講演会報告集 4ページ



 デュシャーム博士に訊く

 講演会の翌日、個人カウンセリングの前に基金役員が
 デュシャーム博士と対話の場を持った。

 ▼:「事故で脊髄損傷になって3日後ぐらいのときに子どもをつくることができるとかできないとかいうことをICU内でデュシャ−ム先生が患者に説明するということをおっしゃっていましたが。」

 デュシャ−ム 「私はまた歩けるようになるでしょうか」という質問以前に、子どもをつくることができますか、という質問をなさる方が米国では非常に多いのが現状です。

 結婚している男性の中には、妻が自分から離れて行ってしまうのではないかという心配をすごくなさる方が時々いらっしゃいます。

 ▼:「それは3日後ぐらいでですね。」

 デュシャ−ム 事故に遭って間もなくにです。質問をした方には「そういうことを心配するのは当たり前のことですよ」といって安心させてあげます。そして、いろいろな援助のための情報を提供します。

 ▼:「日本の現状を参考までに言いますと、性の問題以前に、手や足が一生動く可能性がないということを告げられるのが受傷から何カ月も後であったり、1年ぐらい告げられなかったりする人も非常に多いのです。それとなく周囲の雰囲気で本人が感じてくるというか、面と向かって告げられることはなかなかありません。最近は、近代的なリハビリテ−ション病院の場合は2〜3カ月で告げられる可能性が出てきているみたいですが、あまりにも違うと思います。」

 デュシャ−ム アメリカでは患者さん自身がリハビリテ−ションセンタ−に行って車椅子を使っている方とかを見て、自分もこうなるのかな、というふうに何となく感じる場合が多いです。

 ▼:「デュシャ−ム先生の場合は手術後3日ぐらいで告げておられるようですが、早期に告げた方が早期に受容できるし早期のリハビリが可能になる、早期に知るほうが社会復帰をするために意義があると考えておられるわけですね。」

 デュシャ−ム 早ければ早いほどいいと思っています。その人が望みを絶たないように、その人が希望を失ってはいけないと思うから早めに伝えるのです。早く伝えることによってリハビリも早く始まり、それが最終的にその人のプラスになると思います。

 もしも患者さんが望みをなくしてしまったとしたら、人生が投げやりになってしまい、どうでもよいと思ってしまうので、早めに告げることによって、リハビリに向けて「望みや可能性があるんだ」ということをわかってもらうようにしています。

 ▼:「次に、お互いに共感しあったときに、性を楽しむことによって得る喜びというか価値というものをデュシャ−ム先生のお話を聞いて感じましたし、自分自身も以前からそう感じていました。アメリカの場合は、共感し合う喜びなり価値というものを社会的に、あるいは公的制度である程度認めているのでしょうか。なぜそう思ったかというと、例えば、水がないところには無償で水を提供するというように、バイアグラが公費で提供されるということは、当然のごとく必要なものとして民衆に受け入れられているものだからなのでしょうか。」

 デュシャ−ム バイアグラに関しては、脊損の方でなくても必要な方には提供しますが、完全に無償というわけではありません。患者さんはお金を払います。1カ月に4錠までは保険で請求できますが、それ以上ほしい場合は自費で払います。1錠 1,200円ぐらいで、日本と同じぐらいだと思います。先ほどお話にありましたけれども、1錠を半分にして使う場合もあります。4錠以上ほしいとおっしゃる方は多いです。

 バイアグラを飲んでコンド−ムをつけると固くなり、しっかり固定するので洩れないということで使う頻度が高いようです。しかし、バイアグラをほしいという多くの人に関して、いろいろな議論もあるようです。

 ▼:「性の価値についてもう少し突っ込んで聞きたいと思います。例えば、事故などで勃起しなくなったとか、今までのような健康なときに行っていたセックスができなくなったことに対する損害賠償請求とか訴訟の例などありませんか。恐らく日本ではそのことに対して法廷闘争を起こしたり、訴訟したということはないという気がします。」

 デュシャ−ム 事故を起こした直接的な責任があきらかな場合は加害者に対して訴訟を起こし、その人が失ったものに対する金額を要求するという場合はあります。

 ▼:「セックスができなくなったことに対してですか。」

 デュシャ−ム セックスは大事なことですから、事故によってセックスができなくなったことに対して訴訟を起こし、お金を請求するということはあり得るし、当然だと思います。それから、脊損に限らず、何かの仕事によって勃起しなくなった場合でも訴えることがあります。

 リハビリテ−ションセンタ−では医者や看護婦、カウンセラ−がそれぞれ責任を持って、自分は何をするべきかということを自覚しています。そして、「地域社会に戻ったときどういうふうにしたらいいのか」「車椅子でどういうふうに行動するのか」ということを、患者さんに説明します。日本ではチ−ムを組んでいませんか。アメリカでは1週間に1度は必ずチ−ムでミ−ティングをします。そして、それぞれが患者さんに何を提供しているかということを話し合います。例えば、セクシュアリティの問題について「だれだれさんはこういうことをした」とか「こういう問題もあるのではないか」ということを、必ずチ−ムの中で連携して物事を解決するようにしています。

 ▼:「次に、女性用のバイアグラが出たということですが、神経が切れているのでクリトリスで喜びを感じることができないのですが、バイアグラを飲むことによって感覚的な喜びをクリトリスで感じることができるという効果はありますか。もしくは、濡れるとか濡れないとか、どんな効果があるのでしょうか。」

 デュシャ−ム バイアグラを服用することによって感覚が戻るということは、ないと思います。しかし、血液がたくさん膣のほうへ集まってくるので、それによって潤むということはあると思います。バアイアグラを飲むことによってオ−ガズムを得ることができるのか、今調査している段階です。それは感じるということとは別ですが、オ−ガズムを得つつあるのではないかと……。センセ−ションを感じるのは神経の問題ですが、脊髄を損傷するということは神経の部分を損傷してしまうということなので、感覚がなくなってしまうんですね。

 脊髄を損傷してもオ−ガズムを得ることができる2つのカ−ドがあります。1つは神経、もう1つは循環器系つまり血液の循環です。血液が集まってくるので、実際にはオ−ガズムという状態にはなるのですが、ご本人は感覚を得ることができないのです。機能的に、肉体ではオ−ガズムを得ている状態になっているはずなのですが、本人はそれを感じることができない。

 男性の場合を考えていただきたいのですが、射精できない人がバイブレ−タ−を使うと実際には射精をしますけれども、その人が快感を得ているかというとそれはまた違う、ということと同じだと思ってください。それを見て「今がオ−ガズムなのだな」ということでその気持ちになるんですが、それは本当の感覚として得られているものではないということです。

 ▼:「それでも、その開発が成功すれば多くの女性が使うと予想しているわけですね。」

 デュシャ−ム そうだと思います。女性のバイアグラ使用に関しては研究中でまだ結論が出ていませんが、より多くの女性が使うと思います。バイアグラは最初に出た薬ですが、現在開発中の薬のほうがより効果的だと思います。 間もなく発売されるクリ−ムはバイアグラと同じ効果があり、男性はペニスに、女性はクリトリスに使うことができます。しかし、バイアグラとは違う副作用があるので男性はクイックアクションという動作に出てしまい、女性は男性がクリ−ムを塗ったりすると少し不快感を得るかもしれないということですが、それは現在開発中なので今のところ何ともいえません。

 ▼:「アメリカで性に対するいろいろなプログラム等がつくられたり、発展してきた一番の原因力になったのは患者の運動であると思うのですが、日本は今後どんな形で運動を行っていったらいいのでしょうか。」

 デュシャ−ム せきずい基金の皆さんと同じように、米国でも患者さんがリハビリテ−ションを終えた後で医者や看護婦に直接働きかけたことによって、こうしたプログラムができたのです。アメリカではリハビリテ−ション病院の設立にあたって、セクシュアリティのことも含めたさまざまなライセンスの取得が必要になってきます。

 ▼:「病院設立のライセンスということですね。では、看護婦に働きかけるのが一番のポイントなのですね。」

 デュシャ−ム 事故後にはこういうことが本当に必要なのだということを、病院の管理者とか医者が認識することが一番必要です。もう一つ大事なことは、医者が新しい患者さんに対しても長期にわたっていろいろな質問とか悩みに答えてあげる、カウンセリングとか相談を受けることではないかと思います。しかし、医者というのは、あまりそういうことは好きではないという傾向にあるようです。

 しかし、新たに入院された方に対して、医者とかカウンセリングの方とか看護婦さんがセクシュアルのことも含めて「こういうことが大事なんですよ」ということを、長期間にわたって教えてあげることが一番重要だと思います。講演をしてみて、皆さんは非常にすばらしい聴衆でいらっしゃったと思います。また、すごくむずかしい、なかなか触れにくい分野のことを話してくださったことを、私は非常にうれしく思っています。

 今後もこういう機会がありましたら話をして、皆さんに喜んでいただければと思います。



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