英国患者会連合(LMCA)の活動について

― 患者会同士のネットワーキングのメリット ―

英国患者会連合事務局長 デービッド・ピンク

  1. 英国患者会連合(Long-term Medical Conditions Alliance、LMCA)とは
    様々な慢性疾患の患者会を傘下に持つ患者会の連合体(120団体以上)。
    長期的な疾患を患っている人々が、より良い生活を送ることのできる社会を目指して様々
    な活動を行う。

     「われわれが目指す社会は、患者が病気であっても人生を自分でコントロールすることができ、充実した生活を送ることができる社会である」

     疾患には、様々なタイプがあり、特に急性疾患と慢性疾患とでは、患者サイドの、医療や自らのライフスタイルにへの対応は大きく異ならざるを得ない。

    <急性疾患>

    完治できるケースが多い。
    治療の大部分は医学的な施術。

    治療の効果が顕著かつ直ちに現れる。
     疾患の期間は短期的。 
    病院での治療が中心。
    <慢性疾患>

    完治できるケースはまれ。
    治療にはライフスタイルの要因に対
    する取組みが含まれることが多い。
    治療の効果が少しづつ緩やかに現れる。
    疾患の期間は長期にわたる。
    自宅での療養が中心。

  2. LMCA設立の背景・経緯と歴史
    • 長期的ケアを必要とする慢性疾患が多いにもかかわらず、医療サービスは、そのほとんどが急性疾患に対する治療に集中していた。
    • 最新の医療サービスを提供する現代の先進国家では、疾患のタイプに応じて、医療に対しての異なったアプローチが求められている。
    • 疾患に対する国民の最大の負担は、長期的な疾患による負担である。
    • 英国における個別の疾患に焦点をあてた患者会活動は賞賛に値する長い歴史を有している。
    • 歴史的には、患者会活動は、治療の研究開発と補助的な治療行為のための資金集めが活動の中心だった。
    • 社会の関心を、急性の疾患から慢性の長期的なケアに対して向けさせるためにLMCAが組織された。1989年、長期的な疾患に対する社会的な関心の低さに懸念を抱いた6つの患者会が、非公式の連合体を組織した。以後、連合体は着実に発展、成長を遂げてきた。
    • 1996年に最初の専属スタッフを採用。
    • 1998年に「Lillプロジェクト」(長期慢性疾患とともに生きるためのプロジェクト、The Living with Long-term Illness project)立ち上げ。
    • 1999年には加盟する患者会が100に達した。(今日では120を越える。)
    • 2001年2月、「Lill プロジェクト」ブループリント(報告書)発行。
    • 2001年4月、質的に高レベルの「セルフマネジメント(疾患の自己管理)」を維持し、発展させるための「The Living Well プロジェクト」がスタート(政府支援の3年間プロジェクト)。

  3. 英国の各患者会のスタンス:医師主体から患者主体へ
    • アドボカシー活動を行う全国レベルと地域レベルで構成される組織になる傾向を強めている。
    • 疾患を持った人のための組織から、疾患を持った人による組織へと急速に変化してきている。
    • コンシューマリズム(消費者中心主義)の高まりの影響を受けている。
    • 人権擁護と機会均等の考え方が強く打ち出されている。
    • ただし、医療や患者のための組織というアイデンティティーは明確に維持している。

  4. LMCA設立の目的
    • 疾患・治療に関する知識と専門技術の共有。
    • 社会的活動を展開する上での組織的な力の拡大。
    • 長期的疾患に対するアプローチは、急性疾患とは異なる、という考え方を啓発。

  5. LMCAの現況
    • 英国内120以上の患者会の連合体である。
    • 長期的疾患を有する患者が、充実した生活を送ることができる社会の実現を目指して
      いる。
    • 「セルフマネジメント(疾患の自己管理)」のための活動を展開。
    • 運営スタッフは少人数(常勤スタッフ8名)。
    • 長期に医療を必要とする1700万人の患者を代表する(英国人口の約1/3)。
    • 英国政府、医療機関、医療スタッフから高い評価を受ける。
    • 加盟する患者会
      • 大規模で影響力が大きい患者組織で、数多くの医療専門スタッフが広範なサービスを提供しているケース。
      • 数多くの小規模なボランティア組織で、希少疾患患者に対する支援を行っているケース。
    • 長期的疾患を有する患者が、よりよいライフスタイルとQOLを確立するためには、患者自らが自らの疾患管理のエキスパートであることが望ましい、という考え方に基いて、「セルフマネジメント」と「エキスパート・ペーシェント・プログラム」を推進。

  6. 「セルフマネジメント」と「エキスパート・ペーシェント・プログラム」
    ◇「セルフマネジメント」プログラム

    * 「セルフマネジメント」プログラムを受ける患者が必要としていること
    • 病状に対する医学的見地にたった治療への対応。
    • 疾患に伴う生活上の役割とアイデンティティーの変化に対する対応。
    • 疾患がもたらす精神的影響への対応。

      * 「セルフマネジメント」とは
      「セルフマネジメント」とは、患者が病気に対する日々の管理を、自分自身で行い、コントロールすることができるように、自信を深め、そのスキルを向上させる手段を指す。
      「セルフマネジメント」は、医療専門スタッフと協力して、得られるすべてのリソースを活用することで、QOLを可能な限り高めることを目的とする。(トレーナーは、長期慢性疾患患者)

      * 「慢性疾患患者のためのセルフマネジメント訓練コース」(CDSMC)
      • 一定期間内にコースを終了させる(少人数、週1回6週間のセッション)。
      • 長期的疾患を患っているボランティアのチューターが、用意されたマニュアルをもとにセルフマネジメントの方法を教える。
      • 自己効力感(セルフエフィカシー)を高めることが目的。(患者の納得するQOLを得る能力をもつこと)
      • 疾患に対する自己管理のための様々なスキルが集まっている。
      • そのアプローチの質が保証されている。
      • 優れた根拠(エビデンス)に裏付けられている。

      * 「セルフマネジメント」プログラム実施の背景と前提
      • 慢性疾患の患者たちは、病気の種類が異なっても、共通の懸念や問題を抱えている。
      • 患者は自身の病気だけでなく、病気が生活に与える影響についても対応しなければならない。

      * 「セルフマネジメント」プログラムの目的
      患者を、受動的な立場で治療を受け入れる者から、治療プロセスの主たる意思決定者に変えること。患者は自身の病状の管理について責任を与えられれば、医療専門スタッフと協力することによって、自身の病状をより十分にコントロールすることができるようになる。

      * 「セルフマネジメント」プログラム実施方法についての基本的考え方
      • 慢性疾患の患者が医学について素人であっても、詳細なマニュアルを与えられれば医療専門スタッフほど効果的ではないにしても、十分効果的に自己管理プログラムを教授できる。
      • プログラムの内容は無論重要であるが、それを教えるプロセスや方法も同じように重要である。

      * 訓練コース内容
      目標の設定、具体的行動の計画。問題の解決。練習。症状管理の技術。(病気からの)精神的疲労に対する管理。精神的な対応。コミュニケーション。投薬。

      公共のリソースの活用。

      * 「セルフマネジメント」プログラムの医療サービスに対する付加価値効果
      「セルフマネジメント」の実施によって、症状が15〜30%軽減する。最良の医療サービスによって症状が40〜60%軽減する。医療サービスと「セルフマネジメント」を併用することで、症状は55〜90%も軽減する。

      * 「セルフマネジメント」プログラムの患者への効果
      • 精神状態が改善する。
      • 肉体的な衰えの進行が鈍化する。
      • 自己効力感が高まる。
      • 個人による健康管理の手法の利用が増える。
      • 医者を訪問する患者の数が減る。
      • 医者を訪問する患者の数が減る。
      • 医者とのコミュニケーションが改善する。

      * 患者に求められるもの
      • 自身の病状に対する日常的な管理への自己責任。
      • 病状の変化や生活環境、治療の上で何を優先したいかなどを、医療専門スタッフに対して正確に報告すること。

      * 医療スタッフに求められるもの
      • 治療上の優先順位を決定していく上で、患者と協力して働く意思をもつこと。
      • 患者が病状や日々の諸問題に関して、自分と同程度またはそれ以上の知識を有していることを認める準備ができていること。
      • 「医学的な問題」を越え、患者の問題とは何かを見極めること。
      • 患者を1個人として、社会的な枠組みの中で認識すること。

      * 主たるパートナー
      NHS(英国・国民医療サービス局):プライマリ・ケアの提供、患者会、政府省庁や政府機関:社会福祉事業関連を含む、患者、医療専門スタッフ、医療専門家団体(医師会など)。この「セルフマネジメント」プログラムが、英国の国民医療サービスに取り入れられた。


      ◇NHSによる「エキスパート・ペーシェント・プログラム(EPP)」
    • 2000年7月、NHSによって、長期的ケアを必要とする慢性疾患患者を助け、彼らの健康を維持し、QOLを改善するための「EPP」が打ち出される。同時にそれを実施していく為の「エキスパート・ペーシェント・タスク・フォース、FPTF」が設置され、2001年9月、その報告書が提出される。
    • 上記報告書にもとづき、2001年から2004年までの試験的実施期間(パイロット・フェーズ)に、多くの地域で幾つかのプログラムが実施され、その結果の検討・評価が行われる予定。その後、2004年から2007年にかけて、NHSがカバーする全ての地域で大勢的に導入されていくことになる。
    • 当面、250以上のパイロットサイトを用意。2名のプリンシパル・トレーナーと50名以上のプログラム担当トレーナーを採用。
    • 重点活動は、トレーナーに正式な認可を与えること。ボランティアを募集・採用すること、パイロットサイトでの社会的関心を高めること、2004年までに1パイロットサイト当たり4つのコースを実施すること、など。これらのプログラムによって、慢性疾患患者を「エンパワード・ペーシェント」に変えて行く。そのことによって患者のQOLは高まる。


      * エンパワード・ペーシェントとは
      • 自身の生活をコントロールすることを望んでいる。
      • 解決方法を見出すために、自身の頭脳と想像力を活用する。
      • 必要な場合、支援を求める。
      • 疾患の影響を現実的に評価・認識している。
      • 生きるに値した人生をおくることができると確信している。

    • 医療専門スタッフを助言者(アドバイザー)とみなす。
    • 医療・健康に関する良い主観を採り入れている。
    • 尊大な態度をとられたり、見下されたりすることには反発する。
    • 「自身に何が効くか」を学んで知っている。
    • 病状が自身にどのような影響を及ぼすかを理解し、その影響を最小限に食い止めようとする。


      * 「セルフマネジメント」の実行者の声
      • 治療スタッフとの関係は重要であるが、極めて一方的であることが多い。
      • 「セルフマネジメント」は、パートナーとして治療スタッフと対話する自信を与えてくれる。
      • 「セルフマネジメント」は、患者を、治療を受け入れる立場から、治療スタッフチームの一員として積極的に活動する立場に変えるものである。
      • 「セルフマネジメント」を通じて、患者は自身の生活に対して、より大きな責任を持ち、よりコントロールできるようになる。
           
  7. LMCAが様々な患者会を傘下に持つことのメリット
    • 自己の狭い利益を代表するグループではなく、様々な利益を有する大きなグループの声を代弁できる。
    • 患者グループが抱える共通の問題や傾向を明らかにすることができる。
    • 各疾患固有の問題でない問題にも対応できる。
    • あらゆる国内政策、対外政策をモニターし、メンバー間の連携を図ることができる。
    • 小規模の患者会を支援し、活動に必要な力を授けることができる。
    • 大規模な社会的活動実施にあたり、大きな患者会同士で密接な協調体制をとることができる。
       
  8. LMCAと行政の枠内・枠外のパートナーシップ
    • NHSとのパートナーシップ:例)「エキスパート・ペーシェント・プログラム」
    • 製薬産業とのパートナーシップ:例)QOLの評価モデルの作成
    • 医療スタッフとのパートナーシップ:例)患者からのインプットを専門的な医療の発展に活用する。


                            ― 以上 ―
   
   LMCA 英国患者会連合
   Long-term Medical Conditions Alliance
    www.lmca.org.uk info@lmca.org.uk



[ 補足解説 ]:

 「セルフマネジメント」プログラムは、そもそも、1970年代にアメリカで始まったものであった。それが、1994年以降イギリスにも導入された。

 1970年代、アメリカのスタンフォード大学で、ポスト・ドクター研究生、ケート・ローリによって、関節炎患者が、日常生活において自らの関節炎を自らコントロールしてQOLを高めるためのプログラムを作る研究が推進された。それは、やがて「関節炎患者のための自己管理訓練プログラム(Arrithritis Self-Management Course、ASMC)として結実した。これが、「慢性疾患自己管理訓練プログラム(Chronic Disease Self-Management Course、CDSMC)」の原型である。このプログラムは、今日、世界各国で、慢性疾患を持つ全ての患者が、自ら疾患と生活をよりよく管理出来るようにするための重要且つ有効な方法として評価され、実施体制作りに取り組まれている。

 「セルフマネジメント」スキルの核心は次の五点である。
(1) 問題解決、(2)自己決定、(3)諸制度、諸手段の有効活用、(4)医療サービス提供者とのパートナーシップを有効なものに発展させる、(5)行動を起こす。1980年代以来行われてきた、こうしたプログラムの有効性に関する研究は、慢性疾患・障害者のQOLの向上に有益であることを一貫して提示している。

 1994年、イギリスへの導入が決まって以来、多くの機関が、臨床的調査とその経験のフィードバック、その有効性のテストが行ってきた。これらの実践結果(エビデンス)に関して、「慢性疾患・障害の社会心理学研究センター」所長、J.バーロウ教授によって率いられたタスクフォースが評価を行っているが、それによれば、「セルフマネジメント」は主に以下の点で有益であることが示された。

・ 症状の厳しさの低減。
・ 有意義と認められる疼痛緩和。
・ 生活管理と活動性における改善。
・ 生活緒手段・環境の改善と生活の満足度の改善

 こうした検討結果を踏まえて、イギリスにおける「EPP」の導入が決定された。




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