| * 印刷物を希望の方は無償配布しますので事務局まで。 |
ssk07-01.pdf 148kb
SSK 日本せきずい基金レポート07
|
|
| 2004年9月 特定非営利活動法人 日本せきずい基金 財団法人森村豊明会助成事業 |
刊 行 趣 旨
脊髄損傷は、言うまでもなく、運動機能麻痺と知覚機能麻痺をもたらす。知覚機能麻痺の最大のトラブルは、異常知覚と異常疼痛である。本報告書は、この問題を取り上げたものである。
本調査は、有志によって発足した「脊損痛研究会(責任者:阿部由紀)」の活動と提案に基づき、「日本せきずい基金」の調査プロジェクトとして実施された。当初、痛みに悩む脊髄損傷者の実情を明らかにするための「事例調査」としてスタートした。 その後、「(社)全国脊髄損傷者連合会」の協賛を受けて、痛みを持たない脊髄損傷者も視野に入れた大規模統計調査へと拡大した。この「統計調査」のためのアンケート調査に対し、全国1,666名の在宅脊髄損傷者のご協力を得ることが出来た。有効回答数1,659の集計の結果から、損傷後疼痛発生率75.3%、現在の有痛者66.1%、現在痛みで生活に支障を来たしているもの26.0%という数字があきらかになっている。このようなテーマに関し、この規模での調査は、わが国においては稀有なことである。米欧では、21世紀最初の10年が、「脊髄の10年」、「痛みの10年」と位置づけられ、未決の課題に関する研究が活発に推進されており、時宜を得た調査であると考える。ここで提起されているさまざまな問題について、専門家によって、一層の基礎研究、臨床研究が深められることを期待したい。
なお、本調査の費用は(財)森村豊明会からの助成金と「脊損痛研究会を支援する会」の「疼痛調査支援募金」によって賄われた。森村豊明会と募金にご協力くださった多数の皆様に心から感謝申し上げたい。また、痛みに苦しむなか、詳細な質問事項を含むアンケートにご協力くださった多数の当事者の皆様にも感謝しなければならない。
2004年9月
特定非営利活動法人 日本せきずい基金
【目 次】 1. はじめに 2. 経緯と目的 3. 対象と方法 4. 調査の概要と結果
1 調査対象者の特色――基本属性に関する集計結果
2 調査対象者の脊髄損傷と麻痺の状況
(1) 損傷部位 (2) 外傷性脊椎損傷のタイプ (3) 非外傷性脊髄損傷の原因となった疾患や要因 (4) 麻痺のタイプ (5) 痙性・痙攣の有無
3 疼痛・異常知覚の発生率と発症の特色
(1) 発生率 (2) 性別、年齢等との関連 (3) 受傷原因との関連 (4) 疼痛発生の時期と変化(損傷後有痛者1250例について)
4 疼痛・異常知覚発現のタイプ
(1) 疼痛・異常知覚の発生部位と疼痛のタイプ (2) 脊髄損傷と麻痺および疼痛・異常知覚の諸連関 (3) 痛みの表現
5 医療と脊髄損傷後の疼痛・異常知覚
(1) 急性期医療・リハビリテーションと疼痛・異常知覚 (2) 疼痛緩和治療
6 患者の日常生活機能と疼痛・異常知覚
(1) 残存機能、日常生活と疼痛・異常知覚 (2) 痛みのしのぎ方 5. 考 察 6. 結 語 補 論――痛みと異常知覚の事例集 文献一覧 【参考資料】
1 「パイロット調査」概要 2 「事例調査」質問票 PDF形式 313kb 3 「統計調査」質問票 PDF形式 227kb 4 海外文献概説紹介
4-1.脊髄損傷後に発症する痛みに関する「研究概説」の紹介
4-2.脊髄損傷後疼痛の研究と治療に関する展望と指針
4-3.マイアミ・プロジェクトによる脊髄損傷後の痛みに関する調査
1.はじめに
脊髄を損傷した後に、麻痺だけではなく、異常疼痛や異常知覚に苦しむケースがあること自体は知られてきた。
この異常疼痛や異常知覚の発症は外傷性、非外傷性を問わない。しかし、わが国におけるその実態は、十分に把握されてはいないのが実情である。痛みは主観的なものだから、なかなか理解してもらえない。痛みを抱える脊髄損傷者の多くは、慢性期に入り、在宅または施設生活の段階で痛みの深刻さを認識するケースが多く、「痛み」に関する情報をあまり持たないままに、あれこれと治療法を求めて孤軍奮闘せざるをえない状態にある。
しかし、わが国では、これまで、この問題は、脊損医療上は、正面から取り上げられる機会は少なく、在宅患者にとってはほとんどないに等しい。「痛み」の主観性、多様性、個別性故に対応がむずかしく、医療機関サイドにおいても対応には困難があることも事実である。決定的な治療法が見出せないのが現実である。できれば患者一人ひとりが、こうした「痛み」の実態を把握し、治療方法の全体像、それぞれの治療手段の成果と限界、リスクを知ったうえで、多くの人々の経験から「痛み」に対処するためのヒントと教訓を得られることが望ましいと考える。
本調査は、「痛み」に悩む脊損者が、自分個人の「痛み」にのみ捉われることなく、多くの人々の抱える「痛み」の実態を知ることにより、自らの「痛み」を直視し、自分にあった「痛み」のしのぎ方や疼痛緩和治療法を見出していくうえでの一助となれば幸いである。
「痛み」がどのようなものか、治療がどの程度有効であったかどうかは、患者次第という側面もある。痛みを評価する他覚的な「客観基準」が必ずしも実情を示すとは限らないからである。患者サイドからの総合的情報集積がこの問題の解決の道を開くには不可欠であろう。そのうえで、医療に対する問題提起となることを期待するものである。
この調査と報告書の作成作業には「脊損痛研究会」の作業チームがあたった。報告書の執筆は、阿部由紀が行い、作業チームメンバーすべてが目を通して相互チェックを行った。
また、国立看護大学校の松井和子教授と、自らも脊損当事者で現役の医師、人間総合科学大学の今崎牧生助教授からは大変貴重なアドバイスを頂いた。また、いちいちお名前を挙げないが、作業過程で生じた疑問等に対し、脳外科、神経内科、理学療法士、臨床薬剤師などの多くの専門家にご意見を頂いた。記して謝意を表したい