| 第 9 章 |
| 薬 物 療 法 |
本章では、薬物療法一般について述べる。他のパンフレットや本は、ある特定の種類の薬物療法について詳しく述べているが、この章では、薬について知るべき一般知識について述べる。どのように薬が効くのか、なぜさまざまな剤形があるのか。そして薬の添付文書をどう読んだらよいかについて述べる。それに加えて、いかに上手に薬を使用したらよいかについてを中心に述べる。これらの知識は、医師や看護師、リハビリチ−ムが薬物療法をより効果的に行なう手助けになるだろう。
ここで紹介する薬物療法は、読者を自分自身の薬物療法を決定できるような専門家にしようというのではない。薬物の投与計画を立てることは、科学そのものなのである。患者の薬物使用に関するガイドラインは、リハビリチ−ムが持っている医学知識にとって代わるものではない。
薬の作用は誰に対しても同じというものではなく、人それぞれによって異なり、必要とする服用量も異なり、ある特定の薬物に対する効き方も違うのである。すべての人につねに同じように副作用が起こるわけではない。ベストの治療法を施してくれる医療スタッフを信じようではないか。
◆ 正直は最上の策
正直に報告することが、最大の恩恵をもたらすであろう。つまり、すべての病歴、薬歴、現在飲んでいる薬(処方箋調剤薬、薬局・薬店で買って飲んでいる薬)の情報を医師に提供する必要があるだろう。医師は、病歴からあなたとその家族の薬物に対する反応、病気、悩みの情報を知ることができる。これらの情報は、過去の治療歴を理解し今後の治療方針を立てる上で、医師にとって非常に重要である。
ある薬物が、単に人体に影響を与えるだけではなく、他の薬物にも影響を与えるということに気をつけていただきたい。たとえば、アスピリンのような、ありふれた薬でさえ、他の薬の作用を無効にすることがある。(この点をさらに理解するには、本章の「薬の相互作用」の項を参照)。かぜ薬のような薬局で市販されている安全な薬が、膀胱と腸の薬物療法に影響を与えることもある。
妊 娠
もし妊娠、あるいはその可能性が疑われるときは、医師に告げなくてはならない。薬を飲めば、おなかの赤ちゃんも、それを服用しているのと同じことなのである。薬の種類によっては、それは重大な悪い結果をもたらす可能性がある。
◆ どのような薬がどう作用するのか
からだが化学物質から成り立っていることを理解することが、薬が効く仕組みを理解する出発点である。薬もまた化学物質である。薬を飲むとき、それらは体内の化学物質と相互作用をして、効果を現わす。
多くの場合、薬それ自体が病気を治すのではない。病気と戦うことができるように、からだの免疫力を高めているのである。
薬の効き方には2通りがある。ひとつは、薬が変化せずに飲んだときの形のままで効くタイプ。もうひとつのタイプは、体内で薬物を変化させ、別の形になった薬が組織に到達して効く、というものである。
薬は、ふだんは体内には存在しない化学物質である。そのため、尿、便、涙、汗、呼気中に排泄される。どの薬も、投与されてから排泄されるまでに一定の時間を要する。この時間が、薬の服用量に関係しているのである。すぐに排泄される薬もあれば、持続的に効果を発揮させるため長く体内に留まるように、製剤を工夫されている薬もある。
薬の剤形
薬には多くの異なった剤形がある。例をあげれば、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、チュワブル錠(噛めるもの)、注射剤、軟膏がある。薬の剤形はどのように体内で作用するかによる。以下は、薬の剤形の例とその使用法である。
- チュワブル錠:即効性で、しばしば子どもに与えられる。
- 錠剤、カプセル剤:持続的に効く。これらの薬は長い時間にわたって放出されるよう加工してあるので噛んだり、砕いたりしてはならない。
- 注射剤: 早い効き目を期待する場合。あるいは経口では投与できない場合。(インスリンのように経口投与で分解してしまう場合)。
- シロップ: 咳止め薬。それらは通常濃く、砂糖を含んでいる。
- 座薬・浣腸:直腸で吸収される薬。吐き気を起こすため経口投与できない薬。
- 軟膏・クリーム・ローション:多くは皮膚用の外用薬。例外はニトログリセリン軟膏で、自律神経過反射の治療のために使用される。
- 懸濁液*:液の中に多量の固体の薬物が懸濁されている。固体は沈殿するので、服用する前に容器を十分に振り、混合しなくてはならない。〔訳注:けんだくえき。不溶性の固形の医薬品を液中に細かく均等に分散させた薬剤〕
- 皮膚 / 経皮的パッチ:投与された薬剤は皮膚から吸収されゆっくりと体内に入る。貼る部分が清潔で乾いた皮膚で、体毛が少しか全くないところか、また傷や炎症がないかどうかを確かめなさい。新しいパッチを貼る前に古いパッチをはがしなさい。投与量の調整のために貼る時間を短くしてはならない。
- 吸入器:薬をとかしたものは適切に吸入されなければならない。吸入システムをどのように正確に使用するかについて講習を受けることがベストである。そしてあなたの服用量を専門家に注意深く聞きなさい。いくつかの吸収法では水なしに口をそそいだ後に行なうこともあるので、説明を注意深く読みなさい。
- 点眼:かならず両手を洗ってから点眼しさい。薬の容器の先が実際に眼の表面に触れてはならない。
副作用
服薬の前に副作用について知っておくことが重要である。薬剤師、医師、看護師や他のチームスタッフはあなたにこのことを説明するだろう。 服薬後、どのような副作用を感じたかを医師に伝えることもまた重要である。薬剤の一般名と商品名を知ることは良いアイデアである。
服用している全ての薬のリストをつくり、いつも持っているようにしなさい。これは通常の、あるいは緊急の医療を受ける必要がある時に重要である。副作用は様々に分類される。
アルコールがもっとも頻繁に薬の相互作用を引き起こす。例えば、アルコールは精神安定剤の効果を2倍以上にする。注意すべきことは、咳止めシロップも同じ効果を現わすのに十分なアルコール分を含んでいることである。アルコールはどのような薬とも一緒にとってはならない。繰り返しになるが、常用する薬について医師に報告することである。それがまさにアスピリンのようなありふれた薬であっても、医者に言うと言わないでは大違いである。
- 薬理学的効果:これは薬それ自身のもつ化学的な副作用である。それらは予測可能でありコントロールできる。多くの薬が体内で複数の作用をする。服用量は薬効に大きな差異をもたらす。身体が、薬やその副作用に順応するのに時間がかかる場合がある。多くの場合、薬を使って得るプラスの効果は、副作用というマイナス面よりはるかに大きいのである。
- アレルギー反応:アレルギー反応は薬物療法がとられた後すぐ、あるいは数週間後にさまざまな反応として現われる。皮膚アレルギーはもっとも一般的な症状である。それらは、発赤やかゆみから腫脹や潰瘍までにまで発展する。アレルギー反応は薬の作用や服用量には関係ない。花粉症のようなアレルギー症の人が、より薬物に反応する傾向があることを除けば、アレルギーの発生を予想するのは難しい。 病歴、薬歴をすべて医者に言う必要があるのは、アレルギーの予測が困難だからである。医師が過去にアレルギーの起きた薬剤を知ることができれば、アレルギー反応が起きる確率をより低くできるのである。もし何らかのアレルギー症状が現われたなら、その薬剤の服用を中止して、すぐに主治医に受診すること。
- アナフィラキシー(薬物過敏症):薬に対する即座の重篤な症状。血圧低下と呼吸困難をともなう生命を脅かす状態である。服用をやめ、すぐに救急車を呼ぶこと。
- 薬の相互作用:ここでは、2つあるいはそれ以上の薬の相互作用に言及する。ある薬が併用するもうひとつの薬の作用を増強する場合がある。また、他の薬の作用を阻害する場合もある。お互いに作用を及ぼすこともあるが、2つの作用が組み合わさることによって、さらに新たな作用を生み出すこともある。
市販薬と処方箋調剤薬
市販薬と処方箋調剤薬の最大の相違は、市販薬のほうがより安全ということである。これは、市販薬の副作用がより少なく穏やかであり、薬物中毒になることは稀か、まったくないことを意味している。 薬用植物の調剤は、ダイエット・サプリメント、薬用植物、ビタミン類、ミネラル類、及びその他の物質を含む。更なる情報は「代替医療」の章を参照せよ。
これは、市販薬や天然サプリメントが無害であることを意味するものではない。むやみに服用したり、ほかの薬と相互作用を起こして、健康に大きな影響を与えることがある。市販薬や天然サプリメント、あるいは何らかの処方薬を服用しているなら、処方箋調剤薬と同様に医師に告げなければならない。多くのハーブサプリメントは、現在ではさまざまな食物に加えられている。ラベルをよく読んで確かめ、あなたの服用する薬剤と相互作用するかどうか注意しなさい。更なる情報は「代替医療」の章を参照せよ。
◆ 処方箋に記載されていること
どの処方箋もおおむね同じで、下記の事項が記されている:
- あなたの住所と名前。
- 「Rx」(処方)−−実際の処方箋が書かれたエリアを示す記号。
- 薬の名前と強さ
- 処方される薬の量
- 薬の服用法の指示(これらは処方箋上は略されるが、薬の容器にはすべて記載されている)。
- 再調剤情報 (refill information)
- 日付
- 処方者の名前、住所と登録番号
- 処方者の署名
多くの場合、医師は電話で薬局へ薬の発注をする。しかしながら、規制薬物はこのようにはできない。それらの薬物には、麻酔剤や興奮剤のようなものが含まれる。それらは薬局向け処方箋でのみ入手可能である。処方箋調剤薬の再調剤は専用の処方箋で手に入れるのが便利である(表9−1を参照)。
薬を切らさないために、十分な時間をとり、少なくとも2週間に一度は再充填の注文を薬剤師に送ることを確認しなさい。
再処方の様式は、あなたが服用する再処法量と、それを承認した「引き継ぎ札」以外は、最初の処方箋の情報とほぼ同様である。最初の処方箋を再充填で長い間使っていると、次には再処方箋は更新されるだろう。使用している最後の再処方薬があれば、あなたは全ての処方箋の記録のフォームを得ることができるだろう。このフォームは主治医のサインがあって初めて有効となる。多くの薬剤師や、クリニック、病院は電算化システムを使い、あなたの薬のオーダーや再処方の記録を保管している。
再処方に関する法律は多くの再処方の中で記載された調剤のみを受けられるよう制限している。この場合、薬剤はどれだけ多く再処方を受けられるかを示す異なるカテゴリーにおかれる。
【表9−1】 再調剤処方箋の記載項目
日 付
有効期限
名 前
日 付
処方箋の書かれた日
服用法
薬 名
処方者名薬 量
薬の処方された日数
再調剤された回数
有効な再調剤の回数
元の処方箋の発効日
署名と再調剤の日付
住 所
処方箋番号
◆ 薬の広告について
あなたは、消費者として、すべての薬に関する情報には気をつけ、広告を鵜呑みにしてはならない。何を服用しているか、医師とともにチェックすべきである。広告にだまされないこと。広告を注意深く読み、何か疑問があれば医師か薬剤師に聞きなさい。
◆ 自宅では
病院では、医者をはじめとして看護師など、多くの人が薬物療法が確実に行なわれるように配慮してくれる。彼らは、どの薬を、いつ、どれだけ飲んだら良いのか、それがどのように効くのか教えてくれる。
自宅では、薬に関してあなた自身に責任が生じる。決まった時間に適量の薬を飲む責任がある。薬を飲んでいる間に起こるどんな変化にも注意をし、そのことを医者に報告しなければならない。
また、どんな薬を服用しているのか、自分自身でも知っておかなければならない責任がある。服用する薬のラベルに記載されているすべてを読むべきである。それでも疑問な点があれば、薬剤師に尋ねるべきである。これは処方箋調剤薬、市販薬のどちらでもいえることである。
些細なことにも注意を払うべきである。注意を高めることによって薬物療法が安全となり、より効果的になるのである。
薬の情報を読むことは、あなた自身が投薬プランニングのエキスパートになることではない。薬物療法のプランニングは科学である。消費者ガイドラインはあなたの医療チームの医学的知識に置き換えることはできない。薬剤師は、あなたが薬物療法を理解することを手助けし、どのように服薬すれば安全であり効果的であるかを教える。
■
BACK NEXT ページ10 全28ページ