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4.調査の概要と結果
5 医療と脊髄損傷後の疼痛・異常知覚
(1) 急性期医療・リハビリテーションと疼痛・異常知覚
「パイロット調査」において、急性期医療やリハビリテーションのあり方が、厳しい異常疼痛の発生に何らかの関係があることを懸念させる事例も多々あったので、初期医療に関する設問を試みた。
1) 外傷性の場合
まず、外傷性損傷者に対し、受傷後、どれだけ速やかに治療が開始されたか訊いてみた。その集計結果は、次の通りである。
受傷直後…………………………… 953(67.4%) 発見が遅れた……………………… 61(4.3%) 診断が遅れた……………………… 123(9.4%) 病院をたらい回しにされた………… 175(12.4%) NA…………………………………… 92(6.5%)
受傷直後に搬入された病院でただちに治療に着手(治療方針が決まった)されたのが67.4%に留まるのは、現在に比べ、低いかもしれない。「診断の遅れ」や「病院のたらい回し」(搬入された病院に対応できる医師がいなく、かつただちに専門病院に転送されなかったケースが大半)の比率も高い。とはいえ、これらのケースと痛みの発生状況の間に統計的な有意差はなかった。ただ、診断が遅れたケースで、意識がなかったり、死亡と予断されたためにしばらく放置され、一応の診断がついて治療開始に至るまで2週間以上要したり、また、1か月以上「安静」のまま放置され、専門医が見つかってから治療開始(半年以上、1年以上の場合もあり)ということもあった。また、事故による他の傷害の治療や褥瘡治療が優先し、脊損それ自体の治療が大幅に遅れた事例もあった。
「病院のたらい回し」 のケースで、 一両日以内の転送は、受傷直後搬入病院での翌日、翌々日手術とあまり変わらないが、3か所以上の転送の場合、損傷部の安定を保持できないこともある。極端な場合は、1か月以上、3か月以上たってから専門病院へ転送というケースもあった。こうした極端なケースを個別に検討してみると、ほとんどにおいて厳しい痛みを抱えているという事実がある。
ついで、同様に外傷性1414例について、治療方法についての設問に関する回答は以下の通りであった。
@ 安静固定のみ ……………………
A 牽引・安静固定のみ………………
B 牽引・安静固定後に手術…………
C 手術後に安静固定 ………………
D 手術後に牽引・安静固定…………
E とくに治療せず……………………
F その他・不明………………………
G NA …………………………………259(18.3%)
187(13.2%)
167(11.8%)
509(36.0%)
60 (4.2%)
107 (7.6%)
39 (2.8%)
86 (6.1%)
すなわち、保存療法が@+A+E=39.1%、結局手術したケースがB+C+D=52.0%、であった。
これらの治療方法の相違と痛みの発生状況の間に統計的な有意差はなかった。個別事例で見た場合、手術では脊椎の矯正が十分できないために、手術後さらに牽引を行ったケースに痛みの発生比率が高いようである。
また、外傷性脊髄損傷の場合、外傷後脊髄空洞症が痛み増悪の一因になることがあるが、空洞症診断の経験の有無について訊いたところ、診断経験ありが4.8%、診断経験なしが70.0%であった。医療サイドも、患者サイドも、外傷性脊髄空洞症に対する関心は薄い。
2) 非外傷性損傷の場合、
本来、診断がむずかしいとされているが、診断がつくまでの期間、治療が開始されるまでの期間の相違と痛みの発生状況との間に統計的に有意差はなかった。ただサンプル数は少ないが、正しい診断が行われる前に誤った診断のもとに誤った治療が行われたケースでは、有意に痛みの発生率が高かった。
3) インフォームド・コンセント
(医師から治療の中味について、十分な説明が行われ患者の納得を得ること)
以上の治療法に関する医師からの説明に関しては、以下のような結果がえられている(グラフ14、1659名)。
本人、家族ともに説明を受けている…
家族にのみ説明あり…………………
本人、家族にもあまり説明なし………
覚えていない…………………………
NA ……………………………………869(52.4%)
437(26.3%)
117(7.1%)
199(12.0%)
37(2.2%)
【グラフ14】 脊髄損傷医療に関する医師からの説明
(N=1,659)
本人に説明があったのは52.4%に留まる。「覚えていない」を記憶に留まるほどの説明ではなかった、と考えれば、19%がほとんど説明を受けていないことになる。
説明を受けた者(本人、家族ともおよび家族のみ)
1306名に説明内容の理解度を訊いたところ、回答は以下の通りであった。
理解できたと思う …………………
まあ理解できたと思う ……………
普通 ………………………………
あまり理解できたと思わない ……
理解できなかった …………………
NA …………………………………333(25.5%)
291(22.3%)
304(23.3%)
136(10.4%)
95 (7.3%)
147(11.3%)
「まあ理解できたと思う」も含め、ともかくも理解できたと自覚しているのは、47.8%に留まる。
さらに、説明に満足できたかどうかの問いに対しては、「満足している」と「まあ満足している」を合わせて28.9%ときわめて低い満足度でしかない。損傷や疾患の状態についての理解も不十分なままであるのも理解できる。
本アンケートの損傷部位などに関する質問に不正確な回答や無回答が多かったのは、この著しいインフォームド・コンセントの不十分さを反映するものと思われる。インフォームド・コンセントの不十分さは、今回調査の回答者の多くが治療を受けたのが1980年代以前という時代背景(未だ医療におけるパターナリズムが主流であった)と、それ以上に救急脊損医療におけるインフォームド・コンセントのむずかしさを物語るものであろう。このむずかしさは、今日でも変わっていない。
インフォームド・コンセントの不十分さが、今回調査の回答に読み取れる医療不信の背景にあると思われるが、痛みの発生状況との関連は不明である。ただ、医療不信は、後述のように、痛みと向き合っていくうえで複雑な心理的影響を与えていると思われる。
ただ、医療不信とインフォームド・コンセントの不十分さの関係は単純ではない。患者が了解したとしてもあいまいな了解(十分理解していない)の時は、治療結果が悪い場合、患者には医師の説明不足感が強く残る。医師の説明責任には結果責任も問われるかもしれない。
4) 痛み発生の可能性の説明について
前述のように、脊髄損傷後に75%という高い比率での疼痛発生をみている。それが、医療の現場でどのように伝えられているか調べた。脊髄損傷によって、痛みや異常知覚が出てくる可能性について医師から説明があったかどうかの問いに対し、全回答者1659名のうち、明確にあったと答えたのは、28.1%に過ぎない。「なかった」という答えは51.9%で過半を占める。これは、上記のインフォームド・コンセントの不十分さとともに、医療の現場では、脊髄損傷後の痛みについては、あまり問題意識がないか、医療的課題とはみなしていない、ということを示唆している(グラフ15)。
【グラフ15】 異常知覚や痛みが出てくる可能性について
の医師からの説明 (N=1,659)
痛みの可能性について説明を受けた466名に対して、いつその説明を受けたかを訊いたところ、受傷後入院中が70.8%、リハビリテーション病院に転院後が17.2%であった。おそらく、脊損患者を多く受け入れ、疼痛発生を経験している医療機関に入院した患者群と思われる。そのような医療機関での受療経験のない患者は、痛みの問題を訴えても、あまり相手にしてもらえない可能性が高い。痛みの発生を理解している医療機関も、具体的な適切な対応手段を持たないことも多い。
5) リハビリテーションとの関連
受傷後初期リハビリがどのようなものであったか、という観点から設問した。
ベッド上での理学療法士によるリハビリの経験の有無については、77.7%が「あり」と答えており、重篤な褥瘡などの合併症がない限り、ほとんどがベッド上にあっても他動的なストレッチや関節運動のリハビリを行っている。しかし、ベッドから離れてのリハビリ開始時期に関しては、1〜2週間以内が11%に留まり、1か月後でも37.2%である。3か月後開始が28.4%、半年後開始が18.4%もある。遅れた理由の主たるものは、褥瘡治療の優先とリハビリ専門病院のベッドの空き待ちである。ベッド上での早期リハビリの有無や離床リハビリ時期に関して、痛みの発生状況との間に有意な関連ははない。
脊髄損傷に対して適合的なリハビリプログラムを持つとされる脊髄損傷専門リハビリテーション施設でのリハビリ治療経験の有無についても訊いた。67.9%が「あり」と回答している。「なし」が25.1%である(グラフ16)。
【グラフ16】 脊髄損傷専門のリハビリテーション施設
のリハビリ治療経験 (N=1,659)
この点に関しても、痛みの発生状況との間に有意な関連はない。回答者の大半の者が、専門施設でのリハビリを行っているが、受傷直後から脊損専門病院に搬入されたケースを除き、大半が、ベッドから離れてのリハビリが可能となってからの転院なので、本来のメリットが生かされているとは限らない。
【グラフ17】 脊髄損傷による痛みのコントロール
方法に関するリハビリ治療経験
さらに、痛みと痙性のコントロールに関するリハビリ治療を受けた経験があるかどうか訊いてみた。
痛みに関しては、「ある」が7.5%、「なし」が66.1%、「忘失・不明」が5.3%、「NA」が21.2%である(グラフ17)。痙性に関しては、「ある」が8.2%、「なし」が58.2%、「忘失・不明」が9.2%、「NA」が24.4%であった。「NA」が多いのは、設問内容があまり理解できなかったためと思われる(グラフ18)。
この結果は、痛みや痙性のコントロールが、初期リハビリの課題となっていないことを物語る。「ある」という回答も、その内容は結局薬の服用に頼っている。しかも、これらの「ある」という回答において、痛み発生率がむしろ高まる傾向にあり、数少ないケースが疼痛抑制に何の役にも立っていないのが現状である。
【グラフ18】 痙性のコントロール方法に関するリハビリ治療経験
(N=1,659)
以上の結果は、少なくとも今回調査協力者において、急性期医療やリハビリテーションの諸要素が、脊髄損傷固有の疼痛発生とは何ら関連がない、ということを示している。それは、痛みとは、本来そのようなものなのか、あるいは、現行の医療やリハビリが痛みの発生に関して適切な配慮がなく対処能力がないということなのか、どちらかであるということになるが、当事者の回答は、後者の可能性が高いことを示唆している。
(2) 疼痛緩和治療
疼痛緩和治療の実情について、医療サイド、患者サイドから検討してみた。
1) 痛みに関する医療サイド、患者サイドの対応、受療行動
前項でみたとおり、脊損医療の急性期、リハビリテーションにおいて、痛みへの対応のシステムがないことは容易に指摘できる。痛みを抱えて慢性期在宅生活に移行した患者は、個別に痛みへの対処に取り組まなければならなくなる。その実情を、痛みを持つ患者の受療行動の側面から検討してみた。
まず、損傷後有痛者に、疼痛緩和治療を受けた経験があるかどうかを訊いてみた。結果は、「経験あり」が615(49.2%)、「経験なし」が551(44.1%)、「NA」が84(6.7%)であった(グラフ19)。「NA」は、疼痛緩和治療と言えるほどのものを受けた経験がないか、民間薬や代替治療薬を独自に試したケースが多く含まれる。
【グラフ19】 疼痛緩和治療を受けた経験の有無
(N=1,250)
痛みを持つ当事者の中で実際に疼痛緩和を求めて医療機関の戸を叩いたというケースは50%弱に留まる。残りの半分は、痛みに関しては、医療機関に対してサイレント(黙して語らず、医療機関に認知されない)な患者群である。サイレント率が44〜50%ということになろう。予想された以上にサイレント率は高い。
医療機関に対してサイレントである、ということは、それだけ医療的課題とみなされないということになる。あるいは、医療的課題としての取り組みのランキングが低くなる。極端にいえば、そのような医学的症状はない、とみなされる傾向がある(「気のせい」扱いや一部の詐病扱いもこれに含まれよう)。
このサイレント率の高さの背景を患者の受療経験と心理的要因から検討するため、以下の項目から複数選択で質問してみた。選択項目は、必ずしも一定の基準はなく、意味するところが重複するものも含まれる。パイロット調査や事例調査での患者の訴えをもとに作成した。訴えのニュアンスの相違も考慮し、長文の選択肢となった。集計結果は以下のようになる。
@ 当初から医療機関や各種治療機関でさまざまな治療を試みた …200(16.0%) A 医師に訴えても“痛みやしびれは仕方がない”と言われ、諦めつつも苦しんでいる …713(57.0%) B 当初、医師から“痛みやしびれは仕方がなく、諦めて共存するほかない”と言われたので治療できるとは思わず諦めていたが、在宅移行後、治療してくれる医療機機関を探し歩いた …205(16.4%) C 急性期段階でさまざまな鎮痛剤を試したが、 効果なく、「気のせい」「心因性」と言われ、どうしてよいか分らなかった。納得できないが我慢するほかなかった …219(17.5%) D 「脊損仲間」でも、痛みは「気のせい」「精神的なもの」とされる傾向が強く、痛みに関するコュニケーションが不足している。痛いのは自分だけかと思い、対処できず。情報が欲しい …213(17.0%) E 信頼できる医療機関や医師を知らなかったので、治療を受けようとは思わなかった …199(15.9%) F 医療や薬剤に頼るよりも生活の中で痛みをしのぐ工夫を試みた …436(34.9%) G NA…………………………………… …115(9.2%)
NAや付記には、日本の文化的土壌には痛みを語らないことが美徳とされる面もあり、家族や友人にも訴え難い、という意見もあった。
サイレントな患者群は、A、C、D、E、Fである。いずれも初期の段階で医師から“痛みやしびれは仕方がない”、“諦めろ”、“気のせい、精神的なもの、心因性”と言われ相手にされていない。AとCは消極的な諦め、我慢、Fは積極的な諦め、我慢のパターンである。Dはこのアンケート調査で「痛い」のは自分だけではないことを知ったケースもある。E、Fは治療による副作用などのリスクを冒すよりも我慢を選ぶことのできる「余裕派」であろう。一方、@は痛みが発症した初期から医師から言われるままに治療法を試し続ける者、Bはほぼ自己判断で治療法を試し続ける者で、いわばドクターショッピングのパターンが多い。
全体としてサイレント率が高い一方で、副作用や後遺症を省みずあらゆる種類の治療法を試そうとする一群がある。事実個々のデータに立ち返ると、自分の痛みの症状の特色やタイプ、治療効果にかかわりなく、一人で16〜20剤もの薬剤を試し、そのうち効果が不明であるにもかかわらず大部分を今も服用し続けているケース、アルコールブロック、電極埋め込みから、脊髄切断などの破壊的治療法まで、多くの治療法へ無原則的に挑戦を続けるケースなどに出会う。医療をまったく信用しない者と、過剰に医療に依存する者との二極分解が見られる。
ついで、これらの患者が痛みに関する情報をどのようにして得ているか訊いた(グラフ20)。友人・知人からが485(38.8%)で最も多く、障害者団体からが448(35.8%)、主治医からは402(32.2%)で3位である。新聞、テレビ、健康雑誌、インターネットなどメディアに頼る例が232(18.5%)あり、「事例調査」での聞き取りでは、メディア情報の場合、すぐ行動に移すケースが多い。しかもメディア情報ですぐ行動に移すケースは、ほとんどが厳しい痛みで生活に支障を来たしている。まったく情報を得る手段を持たないケースも12.5%存在する。主治医が説明しているケースは3割強に留まり、あとは言わば「口コミ」で、ということになる。
【グラフ20】 痛み・異常知覚に関する情報の入手方法
(N=1,250、複数回答)
この結果も、医療サイドが、「痛み」について患者にあまり説明していない、あるいは重要な医療的課題とは見なしていない、あるいは対処能力を欠いている、ということを示唆しているのではないだろうか。
実際、疼痛緩和治療について医師の説明を受けた当事者は26.7%に過ぎない(グラフ21)。
【グラフ21】 疼痛緩和治療についての医師の説明
(N=1,250)
2) 試みられた治療法の効果と教訓
本来、この調査の目的の一つは、多くの痛みを持つ当事者の経験から、有効であった疼痛緩和治療法の情報を整理し、経験者のスクリーニングを経た有益な疼痛緩和治療法の情報を当事者に提供していくことにもあった。しかし、上記のように、わが国の医療には、この種の痛みを医療的課題として対処していく体制は未だない。また、患者の受療率も当初期待したほど治療法評価を行い得るレベルではなかった。今回調査で、損傷後の痛みの状況に関する設問で、「疼痛緩和治療に成功し、現在痛みはあまりない」と回答したのは、わずか22例に過ぎない。
まずこの22例を、個々のデータに立ち返って、どのような損傷事例で、どのような治療法が「成功」をもたらしたのか、検討してみた。それをまとめたのが表10である。
22例のうち、4例は治療法に関しては無記入であり、データはない。おそらく、何らかの治療をして、現在気になるほどの痛みはないが、治療法や服用薬剤名の記憶がない、ということなのだと思われる。一覧して、大半の痛みのタイプはあまり重篤ではなく、行われた治療法も特別なものではない。むしろごく一部を除いて慎重で、保守的である。
例1は、骨傷なしの脊損の、持続痛ではない身体の各部位に時々現れる異常知覚痛は、侵害受容性の筋骨格性疼痛と自律神経も関与するCRPS(複合的局所疼痛症候群−前述)が並存したものと想定される。そのような場合、通常の鎮痛剤(非ステロイド系消炎鎮痛剤)を試し、星状神経節ブロックやカーマイン、カルボカイン等の麻酔薬の脊髄硬膜外注射を試すことがよく行われる。このケースではそれでコントロールできたものと思われる。例5は、T12〜L1損傷の厳しい下肢痛を脊髄後角(DREZ)焼灼で完全に除痛できた数少ない例である(補論の事例集で紹介)。例9は、T7損傷の持続的下肢痛を硬膜外麻酔薬ブロック(おそらく複数回)で緩和し、温湿布でコントロールできているものであろう。例12は、T3,4損傷に発生した脊髄空洞症による異常知覚痛をLPシャント術(腹部脊髄くも膜下腔から腹腔へシリコンチューブのシャントを通し空洞に溜まった髄液を抜く)で緩和できたケースである。そのほか、大半は厳しい持続性のニューロパシー痛というわけではなく、痙性や痙攣に伴うもの、筋骨格性疼痛(侵害受容性)、刺激などによって誘発されるタイプのようである。痙性はストレッチやマッサージで緩和されることが多く、筋骨格性の痛みは非ステロイド系鎮痛剤や温湿布が有効な場合が多い。ここに挙げられた多くが、ストレッチ、マッサージ、温湿布、セデス、ロキソニン、ボルタレン、バッファリンでコントロールできているようである。一部ニューロパシー痛にレーザー治療と脊髄神経ブロック、末梢神経ブロックがそれぞれ1例、有効であったようである。
表10 治療によって疼痛緩和に成功した22例
No 性別 年齢 損傷部位 運動麻痺
レベル痙性・痙攣
の有無痛みのタイプ
効果があった
治療法や服薬1 女 30
代骨傷
なし自力車椅子
移乗・操作可能痙性・痙攣
ともに無損傷部位以下、自律神
経過反射、時々ジーンセデス、ロキソニン、ボル
タレン、硬膜外麻酔薬、
星状神経ブロック2 男 40
代C5,6 自力車椅子
移乗、体交可能、
装具で自筆・
パソコンどちらも
強いが、
痙性が強ほぼ全身に自然発火の
ような、ジンジン、ビーン、
走る痛みが時々発生ストレッチ、レーザー
治療3 男 70
代C4 自力車椅子
移乗・操作・
挙手可能痙性・痙攣
ともに強損傷部位より上、筋肉
痛、しびれ感ありセデス、バッファリン 4 女 20
代C1,2
,4,6四肢麻痺
人工呼吸器どちらも
あるが弱いほぼ全身、筋肉痛的、
神経障害性、過反射、
誘発性アイシング、マッサージ
痛み止め坐薬、注射
心療内科5 男 60
代T12
〜L1下半身麻痺 痙性・痙攣
ともに無大腿部電撃痛、走る
痛み、足が剣山上脊髄後角焼灼(DREZ破
壊)(ほぼ完璧な疼痛緩
和を得る)6 男 40
代C4 四肢麻痺 痙性・痙攣
ともに強損傷部位以下、神経障
害性ジンジン、ビーン
が常時マッサージ、ストレッチ
灸7 男 40
代C2,3 四肢麻痺
人工呼吸どちらも
あるが弱ほぼ全身、筋肉痛的、神
経障害性、過反射、誘発
性、常時コンクリの上、
氷漬けセデス、ボルタレン、
脊髄神経ブロック8 女 50
代C2 立位、自力車
椅子移乗・操
作可能不明 筋肉痛的痛み、部位によ
り強弱あり、誘発性、
ジーンマッサージ、バッファリン 9 男 60
代T7 下半身麻痺 どちらもあ
るが弱い損傷部位以下、神経障害
性、眠っているとき以外温湿布、
硬膜外神経ブロック10 男 30
代T5 下半身麻痺 どちらも
あるが弱損傷部位以下、自然発火
のような、ジーン、
誘発性記載なし 11 男 70
代T12 下半身麻痺 痙性・痙攣
ともに無損傷部位より上、筋肉痛
的、突発的にジーン記載なし 12 男 60
代T3,4 下半身麻痺 どちらも
あるが弱
損傷部位以下、神経障
害性、常時、誘発性、
しびれ、ジーン、氷漬け温湿布、マッサージLP
シャント術(冷感とし
びれ感が大幅改善)13 女 40
代T11,12 立位可、歩く
のは 不可
他すべて可どちらも
あるが弱損傷部位と同レベル、
常時ジーンマッサージ、ボルタレ
気功14 男 60
代L1 下半身麻痺 どちらも
あるが弱損傷部位より下位、刺
激で触発痛、突発的、
ジーンストレッチ 15 男 60
代L2,3 下半身麻痺 ともに無 記載なし 記載なし 16 男 70
代T7 下半身麻痺 ともに強 記載なし 記載なし 17 男 50
代L1 下半身麻痺 ともに強い
が痙攣の方
が強損傷部位より下位、常
時、触発痛、ジンジン、
アイスピックセデス 18 男 40
代C6 自力車椅子
移乗・ 操作可
能、挙手ともに強 損傷部位より下位、筋
肉痛的、突発的に起き
る、ジンジン温湿布、マッサージ灸、
セデス(副作用あり)、
バッファリン、漢方薬19 女 50
代T8 下半身麻痺 ともに強 損傷部位より上、突発
的、筋肉痛的、ビーン、
走るような痛みマッサージ、ボルタレン 20 男 60
代C4,5 四肢麻痺 どちらも
あるが弱麻痺域全身、刺激で起
きる触発痛、走るよう
な痛み末梢神経ブロック 21 男 30
代C7 自力車椅子移
乗・操車可能・
握ること、体位
交換可能ともに強
いが痙攣
の方が強筋肉痛的、何か
の刺激による触発痛、
アイスピックで突か
れるようなマッサージ、セデス 22 女 40
代T8 下半身麻痺 どちらも、
あるが弱自然発火のような痛み、
刺激により、突発的に、
ビーン、 アイスピックマッサージ、ストレッチ、
ロキソニン
ここに記された治療法は、侵襲性の低いものから取り組むという、治療法選択の原則に則っており、賭けと決断を要するDREZ焼灼と、原因と目的が明白なLPシャント術を除いて、ほとんどがストレッチ、マッサージ、温湿布、通常の鎮痛剤の組み合わせでコントロール可能なレベルの痛みであった、ということもできよう。持続性の厳しいニューロパシー痛の場合はなかなか容易ではない。逆に、上記のようなタイプの痛みであれば、治療手段の組み合わせによって、他にも疼痛緩和が可能な場合もあり得る。
以上のような、明確に全体的な疼痛緩和治療に成功した、と自覚しているケースの他にも、個々の治療手段には、短期的であれ、疼痛緩和に有効であると判断されるものがある。前項で述べたように、今回調査では、何らかの疼痛緩和治療法を試した回答者は615名であった。これらの回答者に、試した治療法や薬剤の効果と副作用・合併症・後遺症について訊いた。選択肢として、事例調査で多く挙げられた治療方法や薬剤を選び、その効果や副作用についても答えてもらうようにした。
まず、在宅で対処しやすい、マッサージ、ストレッチ、温湿布、アイシングを試している人は多い。マッサージは47.6%、温湿布は47.8%、ストレッチは29.3%、アイシングは15.6%が試しており、そのうち半数以上は効果を得られていないものの、マッサージで39.9%、温湿布で42.2%、ストレッチで38.3%に疼痛痛緩和を見ている。有効度は高いといえる。筋骨格性疼痛や痙性・痙攣には試すべき手法である。22例に見られるように、適合した痛みのタイプの場合は、これらの手法を組み合わせることで、疼痛緩和を得られる可能性は十分ある。痛みが増悪したケースが10%前後見られるが、接触や温度に過敏反応を持つケースや不適切な他動的運動によると思われる。
ついで、通常の鎮痛剤がどのように使われているかを見た。セデス、ボルタレン、ロキソニン、バッファリンがトップ4である。それぞれを、疼痛治療を行った者の29%、31%、24%、16%が試み、それぞれ使用者の50%、45%、40%、29%が疼痛緩和を得ている。これらは、一般にニューロパシー痛には効かない。筋肉痛など侵害受容性痛みには効く。また消化器系を傷害する副作用を持ち、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など重度になる場合もある。効かない場合は使用を中止し、効く場合も常用せず、自分の痛みのタイプを睨みながら、副作用に注意しつつの利用となる。その他に付記されたこの類の薬としてインドメタシン(インダシン)、モビラート、モービック、ハイペンが挙げられていた。
モルヒネについては、多くの脊損者で抵抗感が強いものの、医師によって推奨するケースが出てきているので、どの程度使用されているか訊いた。39例に留まるが、18例において一定の除痛をえているが11例において副作用・合併症報告(主としてコントロール不能なほどのひどい便秘)がある。
鎮痛剤が効かない場合の第二選択肢として、抗痙攣剤、抗欝剤、精神安定剤などの鎮痛補助剤や麻薬拮抗性鎮痛薬剤が使用されるが、その他の項目にどのような薬剤を使用しているか、記入してもらった。これらは、薬の本来の目的以外に、鎮痛作用もあると見られている薬剤である。痛みの発症や抑制にも関連する神経伝達物質、ナトリウム、セロトニン、ギャバ、オピオイドなどの調整に関与するためと考えられている。その他の項目への記入は137事例(22.3%)で、抗痙攣剤(テグレトールなど)、抗欝剤(トフラニールなど)、精神安定剤(セルシン、デパスなど)、抗痙縮剤(ギャバロン、ダントリウムなど)、麻薬拮抗性鎮痛薬剤(ソセゴン=ペンタジン、レペタン、フェニタネストなど)が個別の経験に基づいて記入されていたが、記入数は統計を取れるほどのものではなかった。
この中で、鎮痛と言う点から効果があったと報告されているのは、テグレトール7、リボトリール3、トフラニール1、トリプタノール2、セルシン(=ホリゾン)6、デパス2、ギャバロン2、ソセゴン(=ペンタジン)5、レペタン3例である。同時に副作用がテグレトール3、リボトリール1、トリプタノール3、セルシン2、ルボックス3、パキシル1例が報告されている。これらの一般的な「痛み止め」以外の薬剤については、全体としてあまり情報を持たないという感じであり、ごく一部の人のみが果敢に挑戦している、という傾向が見て取れる。
薬剤投与以外の鎮痛手段については、まず、副作用があまりなく、決断の勇気もあまり必要とされない中医学的治療法の鍼灸、気功、漢方薬を試す傾向が強い。鍼灸が79例、気功が36例、漢方薬が69例受療している。鍼灸では24例(30%)が痛みの緩和を得ているが、気功は5例(14%)、漢方薬は14例(20%)に過ぎない。鍼灸と漢方薬でそれぞれ3例の痛みの増加をみている。
神経ブロックについては、以下のような結果となっている。@フェノール・アルコールによる脊髄ブロックは、受療40例、効果あり6、痛み増加5、副作用・後遺症あり3、A末梢神経ブロックは、受療27例、効果あり4、痛み増加4、副作用・後遺症あり3、B星状神経節ブロックは、受療42例、効果あり7、副作用・後遺症あり4である。これらは、医師が勧めるケースが多い半面、効果あり、の事例が少なく、逆効果や副作用・後遺症も、効果ありと同程度存在する。より立ち入ったケーススタディが必要と思われる。
電気刺激法に関しては、以下のような結果となっている。@TENS(経皮的電気刺激)は、受療77例、効果あり6、痛み増加4、副作用あり2、A脊髄硬膜外電極埋め込みは、受療例23、効果あり3、痛み増加3、副作用・後遺症あり2、B脳電気刺激は、受療例5、効果あり1、副作用・後遺症としては効果の有無にかかわらずたいていの場合記憶が飛ぶ。ここでも、神経ブロックと同様な指摘ができると思われる。
破壊的で、侵襲的な治療法である@脊髄後角焼灼、A脊髄切断についても、それぞれ9例、15例の受療例があった。@で効果があったのは3例、痛み増加が3例、Aで効果ありは1例、痛み増加は3例である。症例は少ないが、逆効果が効果と拮抗し、または上回っている。治療成績はよいとは言えない。賭けのような治療方法だけに、十分なケーススタディが必要であると思われる。
心療内科と精神科は、最近ペインクリニックの看板を掲げ、抗欝剤、精神安定剤、向精神薬を用いた治療を行うようになってきている。それぞれ23例、21例の受療経験があり、それぞれ6例、8例の効果ありの記載があった。多くは、従来の鎮痛補助剤としての抗欝剤の使い方より一歩踏み込んだパキシルなどの強い抗欝剤を各種組み合わせての治療と思われる。これらも、まだケーススタディが必要な段階であろう。ニューロパシー痛に対する治験的ケタミン使用、痙性に対するバクロフェンの髄腔内投与治験は、まだ一般化し得る結果は出ているとは言いがたい。今回調査でこれらに果敢に挑戦する人もいたがきわめて少数である。ケタミンには21例の受療例があり、効果を得ているのは5例、バクロフェンでは受療例自体が3例しかなく効果ありの例はない。
今回調査への参加者は受療率が5割を切るだけあって、疼痛緩和治療法については概して慎重であり、保守的であると言えるかもしれない。あるいは、不信感があるという面も否定できない。しかし、一方、保守的な姿勢のなかで、従来からの「ありきたりの方法」が十分効果があった事例も報告されている。これらを痛みのタイプと突き合わせながら再検討する余地も十分あることも示唆されている、と言えないだろうか。