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資料4 海外文献概説紹介
〔研究概説〕
4-3. マイアミ・プロジェクトによる脊髄損傷後の痛みに関する調査の紹介
脊髄損傷に伴う慢性疼痛を抱える患者が実施している治療法の種類と効果:疼痛の影響と心理社会的特徴
EG Widerstrom-Noga、マイアミ大学神経外科学部、マイアミプロジェクト
DC Turk、ワシントン医科大学麻酔学部(シアトル)
麻痺のメカニズムの解明と麻痺の治療法を研究している専門家的な学際的研究集団であるマイアミプロジェクトが、脊髄損傷後に発症する痛みの治療法の現状について調査を行っている。その目的は、脊髄損傷後の有痛率が高くその管理が難しいことから、治療を行うことで予測される結果と疼痛の特徴や心理社会的要因との関連性を評価することにあった。マイアミプロジェクトのデータベースに登録された脊髄損傷患者のうち以前の調査で疼痛を訴えている者で、受傷後1年半以上の患者にアンケートの調査票が郵送された。回収された回答のうち調査目的に合致した回答者120について治療法とその結果に主眼を置いた分析を行っている。Spinal Cord誌に掲載された論文の概要を紹介する。一般的な結論は難治であるということであり多くの研究と余り変わらないが、疼痛緩和治療の評価方法に参考になるものがあると考えられる。(マイアミ・プロジェクトは疼痛研究を研究課題の柱の一つに掲げている。)
研究の目的
脊髄損傷後の有痛率が高く且つ疼痛緩和が難しいため、特定の疼痛緩和治療法の実施に関連する諸情報を収集することは重要である。治療実施によって得られる結果と疼痛の特徴や心理社会的要因の関連性を評価することを目的とした。
対象
マイアミプロジェクトのデータベースに登録された18歳以上の脊髄損傷者で受傷後18ヶ月以上経過した患者。現在持続的疼痛を抱えている患者。
研究の方法
上記対象者258名に協力を依頼し、質問票セットを郵送した。電話催促も含め144名から回答を得た。電話確認によって現在持続的痛みを持たないもの24名を除き、120名の回答について集計・解析を行った。多面的な痛みの特徴を記した一覧表と患者の人口統計的基本属性及び疼痛に関連する全履歴を訊くための調査票と関連資料を郵送した。(120は連絡が取れて調査対象基準を満たしたものの75.5%)
質問事項は主として以下のようなものである。
(1) 人口統計的基本属性:@現在の年齢、A性別、B損傷時の年齢、C受傷後経過期間、D損傷部位、E婚姻区分(「独身」と「既婚」に区分され、「独身」には「離別/別居」「死別」が含まれる)、F教育水準(「高い教育水準‐準学士以上」、「低い教育水準‐中卒、高卒、専門学校卒」の二種で分類)、G雇用形態(「就業中もしくは学生」と「非就業中もしくは学生ではない」の二種で分類、前者には「フルタイム就業」「パートタイム就業」「学生」「自営業」が含まれ、後者には「失業中」「引退」「専業主婦/夫」が含まれる。) (2) 痛みの強さ:患者の抱える痛みの強さがどの程度かを評価スケール(尺度)の数値で示す。痛みのない状態を0とし最も強いと感じられる痛みの程度を10とした場合現在の自分の痛みをどの程度か数値で示してもらった。両者の間の平均疼痛強度を算出した。 (3) 痛みのある部位:現在体験している疼痛の部位を身体図(正面からと背面から身体の線を描いたもの)に示してもらった。身体図は、45箇所に区分けされているが、大きくは下記の8箇所の部位に分類される。(1)頭(2)首肩(3)手腕(4)正面体幹部と生殖器(5)背中(6)臀部(7)腿(8)脚足 (4) 痛みの性質: 回答者に24の形容詞からなるリストを提示し、「現在体験している疼痛を最もよく表している」語句に丸をつけてもらった。リストの語句は、脊損患者との面談および発表されている研究に基づいて選ばれた。例えば「焼けるような」や「うずく」など。
感覚麻痺部位の「焼けるような」痛みは、通常では神経因性疼痛(ニューロパシー痛)と関連しているが、損傷レベルより上の部位の「うずく」痛みは、侵害受容性の筋骨格系疼痛と関連性があることが多い。(5) アロデニィア(通常は痛みを誘発しない刺激に対して痛み発生)の有無:軽いタッチのような通常では痛みを誘発しない刺激に反応する疼痛や痛覚過敏(例:疼痛性刺激への過敏反応)は、神経因性疼痛と関連していることが多いため、その有無や発症部位があるかどうか答えてもらった。 (6) MPI(Multidimensional Pain Inventory−多面的疼痛行動評価質問項目一覧表):
マイアミ・プロジェクト、筆者らが開発した、60項目の質問からなる自己報告アンケートで、その回答によって疼痛の影響や慢性疼痛への適応を評価できるよう作られている。点数化して評価する(計56点)。(7) 疼痛管理の困難度:慢性疼痛を管理するのがどのくらい困難だったかを、評価尺度スケールで0から10までの点数をつけてもらった(0=まったく困難でない、10=非常に困難)。 (8) 疼痛緩和治療:全部で17の治療法(例:温熱療法、寒冷療法、マッサージ療法、超音波、経皮的電気神経刺激法(TENS)、鍼療法、その他物理療法、外科的療法、神経ブロック、外科手術、トリガーポイント注射、カイロプラクティック・マニピュレーション、心理療法、催眠術、瞑想、漢方薬、鎮痛薬)その他試みたものがあればそれも付記して、その効果に関する回答を求めた。鎮痛薬の内訳はオピオイド、抗痙攣薬、抗うつ薬、アスピリン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などである。
評価期間は過去18ヶ月とし、評価選択肢は@治療して痛みがひどくなった、A効果なし、B少しよくなった、Cかなりよくなった、D痛みが消えた、の5項目でそれぞれ点数化した。
薬物療法と非薬物療法は、数種類のカテゴリーに分類され、二種類以上の治療法を実施していて、それらの治療法が同一のカテゴリーに含まれる場合、合計した点数をそのカテゴリーの効果を表すものとして使った。
以上に関する回答について、以下のような統計的解析を行った。
カイ二乗( x2 )検定とt検定の両側測定を行い、多重比較を調整するためにボンフェローニ補正を行った。処方薬使用の結果を解析するのにロジスティック回帰分析を行った。結果についてはP値が0.05以下を統計的に有意とした。
結果
120名の回答者の受傷歴は平均9年以上で、受傷後数ヶ月以内に慢性的疼痛が発生していた。以後持続的疼痛に悩まされてきた。全回答者のうち71人(59.2%)が、過去18ヶ月間に何らかの疼痛緩和治療を行っていた。それには薬物療法(医師の処方による薬剤や処方無しの薬双方)あるいは非薬物療法を含む。40.8%は痛みがあるにも関わらず治療を行っていない。疼痛緩和治療実施群と非実施群は前述の人口統計的基本属性に関して統計的有意差はなかった。疼痛緩和治療と痛みの症状について得られた結果を整理すると以下のようになる。
【疼痛緩和治療】
患者が行っている慢性疼痛の治療法をタイプ分類すると以下のようになる。
T薬物治療 ―1. 処方箋を必要とする薬剤…オピオイド、抗痙攣剤、抗欝剤、抗痙縮剤、鎮静剤、
非ステロイド系鎮痛消炎剤(NSAID)2. 処方箋によらない薬剤…アセトアミノフェン、アスピリン、NSAID U非薬物治療 ―1. 理学療法…温熱療法、アイシング、マッサージ、電気刺激(TENS)、鍼、作業療法、その他 2. 医学的処置…神経ブロック、手術、トリガーポイント注射、 3. 心理療法…心理療法、催眠療法 4. その他…カイロプラクティックス、ハーブ療法
これらの治療法に関する回答は以下の通りであった(%)。
NSAID=非ステロイド系鎮痛消炎剤
治療法(事例実数) 悪化 効果なし 少し改善 かなり改善 痛み消える 理学療法(40) n 7.5 42.5 47.5 2.5 医学的処置(8) 8.3 41.7 8.3 33.3 8.3 心理療法(13) n 23.1 61.5 15.4 n その他(12) 7.7 84.6 7.7 n n オピオイド(27) n 18.5 48.1 22.2 11.1 抗痙攣剤(21) n 33.3 42.9 19.0 4.8 抗欝剤(15) 6.6 66.7 13.3 13.3 n NSAIDs(24) n 29.2 50.0 20.8 n 抗痙縮剤(20) n 45.0 40.0 15.0 n 鎮静剤(18) 5.6 16.7 55.6 22.0 n アスピリン(11) n 54.6 36.4 9.1 n アセトアミノフェン(22) n 36.4 45.4 18.2 n
この中で、処方薬服用者は48名(40.0%)、非処方薬服用者は36名(30.0%)、非薬物治療実施者は47名(39.2%)であった。この中には勧められたものや自己判断による治療もあったと思われる。回答者が実施している薬物治療で最も多いのはオピオイド(22.5%)で、次いで非ステロイド系鎮痛消炎剤NSAID(20%)であった。非薬物治療で最も多いのはマッサージ(26.7%)であった。最も多く実施されている治療法は、マッサージ(26.6%)、オピオイド(22.5%)や非ステロイド系抗炎症剤(NSAISs)(20%)だった。全体で効果的だった治療法は「理学療法」であり、この治療を受けた50%が、痛みが「かなり軽減した」、あるいは「なくなった」と回答している。オピオイドと抗痙攣薬も効果的な処方薬物だと思われる(服用したそれぞれ33.3%と23.8%が、痛みが軽減した、あるいはなくなったと報告している)。
【痛みの強さ】
疼痛緩和治療を行った患者、また医者から処方された薬を使用した患者の方が痛みの強さが有意に高かった。非薬物療法及び処方されない薬の服用と、痛みの強さとの間には統計的関連はなかった〔痛みの強い患者ほど治療経験や服薬経験が多い〕。
【痛みの部位】
処方薬を服用している患者の方が、非薬物治療や非処方薬服用患者より、身体の広範囲にわたって痛みを訴えていた。身体の前部位と生殖器周辺部位に痛みを持つ患者に処方薬服用率が有意に高かった。
【痛みの性質】
処方薬を服用している患者の痛みの表現は、そうでない患者のものよりもはるかに多様であった。最もよく使われている表現は、「焼けるような」、「うずくような」、「鋭い」であった。
【アロデニィアや痛覚過敏の有無】
処方薬服用患者は、そうでない患者よりも、アロディにア等の異常知覚や痛覚過敏を訴える頻度が高かった。この種の痛みも身体の体幹前部や生殖器周辺部位に多く認められた。
【疼痛管理の困難さ】
処方箋を必要とする薬の服用者は、非服用者に比べ疼痛管理が大幅に困難であると感じている。
【痛みの影響】
MPI評価における疼痛強度と生活障害スコアで見た場合、処方薬服用者のスコアは有意に高かった。しかし、生活管理、情動ストレス、サポートの点でのスコアに関しては、処方薬服用者と非服用者(非処方薬服用、非薬物治療も含む)との間では有意差はなかった。
【重要な他者(身近な近しい者)からの反応】
薬物治療、非薬物治療、処方薬治療、処方薬服用なし、非処方薬服用それぞれについて、最も身近な者から認められるMPI諸項目の反応スコアにも統計的有意差はなかった。
【活動への影響】
痛みがどれくらい活動レベルを下げたかを、MPIでの一般活動評価スコアでみると、処方薬服用者で有意に大きかった。特に活動レベルが低下しているのは「外出」であった。
【処方薬服用と他の諸要因との関連】
処方薬の服用と他の諸要因、性別、損傷レベル、損傷時の年齢、配偶者の有無、教育水準、就業状況、MPI(影響スケール)、MPI(活動)、痛みによりどの程度の活動レベルが低下したか、疼痛のある部位の数、痛みを描写する表現法の数、平均疼痛強度、疼痛管理の困難さ、誘発性疼痛の有無など、との関連を分析した。
処方薬の服用との間に最も関連性があるのは、疼痛管理困難度の高さ、平均疼痛強度の高さ、誘発性疼痛の存在、身近な者からのサポート、および結婚していることだった。
考 察
脊髄損傷患者の多くが、受傷後数ヶ月以内に異常疼痛が発生し、治療法が多種あり利用できるにもかかわらず、持続的疼痛を体験していることがわかった。こうした疼痛は睡眠など重要な日常生活の妨げとなり、脊髄損傷に伴う二次的影響をかなり受けている人にとっては、さらなる困難が生じることになる。持続性疼痛がある場合、損傷後の最適なQOLを得ることが難しくなる。
興味深いことに、回答者のかなりの割合(40.8%)が、痛みを軽減するために何の治療も実施していなかった。疼痛治療を行なっている患者と行っていない患者の間に、人口統計的基本属性に関して統計的有意差はなかった。しかし、当然のことながら、疼痛管理治療を行なっている人は、自分の痛みがかなり深刻であると認識していた。
非薬物治療法と非処方薬服用者においては、疼痛の特徴や疼痛への社会心理的要因の影響、行動要因の影響との間に統計的関連性はなかった。一方、処方薬服用者にはこれらの点で関連性が認められた。痛みの範囲も広く、疼痛強度も高い。非有害刺激による痛みや過敏痛の体験者でもある。他の諸要因との関連性は以下の順位で高い。疼痛管理の困難度、平均疼痛強度、誘発痛の存在そして手厚いサポートであった。強い神経因性疼痛を体験している脊髄損者は、処方薬を服用しても痛みを管理する困難さを感じている。処方する医師は、疼痛の重症度と社会心理的要因、社会的機能への影響の双方に対応しているようである。手厚いサポートを受けているケースほど服用薬使用傾向が強いのは、敏感なサポーターやパートナーがいるほど疼痛の訴えが増幅されることを反映しているかもしれない。
回答者が試みた治療法に関する調査結果のポイントは以下の点である。
オピオイドは、侵害受容性疼痛に効くほどには神経因性疼痛には効かないと考えられているが、今回調査の結果はこの薬の実用性について、さらなる調査が必要であることを示唆する。例えば、脊髄損傷者の損傷部位以下麻痺部位の神経因性疼痛にも「オピオイド反応のよい」ケースがあるかもしれない。また、オピオイドは、回答者が体験した侵害受容性疼痛を軽減したので、疼痛強度全体が下がったのかもしれない。残念ながら、各種疼痛を別個に評価しなかったため、この仮説を調べることができなかった。
一方、マッサージや理学療法は、痛みの軽減に最も使われる非薬物治療法である。様々な理学療法により、これらの療法を実施した人の50%が、かなり痛みが軽減したと考えられた。このような治療法は、受傷後だいぶ経ってからでもかなりの割合の人に、鎮痛剤の補助治療法として使われる可能性があるだろう。
適切な疼痛管理をうまく行うことができない理由のひとつとして、疼痛を引き起こし持続させる機序についてあまり理解されていないということが挙げられる。脊髄損傷患者は、一種類または複数種類の疼痛を同時に体験することがある。これらの疼痛とは、背中、首、肩に起こる筋骨格系疼痛などの侵害受容性疼痛や、損傷レベルまたはそれより下のレベルで発症する神経原性疼痛などである。原因が何であれ、心理学的機序および病態生理学的機序により、いずれ疼痛は増幅しそのまま持続するかもしれない。従って、疼痛管理の総合計画ではこの双方の要因が考慮されるべきである。
二種類以上の疼痛があるとき、様々な機序を対象とした治療法を組合せると、効果が上がるであろう。
この調査の結果から、脊髄損傷に伴う慢性疼痛を管理するために利用できる治療様式が不足していることが確認された。
様々な疼痛の基礎的な機序が異なっており、その相違が治療への反応を左右することはおおいにあり得るだろう。今後、脊髄損傷患者の治療法に関する調査は、個別の疼痛種類を区分することを行っていかねばならないだろう。今後の研究で重要な分野は、疼痛タイプと心理社会的影響との双方に合わせた治療計画である。そのような治療計画によって疼痛を有する脊髄損傷患者の治療結果を改善する可能性があるからである。■
〔典拠参考文献〕:EG Widerstrom-Noga、DC Turk Types and effectiveness of treatments used by peaple with chronic pain
Associated with spinal cord injuries:influence of pain and psychosocial characteristics
(Spinal Cord 誌 Vol.41、No.11、2003)
・ 翻訳:伊藤美乃里(赤十字語学奉仕団) ・ 要約:阿部由紀
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