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長期の気管切開カニューレを抜くことができた
5歳の女児例
国立療養所八雲病院小児科医長
石川 悠加

ニュージャージー医科歯科大学
リハビリテーション科&ニューロサイエンス科教授
ジョン・R・バック

(「難病と在宅ケア」vol.5 no.3)


 3才の時、脊髄損傷
 患者さん(以下、Tちゃんと呼びます)は、3才の時、交通事故で、頚髄損傷(C2)を受けました。これは、映画スーパーマンで有名な俳優のクリストファー・リーブが、落馬した時のケガと同じです。頚髄損傷では、手足が動かなくなるだけでなく、息をする呼吸筋も麻痺します。クリストファー・リーブも、「頭の中では、苦しいから息をしようとしているのに、空気が入ってこないので、パニックになった。そして、しばらくして、意識を失った。」と後に語っています。

 Tちゃんも、3才の時、きっとそんな大変な体験をして、大きな病院の救急部で、気管内挿管といって気管に管を入れて、人工呼吸器をつけて呼吸を助けたのでしょう。自発呼吸といって、普段は、私達は、起きている時はもちろん、寝ている時でも特に意識しなくても息を吸ったりはいたりしています。でも、事故の後から、Tちゃんには、自発呼吸がなくなりました。それは、13日目になっても出てこなかったので、もっと長く人工呼吸を続けるために、気管切開をしました。


 事故から2年間の回復
 頚髄損傷から26日目に、弱いけれど自発呼吸が出てきました。2ヶ月後に小児科に転科し、手足のリハビリテーションをしながら、人工呼吸器を付ける時間を、24時間から徐々に短くしていきました。呼吸器をつけるのは夜間だけで良くなり、1年後には退院し、4才から在宅人工呼吸を始めました。家では、お母さん、お父さんと夜も一緒だし、お兄ちゃんとは、好きな時に遊んだり、兄妹ケンカも負けてはいません。

 事故直後はほとんど動かなかった手足も、病院と自宅で訓練を続けるうちに、事故から3ヶ月後にまず左手を挙げるようになり、1年半後に、支えると立っていられるようになりました。事故から2年後には、つたい歩きができるようになり、さらに装具を付けてお母さんに手をひかれてゆっくり15メートルくらいまで歩くようになりました。

 事故後は、神経因性膀胱といって、尿を出そうとしてもうまく出し切れないようになり、お母さんが、一日に数回ずつ、カテーテルで導尿をしていました。大学病院の泌尿器科の先生が診て下さっており、事故から2年後、「だんだん自力で出せる尿の分が多くなってきたので、そろそろ検査をして、導尿の回数も減らしていけるかもしれない」ところまできました。

 他に、胃腸のトラブルが起こりやすく、お腹が張って点滴をすることが時にあったので、食事にも気をつけていました。急性胃拡張になると、息が苦しくて、パルスオキシメーターで測る酸素飽和度が低下し、病院まで人工呼吸器を付けながら救急車で行ったこともありました。


 気管切開チューブの吸引に代わって
 5才の時、Tちゃんは、もう、朝方少しの間と風邪をひいた時しか人工呼吸器を使わなくなっていました。気管切開カニューレが入っているため、特別の通園施設にお母さんが付き添って行っていました。ある日、お母さんとお父さんは、患者さんの情報誌を読みながら、今ならTちゃんの気管切開カニューレを抜くことができるかもしれないと考えました。でも、心配なのは、「現在気管切開カニューレから吸引している痰を、自分で咳をして口から出せない可能性がある、そうすると、痰が詰まったり、肺炎になるかもしれない。」ことでした。


 外来で呼吸機能評価
 かかりつけの先生の紹介で、5才の夏に、家族皆で当院の外来に来たTちゃんは、ちょっと緊張していました。一時的に、気管切開カニューレを抜いて(図1)、気管切開口をデュオアクティブドレッシング〔創傷被覆材〕で塞ぎました。理学療法士で呼吸療法認定士でもある三浦先生により、気管切開口を一時塞いで呼吸機能評価を行いました。パルスオキシメーターによる酸素飽和度は、95〜96%、鼻カニュラを用いた呼気終末炭酸ガス(EtCO2)は55mmHg前後でした (図2)。

長期の気管切開カニューレを抜くことができた5歳の女児例(石川悠加・J.Bach)
図1 気管切開チューブを抜いて、ポーズ
図2 気菅チューフを抜いて、酸素飽和度と、鼻カニュラを用いた呼気終末炭酸ガスモニター
結果は、肺活量(VC)=220ml(仰臥位) 310ml(坐位)
図3 ピークフローメーターで、咳の最大流速 (PCF)測定
最大流速(PCF)=42L/min(仰臥位) 50L/min(坐位) (図3)


図4 徒手による介助咳
図4 介助咳の最大流速(Assisted PCF)= 42L/min(仰臥位)
88L/min(坐位)(図4)

 最大強制吸気量(MIC)(図5〜7)は、この時点では、測定不能でした。でも、だんだん慣れてできるようになりますので、チューブを抜いてから、喉咽頭機能が回復してきたら、再測定することにしました。

図5 最大強制吸気量(MIC)を得る方法の一つで、救急蘇生用バッグで、肺に一杯空気を送る
図6 MICを得た時点で、息ため(エア・スタッキング)を3秒程度行う
図7 ためた息をゆっくりはき出す。ベッドサイドでも、流量計で簡単に最大強制吸気量(MIC)を測ることができる


 排痰のための咳補助をするカフマシーンを試用したところ、協調を得られそうでした1) (図8)。鼻マスクをあてて陽圧人工呼吸を行うNIPPVにも、協力が得られそうでした2)(図9)。

図8 カフマシーンの陰圧時に、徒手による介助咳を行い、排痰効果を高める
図9 夜間の鼻マスク人工呼吸
図10 舌咽頭呼吸


 気管切開部位を塞いで1ヶ月
 5才の冬に当院に入院し、気管切開カニューレを抜いている時間を昼間徐々に延長し、呼吸リハビリテーションを行いました。一週間後には、気管切開部位をデュオアクティブで塞いだままにしました。日中の酸素飽和度は96〜97%、EtCO2は38〜43mmHgでした。

 しかし、疲労時、痰がからんだ時は、酸素飽和度が80台、一時的には60台に下がったり、EtCO2は52mmHgまで上昇しました。塞いだ当初は、特に朝は痰が上がってきても出し切れず、カフマシーンによる排痰(図8)、NIPPVの呼気時に徒手による咳介助を要していましたが、だんだん自分で口から痰が出せることが多くなってきました。また、痰が、気管切開口を覆っているデュオアクティブに付着したりすることも、減りました。

 気管切開チューブを抜いて2週間後の呼吸機能の結果は、肺活量(VC)=265ml(仰臥位) 380ml(坐位)%肺活量(%VC)=39%

咳の最大呼気流速(PCF)=70L/min(仰臥位) (図3)
介助咳の最大呼気流速(Assisted PCF)=153L/min(仰臥位) (図4)
最大強制吸気量(MIC)=630ml(仰臥位)と改善していました (図5〜7)。

 理学療法士の三浦先生から、呼吸リハビリテーション・ホームプログラムをお母さんに指導しました3)4)。息ため(エア・スタッキング)は、アンビューバッグとフェイスマスクで行いました(図5、6)。咳介助、舌咽頭呼吸(GPB)(図10)も、ストレスにならないように練習することにしました。

 気管切開口は小さくなってきましたが、まだ完全には閉じていないので、時期を見て、気管切開口の閉鎖術を行うかもしれません。

 夜間のNIPPVは、今まで気管切開で使っていた携帯型の人工呼吸器で行いました。それに、加湿器を除いた回路を、ゴールドシールマスクにつないでヘッドキャップで固定します(図9)。今後、肺活量が増えて、呼吸パターンが改善してくれば、1年くらいのうちに、風邪をひいた時以外は不要になるかもしれません。

 力フマシーンの条件は、陽圧+40cmH20、陰圧−40cm H20、吸気時間1.5秒、呼気時間2秒、ポーズ0秒が本人のタイミングに合うようでした。肺活量とPCFがもう少し上がってくるまでの間に、風邪をひいたり、喀痰排出困難時には、使えるようにしておきました。気管切開カニューレを抜いてから1ヶ月で、自宅に戻りました。


 皆と一緒に幼稚園
 ところが、家に帰るとすぐ風邪をひいてしまい、痰の量と粘度が増えてきて、また痰を出すのが大変になり、酸素飽和度が低下しましたが、かかりつけの先生に早速点滴などをしていただき、肺炎にはならずに、数日間で回復しました。

 朝起きると、呼吸リハビリテーションをお母さんとして、痰を出してから、念願の幼稚園バスに乗ります。お母さんは付いて行きません。バスの中でも、教室でも、痰がからんだら、自分で一杯空気を吸い込んでから溜めて、ゴホンと一気にはき出すと、うまく痰が口から出てくるようになりました。


 Eメールでアドバイス
 Tちゃんの呼吸ケアについては、このような経験の豊富なバック先生や、Tちゃんのお母さんが知っているカナダの呼吸療法士さんに、Eメールでいろいろお聞きして、アドバイスを得ました。末筆ながら、当院へTちゃんをご紹介戴き、現在も熱心に外来フォローをしてくださっている市立札幌病院小児科内藤広行先生をはじめ、関係方々に深謝いたします。

 参考文献
1) 石川悠加:カフマシーン、筋ジストロフィーはここまでわかったPart 2、筋ジストロフィー研究連絡協議会(編集幹事 埜中征我)、厚生省精神・神経研究委託費筋ジストロフィー研究連絡協議会、医学書院、東京、1999:229-238
2) Bach JR, 石川悠加:神経筋疾恵の呼吸管理;小児期からのMINIPPVマニュアル、日本小児医事出版社、東京、1996
3) 石川悠加:呼吸の問題;指導パンフレット;子どもの筋疾患のいろいろ、埜中征哉(編)、(社)日本筋ジストロフィー協会、東京、1999:33-35
4) 石川悠加:小児筋疾患の管理、小児内科、30:1245-1249, 1998


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