| 第 12 章 |
| 褥(ジョクソウ)瘡 |
褥瘡(あるいは床ずれによる潰瘍)は皮膚や皮膚の下部組織の損傷である。それは過度のまたは長期の圧力による。圧力のかかる時間が長すぎると血流が遮断される。これは細胞の酸素と栄養物を奪い、皮膚の損傷をもたらす。皮膚組織への圧力は、常に間違いなく骨において最大となる。尾骨(仙骨)、臀部(大腿骨頚部にある転子)、坐骨、あるいはかかとは、褥瘡の好発部位である。皮膚組織は、「岩」(骨)と「硬い部分」(例えば椅子やマットレス)の間で押し潰される。
受傷前には、椅子で体をよじらせたり姿勢を変えて血流を阻げないよう体がシグナルを発した。受傷後は、皮膚への同じような警報システムは持っていない。自分で考えて、徐圧の動きをしない限り、血流はその部分で遮断され、褥瘡を招く。
圧力は骨の部分で最大になるので、最大のダメージはその部分で生じる。褥瘡は皮膚表面では小さく見えても、その下ではっきり大きくなる。氷山のことを考えてみなさい。あなたの目にする皮膚(氷山の一角)の下には単に小さな組織の損傷(最も大きな氷山の一部)があるのかどうかを見なさい。
それは褥瘡予防に望ましい。もし傷を癒すことが出来たとしても−−とりわけ皮膚や軟部組織以下の深い傷−−それは以前ほどの弾力性や強さが決してないだろう。褥瘡の危険に際した時、徐圧用具を用いることで体の接触部分を浮き上らせ、圧力の分散を助ける。特製のベットシートや車いすクッションは褥瘡予防の助けとなる選択となる。しかし最も重要な予防法はしばしば体を動かすことである。
褥瘡が広がっているようなら、体を動かすことに集中し、傷が治るまで局部に圧力をかけないようにしなさい。
◆ 褥瘡レベルの分類
褥瘡レベルの分類は、褥瘡のサイズと範囲を特定し記述することに役立つ。これは個別の褥瘡の治療を効果的に計画実施する上で重要である。深い傷口の褥瘡はより深刻な問題となる。もっとも一般的な重症度評価は4レベルでなされる。〔訳注:旧版では5段階に分類〕
[T度] 局部の発赤は薄れたり白くならない。黒ずんでむけた場合、暗赤色や、青く、また紫色に見える。皮膚はまだ損なわれていない。 [U度] 皮膚の傷口が開いたもので、少なくとも第U度の傷とされる。傷はえぐられ、水泡ができ、あるいは浅いクレーターのように見える。 [V度] 傷は深いクレーターとなり、それは皮膚の軟部組織の下にずっと拡がっている。 [W度] 傷が腱や骨、筋肉に達するに十分な深さとなる。
◆ 褥瘡の合併症
傷の悪化
褥瘡の長さ、幅、深さは増大することがある。深い傷では筋、脂肪層の間や、骨間がトンネル状につながる。これは、トラッキングと呼ばれている。このようなときには、さらに悪化しないようにすぐに傷口を保護し、主治医に連絡しなさい。褥瘡は圧力が加わっている限り癒えることがない。
感染症
褥瘡の結果、皮膚や傷口に感染症が生じることがある。深い傷では、骨も感染することがある。
これは骨髄炎と呼ばれる。この感染症は、時に血流に及ぶこともあり、症状をひどく悪化させる。褥瘡を清潔に保ち、リハビリテーションチームの勧告に従うことが感染症予防に役立つ。
瘢 痕(はんこん)
いったん褥瘡が癒えると、瘢痕が形成されるのが普通である。血液供給が乏しいため、この瘢痕組織は瘢痕のない皮膚より傷つきやすい。また瘢痕組織は、瘢痕のない皮膚より弾力性がないので、その近くの関節の可動域が狭まるかもしれない。
幸いなことに、深い褥瘡を完全に予防することで、搬痕を防ぐことが出来る。深い傷となることを避けるには、皮膚表面の傷をつくらないことが重要である(それは搬痕を残さずに治療する上で好ましい)。深い傷は治ったとしてもその部分には搬痕組織が残る。
◆ 褥瘡の治癒
褥瘡が広がったあとに処置するにはいくつかの方法がある。他の身体組織の問題をうまく処理または解決することは、傷を完治させる上で強い影響を与える。最善の治療法をスタッフと共にチェックしなさい。潰瘍によっては外科移植が必要となる。褥瘡治療のどんな方法も長期間かかり、その間、局部の徐圧を維持しておくことが必要である(表12−A参照)。
【表12−A】 褥瘡治癒への時間経過
第1段階 傷の部位は赤く、触ると硬い。これは、壊死した組織を一掃し、感染に抵抗するために、多量の血液と白血球がこの部位に供給されるためである。
(期間:3〜5日)第2段階 この部位に酸素と栄養を提供するために新しい血管が形成される。これは、でこぼこのある、赤い組織のように見える。同時に、新しい皮膚細胞が傷の最下部に作られる。最初の層が作られた後、違う皮膚細胞がすぐその下にでき、傷を満たす。これは極めてゆっくりとした過程である。
傷の側面も同様に層を形成する。傷は小さくなり、皮膚表面に瘢痕組織が形成される。
深い傷では、最初に側面がふさがらないことが大変重要である。そのようなことが起こると傷の中央に空洞が残り、感染症が生じるかもしれない。この空洞は、大きくなることがあり、傷を内部から外へ再び開いてしまうかもしれない。<本章の「合併症」の項、参照>
(期間:傷のサイズと深さにより1〜21日。もっと長くかかることもある。)第3段階 瘢痕組織は強くなり、色も薄れてくるかもしれないが、皮膚ほど強くなることは決してない。
(期間:最高2年間)
圧力への対処法
褥瘡治療の最も重要な点はその原因を取り去ることである。局部がどのようなレベルの褥瘡であれ、治療には徐圧が必要である。
例えば座位によって圧迫された傷であれば、傷口が塞がるまで座ってはならない。(尾骨や腰骨のような)横になることでもたらされる傷であれば、治るまでその姿勢で横になってはならない。かかとが問題であれば、特製の副木(例えばI’nayd splint)をつけたり、まくらの端にかかとを掛かけて徐圧する。
他の身体システムの問題への対処法
体のほかの問題が褥瘡を拡げる一因ともなる(表12−B)。例えば、導尿は長い時間、皮膚が濡れ、皮膚損傷につながる。排尿には他の方法を取らなければならなくなる。
また、痙性の状況とは直接関連せずに、不規則な体重分散と皮膚損傷の高い危険性を招くかも知れない。骨にかかる体重が明らかに分散できるように座り方を直さなければならない。
貧血(体内タンパク質の喪失)
皮膚が治癒するには栄養状態が良好でなければならない。貧血が栄養失調による場合には、治癒までには時間がかかる。褥瘡自体が貧血や栄養失調の原因となり、浸出液が多いほど影響が大きい。医療スタッフは貧血や低タンパクのレベルについては助言するだろう。バランスのよい十分な食事がとれるよう栄養士の助けが必要となるだろう。特にカロリー、タンパク、ビタミン、ミネラルを摂取しなければならない。喫煙は血管を収縮させいくつかの栄養物の吸収をさまたげることで、皮膚の防御能力を低下させる。
創傷ケア
褥瘡が拡がったらすぐに対処しなければならない。しかし、褥瘡が出来て、医療スタッフがどう対処すべきかを告げる前には自分で処置をしてはならない。
- 発赤した部位をマッサージしてはならない。
- 石鹸、ヨード(betadineなど)、水素過酸化物、アルコール、ビネガー(酢)、漂白剤で傷口を洗ってはならない。それらの液体は患部に有害である。
- 傷口をヒートランプやヘアー・ドライヤーで乾燥させてはならない。
- 傷口に砂糖、ビタミン、制酸剤をつけてはならない。
- 医療スタッフの処方なしに抗生物質の軟膏を使ってはならない。
小さな皮膚損傷、いくつかのちょっとした傷の自宅での処置は、治癒のために許されるだろう。傷口が湿っていて(濡れているのではなく)患部がカバーされることが治癒をもたらす。普通の生理食塩水で、あるいは入浴時にシャワーで患部をすすぎなさい。患部を乾燥し、フィルム(例えばテガダーム)でカバーして手当するか、ヒドロコロイド(例えば、「Duoderm」や「Restore」「Comfeel」)で手当する。
これらの処置により、傷口には「スープ」のようなものが染み出しているだろう。前に手当てしたものを剥がした時に臭いのする浸出液がたまっていても、それは危険な知らせではなく、普通のことである!
もし潰瘍が治らなかったり1週間以内に回復する見込みがない時には説明を受けるために受診しなさい。訪問看護師は傷の処置をしなければならないだろう。傷が深くて、傷口に黒や黄色や茶色の組織があったり皮膚のまわりの発赤が増加したら、すぐに主治医を訪ねなさい。
【表12−B】 治癒を早める手助け
<関連因子> <傷治癒における役割>
体重維持・除圧 あなたにできるもっとも重要なことのひとつである。当該部位に圧力がかかっていると傷は癒えない。 酸 素 新しい細胞の成長には体内に十分な酸素が必要である。
以下のことを行なうことで褥瘡部位への酸素の量を増やすことができる。
1 関節を動かす練習。但し、ベッド上で褥瘡を擦らないよう注意。
2 タバコをやめること。
3 温かくしていること。適切な栄養 栄養は、傷治療を早める上で重要な役割を演ずる。1日3回、高タンパク質でバランスある食事をとることは有効である。
適切な栄養は、感染症に抵抗する上で有効な免疫システムの維持にも役立つ。傷の治癒を助ける有用な栄養物を下記する。
−− 炭水化物:エネルギー源として必要とされる
−−タンパク質:新しい細胞は、タンパク質から作られる。(組織形成)
−−ビタミンC:新しい血管を作り上げ、強化するために必要である。
−−ビタミンA:新しい組織細胞と血管を作り上げるために必要である。
−−鉄:瘢痕組織を作るのに必要である。
−−亜鉛:治癒が通常の速度で進行するために必要とされる。アルコール中毒 しばしば適切な細胞再生を妨げ、また栄養不足と関連がある。 ストレス ストレスは、血圧を上昇させ筋緊張を亢進する。これで、体はより多くの エネルギーを使い、疲れやすくなる。そして健康な皮膚に必要なビタミン、ミネラルや栄養素を使い果たす。 糖尿病 高血糖は、治癒の第一段階を遅らせる。 貧 血 組織治癒に必要な酸素の量の減少と再生の遅延。 喫 煙 患部への酸素と栄養の供給が減少する原因となる、血管の縮小を生じる。
◆ 手 術
時に、圧力を全て除去し適切な創傷ケアを行なったとしても、褥瘡の治癒には十分でないことがある。褥瘡の位置と程度により、外科的手法は異なる。筋肉や皮膚の除去を必要とする手法もあれば、いくつかの骨を取り去ることを必要とするものもある。
褥瘡のある人はそれぞれ診断され、活動的な生活を取り戻すためにもっとも可能性の高い手法が選定される。
褥瘡の修復手術により皮膚が形成されるまでには時間的限界がある。深い傷を防ぎいっそうよい状態(安楽)になるまでは遥かに時間がかかる。
手術の用意
手術前、患部を清潔にしなければならない。これはときには数週間かかるものであり、1日に3〜4回包帯を替える、ハバード・タンク(巨大な浴槽のようなもの)に入る、傷から壊死した組織すべてを除去するなどの処置が必要であるかもしれない。
手術前にはまた、栄養状態を確認し、傷の治癒の可能性を高めるために、食物(タンパク質、ビタミン、ミネラル)の補給が必要か否か判定する。
手術後
術後、手術部位の治癒のためにベッド(おそらく特別なベッド)で3週間から6週間寝ていることが必要だろう。手術部位に圧力をかけず、またその近くの皮膚をひっぱったり伸ばしたりしないことがとても重要である。体位交換には介助が必要だろう。たぶん術後3〜6週間は喫煙できないので、前もって断念するつもりでいなさい。
治癒後、傷口にもっとも近い関節を動かす練習は、数週間をかけてゆっくり開始する。次に、注意深い計画にしたがって、臥位や座位で手術部位に体重や圧力をかけたりして、圧力耐性を段階的に強化する。この圧力耐性強化の過程は非常に時間がかかる(この点については看護師または医者に尋ねること)。
手術部位は、その後も終生、特別に留意する必要がある。その部位は褥瘡ができる前と同程度に強くなることはない。トランスファー(移乗)や圧力耐性を定期的に評価する必要がある。座り方、徐圧法については再評価が必要だろう。
治癒のもっとも重要な点は、保存療法を取るか外科手術するかどうかは、褥瘡の原因、そして将来的にどう予防するよう計画するかによって決定されることである。皮膚管理の一般的情報については第2章を参照すること。
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