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SSK日本せきずい基金レポート03         2002年6月28日発行
講演会報告集

障害者のセクシュアリティ

−−脊損事例を中心に−−

    【目 次】

脊髄損傷後のセクシュアリティ:S.デュシャーム

パネルディスカッション:
  S.デュシャーム+牛山武久+今崎牧生、坂上博

司会を終えて(坂上博)

ワークショップ:
  当事者が<性>を語る:S.デュシャーム+当事者・家族

デュシャーム博士に訊く

勃起のメカニズムと性機能障害:木元 康介

日本における脊損者の性障害と治療の現状:岩坪 暎二

福岡講演会・質疑応答

会場アンケート


    本書について

 本書は、2001年7月に日本せきずい基金が東京と福岡で開催した講演会「障害者のセクシュアリティ」の記録である。

 2001年7月21日(土)、千代田区麹町の「弘済会館」での講演会は、ボストン大学のS.デュシャーム博士の講演の後、牛山武久先生(泌尿器科)、今崎牧生先生(当事者、心療内科医)を交え坂上博氏(読売新聞社・医療情報部)の司会の下でパネルディスカッションを開催した。

 その後、デュシャーム博士と当事者・家族に限定したワークショップを開催した。

 この講演会の開催に当っては、厚生労働省、東京都、(社) 全国脊髄損傷者連合会の後援を得た。

 さらに、7月28日、福岡県飯塚市の労働福祉事業団・総合せき損センター・多目的ホールにおいて、同趣旨の講演会を開催した。この講演に際しては、同センターの岩坪暎二博士及び木元康介博士による事前講演が行なわれた。

 なおその前日(7月27日)には、同センターにおいて研究者向けの「神経泌尿器セミナー」が開催され、デュシャーム博士による講演と研究交流の場がもたれた。

 これらの一連の事業の実施に際しては、ファイザーヘルスリサーチ振興財団による「外国人研究者招聘事業」の助成を得た。

 最後に、この一連の企画の実現にご尽力いただきました岩坪暎二博士に深く謝意を表したい。

       2002年6月                   
       特定非営利活動法人 日本せきずい基金

  



    【講演】

 脊髄損傷後のセクシュアリティ


スタンレ−・デュシャ−ム  Stanley H. Ducharme Ph. D.
ボストン・メディカルセンターの臨床・ヘルス心理学スタッフ
ボストン大学医学部リハビリテーション医学科臨床教授及び、泌尿器科助教授
Journal of Sexuality and Disability 誌の編集長
全米退役軍人まひ者協会
(Foundation of the Paralyzed Veterans of America)
教育及びトレーニング担当理事


 総合司会 本日はお暑い中、「障害者の性」のシンポジウムにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本日の総合司会は「日本せきずい基金」の私、広瀬と白井が担当します。

 本日の予定は、デュシャ−ム先生の講演の後、1時間ほどのパネルディスカッションを行います。その後、障害者当事者とパ−トナ−及びその家族に限定させていただいた参加者による、ワ−クショップを開催致します。それではまず「日本せきずい基金」理事の笹美智子から開会挨拶を致します。

  皆様、きょうはこのお暑い中をお越しいただきまして、本当にありがとうございます。「日本せきずい基金」の講演会も第5回を迎えました。2年前の第1回講演会では、今回と同じく性をテ−マとして機能面から取り上げましたが、今回は、心理的なケアはどうなっているのかということで、セラピ−の先進国であるアメリカからデュシャ−ム先生をお迎え致しまして、講演とパネルディスカッションそしてワ−クショップを、あしたは個人カウンセリングをしていただけることとなりました。これは日本の障害者福祉にとっても大きな啓発であると考えております。

 デュシャ−ム先生は長年情熱を持って臨床に携わってこられましたが、とてもフレンドリ−な方です。この後、質問の時間も取ってありますので、どうかご活用ください。最後に、会場の皆様に積極的な聴衆として参加していただきたいというお願いと、この会が皆様のエンパワ−メントに役立つことをお祈りいたしまして、開会の言葉とさせていただきます。ありがとうございます。

 司会 それでは、本日司会をしてくださいます読売新聞社編集局医療情報部の坂上博記者をご紹介させていただきます。よろしくお願いします。

 坂上 ご紹介いただきました読売新聞の坂上といいます。討論までの間、司会を担当させていただきますので、よろしくお願いします。

 最初に、スタンレ−・デュシャ−ム先生の講演から始めさせていただきます。デュシャ−ム先生はアメリカのボストン大学リハビリテ−ション医学科臨床教授であり、「ジャ−ナル・オブ・セクシュアリティ・アンド・ディスアビリティ」という雑誌の編集長でもいらっしゃいます。たくさんの臨床経験をお持ちなので、いい話が聞けると思います。では、先生よろしくお願いします。

 デュシャ−ム ご紹介ありがとうございました。本日はここに来ることができまして大変うれしいのですが、日本語でできたらもっとよかったのに、と思っております。また、「日本せきずい基金」の大濱さんには私をご招待くださいましたお礼を、そして、広瀬さんにはファイザ−ヘルスリサーチ振興財団からの資金の援助のことでお手伝いいただきました。お礼を申し上げます。

 ご紹介いただいたときのお話にありましたように、インフォ−マルなやり方で進めていきたいと思っておりますので、私が説明しているときでも、発表の途中でも結構ですので、質問とかつけ加えたいことなどがありましたら、どうぞしてください。




 受傷後のセクシュアリティへの不安

 私は、マサチュ−セッツ州のボストンにある病院で、25年間、臨床心理学者として仕事をしてきました。私自身はカトリック信者として育ってきましたので、セクシュアリティというプライバシ−にかかわるお話は非常に難しいということはよく存じております。また、そのことはなかなか難しい内容であるとともに、人に話すことは決まりが悪いということもあります。

 しかしながら、皆さま方が私の話を聞いて、決まりが悪いと思ったとしても、やはりお話を聞いていただきたいと思います。特に、脊髄損傷後に起こるプライベイトな問題についても理解していただき、認識を深めていただければ、と思います。

 カトリック信者である私がこのような仕事をしているということは、アメリカにおいても特別な状況なのです。しかし、私が脊髄損傷後のリハビリテ−ションに携わるようになったとき、損傷を受けた人が一番初めに話したいことはセクシュアリティのことだということがわかってきました。

 受傷後数日以内に、自分の性に関する能力が非常に大きな関心事となります。父親としての能力、また、夫として、妻として、性に関する能力があるのかということが大きな問題となってくるわけで、これがいかに重要であるかということをよく認識することによって、長期のいろいろなリハビリテ−ションを前向きに受けられるようになるわけです。




 米国でのセクシュアリティへの取り組み

 アメリカではセクシュアリティの問題がどのように対処されているのかを過去から現在、それから未来へとお話ししていきたいと思います。

 脊髄損傷は特に若い方々に起こることが多いので、セクシュアリティの問題は非常に重要です。家族と別れて暮らす、その自立するに当たってセクシュアリティをどのように確立していくかということが大きな重要な問題になります。

 また、脊髄を損傷する方は女性よりも男性の方がはるかに多いということから、セクシュアリティの問題についても男性にかかわるほうが多く、残念なことにこれまでは女性に関してはあまり対処されてきませんでした。その理由として、例えば、ドクタ−は男性が多いので、女性の脊髄損傷後のセクシュアリティについて関心があまりないとか、女性にとってのセクシュアリティは男性ほど大きな意味がないといわれていました。やはり、女性がセクシュアリティを確立した女性として生きていくという点に関して、現状は非常に不十分です。 それではリハビリテ−ションにからめて、セクシュアリティがいかに重要であるかという話をします。

 アメリカではリハビリテ−ションは第2次大戦後、1950年代から始まりました。その当時の脊髄損傷のリハビリテ−ションでいちばん大切なことは、いかにして生存するかということでした。脊髄を損傷された方々は何年も入院生活を続け、身体的にいかに機能を改善していくかという点が重視されました。その当時は、生活の質とか心理的な側面、家族のもとへ戻って生活する、コミュニティに戻っていく、ということが強調されていたわけではありませんでした。

 1970年代には、脊髄損傷の方々は数カ月後、あるいは数年後には退院し、家族のもとやコミュニティへと戻りました。「コミュニティの一員として暮らしていくために必要なサ−ビスをドクタ−が提供してくれない」と、非常に怒りました。脊髄損傷者の方々はドクタ−に対して、いろいろな人との関係や結婚の問題、性機能の問題についての情報を出すことを要求するようになりました。ドクタ−やいろいろな医療関係の人たちは、この問題についてよく認識しなければならなくなりました。

 なぜかというと、脊髄損傷者はそれまでよりも長生きできるようになったので、身体的な側面だけではなく、心理的な側面や生活の質をも重視しないと、退院後、家庭やコミュニティに戻ったとしても、孤立して鬱な状態になってしまったり、外に出ない生活をするようになってしまうからです。

 アメリカの2人のドクタ−、ミシガン州立大学のテオド−ルとサンドラコ−ルは、このような状況を変えようと思いました。彼らは、いろいろな医療に従事している人たちがセクシュアリティについて話すことを恥ずかしいとか、決まりが悪いと感じていることに気がつき、「性行動を評価する」という名前をつけたワ−クショップを始めました。このワ−クショップは、いろいろな医療に従事している人たちに患者のセクシュアリティの重要さをはっきりと理解させ、セクシュアリティに対するいろいろな考え方があることや、恥ずかしいとか、決まりが悪いという気持ちをなくさせることによって、患者からセクシュアリティに関する質問をされても支障なく対処できるように、という観点から始められました。

 1980年代には、医療職にある者が脊髄損傷の方々とセックスの話をすることは重要なのだということが認識されるようになりましたが、脊髄損傷の方々の性的能力を改善しようと思ってもどうすればいいのか、それに対するいろいろな考えや方法はありませんでした。

 私の最初の仕事は、障害以前のセックスの状況とは違うんだということ、今まではあったけれどもなくなってしまったもの、もうできなくなってしまったことについて障害者に理解してもらうこと、知ってもらうことでした。リハビリを担当している人たちも障害者の方々に対して、セックスに関する能力が失われてしまったのですよ、といっていました。セックスが重要であることがわかっていても、それを改善するためにはどうすればいいのか、具体的な手立てを提供することができませんでした。この問題の解決策を初めて形にあらわすことができたのは、泌尿器科の先生でした。

 外科的にペニスの中にステッィク(プロステ−シス 39頁参照)を埋め込んで、勃起させるために使う器具を開発したのです。これができたことによって初めて、カウンセリングという言葉のみではなく形で提供できるようになりまして、ずいぶん長いこと使われてきました。

 そして、1998年3月28日にアメリカでバイアグラが発売されたことによって、状況が大きく変わりました。セクシュアリティにかかわる私どもにとってバイアグラの出現は、経口避妊薬の出現以来、いちばん重要な展開となりました。 バイアグラが発売されたすぐあとに製薬会社は女性のためのピルを開発し、いろいろな研究を始めました。性機能関してこの20年間を考えてみると、このような経口薬が出てきたということは、セクシュアリティに関して非常に大きな貢献がなされたわけです。




 受傷直後からのセクシュアリティ・プログラム

 それでは現状はどうでしょうか。アメリカでは、しっかりと確立されたリハビリテ−ションのプログラムの中に性教育が入っております。それから、あまり公に話されることはありませんが、障害者に対する性的な虐待の問題があります。また、若い人の中には、どういうふうにして異性との関係をつくればいいのかわからなくて、自分に自信がないとか、社交性がないので出かけて行って異性と話をする能力を培うことができないという人たちがおります。

 脊髄損傷の方々は退院後、性的なことに関してあまり積極的ではありません。理由としては、相手に断られてしまうのではないかと思ったり、排尿のコントロ−ルの問題があるとか、ネガティブにものごとを捉えてしまうのかも知れないということが考えられます。

 私たちのプログラムでは、障害があっても前向きにセックスに関するいろいろな問題に取り組むことができるという意図のもとでやっています。このような性機能に関することは、できるだけ早い時期に話をするようにしています。

 例えば、私は、受傷後2日〜3日ぐらいの急性期にある方々のために、病院のICUで働いています。男性が知りたいのは、受傷後でも勃起するのかということですが、勃起します。また、脊髄損傷の男性や女性は、子どもを持つことができるのか、ということをまず知りたいし、知る必要があります。そして、受傷後に自分の体がどういうふうに変わったのかを知ってもらうために、私たちは努力をします。

 自分の体のどこをさわると気持ちがいいのかを見つけるようにします。例えば、リハビリテ−ションのスタッフやナ−スなどに、勃起していることがわからない患者さんに対して、勃起していることや性機能があることなどを教えるように、といっています。そして、ここでいちばん重要なことは、

<脊髄損傷後でも自分と愛する人との
        健康的なセックスライフが可能なのですよ>

 というメッセ−ジを伝えてあげることです。しかし、普通はこういう質問は怖くてできない人が多いので、リハビリテ−ションチ−ムのナ−スやドクタ−、いろいろな療法士の方々は、脊髄損傷後でも性機能はありますよ、という情報をしっかり伝えることを目的にしています。




 バイアグラが世界を変えた

 それでは現状についてもう少し細かくお話しします。ファイザ−製薬は脊髄損傷後の男性に関してバイアグラでいろいろな臨床試験をしておりまして、いい結果が出ています。

 それでは勃起不全はなぜ起こるかというと、勃起の問題をかかえた男性は、お酒とかタバコ、それから高血圧とかコレステロ−ルといった生活習慣のいろいろな問題をかかえています。それに比べると、脊髄損傷の男性は一般的な勃起不全の男性よりも若い人、血液の循環がよい人たちが多いので、バイアグラはこちらの方々により効果をあらわします。

 ファイザ−製薬の脊髄損傷の男性を対象にした臨床試験では、75パーセント以上の男性に効果がありました。今までの脊髄損傷の男性に対する治療とか改善方法は、薬を飲むということよりももっと外科的な手法でされていました。しかし現在では、勃起不全の解消に関してはバイアグラが唯一の選択肢というぐらいになっておりまして、脊髄損傷の方々に対して積極的に提供されております。

 1998年にアメリカでバイアグラが発売されたときは、この薬の安全性が懸念されました。発売以来3年たちましたけれども、脊髄損傷の男性を対象とした深刻な副作用は報告されておらず、非常に信頼度が高まっています。

 よく見られる副作用としては、視野がぼやける、鼻が詰まる、ちょっと心拍数が上がるというようなことがありますが、バイアグラはニトログリセリンなどを飲んでいる男性を除いた、男性全員に使っても構わない薬です。

 また、バイアグラは、ある程度の勃起ができる損傷部位が高位にある男性にも有効です。なぜかというと、勃起の能力は脊髄のより低い部分でコントロ−ルされているからです。損傷部位が高位で、ある程度の勃起ができる男性にとっての改善率は75〜80パーセントぐらいという、大変いい数値になっています。バイアグラは、脊髄損傷の男性が欲しいとリクエストを出せばすぐにもらうことができます。バイアグラの導入以来、もっと男性の勃起を改善しようということで、ほかの薬なども積極的に開発されるようにもなりました。バイアグラはペニスの血管を拡張させ、ペニスへの血流を増加させることによって勃起させる薬です。ここでの問題点は、すぐには効かないが、1時間ぐらいかかって効き出すということをいろいろな男性が指摘しています。

 まだアメリカでは承認されていませんが、ヨ−ロッパで承認されている「アプリマ」という薬があります。アプリマはバイアグラと違ってペニス自体に働くのではなく、勃起の信号を出す脳の部位に働く薬です。したがって、障害のある人、ない人にかかわらず、性機能を改善する可能性を極めるための、薬剤の革命的な事態が起こっているということです。




 女性障害者のために

 バイアグラの開発以降、製薬会社は女性のためにバイアグラのような薬を開発しようと、激しい競争をしています。 そして、女性にバイアグラを試みるという臨床試験を行ったところ、若い女性を対象にした結果はあまりよくありませんでしたが、閉経後の女性を対象にした新しい臨床試験が進行中です。

 ファイザ−製薬では、アメリカとヨ−ロッパにおける20カ所の病院で脊髄損傷の女性を対象にした臨床試験を始めています。結果はまだ出ていませんが、期待されています。

 また、障害の有無にかかわらず、女性に効く薬やいろいろな使い方も研究されています。その1つにプロスタグランディン(PG.生理活性物質)の入ったクリ−ムがあります。そのクリ−ムは、膣とかクリトリスへの血流を増すような働きをします。

 また、脊髄損傷の女性に関するいろいろな性の問題は、男性ホルモンであるテストステロンが減ったせいであるとか、ほかのホルモンが減ったせいであるという説もあります。そこで、それを補うためのパッチ、つまり皮膚に貼りつけるタイプの薬も考えられています。

 それから、アメリカですでに承認され使用されている医療機器として、吸引することによってクリトリスへの血流をふやすという器具があります。脊髄損傷の女性たちは、非常に長い間無視されてきましたが、状況は大きく変わってきました。今、新しい治療法などが開発中です。製薬会社は多額の投資をして、最初にこの薬を発売しようと研究して
います。




 セクシュアリティの心理的側面  

 今までは主に身体的なお話をしてきましたが、やはり心理的な要素も非常に重要です。

 例えば、男性が脊髄損傷の女性とセックスをしたがらないのは、膣の筋肉の収縮がないから性交してくれないのだ、と思ってしまう。

 また、受傷のせいで筋肉の萎縮などがあるので「男性にとって私は魅力がないのだわ」と考えている女性が多い。
 「自分に性的な魅力がないから男性の関心を呼ばないんだわ」というふうに考えてしまう。脊髄損傷というのは身体的な問題と同時に、いろいろな心理学的な問題があります。常に心理学的な面も重要なので、身体的なリハビリのみを考えていては片手落ちになります。

 それでは、脊髄損傷後に性的に適応できるのは、どういう人たちでしょうか。それは自分の個人的な問題を口に出して言える人たちです。「こういう形でセックスをすると、こういう喜びが得られるのだ」ということをいろいろ試すことができる人たちです。

 例えば、性交のみがセクシュアリティだと考えていた人たちにとっては、今までとは違うこういうやり方もあるのだ、というふうに考えることが非常に重要です。また、非常に適応がうまい人たちというのは、何でも成功するわけではないということをちゃんとわかっていて、「いろいろな新しい取り組みをしてみたけれどもだめだった」とか、「そのことで怒ったり傷ついたりしても、違う方法があるのではないか」、というふうな見方ができます。

 だから、例えばペニスや膣だけではなく、体のほかの部分からもセックスに関する喜びを得ることができるということがわかる人たちが、うまく適応することができます。また、体のどの部分から喜びを感じることができるかということは、障害の部位−−高位であるとか、低位であるということ−−にもよります。例えば、顔とか、耳の後ろとか、首などからも性の喜びを得ることはできます。「セックスのたびにオ−ガズムを得ることはできない」、ということをきちんとわかっている上で、「愛する人の近くにいる喜びを分かち合い、親密にしているだけでも十分にオ−ガズムを得ることができる」ということがわかる人たちがうまく適応できます。




 スタッフはどうサポートするか

 それでは次に、私のリハビリテ−ション・スタッフがお世話をする人たちのセクシュアルな問題にどういうふうに取り組むのか、ということについてお話しします。

 リハビリテ−ション・スタッフがセックスの問題に関するいろいろな情報を提供するということについて、普通はちょっと怖いと思うものです。例えば、性についてよく知らないとか、病院の中で性の話を患者さんにした場合、患者さんがセックスに関心を持ってしまうのではないか、何か問題を起こしてしまうのではないか、というような心配をします。

 また、「患者さんがセックスに関心がないのではないか」とか、「とてもプライバシ−にかかわることだから」とか、「患者さんたちとそういう問題について話をしたくない」というような気持ちになりがちです。スタッフが、「私が情報を提供しなくても、ほかの人が患者さんに情報を提供してくれるでしょう」と思っていると、患者さんは情報を得ることなく病院から出ていくということになってしまいます。

 アメリカでは、セックスに関する情報はドクタ−のみではなく、チ−ムの全員に情報を提供する責任があります。毎日のいろいろな活動に対するリハビリテ−ションと同じように、チ−ムの全員が会議で話し合っていくことが重要だと思います。例えば、「こういう情報はだれが提供するべきか」ということについて話し合った場合、その患者さんと気の置けない間柄のスタッフがその情報を提供するということになります。私の場合は、自分の両親と似たような人たちには、セックスのことはなかなか話しにくいわけです。患者さんのほうでも、気安く話せる人がいいということになると思います。

 先ほどから申し上げているように、こういう話は早ければ早いほうがいいと思います。リハビリ中の人々の中には、セックスに関してこの先どういう問題が起こってくるのか、よくわかっていない人が多いのです。いったん家に帰ってしまうと、セックスの問題についてリハビリテ−ション・チ−ムの人たちと話すために病院に戻って来るということはありません。やはり、退院する前に情報を提供してあげなければなりません。

 以前は、障害者の性に関する本とか情報だけを患者さんに渡していましたが、それは全くだめでした。なぜかというと、そういうものを読むことによって、余計に心配がふえてしまうからです。それから、こういう情報を提供したことによって、患者さんがそれをどういうふうに捉えたのかという反応を知った上で、いろいろなサポ−トをしてあげることが必要です。

 例えば、男性の場合、男性上位の形でセックスをすることができないと、自分は男として落第なんだというふうに捉えてしまい、「もうセックスをしたくない」と考えてしまうかもしれません。したがって、こういう薬がありますよとか、子どもをつくることに対しては、こういうことがありますよとか、性交時のいろいろな体位とか、どういう形がいいのかとか、喜びを得るにはどういう方法があるとか、その時々のいろいろな問題に対する患者さんの感情に対応していかなければなりません。




 プログラムの重要性

 病院でセックス関係の情報を提供するにあたっていちばんいいのは、一定のプログラムを確立することです。病院の経営者から始まってドクタ−というように、上のほうの人たちもかかわっていくことが重要です。スタッフへの教育や、こういう問題について話ができる人たちを入れていくことも重要です。

 また、脊髄損傷の人たちをセックスの面で助けることができるベストの人たちというのは、やはり、同じように脊髄に受傷している人たちであるということが、アメリカでわかってきました。「この人たちも自分と同じ経験をしているのだ」という思いで話を聞くことができるし、話しをしてもらえるということで、患者さんのほうも非常に気持ちよく、セックスの問題について話しをすることができるのです。だから、脊髄損傷の方にもリハビリテ−ションチ−ムの一員になっていただいて、スタッフに話をしてもらうことよってプログラムをつくっています。

戦略としては、 @ 心理的な教育をするグル−プ、
          A グル−プセラピ−をするグル−プ、
          B 男性と女性のグル−プ、
          C 個々のカウンセリング、

 などがあります。それから、前もって計画していくことが大事だという話ですが、何か危機的な状況になったときに、セックスの問題について対処するということではいけません。

 例えば、病室に入って行ったときに患者さんがマスタ−ベ−ションをしていたとか、患者さん同士がセックスをするような関係になっていたとか、男性の患者がスタッフの方に何らかの性的な行動を仕掛けてきたとか、そういう状況になってからではなく、その前にいろいろなことを想定してプログラムを決めていかなければいけません。

 また、ここで重要なのは、患者さんとそのパ−トナ−の方がプライバシ−を保てるような空間が病院に必要だということです。そこで2人がセックスのできることとか、できないことを試してみた結果、こういう問題がありますよ、ということで相談することができるような環境をつくることも重要です。 例えば、退院後、初めて配偶者とセックスをすることになった場合、病院のスタッフは、何か問題があっても助けてあげることも、情報を提供して、こうすればいいということもしてあげられません。したがって、先ほどいったように、まだ病院にいる間にセックスを試すことができるようにしてあげなければいけません。




 今後の課題

 次に、将来、どういうふうな研究が進んで行くのかというお話をします。

 脊髄損傷後のいろいろな神経学的な内容について、まだわからないことが多いので、そのことを理解していく必要があります。それから、リハビリチ−ムのほかのメンバ−の方々と経験を分かちあうことも必要です。例えば、セックスの体位に関していちばん患者さんといろいろなお話ができるのは、心理療法士の方でしょう。また、いろいろな職業訓練のセラピストの方々は、例えば、男性にはバイブレ−タ−の使い方を、それから女性の方には避妊のためのペッサリーの使い方を、ナ−スは、セックスの前には排尿や排便をするようにという指導ができるでしょう。そういう意味ではリハビリテ−ションチ−ムの全員にできる仕事です。

 また、脊髄損傷の方々のホルモンの状況についてはあまり知られていません。セックスセラピ−として、経口の薬をどういうふうに使っていけばいいのかについてもあまりよくわかっていませんし、女性の脊髄損傷者の閉経と高齢化に関しては何もわかっていません。

 脊髄損傷は神経学的ないろいろな問題を抱えた障害ですが、それにプラスして、心理的な、行動学的な側面が非常に大きいので、これらをスタッフ全員で対処していかなければいけません。

 私が今までお話してきた脊髄損傷の方々のセクシュアリティに関して、日本ではどういうプログラムができるのかということを踏まえて私の話を理解していただき、これに関するご意見を出していただければうれしいです。

 司会 デュシャ−ム先生、ありがとうございました。今の講演を聞いて、何かご質問はありますか。今崎牧生さん、どうぞ。

 今崎 今のお話は大変興味深く、また非常に具体的なところまで教えていただきまして、今後の医療の現場で非常に役立つのではないかと思いました。特に医療の現場では、告知の問題であるとか、どの時点で患者さんに伝えにくいことを伝えればいいのか。脊髄損傷の場合では、「セックスの機能が失われてしまったということをどの時点で伝えればいいのか」ということに、非常に興味を持たれています。 多くの論文では、なるべく早い時期に伝えた方がいいのだといわれていますが、それでは具体的に、そのとき患者さんが受ける心理的な問題や何かをどのように扱っていけばいいのか。また、そのことをだれがどのように伝えたらいいのかということを、もう少し詳細に伺いたいと思いますが。

 デュシャ−ム  いいご質問です。患者さんというのは、受傷して2、3日後には、こういうことは考えていると思います。

「結婚についてどうなのかとか」、
「子どもを持つことはできるのだろうか」、
「どんな人とどういう関係が持てるのか」、 
「セックスの関係は持てるだろうか」、

 ということは、早い時期から考えていると思います。しかし、この時期に今のような情報を伝えることは不適切だと思います。

 なぜかというと、患者さんはまだショック状態にあるし、生存という、性機能関係よりも大きなサバイバルの問題が患者さんを囲んでいる状態だと思うからです。したがって、「こういう早い時期に、性に関する心配をすることはノ−マルですよ」、「みんなそういうふうに思っているんですよ」、ということをいってあげること。そして、退院して家に帰る時期になりますと、そういうお話を聞ける状態になっているのが普通ですから、「こういう情報もありますよ」ということをその時お話します。

 今崎 ありがとうございました。大変よくわかりました。

 司会 それでは、ここで会場を設定いたしますので、お時間をください。討論に入りたいと思います。



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