ssk07-04-3.pdf 238kb

4.調査の概要と結果

3 疼痛・異常知覚の発生率と発症の特色

  (1) 発生率
 以上のような特色を持つ回答者群について、「痛み」の発生状況を調べた。当事者の実情に即して、「痛み」を以下のように規定した。

 痛みの強さ・程度については、多くの調査例ではVAS(Visual Analog Scale−10cmのスケールメモリをもとに、患者に、痛みなしを0、最も痛いと感じるレベルを10とし判定させる方法)を用いて評価し、7以上を「厳しい痛み」として集計する方法がよく採られる。この方法は疼痛緩和治療法の効果の判定には有効とされるが、今回のような1〜2か月かけた慢性痛に関する郵送自記式回答の場合は、記入時によって痛みの感じ方が変わったり、記入時に「今が最も痛い=10」と感じる方も多いので、評価が不安定になるため、採用しなかった。
 上記の痛みについて、より質的な時系列的な変化も把握できるよう、現在の痛みの状況について以下のような設問項目で回答を求めた。回答者すべてについての集計結果とともに記す(グラフ8,9)。

@ 痛みと言えるものは、当初からほとんどない。
…………………………………318(19.2%)
A かつては痛みがあったが、時とともに自然に軽減し、
今はほとんどない。
…………………………………131(7.9%)
B かつては痛みがあったが、治療の結果、
除痛・疼痛緩和に成功し、今はほとんどない。
…………………………………… 22(1.3%)
C 厳しい痛みがあり、日々の生活に支障を来たしている。
………………………………… 432(26.0%)
D 痛みや異常知覚があるが、生活やリハビリに大きな
支障を来たすほどではない。
………………………………… 665(40.1%)
E NA ……………………………… 91(5.5%)

 これをもとに、回答者の痛みの現状を整理すると以下のようになる。
 損傷後無痛者=@…………………… 318(19.2%)
 現在の無痛者=@+A+B………… 471(28.4%)
 現在の有痛者=C+D………………1097(66.1%)
 現在生活に支障ある痛みあり=C……432(26.0%)
 損傷後有痛者=A+B+C+D……1250(75.3%)

【グラフ8】 現在の痛みの状況 (N=1,659)


【グラフ9】 回答者の痛みの現状


 脊髄損傷後に痛みを発症させているケースは全体の75.3%に達する。まったく痛みのない者は19.2%である。現在、生活に支障のある痛みをかかえている者は26%、約4分の1存在する。治療成績は悪く、なんらかの治療によって疼痛緩和に成功したと自覚されているケースは、22例1.3%に過ぎない。アンケート回収率が30%に留まったのが、痛みを持たない脊損者はアンケート協力には積極的でないであろう点と厳しい痛みを持つ者の余裕のなさによるとすれば、その程度によって、実際の疼痛発生率は変動する可能性はある。その点を留保しても、この疼痛発生率に関する集計結果は、上記に紹介した内外の調査結果の傾向と大きくは変わらないと考える。


  (2) 性別、年齢等との関連
 男性において、「生活に支障ある痛み」が26.4%、「支障はないが痛みがある」が39.3%、現在の有痛率は65.7%。女性においては、「生活に支障ある痛み」は24.7%、「支障はないが痛みがある」のが45.1%、現在の有痛率は69.8%で、女性の有痛率が若干高く、男性の方が支障を来たしている比率が高い。しかし、性差において統計的有意差は認められなかった。
 現在の年齢と痛みとの関連をみると、厳しい痛みで生活に支障を来たしている事例が、30代で14.1%、40代で22.4%、50代で25.2%、60代で30.7%、70代以上が32.4%と、年齢が上がるにつれ、有意に上昇する傾向がある。生活に支障のない痛みも加えた現在の有痛率も同様に年齢とともに上昇傾向にあり、60代では7割が痛みに悩まされている。これは、加齢とともに、体力の減退に加えて、筋肉痛、関節痛、その他さまざまな合併症にが出てくることも一因と考えられる。
 受傷時年齢と痛みとの関連をみると、30代〜50代の青壮年期に受傷した事例に疼痛発生率が有意に高い。生活に支障を来たす痛みが、30代では27.3%、40代で34.4%、50代で34.9%発生しており、現在の有痛率がそれぞれ70.3%、76.2%、75.5%とこの年代が70%を超える。痛みを発症しないケースも、20代未満受傷者では40.7%あり、20代でも24.7%であるが、40代、50代になると9%台に低下する。
 受傷時の時代の脊損医療レベルが関連していないかどうかをみるために受傷時代を1949年以前、50年代、60年代、70年代、80年代、90年代、2000年以降で比較してみたが、有意な差はなかった。
 受傷後歴年ごとについて、痛みの状況をみた。チェック期間は、1年未満、1〜2年、2年〜5年、5年〜10年、10年〜15年、20年〜25年、25年〜30年、30年以上である。これらの間に統計的な有意差はないが、10年後以降も60〜70%の人が痛みを訴えており、経時的に痛みの発症率が低下したり、痛みが軽減することはないようである。


  (3) 受傷原因との関連
 外傷性1414、非外傷性161の間に、サンプル数において差がありすぎるが、両者の間における疼痛発生率に有意な差はない。
 外傷性の場合の脊椎・脊髄損傷の原因(表2)との関連では有意差は認められなかった。また、脊椎の損傷のタイプ(脱臼、脱臼骨折、骨折、その他)との関連でも有意差はない。疼痛発生は、このような一般的なタイプによるよりも、より脊髄の損傷の程度、病態、修復過程に依存するものと思われる。
 非外傷性の場合においても、どの疾患により痛みが発症するかは、有意に明らかであるとはいえない。しかし、脊髄空洞症、脊髄動静脈奇形(瘤)、脊髄梗塞、髄内脊髄腫瘍など髄内疾患における厳しい疼痛の発生率は、髄外、硬膜外の神経鞘腫や血腫などで早期に摘出できたケースに比して数値としては大きかった。サンプル数を増やし医学的情報を加えると有意差が検出される可能性は否定できないと考えられる。


  (4) 疼痛発生の時期と変化(損傷後有痛者1250例について)
1) 難治性の異常疼痛の発生の時期
 異常疼痛の発症時期については、「受傷・罹病直後から」が32.3%、「手術・治療直後から」が13.8%、「手術治療後しばらくして(数か月後)」が33.4%、「慢性的痛みはない」が8.7%、「NA」が11.7%である(グラフ10)。手術・治療後数か月後までに発症しているケースが79.5%を占める。「NA」には、1年後、2年後の発症というものもあるが、中には、10年後、15年後、22年後に突然痛みが出たケース、他の病気を契機に痛みが出て難治となったケースなどの付記もあった。1年後、2年後のケースは、事例調査では、当初からあった痛みが、通常の痛み止めが効かないことが判明したのが1〜2年後、という場合がほとんどである。難治性の異常疼痛は、大多数が受傷後数か月以内までに発症している結果になっている。

2) 痛みが時間的にどのような現れ方をするか
 痛み発生の時間帯、頻度など、時間的要素に関わる疼痛発生状況を設問した。結果は以下の通りである(グラフ11)。
@ 常にある(24時間。睡眠中も痛みを感じている、痛みで眠れない)
……………………………………508(40.6%)
A 起きているときずっと(睡眠中以外)
…………………………………… 191(15.3%)
B 時々理由なく痛くなる(間歇的、突発的)
…………………………………… 257(20.6%)
C 時を選ばず、何かの理由、刺激で痛みが起きる、強くなる
…………………………………… 112(9.0%)
D 夕方からとくに痛みを意識…………19(1.5%)
E その他……………………………… 50(4.0%)
F NA ………………………………… 113(9.0%)


【グラフ10】 損傷後有痛者の、
        難治性の異常な慢性的痛みの発症時期
               (N=1,250)


【グラフ11】 痛みが現れる時期
               (N=1,250)


 睡眠のみが痛みから解放されるAも含めれば、事実上、途切れのない持続的な痛みに悩まされているケースが55.9%におよぶ。時々理由なく痛くなるケースでは、痛みが来ないときは、あまり痛みを感じないが、一日何度か波状的に痛みに襲われる人は、持続的な痛みを抱える人よりもダメージが大きい場合がある。また、年に何回か失神するほどの痛みに襲われるケースもある。
 何かの刺激で痛みが起きるケースは、原因が、接触、振動、風など多様で、アロデニィア(通常なら痛みを感じない刺激によって発生する痛み)やカウザルギー(神経が傷害されたことにより、自律神経の関与もあって、身体の部分部分にさまざまな痛みが発症する)と呼ばれる症状を併発させているものと思われる。夕方から痛みが出るケースでは、一日の疲労がたまり、夕刻から就寝まで痛みに悩まされ、入眠には睡眠薬が必要なほどになる。「その他」「NA」は痛みが現れる時間帯を特定できないケースであるが、「体調が悪い時」などの多岐にわたる事柄が付記されていた。

3) 痛み発生・増悪の契機
 痛みが現れたり、強まったりする時は、いくつかのきっかけがある。その主なものについて訊いてみた。結果は以下の通りである。
@ とくに理由は思い当たらない………
A 晴雨、気圧、気温など気候の変化…
B 病気や発熱…………………………
C 精神的ストレス、肉体的疲労、
  睡眠不足など身体的状況…………
D 体位や体動が関連…………………
E 痙攣や痙性の発生…………………
F 便秘…………………………………
G その他………………………………
H NA……………………………………
335(26.8%)
717(57.4%)
291(23.3%)

366(29.3%)
317(25.4%)
236(18.9%)
291(23.3%)
79 (6.3%)
69 (5.5%)

 「痛みの程度を変化させるこれと言った理由はない」という回答は約4分の1以上あり、ニューロパシー痛(神経障害性の異常慢性痛−後述)と重なりあうと思われる。気候の変化に左右されるケースは60%近くになる。気圧の変化や寒さによって痛みが増悪することを訴える患者は多い。
 「精神的ストレス、肉体的疲労、睡眠不足など」が痛みを呼ぶという回答が約3割ある。痛みで睡眠不足となり、ストレスや肉体的疲労を呼び、食欲も減退、体力が弱まって痛みに耐える力も後退するという悪循環に陥っているケースが多いようである。運動やリハビリをやりすぎた後に痛みが激化することがある。その不安感からリハビリを抑制するケースもある。体位交換や車椅子への移乗、体を動かすリハビリに苦痛を感じるケースが4分の1ある。厳しい痛みのためリフトも使えず、ほとんどベッド上の生活、というケースもある。
 排泄管理、消化器系管理がうまくいかない脊損にとって、便秘やガスが溜まる腹部膨満はよくあることであり、腹痛や腹部、腰背部の痙性が、痛みの誘因となることがある。ここでも23.3%が「便秘」を挙げている。便秘、排便作業は時として自律神経過反射を呼び、急激な血圧上昇と頭痛の原因となる(後述)。
 「その他」には、目覚めの時、横になった時、車の振動、風(すきま風)、音(自分の話す音さえも)、夫婦間のコミュニケーションが取れない時等、多岐にわたる付記があった。前項のなんらかの外的刺激によるケースと重なり合うことは当然ある。心理的要因も一因となっている。

4) 痛みや異常知覚痛の感受性の変化
 以上のような痛みや異常知覚に関する感受性が受傷後の時間の経過とともにどのように変化してきたか訊いた(複数回答)。設問の選択肢は、痛みのタイプや痛みの強さの程度など基準が異なったもので構成されており、それぞれを比較できないが、「パイロット調査」や「事例調査」で多くあげられた項目であり、前項同様、痛みの実情を具体的に把握するのに役立つ。
@ 当初からの痛み(慢性的自発痛)が
  変化なく続いている…………………………
A 時々起こる痛みから、常に痛い慢性的
  自発痛へ変化………………………………
B 普通のしびれ感から、痛みに近い強い
  しびれ  (慢性的自発痛)へ変化…………
C 強いしびれ感(ジンジン・ビリビリ)から、
  焼けるような疼痛感へ変化…………………
D 何らかの刺激に対する過敏反応症状が
  加わる ………………………………………
E 身体の痛みを感じる部位が変化した………
F 時間の経過とともに痛みが強まった ………
G 痛みに慣れる ………………………………
H その他 ………………………………………
I NA  …………………………………………

525(42.0%)

184(14.7%)

322(25.8%)

389(31.1%)

174(13.9%)
114(9.1%)
224(17.9%)
415(33.2%)
66(5.3%)
68(5.4%)

 受傷後、あるいは治療直後くらいから慢性的な自発痛(ジッとしていても常に痛い)を抱えているケースが、42.0%存在する。これは、ニューロパシー痛(神経障害性異常疼痛)であることが多い。時々起こる痛み(間歇的−痛くないときがある)から慢性的自発痛に変化したケースでは、当初は筋肉痛的あるいは関節痛的痛みであったのが、廃用性症候群(使用しないことで生じるトラブル)によって筋肉痛的痛みが慢性化したり、ニューロパシー痛が発症したりしているケースが多いと考えられる。
 しびれを訴える者は多い。強いしびれ痛から焼けるような痛み(灼熱痛)へと変化したケースが3割以上占める。過敏反応が加わったケースは、前項のアロデニィアやカウザルギーも生じたものと思われる。
 痛みを感じる身体部位が変化するのは、ニューロパシー痛が強まり、それまで意識していなかった下肢痛が発症したり、あまり麻痺のない、または麻痺部分との境目の肩や背中に廃用性筋萎縮による痛みが発症したり、あるいは、アロデニィアやカウザルギーによって身体各部位に痛みが出る等々のケースが考えられる。
 これらの変化を通じて、痛みが強まったと強く意識している者が18%である。時の経過とともに痛みが増悪していくケースの場合、脊髄の疼痛伝導路に、ワインド・アップ現象(痛みのシグナルが増幅されて伝えられていくこと)が起きているという研究もある。
 この痛みの感受性の変化と痛みの発生状況の間には有意な関連が認められた。
  @→B→C ⇒ F+D
の経過をたどる者にとっての痛みは耐え難く重篤なものと感じられ、生活に支障を来たしている。表5に見るように、当初から慢性的自発痛に悩まされているものは、半数以上が生活に支障を来たしている。また、強いしびれ感が焼けるような慢性痛に変わっていったケースも半数近くが生活に支障を来たしている。(年々増強する痛みには慣れることは到底できない、という付記もある。)
 反面、「痛みに慣れる」、と言う回答が33.2%を占めた。3人に1人は、痛みを受容し(諦め)、何らかの形で痛みと折り合いをつけつつ暮らしていることになる。このことは、精神的、心理的問題も含め、痛みのしのぎ方の工夫があることを示唆する。前項2)、3)とともに、このような疼痛履歴が、患者それぞれの固有の苦痛感を生み出している。

表 5 痛みの感受性の変化と損傷後の痛みの状況
    (損傷後有痛者:複数回答)
. 慢性的
自発痛
に変化
なし
時々→
慢性的
自発痛
に変化
普通の
しびれ
→強い
しびれ
に変化
強いし
びれ→
灼熱痛
に変化
過敏反
応症状
が加わ
痛みを
感じる
部位が
変化
時間経
過と共
に痛み
が強化
痛みに
慣れる
その他 NA 合計
以前から
ほとんど
ない
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
自然に軽
減し、ほ
とんどな
15

11.5%
10

7.6%
22

16.8%
15

11.5%
13

9.9%0
8

6.1%
1

0.8%
50

38.2%
23

17.6%
23

17.6%
180

(131)
除痛・疼
痛緩和に
成功
2

9.1%
3

13.6%
6

27.3%
1

4.5%
1

4.5%
2

9.1%
3

13.6%
11

50.0%
2

9.1%
3

13.6%
34

(22)
厳しい痛
みで生活
に支障
220

50.9%
84

19.4%
114

26.4%
206

47.7%
77

17.8%
42

9.7%
145

33.6%
77

17.8%
10

2.3%
19

4.4%
994

(432)
生活に大
きな支障
はない
288

43.3%
87

13.1%
180

27.1%
167

25.1%
83

12.5%
62

9.3%
75

11.3%
277

41.7%
31

4.7%
23

3.5%
1,273

(665)
合計 525

42.0%
184

14.7%
322

25.8%
389

31.1%
174

13.9%
114

9.1%
224

17.9%
415

33.2%
66

5.3%
68

5.4%
2,481

(1,250)

カイ2乗検定 有意差あり(P<0.001)



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