★ 質疑応答


司会(広瀬)  川口先生への質問をお受けします。
          お名前と質問をどうぞ。

▼ 藤川と申します。頸髄損傷です。知覚神経と運動神経についておうかがいします。例えば右手の小指に針が刺さって、それをヒョイと曲げるという動作がありますが、感じるのが知覚神経で、脳が、痛いから動かせというのが運動神経で、それは 1 本のものだと思っていたんですが、今の先生のお話をうかがっていると、2 本あるみたいですね。そこはどうなんでしょうか。

川口先生 その通りです。運動の神経と、感覚の神経は全く別のものです。そういうお話を最初にしたかったわけです。脳や脊髄はどういうふうにして感覚や運動の情報を統合するのかということを。

  手というのは、運動器官であると同時に感覚器官であります。繊維問屋さんなどのベテランは手で布地をすっと触るだけで、これは毛が何割くらい入っているとか、これは化繊であるとか、そういったことが判るそうです。感覚神経路と運動神経路は別々の経路ですが、それがいかに統合されるかということです。微妙に指を動かさなければ、そのことを感覚できない。逆に感覚なしには精緻な指の運動は不可能なのです。

  目の見えない人が点字を触って読むというのもそうです。指を動かさずに点字を読むことはできないと思います。運動の経路と感覚の経路は全く別なんだけれども、両者を頭の中で密接に分かちがたく統合するのです。

  中枢神経というのは、脳と脊髄から成り立っています。コンピューターに例えると、中央情報処理装置になるわけです。 末梢神経というのは、それの入出力を担っている。その中には運動の経路も感覚の経路も入っている。コンピューターでいえば字を打ち出す信号を送るものもあれば、絵を読み込む信号を送るものもあります。両者は全く別のものですが、別々のものをまとめて一本のケーブルにすることができるわけです。

  末梢にはたくさんの神経線維が走っている。その中には脊髄から出て筋肉に指を動かしなさいという運動司令を伝える神経と、触っているよという感覚情報を脊髄に伝える神経が束になって走っている。末梢神経の中には、そのほとんどが運動司令を伝える運動神経や、そのほとんどが感覚情報を伝える感覚神経というものもありますが、多くは両方が混じった混合神経です。コンピューターで別々のものをまとめて一本のケーブルにするように、感覚の神経と運動の神経が一緒になって束になっているのです。束になっているけれども、あくまでもそれぞれは別々のものです。

藤井 頸髄でちぎれたとします。頸髄というのは、右手の小指を動かすとか、左足の小指を動かすとか、あるいは逆を動かすとか、そういうもの 一本、一本違うものなんですか。

川口先生 全部違います。

藤井 全部違うということは、脊髄再生といってつなぐといっても、一本、一本、上と下をつなぐというわけではないんですね。何本ぐらいあるんですか。頸髄のところで神経の束が。右手動かせ、左手動かせというの。全部合わせると何百万本とか。

川口先生 私たちが再生と言っているのは、例えばトカゲの尻尾が切れると、もう一度尻尾が生えてきますね。再生というのはそういうことなんです(図6)。切れた尻尾がつながるわけではないんです。切れた尻尾の先のほうは変性して吸収され、消滅してしまう。根元のところから新たな芽が出て、それが枝になって伸びてくる。出てきた枝は自分の進むべき経路を見出し、終止すべき場所を探し出して終止します、情報を受け渡す相手先の神経細胞にシナプス結合を作るのです。そういうことが中枢神経の中でできるわけですね。

  指を動かし、足を動かすためには運動司令が大脳皮質から頚髄や腰髄の運動神経細胞に伝えられ、その司令を受けて今度は運動神経細胞が筋肉に運動司令を出すのです。自分の意志で手足を動かすことを随意運動といい、随意運動の運動司令を大脳皮質から脊髄に降ろしてくる伝導路を錐体路というのですが、錐体路は人では約100万本の軸索でできています。ピアニストが 10本の指を独立に速くあるいはゆっくりと、強くあるいは弱く動かすためには、指一本一本についている多くの筋肉の力をそれぞれ精密にコントロールしなければなりません。そのためには、沢山の通信ケーブルが必要なのです。

藤井 経路が大切なんですね。経路を導いてやるのが再生に、研究とって重要なテーマだ ということになるわけですか。わかりました。ありがとうございました。

司会 ほかにございますか。

▼ 兵庫県の曽我部と申します。私は事故から十一年目になります。C4 の頸損で、完全麻痺です。神経が切れてしまったところは変質するとおっしゃいました。そしてその横のところから神経が伸びるとおっしゃいましたが、神経が切断されて 5 年経った人と10年経た人、あるいはもっと経った人について、新しく伸びてくる神経は、時期が短い人のほうが再生しやすいということはありますか。

  それと私の場合は首から下が全く動かないんですが、さっきのお話を聞いていて、今日は 「Stand up 21」 ということになっていて、21世紀に自分たちの足で歩こうという話なんですが、私はささやかな望みを持っていて、親指と人指し指二つでいい、なんとか動かしたいと思っているんですが、そういうことは近々可能でしょうか。

川口先生 なかなか難しいご質問なんですが、私たちが今やっておりますのは急性実験といいまして、切断して直ぐにいろいろなことをやるわけです。

  冒頭で神経細胞は細胞体、樹状突起、軸索、神経終末という4 つの部分に分かれるということをお話ししました。神経細胞をトカゲに見たてますと、細胞体が頭で軸索は尻尾になります。伝導路というのは軸索ですから、脊髄の切断というのは何万匹ものトカゲの尻尾を切って、頭がついている方の尻尾の根元から新たな尻尾を生やしてそれを元のように伸ばしてやろうという実験です。

  細胞が生きていくのに必要なタンパクなどは細胞体で合成するので、細胞体から切り離された軸索は、頭のないトカゲの尻尾と同様に死んでしまいます。切断された軸索の断端のうち、細胞体につながっている側を 「近位端」、細胞体から切り離された側を 「遠位端」といいますが、近位端あるいはその近傍から発芽が起こり、それが伸び出してきます。伸び出してきても、グリア瘢痕に阻まれて、それ以上伸びることができなければどうなるでしょうか。変性が起こり、変性は逆行性に進行していきます。

  トカゲに見たてますと、尻尾の根元から頭に向かって変性が進むのです。これを「逆行性変性」といいます。逆行性変性は動物が幼弱なほど強く起こります。場合によっては、頭まで変性が進み、吸収されて消滅してしまいます。成熟するにつれて逆行性変性は起こりにくくなります。

  ネズミは寿命が 2 年ちょっとぐらいで、それで生涯を終わる動物です。2ヶ月齢を過ぎると成熟動物ですが、成熟動物で脊髄を切断して、何ヵ月か経って見てみても、逆行性変性で細胞体が消滅しているという所見はありません。人でどうなっているかということは知りませんが、ネズミから類推すれば細胞体は生存している可能性が高いであろうと思います。細胞体が生存していれば、再び軸索を伸ばして神経結合を再構築できる可能性はあると思います。

  それから指が動くという可能性ですが、脊髄損傷の症状の主たるものは、伝導路の切断によって運動司令が切断部より下に行かない、切断部より下の感覚情報が上に行かないということです。伝導路というのは軸索の束ですが、軸索の役目というのは、最初にお話ししたように 0 か 1 という信号を伝えることで、その意味ではコンピューターのケーブルと同じです。

  それなら、電子機器でそれを置き換えることはできないかという考えがでてくるでしょう。実際、これは各国でいろいろな試みがなされております。指が動くのは動かせという運動司令が大脳皮質から頚髄に降りてきて、頚髄の運動神経細胞にその司令を伝え、運動神経細胞の軸索である末梢神経がその司令を指の筋肉に伝えることによってなされるわけですから、神経から信号を与えなくても、筋肉に電極を埋め込んで電気的に信号を与えてやれば動きます。日本では東北大学の半田康延教授のグループが、この研究を精力的に進めておられます。

  歴史的背景をお話ししましたとき、オーストラリアで開催されたシンポジウムのことを紹介しました。そのシンポジウムの会場では、デモンストレーションがあり、頸損の女の方が、顎を使ってスイッチをオン、オフして、電極の埋め込まれた手を動かすことを見せてくれました。どの筋肉にどういう信号を入れていくか、信号のパターンを工夫していけば、ある程度使えるようになる可能性は十分あると思います。

司会 ほかにご質問のある方。

小関 本人が声が出せませんので、私が代わってご質問させていただきます。うちの場合はけがで脊髄損傷状態になったなったわけではなくて、病気、もう 9 年前になるんですが、腫瘍ができてそこの部分に放射線治療をした。その副作用ということで神経が麻痺してきたという状態です。

  手足四肢麻痺状態で、呼吸器をつけているんですが、主治医の先生の説明では、脊髄が切断されたわけではなく、「やや、正常の人よりは細いかな」 「正常の人の脊髄の色を白とするならば、青色かな」という、そういう抽象的な説明しかありませんでした。なかなか理解できずに、全く切断されてないんであれば、まだ年も若いし自己回復力さえあればなんとかもとに戻るはずだという一念で、この 9 年間やってまいりましたが、 いまだに指一本動かず、さきほどの女性の思いと同じ、本当に指一本でいいから動かしたいという思いで生活しております。

  先程の先生のご説明の中で、きれいに切断された部分がきれいにひっついている、という説明を聞きますと、かえってすっぱりと切ってもらったほうがよかったのかな、なんて思ったりします。うちのような形で脊損状態になった神経というのは、先生の研究にそのまま適応するんだろうか、再生しうる神経なんだろうかという不安があって、そこのところをお聞きしたいんですが。

川口先生 私は臨床医でないものですから、「正常の人の脊髄の色を白とするならば、青色かな」 ということが脊髄のどういう病変なのかよくわかりませんが、人の脊髄損傷で脊髄がどうなっているかということを、病理学的に詳しく調べている人がオーストラリアにおります。脊髄損傷は、臨床的には、動かない感覚がないということがあれば、例えば、C4 レベルの完全切断という診断をつけますが、病理学的にみてみるとほとんどの場合、線維はつながっており、完全切断ということはないそうです。

  それでは、なぜ麻痺が起こっているかというと、脱髄が生じているからだといいます。今まで、軸索とか線維とかいう言葉をはっきり区別せずに使ってきましたが、脱髄を説明しようとすると区別しなければなりません。

  軸索というのは神経細胞の突起で信号を伝える通信ケーブルであるということは何度も申し上げました。軸索の周囲をグリア細胞の突起が幾重にも取り巻く、これを「髄鞘」(あるいはミエリン鞘)といいますが、軸索が髄鞘をもっているものを「有髄線維」、髄鞘をもたないものを「無髄線維」 といいます。軸索は髄鞘をもつことによって信号の伝送能力が飛躍的に向上します。有髄線維は一秒間に数百発のインパルスを秒速100メートルを越えるような速度で信号を送ることができますが、無髄線維はもっと少ない頻度のインパルスを秒速数10センチといった速度でしか信号を送れません。

  軸索の髄鞘がなくなることを「脱髄」 といいます。脱髄は放射線障害でも起こりますし、脊髄損傷のように打撲を加えても起こってきます。あるいは多発性硬化症とか、ゲーリック病といわれる筋萎縮性側索硬化症、神経難病といわれる疾患の多くで脱髄が起こります。

  脱髄が起こると、そこで信号がうまく伝わらなくなります。信号が伝わるのはインパルスが伝導するからですが、それは軸索の膜をナトリウムイオンやカリウムイオンが出入りすることによって起こるのです。4 アミノピリジンという薬を使ってカリウムイオンが中に入ることをブロックしてやると、伝導が回復するという研究があります。アメリカ、カナダでは何年も前から小規模な実験をやっていて、現在かなり大がかりな規模でテストを始めていると思います。

  私はあまり詳しく知りませんが、アメリカでは、大学にいた研究者がベンチャービジネスみたいな形で外へ飛び出して、そういう会社を作って、脊髄損傷の治療に向けて 4アミノピリジンのテストしていると聞いております。

  脱髄の治療にはグリア細胞を移植して裸の軸索に髄鞘を巻かせようという研究もなされており、動物実験ではある程度成功しておりますが、しかし、臨床応用の実現可能性、あと何年ぐらいで可能になるかといったことは判りません。

司会 ありがとうございました。ほかにいらっしゃいますか。

▼ 茨城県取手のイイダと申します。たいへん基本的なことをお尋ねするわけですが、事故によって仮に 5、6 の間を脊髄損傷した場合に、整形のほうで手術をしていただくわけです。それから何かの都合でそこを文字通り切断してしまうような手術もあると思います。また、その部分をなるべくそっとした状態にしておいて、5 であれば 6 以下の胸髄、腰髄を、現状のままの状態で保持するというようなこともあるかと思います。

  損傷を受けた部分以外の部分が、なんらかの形で線維性のものに変性するというお話もうかがいました。損害部所に胎仔、あるいはそれに代わるような物質を注入して再生を図る、頸髄以下仙髄までの機能回復を図るということになろうかと思うんですが、もともとある神経そのものは、すでに線維化という状態になっているわけですから、手術上ではほとんど期待ができないということで、あくまで再生というのは何か物質を加えることによって、頸髄から仙髄まで軸索を伸ばしていくという形に進められているんでしょうか。

川口先生 私がお話したのはそういうことです。さきほどのご質問とも関連しますが、神経細胞というのは、細胞体、樹状突起、軸索、神経終末という 4 つの部分があり、細胞体のところには核があって、細胞体でタンパクを作ったりいろいろなものを作って軸索輸送で神経終末まで運んでおります。神経細胞の種類によっては、軸索は非常に長く、人では 1 メートル、キリンなどでは 3 メートルくらいのものもあります。細胞体から軸索の先端の神経終末まで信号も送り、物質も送っているのです。

  先ほど神経細胞をトカゲに見立ててお話ししましたが、細胞体はトカゲの頭、軸索は尻尾に相当します。トカゲでは頭から切り離された尻尾は死んでしまいますが、頭のついている尻尾の根元から新しい尻尾が生えてくるように、新しい軸索も伸びてきます。切断部の条件が悪いと瘢痕ができてしまい、それ以上伸びない。伸びないとどうなるかというと、今度は逆に尻尾から頭の方に向かって変性が進んでいく。逆行性変性といいますが、幼若な動物では起こりやすく、変性が頭まで進んでいって頭がなくなってしまう。

  ところが成熟した動物ですと逆行性変性には抵抗性があり、切れたところから変性が進んでも、より頭に近い部分からまた新しい枝が出てくるということで、頭は健在のまま残ることが多いと思います。頭が健在であれば、再び尻尾を伸ばしてくる能力を持っていると思います。

  私達は軸索が伸びないのは軸索にその能力がないのではなく、局所的な条件、例えば局所にできた瘢痕が軸索の伸びるのを邪魔しているからだと考えており、局所に何らかの人為的操作を加えて軸索環境を改善することにより、再生に導きたいと考えているのです。先にスライドでお示ししたように、錐体路は橋・延髄の移行部で切断しても、これはトカゲに見たてれば頭に近い部分で切断したことになりますが、再生した軸索は仙髄にまで伸びていくことができるのです。

司会 ありがとうございます。もうお一方最後に。

▼ ニッタキイチと申します。私たちの身近な問題で、下肢痛がある人の治療の一つとして、アルコールを脊髄に注射して、神経ブロックする方法があると思いますが、これはブロックされる理由というのが知りたいんです。

川口先生 私は臨床医ではありませんので、実際の治療でどういうことが行われているか、やることの意義とか副作用とかいろいろなことについて、よくお答えできないのですけれど、アルコールをやれば神経は軸索であっても細胞体であっても死にます。一時的に機能を落とすためには局所麻酔薬を使いますが、アルコールを注入すれば永久に落ちるわけです。

  脊髄損傷だけでなく三叉神経痛でも神経から異常な痛みの信号が出てきて患者さんを苦しめます。その時、局所麻酔薬を注入して痛みがおさまれば、痛みの信号がブロックできたということになります。局所麻酔薬はある時間が経てば効果がなくなりますが、そこにアルコールを注入すれば持続的な効果が期待できると思います。しかし、神経を殺してしまうわけですから、副作用として別の障害が出てくる可能性はあると思います。

司会 川口先生どうもありがとうございました。皆さん、大きい拍手を。 (拍手) 日本せきずい基金を大きく増やして、ぜひ先生たちの研究を支援したいと思っております。皆様のご協力もよろしくお願いいたします。

    図6(参照)  

神経細胞における軸索切断の帰結の模式図
A: 正常な細胞
B: 軸索が切断された細胞
切断部(網かけ)より末梢側の軸索は変性
C: 中枢側の断端(近位端)に退縮球を生じて
変性退縮し始めた細胞
D: 変性が逆行性に進行し細胞体まで死滅した細胞
E: 逆行性変性が細胞体に向かって進んだあとで発芽した細胞
F: 切断端あるいはその近傍で発芽した細胞、あるいは
Eで発芽したあと伸びてきた状態
G: 軸索が再生した細胞




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