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3.対象と方法

4 疼痛・異常知覚発現のタイプ

  (1) 疼痛・異常知覚の発生部位と疼痛のタイプ
 疼痛の発生部位と疼痛の種類によって、脊髄損傷に伴う疼痛はいくつかのタイプに分類される。損傷後有痛者1250名について、どのような痛みが発生しているのか訊いた。

1) 損傷・病変部位と疼痛の発生
 脊髄の損傷・病変部位による損傷高位(以下、損傷部位)との関連での痛みの発生状況を、以下の五つのカテゴリーで複数選択してもらった。以下に、その集計結果とともに記す(グラフ12)。
@ 損傷部位より上…………………………… 49(3.9%)
A 損傷部位と同レベルもしくは近傍………… 253(20.2%)
B 損傷部位より下位レベル ………………… 885(70.8%)
C 上記の部位によって痛みに強弱がある … 180(14.4%)
D ほぼ全身に強い異常知覚痛がある……… 97(7.8%)
E その他 …………………………………… 90(7.2%)

 疼痛発生部位を訊く設問に強弱を訊く設問が混在しているが、「パイロット調査」、「事例調査」で言及がかなりあったので加えた。


【グラフ12】 損傷後有痛者の痛み・異常知覚のある身体部位
                (N=1,250、複数回答)



表 6 痛みのある部位と損傷後の痛みの状況 
                     (複数回答)
. 損傷部位
より上
損傷部位と
同じレベル
損傷部位よ
り下位レベル
部位により
痛みに強弱
ほぼ全身に
強い異常知覚
NA
合 計
以前からほ
とんどない
0 0 0 0 0 0 0
自然に軽減し、
ほとんどない
10

7.6%
39

29.8%
71

54.2%
8

6.1%
2

1.5%
20

15.3%
150

(131)
除痛、疼痛緩
和に成功
3

13.6%
1

4.5%
10

45.5%
3

13.6%
4

18.2%
3

13.6%
24

(22)
厳しい痛みで
生活に支障
18

4.2%0
87

20.1%
297

68.8%
65

15.0%
55

12.7%
30

6.9%
552

(432)
生活に大きな
支障はない
18

2.7%
126

18.9%
507

76.2%
104

15.6%
36

5.4%
37

5.6%
828

(665)
損傷後有痛者
合 計
49

3.9%
253

20.2%
885

70.8%
180

14.4%
97

7.8%
90

7.2%
1,554

(1,250)

カイ2乗検定 有意差あり(P<0.0001)


 損傷部位を基準にどのレベルに発生している痛みか、という観点からみた痛みのタイプと、痛みの発生状況の間には、関連性が認められた(表6)。
 「生活に支障を来たしている」ケースも、「生活に大きな支障はないが痛みに悩む」ケースも、損傷部位より下位レベルの痛みの割合が大変大きい。多くのケースにおいて、同レベルの痛みを併発している。
 「損傷部位より上の痛み」は、頸髄損傷の場合、肩、首、後頭部の強い異常知覚、痛み、頭痛、自律神経過反射による頭痛、強い痙性が起きたときの頭頂部から爪先まで突き抜けるような、走る痛み、などが主な訴えである。胸髄以下の損傷の場合、日常生活や運動で酷使する上半身における筋肉痛や関節痛を訴えるケースが多い。
 その痛みが慢性化することも多い。いわゆる過用性症候群と言われるタイプである。
 「損傷部位と同レベル、近傍の痛み」では、頸髄損傷、胸髄損傷ともに多いのは、麻痺境界領域における締め上げられるような、押しつぶされるような痛みである。鎖骨下、脇の下、胸部を巻くように締め上げられるような痛み、胸腰部隣接部のコルセットで締め上げられるような痛みである。麻痺境界領域の知覚・過敏が知られており、そのほかに、とくに頸髄損傷で、近傍、若干上位で、固定した姿勢や筋肉を使用できないことからくる廃用性筋萎縮に伴う痛みがある。また頸髄不全麻痺のケースでは、頸神経の影響下にある上腕部について、脇腹から上腕にかけての切り裂かれるような痛み、上腕部のしびれの極致、手のひらが常時針で突かれる痛みといった訴えも多々ある。
 「損傷部位より下位レベルの痛み」では、頸髄、胸腰髄とも、下肢痛が最たるものである。腰の側線から爪先まで大腿部付け根から爪先まで、ひざ周り、ひざ下から爪先まで、足の裏が剣山を踏みつけているかの如き、といったように、多様なタイプがある。
 下肢痛のほか、とくに注目されるのは、胸髄以下の損傷者にみられる肛門周り、会陰部の押しつぶされるような、締め上げられるような、突かれるような痛みである。足の裏や肛門周りの厳しい異常知覚痛は、局在的とはいえ、当事者の一切の行動を奪うことがある。
 全身性の異常知覚痛は、不全頸髄損傷や骨傷のない頸髄損傷者に多く見られる。首から肩、上肢、脇腹、大腿部内側、ひざ周りなどに通常の知覚と混在させながら異常知覚を抱えているケースである。また、前述のように、頸損で強い痙性を持つ場合、それが発現した時、頭頂部から爪先まで走るような痛みがくることがある。健常者のマラソンや水泳の最中に「足が吊った」時くる痛みを想像してもらえばよい。それが全身を走り抜け、長く続くと息が止まりそうになる。
 「部位によって痛みに強弱がある」というケースは、例えば、麻痺境界の痛みと下肢痛があるが、麻痺境界部位の痛みの方が強い、あるいはその逆といった場合である。また、下肢はしびれの極致、さらに足の裏に刺されるような痛みが加わる、足の裏が最も痛い、という場合もある。全身的に痛みがあるが、とりわけ上腕にかけての切り裂かれるような痛みが厳しい、という事例もある。こうした強弱が日々変わることもある。
 このように、痛みが現れる身体部位はさまざまであるが、損傷部位と同レベル、損傷部位より下位レベル、とくに下位レベルに現れる痛みは、明らかに麻痺している身体部位に現れる痛みである。そのため、理解を得られないことが多い。「麻痺しているから痛くないはず。気のせいだろう」と言う医療関係者や脊損当事者もいる。
 しかし、上記のように、本調査の脊損の有痛者のうち、70%以上もの当事者が麻痺領域に痛みを訴えているのである。逆に、麻痺レベルの低い、より動ける者が痛みを訴えると、それも「気のせい」とされる傾向がある。「そんなに動けるのだから痛いはずはない」というわけである。痛みに関するこの両極の詐病扱いは無理解の両極である。脊髄損傷に伴うさまざまな痛みのタイプについての研究は、本格的に取り組まれるようになってまだ日が浅い、と言うべきかも知れない。


2) 疼痛のタイプ
 脊髄の損傷部位との関連で、痛みの現れ方からみても、痛みには、いくつかのタイプがあると考えられている。痛みのタイプを、その要因から以下の設問で訊いてみた(複数回答)。その集計結果とともに記す(グラフ13)。
@ 筋肉痛的、関節痛的痛み
(痙性や痙攣に伴う痛みも含む) …………

508(40.6%)
A 神経が傷害され、自然発火でもしている
ような、またしびれ痛のような異常な痛み…

672(53.8%)
B 本来は痛みを呼ばない刺激
(接触、風、振動、音等)で発生する
異常疼痛や異常知覚………………………


320(25.6%)
C 自律神経過反射に伴う痛み ……………… 233(18.6%)
D NA…………………………………………… 95(7.6%)


【グラフ13】 損傷後有痛者の痛み・異常知覚のタイプ
                 (N=1,250 複数回答


 筋肉痛的、関節痛的痛みは文字通り筋肉や腱、骨、関節に関する痛みである。麻痺のない部分や通常の知覚がある程度残っている部位に強く現れる。首、肩、腕、手、腰などに主に生じる。酷使、不自然な姿勢、固定した姿勢、けがなどが主な原因である。主に対麻痺で車椅子を多用する本調査の回答者は、この種の痛みを発症する可能性が高い。
 また、頸髄損傷で同じ姿勢でいることが多く、とくに仰臥の時間帯が長いケースに、首、肩、背中(肩甲骨周辺)に廃用性筋萎縮によると思われる痛みが発生することがある。筋肉の痙縮や痙攣は痛みを伴うことが多い。今回調査での痛みの訴えのうち、こうした筋骨格性の痛みの報告は40.6%である。ただ、Aと混在することが多く、Aのタイプの痛みも筋肉痛と判断した回答もあると思われる。
 神経系が傷害され、病変や機能不全が起こると、それ自体を原因とする異常な痛みが発症する。損傷・病変した神経細胞の遠位端以下の部位に発生する難治性の自発性、誘発性の異常な痛みである。国際疼痛学会(IASP)はこの痛みをニューロパシー痛と定義している。神経障害性異常疼痛、神経因性疼痛などという訳語が与えられている。本報告では、ニューロパシー痛をそのまま使っている。脊髄損傷になると、いくつかのタイプのニューロパシー痛が起こる可能性がある。主たるものは、脊髄実質の損傷・病変によるもので、これまで、「脊髄痛」「求心路遮断痛」「中枢痛(セントラル・ペイン)」と呼ばれてきたものを含む。脊髄から脳へ疼痛シグナルを伝える伝導路が遮断され、変容するために起きると考えられている。
 そのほか、脊髄神経根や脊髄神経、とくに腰椎では、馬尾神経が圧迫・傷害されたために発症する痛みも難治でつらいものがある。これらの痛みは、多くの場合、「しびれの極致」、「焼けるような痛み」と表現され、持続的な自発性の痛みである。時には、脈打つような痛み・走るような、切り裂かれるような痛みのこともある。こうした痛みを訴えているものは約54%あり、かなり高い発生率である。
 Bの選択肢の、さまざまな刺激に誘発される異常疼痛、異常知覚もニューロパシー痛である。本来は痛みを呼ばない単なる接触でも、動けるなら足を引っ込めたくなる痛みである。清拭も体位交換も異常知覚が全身に走ることを覚悟の上ということになる。シャワーの水滴も、雹か、時として画鋲が降るかの如きである。車の振動も全身を突き抜けるかのようである。前述のアロデニィアと呼ばれる症状である。これに過敏症が加わったのが前述のカウザルギーである。風が吹いても異常知覚が発生し、すきま風は大敵である。ちょっとした痛み刺激が数倍、十数倍の痛みに感じられる。このケースでは鍼治療は適さないかもしれない。カウザルギーには、自律神経も関与しているといわれ、国際疼痛学会(IASP)は、神経の外的傷害によって起きるCRPS(複合的局所性疼痛症候群)と定義し直し、発生機序の解明を課題にしている。今回調査でのアロデニィア、カウザルギーの発生率は25.6%である。Aと併発することが多い。
 自律神経過反射に伴う痛みは、厳密には、血圧急上昇による頭痛であるが、ここでは、回答者は、自律神経過反射を引き起こす諸原因によって発症する他のさまざまな症状に伴う痛みも同時に報告しているようである。自律神経過反射は、脊髄T6レベル以上の脊損者によくみられ、膀胱の充満、便秘、生殖器への強い圧迫や刺激(検査やカテーテル挿入等)、褥瘡といった骨盤内部位での刺激や、傷、発熱、急な冷気など自律神経調節がスムーズにできないために急速な血圧上昇と激しい頭痛を引き起こすものである。これらの刺激や症状は、骨盤内の異常な不快感や痛み、全身あるいは下肢の痙攣、痙性を伴うことが多い。
 これらの痛みのタイプと、痛みの発生部位との間には有意な関連性が認められる。
 明らかに、損傷部位と同レベル、損傷部位より下位レベルにニューロパシー痛の発生率は高い。本調査の回答者では、完全麻痺者の割合の方が高いことからも、下位レベルの筋肉痛的・関節痛的痛みも、ニューロパシー痛と混在するか、混同されているものと思われる。1)の「損傷・病変部位と疼痛の発生」の項で述べたこととあわせて考えた場合、損傷部位より下位レベルに「生活に支障を来たす」厳しいニューロパシー痛を発生させている事例が多いと思われる。また、自律神経過反射に伴う痛みの発症が、損傷部位より上位(頭痛)のみでなく多岐にわたるのは、上記のように、自律神経過反射とともに発生するさまざまな症状に伴う痛みも報告されているためと思われる。


表 7  痛みの発生部位と痛みのタイプ
          (複数回答、合計欄の( )は母数)
. 筋肉痛的・関
節痛的痛み
自然発火、痺
れ痛等異常痛
無痛性刺激に
より異常疼痛
自律神経過反
射に伴う痛み
NA
合 計
損傷部位より
29

59.2%
18

36.7%
13

26.5%
15

30.6%
1

2.0%
76

(49)
損傷レベルと
同じレベル
131

51.8%
146

57.7%
70

27.7%
58

22.9%
5

2.0%
410

(253)
損傷部位より
下位レベル
354

40.0%
520

58.8%
239

27.0%
166

18.8%
30

3.4%
1,309

(885)
上記部位によ
り痛みに強弱
86

47.8%
121

67.2%
70

38.9%
62

34.4%
2

1.1%
341

(180)
ほぼ全身に強
い異常知覚痛
62

63.9%
59

60.8%
40

41.2%
35

36.1%
3

3.1%
199

(97)
NA 15

16.7%
13

14.4%
7

7.8%
7

7.8%
57

63.3%
99

(90)
部位別回答
合計
677

43.6%
877

56.4%
439

28.2%
343

22.1%
98

6.3%
2,434

(1,554)


  (2) 脊髄損傷と麻痺および疼痛・異常知覚の諸連関

 1) 損傷部位と疼痛発生
 本調査の回答者の損傷部位を脊椎ベースでみると、「頸椎」470(28.3%)、「胸椎」635(38.3%)、「腰椎」351(21.2%)、「その他」48(2.9%)、「NA」286(17.2%)であった(表2)。これら損傷部位統計は、今回調査ではラフなものに留まったため、疼痛発生状況との間には、有意な関連の有無は求め得なかった。損傷した脊髄神経の支配する身体部位以下に、生活に支障を来たす痛みの発生比率が高いこと、それは主にニューロパシー痛であると考えられることは、上記の通りである。

 2) 運動麻痺・知覚麻痺と疼痛発生
 残存運動能力の程度によって、痛みがどのように現れるかを検討してみた。回答者の運動能力のレベルに関して、痛みの有無との間に有意差はなかった。ただ、「歩ける」、「立つことができる」(多くは、骨傷なし、頸髄不全麻痺)のケースで、生活に支障を来たすような痛みの発症比率が高く、有痛率も高かった。行動の幅が広いことから、筋骨格性の疼痛を多様な形で抱え、加えて触発性の痛み、痙性に伴う痛み、ニューロパシー痛(全身的しびれ)もある、という複雑な痛みが現れがちなためであると考えられる。彼らは、ADL(Activites of Daily Living 日常生活動作)のレベルは高いために、見かけは痛みの問題はないと見られ、理解を得られないことで苦労する局面もあるようである。
「通常の知覚があると感じられる部位」で知覚麻痺を分類したものと、現在の痛みの状況の間には、一定の有意差が認められた。不全麻痺者に見られる、何らかの通常知覚がある部位が「ひざ上」「全身」「部位によりまばら」といったタイプに、「生活に支障を来たすような痛み」の発症率が高く、現在の有痛率も高かった(70%以上)。また、下位胸髄〜上位腰髄損傷と思われる「へそ下あたり」のタイプで、下肢痛の厳しさが示唆されている(現在の有痛率70.0%)。

 3) 完全麻痺・不全麻痺と疼痛発生
 医師診断「完全麻痺」「不全麻痺」のデータと痛みの発生状況の間には、カイ2乗検定で明白な関連があるかどうか不明であった。「不全麻痺」のケースで、「生活に支障のある痛み」の発生比率も、現在の有痛率も平均より高い傾向が示された。無痛率は完全麻痺者のほうが高い傾向がある。一方、損傷部位より下位の痛みや痛みの表現に固有に認められるニューロパシー痛の発生は、完全麻痺に多い傾向がある。しかし、すでに見たように、今回調査における、医師診断の「完全」「不全」は不正確(実際に即していない)と見られる側面も指摘できるので、今回調査からの結論的評価は避けざるを得ないであろう。
 ただ、「事例調査」の聞き取り、確認作業に基づけば、「不全麻痺」者は多様な複雑な痛みを抱えており、「完全麻痺」者の多くに厳しいニューロパシー痛が現れていることを指摘できる。
 治療法も視野に入れた麻痺と疼痛のタイプを分析するには、損傷部位と麻痺に関するより詳細な情報が必要であり、今回調査の患者のおおよその自己申告だけでは限界がある。

 4) 痙性・痙攣の有無と疼痛発生
 すでに見たように、今回調査では「痙性と痙攣がともに強く、生活に支障を来たしている」ケースが、10.8%、「強い痙性がある」例が13.8%、「強い痙攣がある」例が10.4%あり、全体で35%が痙性と痙攣に苦しんでいる。予想されるように、これらの痙性・痙攣の有無と痛みの発生状況の間には、有意に関連がある。
「痙性も痙攣もともに強いケース」では、約50%が生活に支障のある痛みを訴え、現在の有痛率も77%を超える。「どちらかというと痙性が強い」、「どちらかというと痙攣が強い」いずれのケースも、現在の有痛率は約71%にもなる。「当初から痛みがない」、「痛みが自然軽減」の比率は、痙性・痙攣が弱いほど高まる。
 痙性・痙攣を抑制できれば、これらに起因する痛みに関しては、抑制できる可能性があるかもしれない。


表8 痙性・痙攣の有無と痛みの発生の状況
. 以前から痛
みはほとん
どない
自然に痛み
が軽減しほ
とんどない
徐痛・疼痛
緩和に成功

厳しい痛み
で生活に支
痛いが生活
に大きな支
障はない
現在の有痛


NA


合計


痙性、痙攣
強く生活に
支障
26

14.4%
5

2.8%
4

2.2%
90

50.0%
49

27.2%
139

77.2%
6

3.3%
180

100%
痙性の方が
強い
40

17.5%
17

7.4%
2

0.9%
62

27.1%
100

43.7%
162

70.7%
8

3.5%
229

100%
痙攣の方が
強い
28

16.3%
16

9.3%
2

1.2%
49

28.5%
73

42.4%
122

70.9%
4

2.3%
172

100%
両方あるが
余りひどく
ない
94

20.4%
40

8.7%
9

2.0%
71

15.4%
234

50.8%
305

66.2%
13

2.8%
461

100%
ほとんど気
にならない
98

26.6%
37

10.0%
2

0.5%
84

22.8%
138

37.4%
222

60.2%
10

2.7%
369

100%
NA 32

12.9%
16

6.5%
3

1.2%
76

30.6%
71

28.6%
147

59.3%
50

20.2%
248

100%
合 計 328

19.2%
131

7.9%
22

1.3%
432

26.0%
665

40.1%
1,097

66.1%
91

5.5%
1,659

100%

カイ2乗検定 有意差あり(P<0.001)


  (3) 痛みの表現
 痛みは主観的なものでもあり、なかなか他者には理解してもらえない。当事者は日々泣いているわけにもいかないからである。そこで言葉にすることによって一定の理解を得ることができる。カナダのP.メルザックらが、マクギル(McGill)疼痛質問表(MPQ)という、感覚、感情、評価の側面から20分類80語の痛みを表現する言葉を挙げ、それを選択させてかつ数量化して痛みの厳しさを評価するという方法を編み出した(1975年、その後改訂あり)。日本でも、癌疼痛の評価の際に、前述のVASやフェーススケール(顔の表情の絵)とともによく使用されるようになった。しかし、研究者によっては、MPQで選択させる言葉が適切かどうか、数量化できるかどうかなどについて問題点を指摘する者もいる。
 今回調査でも、言葉で表現してもらうことを試みた。「パイロット調査」では、マクギル法の中から選んだいくつかの言葉と日頃当事者から聞く言葉のいくつかを選び選択してもらった。その際、回答者からコメントや他の表現の付記があった。「事例調査」でも同様であった。 その中から多く選択されたものを精選して、選択肢を作成した。日本人は、反復擬音語を多用し、より具体的な譬えを用いて表現する傾向が強い。言葉の文化的側面を表していると思われる。マクギル方式での数量化を前提せず、痛みを持つ者が、自分の痛みを自己表現し、かつ第三者にもできるだけ理解してもらうことをまず目的に、痛みを表現する言葉の選択設問を設けた。複数回答の集計結果は表9の通りである。


表9  言葉による痛みの表現 
       (損傷後有痛者:複数回答 ( )は母数
痛みを表現する言葉 件数
@ ジンジン・しびれの極致
A ビリッ、ビーン・電撃痛
B 痛みが走るような 
C 焼かれるような・灼熱痛
D 氷に漬けられるような 
E 切り裂かれるような  
F 凸凹コンクリートに押付けられるような
G アイスピックや錐で突かれるような
H 剣山の上にでもいるような
I 押し潰されるような    
J 締め上げられるような
K その他         
L NA
706
481
345
341
174
139
44
192
157
107
212
78
82
56.5
38.5
27.6
27.3
13.9
11.1
3.5
15.4
12.6
8.4
17.0
6.2
6.6
合計 3056 (1250)

 これらの言葉による痛み・異常知覚の表現は、損傷部位、損傷のタイプ、痛みの発生状況、痛みの発生部位など、本調査の他の諸要素との間に有意な関連は認められなかった。また、日本語での表現に基づいて、MPQのような痛みや異常知覚の程度を測定するシステムが開発されているわけではない。しかし、これらの言葉を多種類用いて表現しているケースでは、生活に支障を来たすような厳しい痛み・異常知覚を抱えていることが多い。
 これらの言葉は、麻痺域の痛み、とくに損傷レベルの下位レベルの痛みを表現するのに多用される。麻痺域はおおむねしびれで覆われている。その厳しい場合は、「しびれの極致」と表現するほかない。さらにこれに、「長時間正座後のしびれ」「満員電車で革靴で足を踏まれ続けられるよう」といった補足付記もある。
 強いしびれを訴えるケースが56.5%と最も多い。「焼かれるような」、「氷に漬けられるような」、「走るような」という表現は、厳しい下肢痛に多く見られる。「押しつぶされるような」、「締め上げられるような」痛みは、麻痺境界における痛み・異常知覚の表現によく使われる。生ゴムで締め上げられるような、鉄線で巻かれて締められるような、雑巾を絞るような(自らを雑巾にたとえて)、といった説明もあった。
 また、麻痺境界部分に波状的に押し寄せる痛みも「ビーン・電撃痛」と表現されることが多い。「電撃痛」という表現は、理由なく、あるいは何らかの刺激で突然襲う強い痛みにも使われる。時には失神することも、息が止まりそうになることもある。「釘を打つとき間違えて金槌で指を打ってしまった時のような痛み」という付記もあったが、これに近いかも知れない(いくつか同様の補足付記あり)。
 「剣山の上」「コンクリートに押し付けられる」は、背中、とくに仰臥での背中の痛みによく使われる。「剣山の上」は、足の裏の鋭い痛みの表現としても使われる。持続痛にも誘発痛にも使われる。
「切り裂かれる痛み」「走る痛み」は、脇から上腕へかけて、または腰横側線から大腿部爪先までなどの神経根性の痛みで使われることが多いが、全身性の痛みや痙性による痛みの場合も現れる。この「走る痛み」は何かを契機に間歇的に起こる。「アイスピックや錐で突かれるような痛み」も損傷部位より下位レベルに何かを契機に間歇的に起きる痛みである。
 「その他」には、下肢に「杭」や「棒」、「焼け火箸」が打ち込まれているような、または、胴体が金属で固定されているような、体が固まるような、腹の肉が切り裂かれるような、こむら返りのような、足が捻挫したような、足を絞られるような、引っ張られるような、といった多様な表現とともに、表現し難い痛み、という回答も複数あった。
 このような言葉で表現される痛みは、ほとんどの場合、ニューロパシー痛である。このような言葉は、ニューロパシー痛診断の参考材料になると思われる。
 言葉による痛みの表現は、痛みを持つ当事者の相互理解に役に立つ。また、痛みを持たない脊損者、健常者に、痛みの内容を質的に理解してもらう上で役に立つ。日常の具体的な生活経験ではあまりないこのような表現は、時として「大袈裟な」と受け取られることもあるが、あえて言葉にされる。このようなさまざまな表現の痛みが、すべて「気のせい」と言うわけにはいかないであろう。このような痛みを持たない医療者にも痛みのさまざまな表現に先入観なしに耳を傾けてもらいたい。痛みのタイプ分析にどこかで結びついていかないだろうか。



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