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気管切開によるIPPV患者の段階的マネージメント
【ステップ1】
患者の全身状態を安定させ、酸素付加は中止、あるいは使用を最小限にした。気管切開せずにNIVを使用している患者同様、気管切開によるIPPVの一部患者のために気管内吸引の代わりに積極的な徒手による咳補助、または機械的咳補助を行なった。
表1 気管切開をした高位脊髄損傷者の呼吸リハビリテーションのステップ TIPPV=気管切開による間欠的陽圧人工呼吸
MIPPV=マウスピースやリップシールによる間欠的陽圧人工呼吸
GPB=舌咽頭呼吸 IPPV=間欠的陽圧人工呼吸
PB=Pneumobelt(ニューモベルト)を用いて間欠的腹圧式呼吸器(IAPV)
【ステップ2】
患者は全員、携帯型従量人工呼吸器*を、あるいは患者の要望があれば従圧式人工呼吸器**を装着した。カフのエア抜きについては、患者が日中ずっと空気を抜いた状態に耐えられるようになるまで、空気を抜いている時間を毎回1時間ずつ延長していくことで完全なエア抜きを行なった。
* 調整・補助換気時に、設定した換気量を送り呼気に移行する。 ** 調整・補助換気時に、最大吸気圧まで速やかに吸気を送り、設定した吸気時間内は圧を維持して呼気に移行するタイプ。
その後、夜間はカフ内のエアを一部減らした状態で使用した。人工呼吸器の圧をカフを膨らませた状態と等量に保つため、流量を増やした。
必要な場合には、発話に十分な漏れが得られるように患者の気管切開チューブの直径を変更した一方で、流量を通常1〜2Lにし、補助換気の有効性が保てる程度に調整し維持しておいた。流量設定を調節し、PCO2レベルを35〜40 mm Hgに保った。
気管の健常性、気管切開チューブの太さ、および舌と声帯の意志運動により、各呼吸ごとに、声帯経由の吸気量と「リーク」する量が決まる。このリークを利用し、人工呼吸の吸気相で発話した。終末呼気PCO2に加え、さらに最近では睡眠時モニターにもオキシメトリー〔混合静脈血酸素飽和度(SvO2)を連続的に測定〕を使用した。睡眠中は、酸素飽和度が85パーセントを超えた数値になるよう保ち、95パーセント以上の平均値となるよう維持した。
声量は、気管切開チューブのカフエアを抜いてIPPVを装着している間、人工呼吸器のサイクリックなリズムに伴って強くなったり弱くなったりした。声量が弱い場合は、不適切な流量、太すぎる気管切開チューブ、もしくは、肉芽組織起因であることが多い声紋閉塞のいずれかの徴候であった。
こうした患者はカフのない気管切開チューブを使用すること、直径の小さい気管切開チューブを装着すること、または手術適応であれば肉芽組織を切除することで、正常な換気および声量の改善に適した流量が得られた。ある男性患者のために呼気弁に逆流防止弁を取り付けたところ、継続的な会話が可能になった。
【ステップ3】
患者はカフの空気を抜いて24時間の気管切開によるIPPVを使用できるようになった。カフ内のエアを減らす方法は、時間の経過に伴い看護スタッフが徐々に(カフ内の)エア量を増やしてしまう傾向があることから推奨されなかった。一部の患者には気管切開チューブの開口部を開放したまま鉄の肺や体外式陰圧人工呼吸器による換気補助を導入した。気管切開チューブを鉄の肺のカラー(訳注:首の密閉箇所)より上部に維持するよう注意を払った。
【ステップ4】
患者全員に、気管切開チューブに栓をした状態で、日中の換気補助用にマウスピースによるIPPVの使用訓練を受けさせた。患者は各自、鼻からのリークを防ぐために軟口蓋で鼻咽腔を閉じることを学んだ。一時的に外鼻孔をつまむことで、患者がこの訓練の必要性を理解する一助となった。長期間カフを膨らませて使ってきた患者は、マウスピースによるIPPVの試用中にまず、完全に内転してしまっていた自分の声帯を以前していたように動かし始めた。患者は皆、自分でフローを閉塞させていることには気付いていなかった。これを気管狭窄と間違われることは少なくない。
患者は各自、効率的なマウスピースによるIPPVを可能にする反射的声帯外転をうまく再習得した。これには数分間の試みから始め、毎日試み続けて数週間という期間を要したが、一度マスターしてからは日に三度試すマウスピースによるIPPVのセッションを徐々に長くしていき、日中ずっと耐えられるようにまでなった。
日中のマウスピースによるIPPVを一度マスターしてしまえば、気管切開チューブに栓をしたままで夜間の補助に体外式陰圧人工呼吸を使用することが可能である。体外式陰圧人工呼吸の使用は、陽圧人工呼吸による気管切開孔への空気の吹きつけを軽減して気管切開の傷口を閉じ易くするだけでなく、早期に使用すれば試用初期の呼吸困難の恐怖を軽減し、マウスピースによるIPPVのトレーニングも容易にする。
マウスピースによるIPPVは会話のリズムを正常化し、日中の正常な換気をもたらし、自分の意志による吐息や大声、補助咳のための「息溜め(air stacking)」を可能にする。有窓の気管切開チューブへの変更は、気管切開チューブに栓をしたままでカフの空気を抜いて体外式陰圧人工呼吸を使用する有効性の向上、ならびにマウスピースによるIPPVの有効性を向上させることが多かった。また、マウスピースによるIPPV下では、あるいは人工呼吸器からの離脱が可能な例では、離脱時の会話の声量が向上した。しかし、市販のチューブでは時として、開窓部が気管後壁に接した位置にきてしまい、気管粘膜が開窓部内へ陥入し、有窓チューブとしての効果をなくしたり、肉芽形成の悪化を招いて出血の原因となることがある。適切な位置で開窓は、有窓チューブのオーダー・メイドや小さい径への変更で達成出来た。
【ステップ5】
患者はカフなし気管切開チューブを使用するところまで進んだ。大多数の患者は適正な換気と声量の保持に気管切開チューブ径の変更を必要とすることはなかったが、リーク増加分を補うために人工呼吸器の流量を倍程度にしなければならないことは多かった。
腹部・骨盤開口術を受けていない限り、または留置カテーテルをつけていない限り、患者は全員がIAPV〔間欠式腹圧式呼吸器〕による換気補助を試みた。IAPVが適正に換気を増やせるようになるまでには、ベルトの適正なサイズと位置、バックルやVELCRO〔マジックテープ〕ストラップの適正な圧を見極めるために数回の試用が必要になることが多かった。患者は自分の呼吸をIAPVに合わせることも習得した。IAPVは肺活量(VC)が測定出来ない数多くの患者の換気に有効だったが、著しい背骨の変形や内因性の肺疾患が存在する場合や患者が30°以上の角度で身体を起こしていない場合には通常、効果はなかった。IAPVは美観に優れ、IAPVにより、患者は自由に口を使うことができた。
【ステップ6】
人工呼吸器からのウィーニング〔離脱〕はマウスピースによるIPPVにより簡易化された。患者の口の近くにマウスピースを固定し、患者が首を廻せばアクセスが可能であるようにした。患者が必要とする補助換気の減少に伴い、マウスピースIPPVの使用も自然に減少し、自力でウィーニングを行なった。自発呼吸中に気管切開IPPVを外していると不安になる患者が多いが、この経口IPPVによる方法を行なうことで、患者の不安は軽減された。
夜間にも、ベネット社製のリップシールによるIPPVを使用した。栓をした気管切開チューブ周辺の気管切開部のエアリークを最小化するために褥瘡用ドレッシング(訳注:デュオアクティブなど)を貼ることもあった。
意欲的な患者全員にGPB〔舌咽頭呼吸〕を教授した。GPB習得の第一の適応者は、肺活量が500 mlより下で気管切開しておらず、口腔咽頭筋が健全で人工呼吸器からの離脱時間がない患者であるが、一部のGPBは気管切開チューブに栓をし、カフの空気を抜いたり、カフを外していても可能である。患者のGPG習熟の進行状態をモニターするために、一呑込み(one gulp)で何mlの空気を吸い込むか、一呼吸に相当する呑込み回数、分時呼吸数またはGPB分時換気量について、毎週観察を行なった。
【ステップ7】
NIVの有効性が確立されたら、通常は気管切開チューブを気管切開ボタンに交換し、その後、最終的に気管切開部位を閉じることができるようになる。
【ステップ8】
総じて、患者は各種の様式のNIVを試し、有効な方法かつ好みにあう方法が使用できた。ストラップのない口鼻マスクを作ることは、今回なかった。夜間にリップシールによるIPPVを受ける患者に、鼻からの過剰なリークを防ぐために綿の鼻栓を必要とする者はいなかった。他の状態にある患者と同様、気管切開しておらず、NVAにつながれており、ある程度の人工呼吸器からの離脱時間のない患者は、歯の処置の際には、経鼻IPPVかIAPVを使用した。
上気道炎や単純な肺炎の間、一部の患者は一時的に鉄の肺やPorta-lungという体外式陰圧人工呼吸器(コロラド州ボールダー所在の Porta-lung 社製)を使用した。これにより、マウスピースを一時的に除去して口から吸引や気道分泌物を除去する間、効率的な換気を確保することができた。
他の患者は、排痰のために咳を強くしようとしてより深くより頻回に深呼吸をし、そのために疲労が増したため、さらに長い時間マウスピースによるIPPVを続けた。一部の患者はこうしたエピソードの間、体外式陰圧人工呼吸器とマウスピースによるIPPVを同時併用した。挿管を必要としたのはNIVと最小限の酸素付加による代償が不適切だった肺炎および著しい換気/血流不均等の患者だけであった。標準的ケアには適切な診断、抗生物質、頻回の呼吸理学療法、体位ドレナージを含んでいたが、こうしたエピソードの間には支持的ケアも不可欠であった。
結 果
74名の24時間の気管切開によるIPPV患者(最高では1日24時間まで気管切開チューブのカフエアを入れている)と、気管内挿管によるIPPV患者4名を含む80名の患者全員が、首尾よく陽圧従量式、またはある場合には従圧式の携帯式人工呼吸器を装着した。遅発型呼吸不全患者2名には、夜間の体外式陰圧人工呼吸器による換気補助なしに管理し、日中の換気補助のため携帯式陽圧人工呼吸器を使ってマウスピースによるIPPVの訓練をした。その後、この2名の患者の呼吸機能が悪化し、現在1名は日中時間常にマウスピースIPPVが必要であり、人工呼吸器からの離脱時間は2時間未満である。
74名の気管切開によるIPPV患者のうち、完全な口咽頭筋を有する73名は全員が支障なく有窓チューブに切り替えることができ、日中の人工呼吸サポート時間を長くするためにチューブを挿入したままマウスピースによるIPPVを使用した。
74名の患者のうち70名は、また、任意の直径のチューブにカフエアを抜いたままで最高24時間の気管切開によるIPPVに切り替えることができた。これらの患者はすべて人工呼吸の吸気サイクルの間に完全に発話することができた。
カフエアを完全に抜くことができなかった4名のうち3名は、長期のカフ使用による重症の気管軟化症がみられたため、幅の広いチューブを挿入するのではなく、睡眠時にカフエアを少量だけ入れるようにしていた。
残りの1名は頭部外傷による喉咽頭機能障害が著明にあり、このためカフエアを抜いたり、NIVへの移行はできなかった。
カフを完全に抜いた24時間の気管切開によるIPPVに進んだ70名の患者のうち、9名がカフエアを抜いて退院し、12名はカフなしのチューブに進み、カフなしのチューブを挿入したまま退院した。これらの退院患者は退院後にマウスピースによるIPPVを使用しなくなった。このほか、7名の患者はカフなしのチューブおよび日中IPPVサポートまたはマウスピースによるIPPVを使用し、夜間は気管切開によるIPPVを行って退院した(表2)。その他の15名は退院時にNIVで換気補助されていた。
表2 非侵襲的換気療法を受ける患者の人工呼吸器使用のパターン *風邪の間および1回だけ肺炎中、1日24時間使用した。
その他の場合には、疲労のため1977 年以降1週 2日数時間まで使用した。
TIPPV=気管切開による間欠的陽圧人工呼吸
MIPPV=マウスピースやリップシールによる間欠的陽圧人工呼吸
IAPV=間欠式陽圧式呼吸
当初気管切開しその後NIVで完全サポートしたこれら患者15名のうち、3名は遅発性呼吸不全があり、呼吸不全の症状が現れた時には、もう気管切開チューブは挿入してなかった。他の患者12名は、ときには生命を危うくする気管切開チューブ関連の合併症を持っているか、または、ひたすら気管切開チューブを抜去してNIVを続けることを願っていた。うち4名は,仰臥位肺活量がそれぞれ50, 430, 740, 560mlでありかつ人工呼吸器からの離脱時間があまりなかったにもかかわらず、気管切開部位の閉鎖を受けた。
NIVの完全サポートを受けた患者は、2人を除いてすべて、最高24時間までの換気サポートを必要としたにもかかわらず、気管切開部位を閉鎖した。閉鎖しなかった2名の患者は、重い気管狭窄症に陥っていた。細い気管内チューブを留置しなければならなかったが、補助換気に不利になるため使用しなかった。このほか呼吸不全になってから一度も気管切開することなくNIVによってのみ管理できた3名の患者がおり、また気管切開チューブなしにNIVによりサポートされる患者は合計18名であった。
とくに座位での肺活量が低下した18名の患者のうち、3名は長期の日中マウスピースによるIPPVのみを必要とし、換気補助なしに眠ることができた(表2)。この患者3名は、普段は夜間のリップシールによるIPPVに、風邪または極度の疲労の間にのみ、24時間までのマウスピースかリップシールによるIPPV併用した。
他の患者2名は夜間リップシールによるIPPVだけで退院した。それぞれが何度も人工呼吸器離脱を試みたが、その結果呼吸困難に陥り、繰り返し肺炎を起こした。
7名の患者は24時間NIVで退院した。夜間換気補助については、7名の患者のうち、6名がリップシールによるIPPVを使用し、1名は体外式陰圧人工呼吸器を使用した。日中の換気補助については、6名の患者がマウスピースによるIPPVを使用し、1名は主としてIAPVを使用した。4年間1日24時間のマウスピースかリップシールによるIPPVにより換気補助された患者3名は、過去14年間夜間リップシールによるIPPVのみでやってくることができた。
さらに、完全な呼吸不全の発症時から気管切開なしに管理された患者6名(当初に気管切開したが、その後すぐに閉鎖してから、遅発性呼吸不全を起こした3名の患者を含む)のうち、3名は1日24時間までのマウスピースかリップシールによるIPPVによりサポートされ、残りの3名は夜間体外式陰圧人工呼吸器により換気補助された(表2)。これらの患者の1名は経鼻気管内挿管によるIPPVからマウスピースかリップシールによるIPPVに直接切り替えられていた。
ほとんど人工呼吸器からの離脱時間のないNIV使用患者7名は、少なくとも1年間、平均で7.4±7.4年(1年から22年)の間NIVを使用してきた。肺活量460ml、人工呼吸器からの離脱時間のない24時間マウスピースかリップシールによるIPPV使用の患者4名は、数夜の間、鼻マスクによるIPPVにより支障なくサポートされたが、24時間マウスピースかリップシールによるIPPVの継続を希望した。
全部で、自発呼吸を取り戻した患者31名は、受傷後に平均2.4±2.2年の間(1ヵ月から8年、中央値1.7年)自発呼吸した(表2)。人工呼吸器から離脱した患者のうち少なくとも5名は、換気を補助し咳による排痰をし易くするため、上気道感染中にマウスピースかリップシールによるIPPVを必要とし常時これを使用した。これらの患者のうち2名は、それぞれ過去18年間と31年間にわたり、上気道感染の際にリップガードを夜間に使用し、1日24時間のマウスピースかリップシールによるIPPVを使用した。
NIV使用者では、数秒から1分間にわたり一過性の酸素脱飽和が85%以下になることは稀ではなかった。この時間は早期のレム睡眠に関連していることもあり、一過性下咽頭閉塞または過度の吸気エアリークによるものと思われた。臨床的には重大なものとは思われず、すべての患者には生じなかった。呼気終末炭酸ガス濃度(EtCO2)および平均SpO2は、NIVを使用する各患者には夜中の間は正常であった。
NIVを使用する患者25名のうち20名は、1年から10年までの待ち時間の経過後ではあったが、退院して自宅に戻った。5名の患者は長期療養施設に移った。気管切開によるIPPVからNIVに切り替えるのに必要な時間は2週間から3ヵ月までであった。しかし、カフなしの気管切開チューブまたはボタンは切替え後最高1年間まで留置された。
NIVを使用する患者の死亡率と、気管切開によるIPPVを継続する患者とを比較することは困難であった。当初の患者80名のうち、30名は人工呼吸器の離脱を受けた(27名は気管切開によるIPPVから、4名はNIVからであった。)。7名の患者はNIVと気管切開によるIPPVとを併用したが、そのうち1名は3年の換気補助後に突然死した。さらにNIVの患者3名は、1日12時間未満の補助を必要とし、気管切開によるIPPV患者のうち1名のみが12年間の夜間気管切開によるIPPVの後64歳のとき原因不明で死亡した。
僅か7名の患者に対し、NIVは24時間長期換気補助の決定的方法であった。これらの患者は受傷時に平均25.1±12.1歳であり、12.4±6.3年間は24時間のNIVを使用した。うち2名の患者は死亡した。その一人は1日24時間のマウスピースかリップシールによるIPPVの7年間使用を含む8年間のNIVの後に広範囲褥瘡に関連のある敗血症で死亡した。もう1名の患者は5年間のNIVの後、マウスピースによるIPPV中にけいれん発作によりマウスピースがはずれ、介助者はトイレにいたため、換気補助ができなくなり死亡した。
24時間の気管切開によるIPPVを続けた患者25名は、受傷時に平均30.2±20歳であった。これらの患者は平均7.1±5.1年間、24時間の気管切開によるIPPVを使用した。このうち5名は現在追跡管理を受けていない。残りの20名中、10名は3.8±2.8年間の換気補助後に死亡した。その死亡原因は、患者4名が肺炎、2名が癌、2名が気管切開チューブの接続はずれ事故、2名は原因不明の気管出血による肺への血液流入と人工呼吸器の誤動作によるものであった。
NIVに全面依存した最長期間の症例は17歳の少年の場合(患者1)であり、この少年は1967年3月10日に学校体育館で鞍馬から落下し、C1,2の脱臼骨折と完全なC2四肢マヒとなった。少年は直ちにかつ恒久的に人工呼吸器からの離脱時間のない換気補助を受けることになった。1967年9月27日に横隔膜ペースメーカーが植え込まれたが、両側とも効果がなかった。少年は多発性肺感染で10ヵ月間地元病院の集中治療室に入った。1968年2月に直径16mmの気管切開チューブと12ml膨張のカフを挿入したまま、リハビリのため転院した。少年はカフ対気管直径比3:1の重症の気管拡張に陥った。さらに、たびたび気管切開チューブ内に化膿性粘液栓が形成され、このため一回心肺停止となり、部分失明を伴い、また2回心肺停止に近い状態に至った。このような合併症を経験していたために、少年には気管切開部位を閉鎖する動機付けが十分にあった。
1968年4月17日に、少年は呼吸数18回/分で気道内圧20cmH2Oで従量式人工呼吸器による日中のマウスピースやリップシールによるIPPVを始めた。また、1868年7月13日に呼吸数18、陰圧−17cmH2Oの率で鉄の肺の使用を始め、これは少年に一回換気量660ml, 分時換気量11.8L、正常の血液ガス値を維持することを可能にした。1968年7月10日に日中マウスピースによるIPPVのため、携帯型従圧式人工呼吸器の使用を開始した。機能していない横隔膜ペースメーカーは除去され、気管切開チューブに換えて、マウスピースかリップシールによるIPPVと鉄の肺の使用中に特注の人工補綴物で栓をすることができる開口部を有するカフなし金属チューブが挿入された。このチューブを栓で閉塞していても、気管切開部のエアリークがあったためにGPBと呼吸補助筋の併用により得られる人工呼吸器からの離脱時間は、5分以上に延ばすことができなかった。
1969年4月中に気管切開部位は、さらに2回にわたる肺炎の後に閉鎖することができた。人工呼吸器からの離脱時間はGPBで3時間以上までに増加し、少年は1,700mlのGPBによる最大深吸気量を示した。肺活量は座位の呼吸補助筋使用で420mlまでに増加した。シェル型の体外式陰圧人工呼吸器とIAPVの試用をしたが、少年にはIPPVや鉄の肺ほどの効果はなかった。少年は退院し、夜間は鉄の肺からラップ型の体外式陰圧人工呼吸器に切り替えられた。
こうして、日中にはマウスピースによるIPPVを、夜間にはラップ型の体外式陰圧人工呼吸器を使い続けている。歯の処置をしている間のみ座位でIAPVを使用している。過去21年間に上気道感染をきっかけに肺炎になったのは2回であった。
他の患者5名も、気管切開部位の閉鎖後にGPBを習熟し、日中の人工呼吸器からの離脱時間に、また夜間の人工呼吸器不調の場合のバックアップとして使用している(表3)。
表3 肺活量と最大GPBによる最大深吸気量:
1ヵ月以上の非侵襲的換気療法を受けた患者
Free Time, ‡ hr
Patient VC*Sit % Pred VC Sup % Pred GMmaxSBC† onset NVA currently 1 50 1 50 1 1700 > 1 ‖ 1 2 670 18 700 19 . .>12 3-4 3 604 8 664 9 900 < 1 1988§ 4 80 2 100 2 1300 >4 ‖ 死亡1985 5 263 6 412 9 2740 >4 ‖ 死亡1975 6 720 13 760 14 . 6 1986§ 7 240 6 320 8 . 0 治療離脱 8 720 14 740 15 . 0 治療離脱 9 880 15 980 18 . 0 治療離脱 10 480 8 490 8 . 0 治療離脱 11 401 12 546 16 . < 1 8-10 12 730 21 585 17 . >16 16 13 1400 24 1800 31 . 16 16 14 460 13 360 9 . 0 16 15 460 9 500 10 . >16 16 16 1150 32 1510 37 . >8 8 17 800 18 1970 56 . >12 1982§ 18 700 15 910 20 1900 1 1983§ 19 220 11 240 11 . 0 0 20 480 11 320 8 . <1 1 21 450 8 690 12 1500 4 ‖ 1 22 250 5 250 5 1900 >1 ‖ 0 23 520 11 1000 22 . >1 死亡1977 24 890 27 890 27 . >1 1988§ 25 1750 42 1750 42 . > 16 12-16
* 記録された肺活量は、少なくとも4回から6回まで試みたものの最大結果であり、換気補助開始の少なくとも2ヵ月後のある時点で記録されたものである。 † GPmaxSBCは1回のGPB最大換気量である。 ‡ 人工呼吸器からの離脱時間とは、換気不足または疲労のため人工呼吸補助に戻る必要があるまで、自発呼吸できる平均時間を言う。記録された人工呼吸器からの離脱時間は、人工呼吸依存の開始後2ヵ月以内の患者評価から得られたものであり最近の評価である。 § 表示した年以降に接触はない。 ‖ 舌喉頭呼吸によらない場合には15分未満の人工呼吸器からの離脱時間を有する患者が舌喉頭呼吸を行なった場合に有した人工呼吸器からの離脱時間を示したものである。
考 察
体外式陰圧人工呼吸、および、マウスピースかリップシール、鼻マスクによるIPPVを含む非侵襲的陽圧換気療法は、高位四肢マヒ患者の適切な肺胞換気を維持することができる。これには、肺活量がほとんどないもしくは測定されうるほどない人工呼吸器からの離脱時間ゼロの患者も入る。この方法の使用に対する禁忌とされるのは、うつ病状態および重症の口咽頭筋力低下である。
私達の検査室で実施中の睡眠ポリグラフの研究から、睡眠中の患者はリップシールによるIPPV使用時に過度の鼻孔からの換気リークを防止し、また鼻マスクによるIPPV使用時に口からの換気リークを防止するために、条件反射運動を続けることができることが判明した。
受傷時から最適の換気を受け、呼吸中枢の化学調節系に異常がない患者は、カフなしのチューブを挿入した気管切開、マウスピースかリップシールによるIPPV、鼻マスクによるIPPVのいずれの換気補助を受けているかを問わず、正常の睡眠時の血液ガス値を維持する傾向がある。
日中に換気低下したままの患者や高炭酸ガス血症が酸素の恒常的付加により悪化した患者の換気は、睡眠中はさらにNIVにより正常化することが困難になる。これは睡眠中に過度の換気リークを防止する反射的な中枢性呼吸調節機構に関連しているようである。フェイスマスクやリップシールによるIPPVでの綿球による鼻栓使用が必要な患者もたまにいるが、今回の研究の対象患者にはいなかった。
NIVへの移行は気管切開からよりも気管内挿管によるIPPVからの方が簡単である。しかし、残念なことに、気管内挿管中に呼吸リハビリ室に移される患者はほとんどいない。それでも、日中気管切開チューブを閉鎖し、マウスピースかリップシールによるIPPVを導入し、GPBを習得することに意欲的であった患者は、首尾よく24時間NIVに切り替えることに成功した。
呼吸筋機能がほとんどないまたは全くないこれらの患者には、介助なしの咳では排痰効果がほとんどない。通常の肺炎発症率よりもはるかに高い発症率は、よくある良性の上気道感染をきっかけとして起こる。徒手による咳補助は技術を要し大変骨が折れる。
器械による咳補助(訳注:MAC=Mechanically assisted coughing:カフアシストやカフマシーンによる)は気管切開した患者にも気管切開していない患者にも、気管分泌物を取り除くのに極めて効果的である。MACの器械は、調節可能な陽圧(通常40mmHg)による深吸気を行ない、その後に0,2秒(訳注:最近はこの数字が記載されている)で調節可能な陰圧(通常は−40mmHg)に転じる際に通常約80mmHgの圧降下をした後、1,2秒陰圧が持続されるものである。これよって気道分泌物が口まで運ばれ、さらに口から吐き出される。
MACの器械を個々に所有することを患者は渇望しているが、過去25年間製造されていない。現在、われわれは新モデルの試作機を開発中である*。
*訳注:これが1994年にはカフマシーンとして米国FDAで医療機器として認可され、唯一のMAC市販機器として普及。2000年には、EUでの医療機器としての輸入が認められたのをきっかけに、ニューモデルのカフアシストが製造されるようになった。日本でも現在輸入販売されている。
結論として、外傷性高位四肢マヒ者に対する長期NIVは、気管切開によるIPPVまたはEPRの代替法として安全で効果的な方法となり得る。気管切開部位の閉鎖とGPBの習熟により、人工呼吸器からの離脱時間が数時間も可能になり、気管切開チューブの接続部のはずれによる呼吸停止事故が突然起こりはしないかと心配しないですむようになる。外傷性高位四肢マヒ者におけるNIV(陽圧も陰圧も含めて)、とくに新たに記載した陽圧式NIVの使用について、さらに研究を進めるに値する。