キクエ、伴井
よし子、永井隆、糸賀一雄、仁木悦子、箙多鶴子(えびらたづこ)、大江光。

  などなど、実在の人物から架空の人物まではばひろく取り上げられている。
こんな人もいたのかと蒙を啓かされる。その作品にもよく目を通していて、敬服するほ
かない。障害者なら手元に置いておきたい一冊であろう。





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