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2.経緯と目的

 この調査の発端は、脊髄を損傷したために痛みに苦しむ人の麻痺と痛みの実情を具体的に調べてみるケース・スタディ(「事例調査」)を試みたことである。いわば「パイロット調査」(予備調査)である。全国20名の方から協力の申し出があり、2002年12月から2003年2月までの間に、18名から、脊髄損傷のタイプと痛みの現状、受療経験など、詳細に記された回答が寄せられた。
 回答者の損傷のタイプは、外傷性が9名、非外傷性が9名、損傷部位は高位頸髄、下位頸髄、胸髄、腰髄、腰椎損傷による馬尾神経を含み、年齢は32歳から73歳まで、受療経験も豊富で、バランスのとれた網羅的なケーススタディとなった(巻末参考資料1参照)。これによって、個別的ではあるが、どのような痛みが発症しているか、おおよそを把握することができた。
 これを踏まえて、「痛い人」の実情をより一般的に明らかにするため、調査対象数を拡大して、主に痛みを持つ脊髄損傷者を対象に事例調査を行った。すべての事例を文書データ化した(調査対象数114)。
 ついで、痛みを持たない脊損者も含めて統計データを得るため、大量集計ベースのアンケート調査を行った(調査対象数1,659)。
 すなわち、この調査は、「パイロット調査」(予備調査)→「事例調査」→「統計調査」といった経緯で行われた。
 われわれは、この調査によって、以下の諸点を明らかにできないかと考えた。
1) わが国の脊髄損傷者において、どの程度疼痛が発生しているのか。
痛みを持つ人と持たない人の間にどのような差異があるのか。
3) 痛みを持つ場合、どのようなタイプの痛みが発生しているのか、痛みの実態。
4) 痛みに対する医療的対処、治療法にはどのようなものがあるか。受療行動。

 これらの諸点について、当事者の経験と立場に基づいて、可能な限り実態を探ることを出発点にすえた。
 従来、これらの諸論点に関しては、海外では、医療サイド、患者サイド双方において、さまざまなタイプの調査が行われてきた。わが国でも、いくつかの医療機関(主にリハビリ関連)が自機関の患者を中心とした小規模な疼痛発生率調査をたびたび行っている。近年では、全国労災病院を中心に調査目的と条件を限定した大規模調査が行われている(2000〜2001年)。いずれの調査においても、疼痛発生率は高い数字を示している。研究者によってしばしば引用される調査研究の例を表にまとめてみた(表1)。
 残念ながらこれらの調査研究は、当事者の生の声を伝えるものではなく、当事者に役立つ情報とはなっていない。これらの諸研究を参考にしながら、できるだけ当事者の実情に即した調査を目指した。

表 1 脊損痛調査例
時 期 調査者 方 法 対象者 受傷後 回収・調査対 結 果
(発表年) 時期 象数/発送数
1988年 Rose
(1)
イギリス 郵送式 ほぼ自立
できている
脊損者
グループ
4年程度 885/1091
回収率
81.1%
厳しい痛みのため仕事を止めた16%、痛みが仕事の妨げの妨げ83%、睡眠の妨げ59%
1988年 PVA(2) アメリカ 郵送式 退役軍人
兵役で脊損
になった
多様 912/2800
回収率
32.6%
慢性痛に対処する上で助けが必要45%、慢性痛が常時ある30%、 しばしば起こる15%、ADLを大いに阻害20%、かなり阻害30%
1997年 Stormer
(3)
ドイツ プロスペク
ティブ
・インタビュー
フィジカル
・テスト
4脊損ユニット
の入院・退院
患者
2年以上
(18歳以上)
901
疾患による
脊髄症は除外
痛みと異常知覚で集計。慢性的な痛みも異常知覚もない者34%、痛みのみ50% 痛みに近い異常知覚11%、痛みのない慢性的異常知覚5%
1999年 Siddall
(4)
オースト
ラリア
プロスペ
クティブ
・インタビュー
フィジカル
・テスト
1脊損ユニット
の入院患者
12週
〜6か月
100
(外傷のみ)
何らかの痛みを持つ64% ニューロパシー痛を持つ 55%、 厳しい痛みに悩む22%、筋骨格性痛み40%
2000年 Raven
scroft
(5)
イギリス 郵送式 地域の脊損
データベース
から無作為に
抽出
2か月
〜38年
平均8年
146/216
回収率
67.6%
あらゆるタイプの痛みを含め疼痛訴え率79%、厳しい痛み39%、一層の疼痛緩和治療希望43%、失業の原因18%
2001年 Finnerup
(6)
デン
マーク
郵送式 Viborgリハビ
リセンターから
の退院患者
半年
〜39年
平均
9.3年
330/436
回収率
75.7%
痛みと不快な異常知覚を含む者で集計。痛み・異常知覚の訴え率77%、 損傷部以下痛み・異常知覚67%
2001年 斎藤洋一
(7)
日本 郵送式 全国39の労災
病院リハビリ科
にアンケート
質問票を送付
(22施設から
回収)
過去5年
間の
患者概数
5疾患につき
調査。うち脊
損回収数は
1418。
全発送数不明
調査方式不明
調査主目的は求心路遮断痛。回収回答中、脊損の疼痛訴え率73%、難治 3%。この疼痛訴え率が脊損後疼痛全般なのか、求心、路遮断痛 のみなのか不明
2001年 富永俊克
(8)
日本 データベース
から集計
全国労災病院
の脊損データ
ベースから。
急性期
〜退院後
3年以降少
集計対象数
1286。
データ作成
諸条件不明
調査主目的は麻痺域の痛み。調査サンプル中、リハビリに支障を来た労災す麻痺域に痛みを持つ病院の入退もの44%。有り、無し、院患者不明の3カテゴリーで集計

 注]
(1) Rose M, Robinson JE, et.al.
Pain following spinal cord injury : Results from a postal survey,
Pain Vol.34, Issue 1 1988
(2) Paralyzed Veterans of America
Paralyzed Veterans of America Final Report:The PVA Needs
Assessment Survey 1988
(Thomas N, Brys and Kristjan T, Ragnarsson, Epidemiology and Classification of Pain after Spinal Cord Injury Topics in Spinal Cord Injury Rehabilitation Fall 2001 より。)
(3) Stormer S, Gerner H, et.al.
Chronic pain / dysaeestheasia in spinal cord injury patient:result of
multi center study Spinal Cord Vol.35, No. 7 1997
(4) Siddall P, Taylor D, et.al.
Pain report and the relationship pain of physical factors in the first 6
months following spinal cord injury Pain Vol.81,Issue 1-2 1999
(5) Ravenscroft A, Ahmed YS, Burnside PG
Chronic pain after SCI. A patient survey Spinal Cord Vol.38, No.
10 2000
(6) Finnerup NB, Johannesen H, et.al.
Pain and dysesthesia inpatients with spinal cord injury:A postal
survey Spinal Cord Vol.39, No.5  2001
(7) 斎藤洋一、山本和己、吉峰俊樹、他
「求心路遮断痛の頻度と治療の現状―全国労災病院アンケート調査報告―」(PAIN RESEARCH 16) 2001
 「求心路遮断痛の頻度と治療の現状」『神経研究の進歩』46 巻3号 2002
(※ 脊髄損傷、腕神経叢損傷、四肢切断、脳卒中、外傷性 脳損傷 について求心路遮断痛の発生と治療の現状を概観。求心路遮断痛=末梢から脳に至る痛覚の伝導路、主に脊髄視床路が遮 断されたことによって起こる異常疼痛。他のタイプの疼痛との関連、概念的区別等についての説明はなし。質問票への回答が、患者本人によって記入されたものなのか、施設の医療者がカルテ等に基づいて確認したデータなのか、明示されて いない。)
(8) 富永俊克、他
 「麻痺域の痛み」(住田幹男他編集『脊髄損傷の OUT - COME』第5章所収) 医歯薬出版 2001
 「脊髄損傷の麻痺域の痛み」『総合リハビリテーション』 31巻 5号 2003年
(※ 外傷性脊髄損傷者の麻痺域における痛みの有無を、労災病院データベースから集計を試みたもの。「麻痺域の痛み」についての概念規定はない。)


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