| 第 11 章 |
| 自律神経過反射 |
自律神経過反射は、きわめて緊急な対応が必要な状況である。現在、自律神経過反射の症状が有る無しにかかわらず、この章を読み、十分な知識を得ておくとよい。
自律神経過反射は、T6レベル以上の脊髄損傷者のほとんどに見られる合併症である。生命の危険をともなうこともあり、原因や治療法を知っておくことは重要である。 症状については表11−A、自律神経過反射の発作のさい身体に何が起こっているかは図11−1を参照。
【表11-A】 自律神経過反射の症状
高血圧
目の前に「点」が見える
除 脈
損傷レベルより上の発汗
鼻づまり厳しく強打されるような頭痛
ぼやけた視野
損傷レベルより上の鳥肌
損傷レベルより上の皮膚の潮紅
重要:コントロールできない高血圧は、自律神経過反射の危険な側面であり、脳梗塞となる危険性が高い。
* 自律神経過反射としてあなたにこれらの症状がすべて現れるわけではない。
原 因
自律神経過反射は、受傷前にすでに兆候があり、痛みあるいは不快感を生じる可能性のあったところが原因となるのが一般的である。次のような原因が考えられ、多くみられる原因の順に挙げてある。
- 膀胱の充満あるいは拡張(カテーテルが栓をされている、あるいはねじれていることに起因することが多い)
- 宿便(ひどい便秘)
- 感染(膀胱など)
- 検査や処置(膀胱鏡検査、婦人科診察)
- 褥瘡(床ずれ)
- 外傷による苦痛(ひどい切り傷または骨折)
- 熱い、または冷たい温度
- 日焼け
- きつい衣服
- 睾丸または陰茎への圧迫
- 厳しい月経痛、陣痛(子宮の収縮)
- 胃潰瘍
- 薬剤(強心剤のジゴキシンなど)
- 射精
対処について
- 横になっている場合は、体を起こすこと。これにより、血圧が下がる。
- 原因を見つけ、取り除くこと。自律神経過反射は通常、原因が取り除かれなければ症状はおさまらない。
- まず始めに、膀胱に問題がないかについて調べること。カテーテルをつけていなければ、自己導尿を行なうとよい。カテーテルの排出口を持ち上げ、ゆっくりと膀胱を空にすること。あまりに速く膀胱を空にすると、痙性を引き起こすこともあり、ふたたび血圧を上げる原因になる。
- 次に腸に問題がないか調べること。膀胱が高血圧の原因でない場合、便通をチェックするべきである。便が直腸の中にあれば、手で排便させる必要がある。便を排除する前に、肛門に麻酔薬を入れ、薬が作用するまでに5分間待つこと。麻酔薬により、血圧を上げる原因となる刺激を抑える。
- 皮膚の問題を調べること。腸や膀胱が原因と考えられない場合は、服を脱いでからだの切り傷、打撲傷、または潰瘍の有無を調べること。
- これらの症状が消失しないか、血圧がずっと高く160以上ある場合、上記の方法は無視する。もし医師が処方した場合、損傷レベルより上の皮膚にニトログリセリン軟膏をつけるか、ヒドラジンか、ニフェジピンを服用する。その原因を見出すまでの間、これらの薬は血圧を低下させる。自律神経過反射の明らかな患者にのみこの処方がなされる。
- 原因が見つからない場合には助けを呼ぶこと! 最も近い病院に電話するか、行くこと。自律神経過反射は特殊な病態であるため、すべての医療従事者が対処法を心得ているとは限らない。「自律神経過反射についての医学的警告カード」を提示すること(表11−2参照)。
これは医学的な非常事態であるので、直ちに医師に連絡をとること。
【図11−1】 自律神経過反射はどのように起こるか
痛みの反応:受 傷 前 ![]()
- 血管は反射的な活動によって収縮し、血圧を上げる。
- 神経は脊髄を通して脳までメッセージを送るので、実際に痛みを感じる。
- 他の神経は、血管と血圧の状態を脳に伝達するため、脊髄以外の自律的な経路を通って脳までメッセージを伝達する。
- 脳は血管を拡張(開く)するために脊髄を通してメッセージを伝達し、ふたたび血圧を下げる。
痛みの反応:受 傷 後 ![]()
- 脊髄損傷以前と同じ。
- 痛みのメッセージは損傷した脊髄を通ることができないため、痛みをほとんど感じることはできない。
- 脊髄損傷以前と同じ。
- 傷がT6レベルより高位の場合は、脳は損傷域より下の血管に拡張する指令を送ることができない。これは、脊髄のT6 〜T10の領域がほとんどの血管へのメッセージを伝達しているからである。血圧を下げる閉鎖弁が働かないので、血圧は高いままになる。
重要:自律神経過反射は、原因を見つけ取り除くまで阻むことのできない悪性のサイクルのようなものである。
◆ 予 防
大半の場合、自律神経過反射は防ぐことができるが、いつもというわけにはいかない。自律神経過反射の一般的原因は、膀胱の充満や拡張(膨らむこと)、および便秘であることから、次のことを確実に行なえば予防することができる。
- 規則正しく排尿を実施すること
- カテーテルから尿がよく流れ出ていること、そして
- 規則正しい便通を保つこと
あなたは一般の人よりこうした問題を生じやすいだろう。この場合、医療スタッフはその予防のため薬剤を処方する。もし自律神経過反射の問題がある時は、自宅で血圧計のバンドをどのように使うかを学んでおくこと。
覚えておくこと:自律神経過反射を起こした場合、すぐに原因がわかるだろう。その時点で、対処することで、早くて効果的な治療が可能になる。
◆ カードを携帯すること!
表11−2は携帯用カードの見本である。切り取って財布の中に入れておくとよい。カードの上方、「自律神経過反射を起こした場合」の下の空欄に名前を記入する。周囲の人にこのカードを持っていることを伝えておき、緊急時には医療スタッフと一緒にそれを役立てよう。カードがあなたの命を守るだろう!
【表11−2】 自律神経過反射に備えて、携帯用カード見本
自律神経過反射についての医学的警告カード
このカードの所有者(氏名: )は、自律神経過反射のリスクがあり、それはT7レベル以上の脊髄損傷者の生命を危うくするやっかいなものである。
それは交感神経系の亢進によるもので、損傷レベル以下の有害な刺激に対する反応である。
一般に自律神経過反射の病因は膀胱の残尿、腸の膨満、きつい衣類、足の巻き爪などによる。
症状は血圧の上昇、頭痛、鼻詰まり、徐脈、頬などの潮紅である(損傷レベル以上での)。ふつう、脊損患者の血圧は最高血圧90、最低血圧60であることに留意するように。もし自律神経過反射を解決できなければ心筋梗塞、脳卒中、網膜出血、あるいは死を招く。原因を特定することは必要であり、血圧の上昇をすぐに解消しなければならない。治療法の詳細を記すこの折りたたみカードを見ること。
自律神経過反射の治療
- ベッドを90度に上げて頭を起こすか、まっすぐに座らせること。
- 自律神経過反射の原因をチェックすること:膀胱の充満・腸の膨満、きつい衣類、足の巻き爪、褥創あるいは何らかの有害な刺激。原因を除くには一般に症状の減少か除去による。
- 血圧と心拍を5分ごとに測定する。
- カテーテル法のための局部麻酔ジェリーを用いて排尿させるか膀胱洗浄を行なう。
- 直腸壁に麻酔軟膏をつけたあと、直腸の便をチェックする。便がある場合は指刺激により排便反射を引き出す。
- 最大血圧が160以上の場合2.5cm(1インチ)のニトログリセリン軟膏を体毛のない皮膚に塗り、清潔なラップでおおう。
- 最大血圧の上昇が続くようであれば、更に2.5cmほどのニトログリセリン軟膏を塗る(計5cm)。
- 最大血圧が130まで減少したら、ニトロ軟膏を拭き取る。
- 5cmほどのニトロをつけたのに最大血圧の上昇が残っていたらヒドラ10mmgを投与する。その10分後に変化がなければ、更に10mmg投与する。
- 上記の治療でも最大血圧の上昇が残っていればニィフェジピン10mmg錠をゆっくりと噛み砕く。ニィフェジピンを投与した場合、自律神経過反射がコントロールされる際に一度低血圧のリスクがあり、ニィフェジピン投与後の数時間は厳密にモニターすべきである。
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