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4.調査の概要と結果

6 患者の日常生活機能と疼痛・異常知覚

  (1) 残存機能、日常生活と疼痛・異常知覚 

 本研究では、ADL(Activities of Daily Living、日常生活動作)、生活関連動作、意志交換能力、職業的動作能力などを含む、個人が生活する上での総合的な機能を日常生活機能とし、疼痛・異常知覚との関連を調べた。
 すでに述べたように、現在の残存機能(運動機能と感覚機能)と現在の痛み発生状況との間には有意な関連はなかった。すなわち、残存運動機能によってある程度決定されるADLとの間にも有意な関連はないようである。 また初期リハビリ期の痛みがリハビリの阻害要因となり、そのために現在の残存機能が左右されているかどうかについては、今回調査からは明らかに出来なかった。いずれにせよ、今回調査の回答者は全体として相対的に残存運動機能は高く、「自力で車椅子移乗可能」が71.0%、「自力で車椅子操車可能」が77.6%であった(表3)。介添えは必要な場面も多いが、自力で社会参加は可能なレベルにある者が多く、麻痺レベルによる日常生活機能への影響が決定的に大きい対象者が多く含まれるサンプルではない。痛みがどの程度ADL、日常生活機能のレベルに関与しているか調べるには都合がよい。
 現在の無痛者と現在の有痛者の日常生活を、ほぼ同じ行動パターンで比較できるよう、そしてそれぞれの事情を汲んだ設問項目を設け、選択してもらった。集計結果を整理してみたのが表11である。

表11 現在痛みのある者とない者の日常生活パターン
                    (複数回答 ( )は母数)
室内、ベッド
上での生活が
主体
あまり外出し
ないが規則的
に車椅子移乗
あまり外出し
ないが基本的
に車椅子生活
1日に1度は
努めて外に出
るようにする
積極的に社会
参加を心がけ
ている
何らかの職に
ついている

有痛者 107

9.8%
193

17.6%
317

28.9%
355

32.4%
492

44.8%
211

19.2%
(1097)

100%
無痛者 39

8.3%
70

14.9%
124

26.3%
128

27.2%
166

35.2%
109

23.1%
(471)

100%
合 計 146

9.3%
263

16.8%
441

28.1%
483

30.8%
658

41.9%
320

20.4%
(1568)

100%

 注:比較に適さない設問項目とNAは省いた。


 ◇ 現在痛みといえるものを持たないケース(疼痛発生状況回答の@+A+B)の一群の回答者と
 ◇ 現在痛みに悩まされているケース(疼痛発発生状況回答のC+D)の一群の回答者に
それぞれ基本的行動パターンを訊いたものである。有痛者と無痛者のそれぞれの行動パターンの理由には相違があることは、事例調査の聞き取りからある程度察しがつく。例えば、ベッド上の生活が主体となるケースは、無痛者では、高位頸損か自律神経過反射の厳しいケースか、排泄管理が困難(特に便失禁)なケースが多い。有痛者の場合、たとえT10損傷で残存運動能力が高くとも、痛みのため、ほとんどベッドにうずくまる生活を送るケースもある。従ってこれらの行動パターンを比較することは痛みの有無の指標としてはあまり意味がない、という限定の上で、単純に比較してみた。
 ここから明らかなことは、有痛者と無痛者の間で、日常生活機能にあまり大きな差がない、ということである。少なくとも痛みは日常生活機能の制約要因とはなっていない、とみえることである。これが、麻痺者の痛みの社会的認知を遅らせている一因となっているとも言えよう。医療関係者や周囲の人がADLや日常生活機能を重視し他覚的判断基準として使用するため、痛みを「気のせい」「精神的なもの」と見る傾向が生まれる。
 日常生活機能は、かなりの程度、個々の障害者のモチベーションに左右されるのは確かであろう。しかし、痛みを抱えるものは、モチベーションによって、多くの努力の中で一定のADLと高い日常生活機能を維持しているのである。痛みが消えたわけではない。今回調査における付記や多くの書き込み、事例調査の聞き取り作業において、「学齢期の子供を抱え、仕事を止めるわけにはいかない」、「トイレで一人怒鳴っている」、「何もしないと痛みの蟻地獄」、「痛みで口も利きたくなくなると、妻とのコミュニケーションがうまくいかなくなり余計痛くなる」、「言っても仕方がない、我慢するのみ」、「痛いということは生きている証と思い、気持ちを切替て積極的に社会参加することにしている」といった言葉が続いた。ここには、「痛みの受容」、「痛みの自己管理」のためのたゆみない努力が伺われる。
 しかし、これも残存運動能力が高いことによって可能となる側面もある。C4〜5損傷で手が不自由であっても、装具(カフ)あるいはマウススティック等自助具を用いることで自筆やパソコン操作可能なレベルであれば、痙性や自律神経過反射がひどくない限り、痛みがあっても、何らかの仕事に就いて社会的に自立しているケースが結構存在する。これもかなりの程度モチベーションに依存する。残存機能レベルが低く、厳しい痛みを抱える者のADLのレベルは格段に低下する傾向が強い。その場合、発信があっても疼痛緩和の方法を求めるSOSであり、満たされない場合は、完全にサイレントになってしまうことも多い。このような患者の実情を汲み取るには、郵送式自記式アンケートには限界がある。


  (2) 痛みのしのぎ方

 日々痛みや異常疼痛と共存せざるを得なくなった時、否応なく、「痛みを受容し」、「痛みをしのぐ」工夫をせざるを得なくなる。ある人は、自分にとって痛みを増悪させる要因やきっかけを記録に取り、出来るだけ
 それを回避する工夫をする、と電話インタビュー語っていた。基本的にそれは重要である。本調査で、痛みを発生・増加させる契機を訊いた設問で、気候(寒さ)、発熱、肉体的疲労、睡眠不足、体位や体動、痙攣と痙性の発生、便秘を挙げた人は多かった。体を冷やさないよう、脊損の発熱の主因である膀胱炎、腎盂腎炎にならないよう、風邪を引かないよう万全の注意を払うことが大切である。睡眠不足が続く時は、睡眠薬や精神安定剤を少々多めに使っても眠った方がよい。できるだけ痛みを強めない体位を選ぶ、仰臥位を長時間続けない。筋骨格性の痛み、過用性症候群や廃用性症候群による痛みは、それになって見なければ分らない面もあるが、ケースに応じて鎮痛剤を注意深く使いながら、温湿布、冷湿布、マッサージ、適切な運動療法、鍼灸などで緩和できる可能性がある。そして、マッサージ、ストレッチで痙性を管理することの有効性は、すでに22の疼痛緩和成功例で見たとおりである。これらの工夫は、同時に、痛みに対して冷静にさせる。また「痛みの自己管理」の重要な要素である。
 どのような工夫をもってしても、具体的に痛みを軽減できない場合、特にニューロパシー痛の場合、多くの人は結果として「慣れる」努力をする。人間は、慣れることも出来る生き物である。「痛みに慣れる」という回答が33%あった。その多くは、「生活に支障がない」レベルの痛みであったが、決定的治療法がないことを認め、完治を諦め、目前の痛みにのみ捉われずに広い視野で人生を考え、とりあえず、集中できることに集中する、という生き方を取っている人々である。厳しいな痛みを抱えている人も、結局そうしないと生きていけない。結果として「疼痛行動」は目立たなくなり、ADLや日常生活機能のレベルも高くなる。それ自体は当事者のQOLを高め、これも「痛みの自己管理」の重要な要素である。

 最後に、質問票の付記欄に寄せられた回答者からのメッセージを3例紹介しておきたい。
私も激しい痛みにひたすら耐えている一人です。脊損仲間に話しも「痛いのは誰も同じだ」との答えしか返って来ず、まして、健常者に話してもただ「大げさな」と言われ、「本当に痛ければ、そんな平気にしていられる筈ないじゃないか」とさえ言われます。今は、何とか痛みを工場の騒音に紛らせ、耐えていますが、近年ますます痛みが激しくなり、いつまで耐えられるか不安です。(胸髄損傷、工場勤務)
「生きているから痛いのだ、だから幸せ」と割切っている。40年前、仲間が痛みに負け、痛み止めを1日に5〜10錠飲み、かつ夜中に焼酎やウィスキーを飲んでいた。1年でその人は身体がボロボロになっているのを身近に見ていたので上記のように割切っていた。2年前、60歳の時有名な心理学の先生に上記の件を話したところ、(先生のご意見は)薬、お酒に溺れた仲間の人の頭脳の中は80%が痛みで、20%が楽しい事。私の場合は20%が痛み、楽しい事が80%を占めている。私の方が正解であったと今は納得している。(胸髄損傷、社団法人勤務)
痛みに関する表現はなかなか難かしく、ここに書かれているアンケート回答の例の様だけではすまないのが現状である。私自身は常時、色々な痛みにおそわれて過ごしているが、他の事に集中できている時間は短時間であるが、気が紛れるので、できるだけ何かに集中して気を紛らわしたくて日日時間が過ぎるのを待っている。悲しい現実です。(頸髄損傷、会社勤務)

 「疼痛行動」は目立たなくなっても、痛みが決してないわけでも治ったわけでも消えたわけでもない。依然として、患者と医療の課題なのである。



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