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資料1 「パイロット調査」概要
脊髄損傷に伴う合併症・後遺症の中で、異常疼痛・異常感覚も患者を苦しめる難題の一つである。
2002年後半、脊髄損傷後の異常疼痛実態調査のための、「パイロット調査」を試みた。その結果を要約的に紹介する。
1.回答者概要
* 2002年12月初旬までの協力申し出者、計20名。(内、外傷性11名、非外傷性9名。男15名、女5名) * 2003年2月までの回答数、18名。(東北から九州まで、1都8県に居住の方々) * 損傷部位 : 高位頸髄、下位頸髄、 胸髄、 腰髄、腰 椎損傷による馬尾神経(外傷性、非外傷性共に含む)。 * 麻痺の程度 : 医師宣告「完全」7名、その他は「不全」ないし不明。四肢麻痺から、下半身麻痺、頸損や胸損でも歩ける、まで。ほとんど寝たきりから復職まで。 * 外傷性の原因:自動車事故、転落(仕事中、登山中、家屋から)、倒壊物の下敷き。 * 非外傷性の原因 : 脊髄腫瘍星状細胞腫、同上皮細胞腫、動静脈奇形、同瘤破裂、潜水による脊髄梗塞、解離性大動脈瘤手術による脊髄梗塞、白血病の胸髄への転移、硬膜外血腫、硬膜外膿瘍、痛み治療の手術による脊損(脊髄後角焼灼、脊髄切断の結果疼痛増悪)等。(医原性も含む脊髄疾患の大部分が出揃った感あり) * 回答時年齢 : 最年少 32歳、最高齢 72歳。主に40歳代、50歳代。 * 受傷時年齢 : 最年少18歳、最高齢62歳。 * 損傷歴 : 最短1年弱、最長22年。基本的には痛みの経過を観測できる数年以上を対象とした。ただ最近の治療情報も得るため近年受傷事例も求めた。 * 鎮痛治療歴 : 全く治療経験のない者もいるが、ほとんど何らかの治療経験あり。 治療法のうちで、本人が、効果があったと認めているのは以下の5例。
- 精神科医による多剤多量の抗鬱剤処方−2例
- 大量モルヒネ(MSコンチン+抗鬱剤)
- バクロフェン髄腔内投与による痙性緩和(少なくとも痙性と痙性痛は緩和。在宅治験中)
- 脊髄後角焼灼手術
2.以上の回答分析から得た論点
(1) 多くの人は、痛みについては、話したところで仕方がない、と思っている。その主な理由(回答確認の電話やメール交換においても、多くの人が言及):
- 医師が早い時期に「しびれと痛みと痙性は仕方がないので、 諦めて共存する他ない」 と語っている点にあるように思われる。
- 同じ脊損者の中でも痛みをあまり持たないらしい人が突出していて、仲間内でも「気の持ちよう」とされてしまうので、言っても仕方がない、共通の言葉にしようがないと思っている。
痛みや感情はなかなか適切な言葉で表現出来ず、その部分での交流がしにくい、と思っている。
時にはドクター、ナースからも麻痺しているから痛みはない、と思われ、脊損仲間からも、痛みを訴えると「気のせい」「精神的なもの」と思われる傾向もあるため、まだまだ声にならない実情あり。
(2) 予想以上に多様な回答が返ってきた。質問票は回答者にとって懸念されたほど膨大でも難しすぎもしなかった。追加すべき設問項目も増えた。
ただ、回答内容について、再確認の必要が出てくる回答事例が多いと思われる。(1) (2)から更 に「痛み」の実状を掘り起こす作業が必要と思われる。
(3) 受傷歴の長い多くの事例で、急性期医療対応に問題があると思われる事例が多かった。疼痛管理や痙性管理に急性期医療のあり方が関連しているかも知れない。
カナダや欧州では、急性期や初期リハビリ期の対応によって、ひどい痛みや痙性を在宅に持ち越さない、という医療的考え方もあるようである。近年では、「先制的疼痛管理 (Preemptive Pain Con-trol)」が医学、医療の現場のテーマになっているようであり、これらに関する医療情報を収集したい。
(4) 多くの患者は在宅移行後、孤立してドクターショッピングを繰り返し、患者も医師も達成感を得られないままの悪循環が繰り返されているのが現状ではないか、と思われる。とすれば、医療経済的に見た疼痛治療に関連する社会的費用は思いのほか膨大な額になるであろう。
(5) 在宅移行後に孤独なドクターショッピングに走り、「過剰医療依存症候群」の深みに嵌まり込んでいく傾向を回避するためには、さまざまな痛みのタイプ、症状を知り、疼痛緩和治療法の正確な知識を持つ必要がある。その手段となるよう、痛みのタイプ、症状の実情を情報として整理し、現在行われている疼痛緩和治療法に関連する情報と、生活自己管理(看護・介護も含む)の工夫の情報を共有出来ることが望ましい。
(6) 多くの患者が様々な治療法を試み、結果もさまざまである。患者の立場に立って多くの人の疼痛治療経験から、疼痛緩和に有効であった治療法について、そのメリットとデメリットを経験則的に検証し、同時に、脊損痛緩和にあまり意味のない治療法を経験則的に検証してみる必要がありそうである(患者自身の経験の集積が必要)。
(7) 多くの経験の中から「有効な治療法」を見出していくという、即「すぐ役立つ」情報収集にはなり難いと予想される。しかし以上の点を考慮するなら、脊損痛の現状・実態把握と解決のための課題を検討する上で、対象を拡大した調査を実施する意義は充分あると考えられる。