| 第 2 章 |
| スキンケア |
皮膚は全身をおおい、保護している。皮膚は2つの層−−「表皮」と「真皮」で構成されている。
表皮(表面の層)は、外側の死んだ細胞の層と内側の生きた細胞の層からできている。表皮の外側部は、その内側をおおっている組織と環境の間にあって緩衝材の役割を果たしている。死んだ細胞はたえず自然に剥離して、表皮の内側から出てきたものと置き換わる。
真皮(皮膚の下側の層)は、皮膚に強さと弾力性を与えている厚い線維性の組織でできている。そこには毛胞(毛根)、汗腺、皮脂もしくは脂肪腺、血管、そして神経終末などがある(図2−1参照)。
皮膚の役割
皮膚には4つの機能がある。
@保護、A知覚、B水分調節、C温度調節
皮膚はすべての身体構成物とその下にある組織のためにこれらの機能を果たしている。これは脂肪層、筋肉、骨を含む。
- 皮膚はほとんどすべての化学的・物理的要因、すなわちバクテリア、汚物、異物(小石 など)、そして太陽光線の紫外線に対し遮蔽板 のように働いて保護する。
- 皮膚は知覚機能をもつ。触覚、痛み、温度 の感覚は、皮膚の神経終末から脊髄を経由して脳までたどり着く。
- 皮膚のたいせつな役割は、身体の水分と温度の調節である。汗腺はつねに水分と塩分を皮膚の表面に提供し身体内部の水分の量を変えている。汗腺から水分を蒸発することで、安定した体温が維持されている。
表2−Aは、脊髄損傷による皮膚への影響、及びその予防法を示している。
【表2−A】 脊髄損傷による皮膚への影響、及びその予防法
<機 能> <変 化> <処 置>
皮膚の保護 変化なし 皮膚の創(キズ)を避ける。 皮膚の感覚 損傷レベル以下の触覚、痛み、
温度感覚の減退もしくは消失。皮膚や下部組織の損傷を予防するた
めに、特定の予防習慣を身につける。温度調節 損傷レベル以下での発汗が減少し、
蒸発による冷感作用が低下する。
損傷レベル以上では多量の発汗があ
りうる。環境の温度管理(直射日光を避け、
必要があれば エアコンを使用)。
日差しの下では多量の水分をとる。
入浴の回数を増やす。
服薬で抑える場合もある。水分調整 損傷レベル以下での自律的筋運動の
消失は、皮膚組織の水分貯蔵の増加
を生じる(浮腫 フシュ)。腫れ上がった部分を持ち上げ、
浮腫を縮小させる弾性ストッキング
の着用。
◆ なぜ皮膚の圧迫を心配すべきか
十分な血液の循環は、皮膚や身体組織の生命維持に欠かせない。しばらくの間、血液循環が断たれると細胞が死んで褥瘡(ジョクソウ)ができてしまう。血液の循環障害のもっとも起こりやすい原因は、ベッドなどの堅いもので身体が圧迫されるためである。このようにできた創〔傷〕は「褥瘡」と呼ばれる。
皮膚の圧迫は体の外側から、例えば車いすの座席や、ベッドのマットレスから来ることがある。
特に骨がいくらか突き出ている部分では、体重の圧力が骨を血管の上へ押しつける。血管は外側表面と骨の間にはさまれ、血流が阻まれる。酸素と栄養素を運搬する役割を持つ血液は、その部分を通過することができなくなる。圧力が軽減されない限り、それらの血管によって養われている細胞は死に、潰瘍(かいよう)が形成される。褥瘡は30分ほどの短時間で起きることを知っておくべきである。
規則的な除圧は、血管を再び開放して、こうした事態を予防する。幸いにも、皮膚の圧迫は、細胞が適切な循環を得ていないという早期警戒徴候を表皮にもたらす。
皮膚圧迫の早期警戒兆候は、「発赤」〔充血による赤み〕と「硬結」〔皮膚または皮下の硬いしこり〕である。(図2−2参照)。
剪 断(センダン)
2つの皮膚組織が反対方向に引っ張られるとき、剪断が発生する。これはまた、表皮の破壊に至る。表皮層での血管は、引っ張る力によって切り離される。車いすで滑り落ちると、剪断が引き起こされる。
ベッドに座るときにも起こりうる。ベッドの頭側が上げられると、体はベッド上で下にずり落ち、剪断に至る。体重による剪断、さらにずり落ちる際の皮膚の圧迫により褥瘡を作る危険性を増すことになる(図2−3参照)。
表皮の摩擦
持続的な皮膚の摩擦、または表皮を引っ張る力から生じる摩擦が水疱を引き起こすことがある。これは避けなければならない事態である。移動の際、ベッド、トイレまたは何かで皮膚の表面をこすった場合に摩擦は発生する。また、摩擦は痙縮に起因する場合がある。
褥瘡への対処
褥瘡を治療するもっとも重要な方法は、原因を除去することである。
・ 皮膚へのすべての圧迫を除去する。
・ 褥瘡部分を下にしないこと。
・ 褥瘡部分を清潔にして乾燥させておくこと。
・ 座るのではなく寄りかかれるベッドレストが必要だろう。
褥瘡形成後の対処方法にはいくつかある。外科処置を必要とする場合もある。傷を治すため訪問看護ステーションに連絡することも必要だろう。
何であれ褥瘡の対処は、長期にわたり皮膚への圧迫を減らすことが求められる。褥瘡が広がってしまったら、脊損クリニックに連絡し診療を受ける。近くにこうした医療施設がなく、褥瘡が広がった場合には、最寄りの看護師か医師に相談する。
◆ スキンケア
皮膚への栄養
健康な皮膚を保ち続けるためには、ビタミンA、C、E、B6及びニコチン酸が必須ビタミンとなる。これらのビタミン類は単独では機能しない。十分なタンパク質、カロリー、他のビタミン類及びミネラルが、これらの機能を引き出すことが必要である。これらの栄養物は、バランスがよくバラエティーに富んだ食事をとることによって機能を発揮する。バランスの良い食事をとるためのコツは第8章「栄養摂取」を参照のこと。
体重管理
体重管理もスキンケアに関連する部分である。身長に見合った適切な体重を保つことは、皮膚損傷の危険性を低下させることになる。自分の身長に見合った体重、あるいは肥満ややせすぎについての知識を得るには、第8章「栄養摂取」にある「理想の体重にするために」の項を参照のこと。
健康法の基礎
日常の健康法は誰にとっても必要である。ほこりやあかは、つねに他の細菌類を伴い皮膚表面に付着する。皮膚の総表面積は約3メートル四方で、小さな細菌類を増殖させる格好の培地である。どのような皮膚の切り傷、すり傷であれ、こうした細菌類を体内に容易に侵入させることになる。そこで、シャワー、浴槽、ベッドバスまたはスポンジやタオル使用し、石鹸や水で汚れを落とす、日々の清潔が必要である。
若いときや中年での毎日の入浴は元気づけられるものである。しかしながら(あなたの年齢のように)、毎日全身を洗うことは皮膚を乾燥させることになるので勧められない。
皮膚はいつも汚れているのでそれでも洗わなければならないだろう。腋の下や鼠蹊部(そけいぶ)のようなところはやはり毎日洗う必要がある。
脊損者が衛生上特に気をつけること
車いすに座り終日体重移動していても、鼠径部の空気循環を十分に確保することはできない。また1日の大半を両足を閉じて過ごす場合、人体の常在菌に最適の環境−−繁殖のための適切な温度、暗さ、湿気−−を与えることになる。そして、プラスチックやゴムの排尿管、あるいはコンドームカテーテル、留置カテーテル、防水パッド、集尿袋をつけている場合、細菌が増殖する格好の培地となる。
衛生に関する役に立つヒント
- 就寝前に、もう一度鼠径部を洗う。
- 少なくとも日に一度、カエルの姿勢のように開脚し、鼠径部に風を通す。
- 入浴後はいつも鼠径部と両足の間をしっかりと乾かす。
- パウダーが好きならば、鼠径部にかるくつける。つけ過ぎないように注意する。あまりにたくさんのパウダーは塊りとなり、褥瘡を引き起こすことがある。
- 収尿袋を、毎日洗浄するか交換する。(第6章「膀胱管理」を参照)
- 医師が指示したのでない限り、両足の指の間を除いて、乾いた皮膚には毎日ローションをつけなさい。
- 爪の手入れの際に、
- 毎日、指と足の爪を清潔にする。
- 安全のために爪を短くしておきなさい。
- 巻き爪を予防するために、爪をまっすぐに切りなさい。
- 15分か20分水に漬けるか、入浴後に爪を切る。こうすればたやすく爪が切れる。
- 厚い角質化した爪は、足の専門医かクリニックの看護師が切る必要があるかもしれない。
◆ 毎日の皮膚管理
毎日、表皮の状態に特に注意を払う必要がある。それは障害レベル以下においては、循環機能の低下、体の動きや感覚の欠如があるためである。褥瘡は、急速に拡大することがある。従って、褥瘡の認識と処置、とりわけ予防の必要性を理解することが重要である。表皮をよく見て調べてみること、それが対処のためにとても役に立つ。図2−4は、褥瘡のできやすい部位の観察ポイントを示す。
皮膚チェックのヒント
- 1日に2回実施すること。ベッドから起きる前に、横になったときに圧力がかかる部分をチェックし、また、ベッドに入ってから、座ったときに圧力がかかる部分をチェックする。
- 損傷レベル以下の、骨の突起した部分(足首、肘、かかと、腰、尾骨)をチェックする。鏡を使って、坐骨など、背中の骨ばった部位を見る。
- 鏡を使うことができないか、自分で皮膚をチェックできないならば、誰か(介助者など)に見てもらう。
- 発赤、切り傷、擦り傷、あざがないか見る。いつもと違う部分があれば注意深くチェックすること。
- 発赤を見つけたら直ちに、本章の「皮膚のトラブルチェック」の項を参照して対処法を確認する。
- 骨ばった部分が周囲よりコブや硬くなっていないかチェックする。
チェックする部分
衣服や靴、器具がきつすぎないか、体に合っているかチェックすることは重要である。特にチェックすべき点は――
1.股上の縫い目、特にブルージーンズの場合。
2.陰嚢(いんのう)が圧迫されるような鼠径部の締め付け。
3.特に足が腫れ上がっているときの、きつい靴。
4.ひざ下を締め付けるゴムが上部にはいった靴下。
5.あまりにきつい収尿袋の装着帯。
6.あまりにきつく装着されたコンドーム。
回避すべきトラブル
- はじめて着る衣服は、着る前に洗濯し、着用の1、2時間後には、皮膚に発赤またはすり傷がないかチェックする。
- 鼠径部の継ぎ目が平たい(かさばっていない)デザインのジーンズを買うこと。尻ポケットを取り去るかそれがついていないジーンズを買うかよく考えること。
- 締めつけないよう、通常より大きめサイズのジーンズや靴下を買いなさい。
- 男性は着替えて椅子に移ったあと陰嚢の位置を直しなさい。陰嚢の上に座っていないか確かめること。
- 弾性ストッキングを使っているのでない限り、靴下はゆるすぎるかきつすぎる。
- 靴の履き具合を注意深くチェックし、足の浮腫の兆候を見逃さないこと。新しい靴を履いたあと6ヶ月以上たったら、中のクッションがすり減ってきていないか再チェックすること。
- 排尿器具をゆるめるか交換すること。
【図2−4】 皮膚の点検ポイント
◆ 姿勢/体位交換
姿勢を変えれば、骨ばった部分にかかった圧力を取り除ける。姿勢や体位交換のコツを以下に列挙する。
ベッドで
- 皮膚に無理のない程度で体位交換をする。体位交換は、背中を左右に傾ける手順で行なう。 できれば、うつ伏せで寝る。図に示した体位や枕の使用法を参照のこと(図2−5参照)。
- ベットにあおむけに横になったときは、かかとが圧迫されることを避けるために、足を枕の端に乗せなさい。くるぶしやかかとの皮膚を守るために専用の副木を着ける人もいる。
- 横に寝たとき臀部の肉厚の部分への圧力は腰骨(転子)の皮膚を守るだろう。
- ベッドに長時間座っていると尾骨を覆う皮膚にとって危険である。そこで一時の機能訓練としてベッドから頭を上げなさい。
- 体位交換のために起きるためには、最初は目覚まし時計を利用するとよい。しばらくすると、
意識せずにベッドで体位交換できるようになるはずである。
- 自力でできない場合は、(介助者など)誰かに体位交換を行なってもらう。
- 特製のマットが必要だろう。医師か看護師に相談するように。
車いすで
- 15分ごとに除圧して、尾骨と坐骨にかかる圧力を除く。 理学療法士に除圧法の図をもらうとよい。方法としては以下に挙げたものがある。理学療法士と相談して自分の最良の方法を見つけること。
- 手をやや前方に置き、からだを車いすの座席から押し上げ〔プッシュアップ〕、30秒から1分保持していること。
- 左右に体を傾けるごとに30秒〜1分その姿勢を保つ。胸を膝の前方に曲げて30秒〜1分その姿勢を保つ。
- 車いすを後ろに傾けるか、リクライナーを使う。1、2分傾けたままにする。長時間傾けたままにして(最大限30分以内)、皮膚への対処法としている人もいる。
- 可能な限り車いすでのポジションを動かすこと。毛虫のように小刻みにくねらせること。それは自動的に来るのではないが動き続けていることは血行を良くする。
- 車いすに乗ってから、全身の映る鏡を見て、自分の姿勢をチェックしなさい。足首、膝の脇、腰骨が車いすの一部にもたれかかっていないことを確認する。からだは自然にバランスと左右の釣り合いを保つようにできている。両側のかかとと脚がそろうようにしなさい。痙性と筋強度の不均衡はこのバランスを崩壊させ、姿勢の変化を引き起こす原因となる。体幹と脚の筋拘縮も同様の結果をもたらす。
- 背中(脊柱)の彎曲(わんきょく)とねじれ。
- 一方の股関節のみで、あるいは一方の股関節に偏って座ること。
- 片方の膝がもう片方より高いように見える。
- からだの「落ち込み」や車いすの片側への傾きが現れているか。
- 車いすのフットレストの高さが自分に合っているか確認する。
- 車いすでは、できるだけ真っ直ぐに体を起こす。
- 必ず(空気圧の)メインテナンスが行き届いたクッションを使うこと。
- 姿勢をどのようにたやすく変えれば圧力がかかる部分を変えられるかに気付きなさい。
◆ ケガの防止
受傷前は、危険を回避するよう知覚が警告した。もちろん、事故はつねに発生し得たし、今後もそうであろう。受傷後、損傷レベル以下の感覚・運動能力のいずれか両方の一部ないしはすべてを失った。このため皮膚を傷つける危険性が生じる。
ケガを防止するヒント
- マヒした部位がどこに、どのような状態にあるか絶えず注意を払う。例:ヒータや暖炉に近すぎないか。詰め物の厚い椅子に移ったあと、足は床の上にしっかりついているか。
- 動き回っているときや場所を移るとき、物にぶつからないように注意する。目で距離や障害物を確認すること。車いすで回転するとき、足はからだのほかの部分より突き出ていることを忘れないように。
- 車いすの派手な動きや新しい動きは、十分に訓練を受けてから行なう。
- 痙性は皮膚をマヒさせる。例えば、受傷のためくるぶしがふくらはぎのレストパットを打つために、後ろに傾いたとき痙性が起きる。
- 眠ってしまうと徐圧が出来ないので、車いすで眠ってはならない。
◆ 皮膚への悪影響となり得る要因
アルコール乱用
飲酒する人は多い。アルコール類はあなたの判断を損なわせ、事故や他の活動に向かわせることで、あなた自身とあなたの皮膚を傷つける。酔った時には徐圧することを忘れ、褥瘡のリスクを招く。
《対処法》
- 明確な思考とよき判断を維持するためにはアルコールに限度を設けなさい。例えば、飲酒は食事中に限り、また1日1、2杯に制限する(第8章 「栄養摂取」を参照)。(1杯とは、ビールで12オンス:355cc、ワインで6オンス:177cc、蒸留酒で1オンス: 29.6cc)
- 飲酒後は運転してはいけない。また誰か飲酒した者の車に同乗してはいけない。
- アルコールや薬物をコントロールできないときは、主治医や地域保健センター、地域のアルコール治療プログラムに相談しなさい。
貧 血
貧血とは、赤血球数の減少を示す医学用語である。からだの組織に届く酸素の大半(97%)は、赤血球によって運ばれる。赤血球の値が低ければ貧血である。
細胞の酸素を維持するに十分な赤血球がなければ、細胞は弱り死滅する。皮膚は十分な酸素供給を得られなければ、破壊され死滅する。あなたの皮膚は傷つきやすく、もし傷つけたら治すのが大変だろう。
《対処法》
貧血にはさまざまな原因があるので、検査してもらうことがよいだろう。一般に貧血の原因は、食事中の鉄分の欠如である。赤い肉の摂取量を増やしたり、緑黄色野菜か鉄分を補強したビタミン剤を摂取してみてもよい。栄養士に助言を得ることが良いだろう。
凍 傷
脊髄損傷により皮膚感覚がないため、冷たすぎると凍傷になる危険性がある。
≪対処法≫
- 膝の上に置いた冷凍食品に気をつけること。凍ったものの下にはパットを敷くこと。
- 腫れ上がったところをアイスで冷やすならアイスをタオルで包みなさい。10分以上冷やし
てはならない。
- 戸外では温かい靴下や頑丈な靴を履いて凍傷を予防しなさい。外に出るときは頭や耳、手をさらさないようにしなさい。もし耳がかじかんだり疼いた時には脚もたぶん同じ状態であり、すぐに家に戻りなさい。
やけど
脊髄損傷により皮膚感覚がないため、熱すぎるものはあなたを傷つける危険性がある。
≪対処法≫
もしやけどしたらすぐに応急処置をしなさい。冷たい水をかけること。やけどに氷などの凍ったものを使ってはならない。もし熱い食物や液体をこぼした時、こぼしたあたりでなく、鼠蹊部や臀部のチェックをしなさい。
- 水の中に手か体の一部を入れて5秒間水温をチェックしなさい。それが快適と感じれば水温は安全である。手を入れて変だと感じれば、他の人に水温をチェックしてもらうか、温度計を使いなさい。入浴の水温はふつう38℃〜42℃である。
- 温水ヒーターを60度以上にセットしないように確認しなさい。水温は急速に60℃以上になる。
- 電気座布団を使ってはならない。
- 自動車のヒーターに足を近づけすぎない。
- 電気毛布を使わない。
- 暖炉、ラジエーターや温水パイプ(特に流しの下)に近づきすぎない。
- トレイなしに熱い液体や食物を膝に乗せてはならない。熱い食物を運ぶには厚板を使うこと。それはディシュやパンをそっくりカバーでき、熱い容器が足に触って火傷になることを防ぐことができる。
- 車いすではカップホルダーを使うこと。
- コップ一杯についではならない。
- レンジの表面にぶつからないようパン掴みを使いなさい。
- ダブダブの長袖のシャツを着ないこと。また、熱いストーブの先に手を伸ばさないこと。
抑うつ
ここで定義する抑うつとは、誰もがときに感じる意気消沈や憂うつ、泣きたい、あるいは単にうんざりした、と言った気分を指すものではない。抑うつ症の人は、あまり食べず、食欲がなく、夜に眠ることができないか、逆に寝てばかりいるものである。抑うつ症の人は概して大変、非活動的であり、自己管理を無視してしまう。
抑うつ自体は皮膚に問題を引き起こすわけではないが、食事や睡眠の不足の副作用や、活動不足による運動量減少により、褥瘡が発生する可能性が高まる。
《対処法》
1、2日ぐらい気分が沈んでいても、心配することはない。それは普通のことで、多分1週間ほどで乗り越えるだろう。それより長引くならば、主治医に連絡をして心理学者か看護師または医師に話したい旨を伝える。沈んだ気持ちが続くようであれば、だれかの助けを得なさい。
ストレス
たいていの人は、日常生活において緊張したり、神経質になったり、悩んだりする。筋肉の緊張、血圧の上昇、イライラや疲労感はストレスの一般的な兆候である。絶え間ない血圧上昇や筋肉の緊張によって、からだのエネルギー消費が増え、疲れやすくなり、健康な皮膚に必要なビタミン、ミネラル、栄養などを消費してしまう。
《対処法》
- 本書第13章「障害の受容」にはリラックスの仕方、時間のやり繰り、ストレスの減らし方が記されている。
- 毎日、リラックスする時間を持ち、ストレスを低下させるよう心掛ける。
糖尿病
インシュリンは、細胞の栄養分となる糖を細胞に届けるために必要である。インシュリンが不足していると、糖は細胞に入ることができず、血中に蓄積される。それゆえに糖尿病の人は、グルコース、つまり血糖が上昇する。
糖尿は血管や神経を損傷する。糖尿病を患うと、傷口は化膿しやすくなり、また治りが遅くなる。
《対処法》
- 食事と、処方された場合は薬物により血糖値をコントロールする。主治医が勧めるように、何度も血糖値をチェックしなさい。
- 皮膚に発赤、水疱や腫れものがないか注意深く調べる。つま先と脚部には特に留意すること。
- 糖尿病では足先、足指が特に傷つきやすい。清潔にして乾かし、足指の爪を切りなさい。小さな傷が深刻な問題となるので傷つけないよう注意深くしなさい。
- 皮膚に発赤、水疱や腫れものがないか注意深く調べる。もし傷が1週間で治らなければ、本章末のトラブル対処法に従い主治医を訪ねなさい。
浮 腫
浮腫は、体液がからだの一部の組織内や周囲に集まることである。通常、足やくるぶしの水腫が発生し、四肢マヒの場合はときに手にも発生する。組織の腫れがひどくなると、細胞に適切な酸素と栄養が届きにくくなる。その結果、皮膚組織の損傷の可能性が増大し、一度傷ができると、酸素と栄養が減少しているため、治りが遅くなる。
《対処法》
- もし、両手足が浮腫になったら、頻繁に持ち上げなさい。
- もし、処方されていれば、弾性ストッキングを履くか、手袋をつけなさい。
- 腫れても大丈夫なように、ワンサイズ大きな靴を買いなさい。靴の上から底まで、どれくらいのすき間があるのか注意しなさい。浮腫になりやすいなら、長めの靴は適切でない。
- 締めつけの原因となる装具、そえ木、衣類、排尿装置がきつすぎないか確かめなさい。 もし浮腫が長引き、より詳細な情報が必要ならば、第3章「循環器系」の浮腫の項を参照。
発 熱
病気になるとしばしば発熱する。発熱とは体温の上昇である。一般に平熱は37℃であるが、人によっては平熱が37℃より高かったり低かったりする。絶対的な数値はない。自分の平熱が何度か把握しておくこと。
体温は一般に朝より、午後や夕方に上昇する。これは絶対的なものではないので、自分の体について知っておくこと。発熱とはふつう、0.8℃以上の体温の上昇である。脊髄損傷は、体温を統制する身体能力に影響されるだろう。体は気温にとても敏感になっているだろう。
受傷後は、気温に大変敏感になっていても、自分の体温をうまく調節できないこともある。数時間暑い日差しの下にいれば、体温は上昇するだろう。体温が38.4℃以上に上昇していれば、発熱していると言えるかもしれない。
≪対処法≫
発熱し病気だと思ったら、主治医にかかりなさい。日差しを逃れても熱が下がらなければ、4時間ごとにタイレノール(650mg)2錠を服用する。冷水浴をするか、冷やした布でからだを拭く。特に頭、首、足、手、わきの下、鼠径部を冷やす。発熱が1日以上続くなら主治医にかかりなさい。
- 暑い屋外にいる時間を引き延ばしたいならば、霧吹きを持参しなさい。
- つばの広い帽子をかぶりなさい。
- 発熱や暑さによる水分減少に対処するため、ふだんよりたくさん水分をとりなさい。
低酸素状態
からだの細胞に十分な酸素供給がない場合は、低酸素状態ゆえのトラブルが生じかねない。これは肺疾患や四肢マヒの場合、胸部筋を使えないために深く呼吸できないことに起因することがある。体内組織の生存には酸素が必要である。皮膚への酸素供給が少な過ぎると、皮膚が傷つきやすい。
《対処法》
低酸素の問題を抱えているときには、第4章「呼吸管理.」を読むことが非常に重要である。
喫煙者は、禁煙すること!
スパイロメーター(肺活量計)によって自己管理し、医師の処方にしっかりと従うこと。
湿 気
発汗、尿失禁、下痢など、皮膚を濡らしたり湿らせる要素すべてである。
どの部位であれ、長時間にわたり水分が付着していると、正常な皮膚の保護機能が低下する。
また、皮膚に発赤や損傷を引き起こし、皮膚感染の危険性を高める。
《対処法》
- 皮膚の清潔と乾燥を心掛ける。
- 特に発汗部位の清潔に注意を払う。
- 皮膚のたるみは、十分に清潔にし、乾燥しておく。
- 皮膚を湿気から守るために軟膏、ラノリン調剤、化成ジェリー、酸化亜鉛が立つ。もし皮膚の湿りが赤くなってきたらこれらの方法を試してみなさい。他の発赤部位についても同様に注意を払いなさい。1週間たっても治らなければ主治医にかかりなさい。
やせすぎ
理想体重より10パーセント以上少ないことをやせすぎという。理想体重は第8章「栄養摂取」を参照。やせすぎの人は、タンパク質、ビタミンやミネラルが不足していることがある。タンパク質やビタミンの欠乏は傷の治りを遅らせる。やせすぎの人は、坐骨と皮膚の間を保護する筋組織が不足している可能性がある。
《対処法》
カロリーを余分に摂ろう。すぐ満腹になる場合は頻回に食べよう。タンパク食品も十分に摂取しよう。ビタミン補助食品(サプリメント)を摂ってもよい。詳しくは第8章「栄養摂取」を参照のこと。
肥 満
肥満とは相対的な言葉である。体重の許容範囲は広いが、理想体重より10パーセント以上多いものは肥満と言えよう。理想体重については第8章「栄養摂取」を参照のこと。肥満した組織には血管が少ししかない。肥満でいることは、座った時の皮膚への圧を高める原因となる。これは皮膚の接触面の圧力を増加させ、皮膚を損傷させる可能性を増大させる。肥満でいることは体を動かすことを困難にする。トランスファー(移乗)もより困難となる。徐圧も効果的でないだろう。
≪対処法≫
- 体重管理のプログラムを実行する。そのために栄養士に相談する。第8章「栄養摂取」の食物一般の項を参照のこと。
- 皮膚のたるみ部分の清潔と乾燥を心掛ける。発赤部位がないか頻回にチェックする。
- 数時間ごとにベッドでの体位を変えなさい。座っている時には15分ごとに徐圧しなさい。もし体を浮かすことができないなら、別の方法で徐圧することが必要である。
- 活動レベルを維持しなさい。関節可動域訓練と車いすでホップアップすることは有効な活動である。理学療法士やレクリエーション療法士にはエアロビック訓練を含む、あなたが日常できるアイディアがあるだろう。
末梢血管障害(PVD)
これは「アテローム性動脈硬化」、すなわち腕あるいは脚(ほとんどが脚)の血管が硬化することで、血液循環に影響する。糖尿病、喫煙、高血圧、そしてときにはコレステロール値の上昇によって引き起こされる。血管が狭くなると、からだの組織に十分に血液が行き届かない。このため酸素や栄養の供給が低下し、皮膚が傷つきやすくなる。
《対処法》
- タバコを吸う人は禁煙すること!
- 糖尿病であれば血糖値のコントロールをする。
- 足首や脚の保温に心掛ける。足首や脚が温かければ、血行は保たれる。冷たいと血管が収縮し、状況が悪化する。
- 足首や脚を清潔にしておく。その部分に傷や発赤部位がないか頻回にチェックする。もし、 傷があって1週間以内に治らなかったら、主治医を受診する。
瘢痕組織
瘢痕(はんこん)とは傷つき、傷跡が形成された部位をさす。瘢痕組織は血管数が減少しており、正常な皮膚より弾力性が乏しい。そのため、圧への耐性が低下し、傷つきやすい。
《対処法》
- 瘢痕部分をよくチェックしておく。
- 瘢痕組織に問題が生じたとき、 最初に赤くなるとは限らない。白くなり、触った感じが硬くなる場合もある。瘢痕が長い間、赤くなり始めたり白くなったら治療しなさい。
喫 煙
タバコのニコチンは、血管を収縮させる作用がある。血管が細くなると、からだの組織へ供給される血液、酸素、栄養素が減少する。皮膚の組織も同様である。酸素や栄養素が不足すると皮膚が傷つきやすくなる。さらに、熱い吸殻が膝に落ちると皮膚を傷つける。
≪対処法≫
- ニコチンの害を予防する唯一の方法は禁煙することである。「禁煙教室」を受けることができるので、主治医に相談すること。
- 手に障害があるなら、シガレットホルダーを使用すること。
- 頻回に、灰を灰皿に落とすこと。
- 自分のからだからタバコを離して持つこと。
- ベッドでは吸わないこと。
- 膝の部分には難燃性の服を着て、吸殻が自分や衣服をこがさないようにすること。
- 家に煙感知器を取りつけておくこと。
日差し
脊髄損傷はあなたの日差しへの感受性を変えない。
《対処法》
- サンスクリーンは#15か#25を使うこと。〔*日焼け止め指数SPF:数字が高いほど効果が大きい〕
- やけどをしないように、日差しで熱くなったプラスチック、ビニールや金属表面と体が接する場合はチェックすること。
◆ 皮膚のトラブルチェック
表2−Bに、皮膚のさまざまなトラブルについて記載している。目に見える症状とその対処法を詳述した。
【表2−B】 皮膚のトラブルチェック
以下のような問題が生じると、腕や足の痙性が増大することがある。痙性は健康のバロメーターでもある。もし痙性が強くなるなら、なにか問題があるはずである。
水ぶくれ 症状:
対処:皮膚の下に水っぽい、あるいは血のような液体がある。
つぶさない。圧をかけない。熱によって生じたものなら
急いで冷たい水で冷やす。乾いた包帯で覆い、主治医に
電話する。腫れ物 症状:
対処:赤くてやわらかく、中に透明な分泌物を含んだ腫れ物。
つぶさない。日に2回、刺激の少ない石鹸で洗う。
主治医に電話する。打撲傷 症状:
対処:皮膚に青っぽい緑色のシミのようなものができている。
正常な色に戻るまで圧をかけない。やけど 症状:
対処:熱により皮膚が赤くなったり、水ぶくれができたりする。
傷口が開くこともある。
急いで冷たい水で冷やし、その後、乾かす。
水泡をつぶしてはいけない。
乾いた包帯でくるみ、主治医に電話する。しもやけ 症状:
対処:寒さにさらされて皮膚(たいていは鼻、耳、指、つまさき)
の感覚が低下し、青白くあるいは青黒くなる。
徐々にゆっくりと温める。すこし冷まし、ぬるめにした
ビンなどで温める。決してこすったり、マッサージしたり
してはならない。決して熱いお湯を使ってはならない。
主治医に電話する。鼠頚部
の発疹症状:
対処:鼠径部(ソケイブ)が発赤し、鼠径部のしわ、または鼠径部と
ペニス全体に発疹がある。湿性であったり、吹き出物状で
あることもある。
日に2〜3度、刺激の少ない石鹸で洗う。よくすすぎ、
乾かす。脚を開いて空気乾燥する。2〜3日で良くならな
ければ、主治医に電話する。かん入爪 症状:
対処:足の爪の周りが赤くなり、押すとウミが出ることもある。
爪が皮膚の中に食い込んでいる場合もある。
石鹸水に浸して、足をよく洗う。よくすすぎ乾かす。
傷口部分の爪を切る。
2〜3日しても治る様子がなければ、主治医に電話する。開いた
傷口症状:
対処:皮膚の表面や中の傷。出血していたら圧迫する。
刺激の少ない石鹸と水で洗い、すすぎ、乾かす。
包帯をまく。傷を圧迫しない。感覚がない部位に生じて
いたり、赤みやウミがあったら主治医に電話する。吹き出物 症状:
対処:小さく赤い腫れ物で、頂上にウミがある。
絶対につぶさない。刺激の少ない石鹸で日に2回洗う。
よく乾かす。吹き出物が乾燥しなければ主治医に電話する。褥 瘡 症状:
対処:褥瘡はたいてい骨ばった部位に見られる。
“褥瘡”の章を参照のこと。
刺激の少ない石鹸で洗い、すすぎ、乾かす。
傷口が開けば包帯をまく。
褥瘡を圧迫しない。主治医に電話する。発赤部位 症状:
対処:15分間、赤色が消えない。圧をかけた時、
白くならない。
完全に赤色が消えるまで圧を加えない。
数日かかるかもしれない。日焼け 症状:
対処:赤く乾いた皮膚。水泡や熱があることもある。
皮膚を楽にするために、冷たい水をかけてから
日焼けを和らげるクリームをぬる。水泡は決して
つぶしてはいけない。水泡は包帯でおおう。腫 脹 症状:
対処:からだの一部、たいていは腕か脚に異常な増大や
拡大がある。
赤や青黒くなる等、色(シュチョウ)変化が見られることもある。
腫れた部位を押し上げ、弾性ストッキングを着用する。
第10章「神経・筋肉・骨」や第3章「循環器系」を参照のこと。
腫れにムラがあれば主治医を訪ねなさい。■