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■「BIO CLINICA」15(6)2000【要旨】

ヒトES細胞と再生医療
京都大学大学院医学研究科発生発達医学講座
発達小児科学
中畑 龍俊

 1.ES細胞

 マウスES細胞株が最初に樹立されたのは1981年である(図1)。この細胞株はフィーダー細胞、LIF存在下に培養すると未分化な状態のまま継代培養することができるが、一旦同系マウスに移植するとテラトカルチノーマを作り、外胚葉、中胚葉、内胚葉の3胚葉に属する様々な細胞に分化できることが示された。

 また、特記すべきことは、培養条件下で遺伝子操作を加えられたES細胞を胚盤胞に注入すると胚の発生に参加しキメラマウスを作ることができるということである。この際、ES細胞が生殖細胞系列に分化できた場合には、キメラマウスを交配することにより、遺伝子操作を受けたES細胞由来の動物個体を作ることができる。

 このようにES細胞を用いて、遺伝子ターゲッティング法の技術により特定の遺伝子を破壊したノックアウトマウスが数多く作られ、未知の遺伝子の機能解析に広く用いられている。ES細胞の簡単な特徴を表1に示した。

 表1 ES細胞(胚性幹細胞)の特徴
1. 受精卵を培養し、胚盤胞(blastcyst)の内部細胞塊(inner cell mass)より樹立された細胞株
2. LIF(白血病抑制因子)存在下に自己複製可能な細胞
3. あらゆる細胞に分化する全能性を持つ
4. 外胚葉(神経、皮膚)、中胚葉(筋肉、骨、血液)、内胚葉(消化管)に分化可能
5. 未分化状態、正常の染色体を維持しながら継代可能な細胞
6. 多分化能を有し、培養からLIFを除くと種々の細胞に分化
7. マウスでは胚盤胞に注入して宿主胚の細胞と混ぜ子宮に戻すとキメラ動物作成可能
8. キメラ動物を交配させてES細胞由来のマウスを作ることができる


 2. ES細胞からの細胞分化


 マウスES細胞の培養条件を変化させると、様々な細胞に生体外で分化可能なことが知られている。既に神経細胞、筋肉細胞(特に心筋細胞)、血管内皮細胞、軟骨や骨の細胞、赤血球、マクロファージ、肥満細胞、巨核球などの血液細胞をES細胞から分化させることが可能である。

 生体内では身体を構成する全ての臓器に分化可能なことから、至適な培養条件さえ見いだすことができれば、生体外でも全ての細胞をES細胞から作り出すことが可能であると考えられる。

 現在のところ目的とする細胞系列だけをES細胞から分化させることには成功していない


 3.ヒトES細胞株の樹立

 Thomsonらは将来のヒトES細胞株の樹立を視野に入れて霊長類(アカゲザルとマーモセット)の胚盤胞からES細胞株の樹立を試み、成功した。1998年、彼らはヒトES細胞株の樹立に成功したとする論文をScience誌上に発表し世界中に大きな衝撃を与えた。

 彼らの樹立した細胞株はマウスES細胞と同様長期間未分化な状態を維持し、正常な染色体を保持している(表2)。また、免疫不全マウス(SCID/beigeマウス)へこの細胞を移植するとテラトーマが形成され、その組織を解析すると消化管、神経、骨、軟骨、筋肉、胎児腎糸球体様の構造が認められたとしている。このヒトES細胞がマウスES細胞と同様に全能性、全ての臓器への分化能、自己複製能を保有しているかは定かではないが、マウスES細胞に極めて近い能力を持った細胞と考えられる。

 一方、霊長類のES細胞株とマウスES細胞株を比較すると、幾つかの相違点があるようである。まずマウスでは比較的稀な培養下で頻繁に栄養芽細胞へ分化することが、胎盤性ゴナドトロピン〔性腺刺激ホルモン〕の分泌などによって確認されている。また、マウスES細胞においては分化抑制に効果を持ち、培養液に必ず添加されるLIFがヒトES細胞の場合は必ずしも必要ないらしい。 

表2  ヒトES細胞,EG細胞の樹立
ES細胞 EG細胞
樹立年 1998 1998
樹立した人 Tbomson Gearhart
用いた細胞 新鮮卵、凍結卵 人工中絶胎児
受精後 人工授精後5-9日 妊娠5-9週後
ステージ 胎盤胞 胎節期胞
培養細胞 内部細胞塊 始原生殖細胞
feeder cell マウス胎児線維芽細胞 マウスSTO線維芽細胞
サイトカイン (LIF) LIF,bFGF,forscolin
培養期間 8ヶ月以上 20代
染色体 正常 正常
未分化度 未分化 未分化
分化能 多分化能 多分化能
ライセンス Geron社 Geron社


 3. ヒトEG細胞株の樹立(略)


 4. ヒトES細胞/EG細胞の研究的、臨床的応用

 ヒトES細胞/EG細胞の研究面での応用として種々のことが考えられている(図2)。


 中でもポストヒトゲノムプロジェクトに果たす役割は極めて大きいだろうと想像される。今後、研究が進みヒトES細胞から全ての系列の細胞を分化させることができるようになれば、未知の遺伝子をノックアウトしたES細胞の運命を解析することにより、その遺伝子の機能を知ることができるであろう。また、各臓器や組織の基になる幹細胞の同定、その増殖分化に必須な因子の解明など様々な分野にヒトES細胞研究が貢献できるものと考えられる。

 医療面ではES細胞を利用して慢性的に不足している移植用の臓器を産生できるのではないかという期待が大きい。今後、各臓器(細胞)の幹細胞を同定し、ES細胞からそれぞれの臓器の幹細胞のみを誘導するシステムの開発、各臓器の幹細胞から成熟した細胞を特異的に産生させる技術の開発、いくつかの胚葉からなる臓器を作るための細胞社会学的研究などが盛んに行われることになるであろう。既に欧米ではヒトES細胞から誘導した神経細胞や心筋細胞を用いた臨床治療も視野に入れた研究が行われている(図3)。


 また、臓器移植の1つの壁であるHLAの問題を解決するために、患者に合った(オーダーメード)臓器を作り出すことも考えられる。さらに、HLA遺伝子を破壊(knockout)したES細胞作成し、この細胞から誰にでも使用することのできる臓器(universal organ)を作り出す研究も開始されている。このようにヒトES細胞やEG細胞を用いた臓器の大量生産という、最近までわれわれが想像もしなかった研究が爆発的な広がりを見せている。


 表3 ヒトES細胞を用いた研究の問題点
1.ES細胞樹立における問題点

 A.余剰卵、余剰胚提供施設
  責任体制
 研究者の資格、原則医師、専門的知識、能力、設備
 余剰卵、余剰胚を扱う施設の倫理、技術規定
 余剰卵の生殖医療への厳格な使用禁止規制
 クローン実験を目的とした余剰卵の使用禁止規制
 インフォームドコンセント
 余剰卵提供者のプライバシーの保護
 施設内倫理委員会(IRB)および国の審査機関での審議を経る公開性、
 (プロトコールの内容)を担保する、審査過程を 公開する
 無償でES細胞樹立機関へ提供
 記録の保管、報告義務、立ち入り検査 国に対する手続き、罰則規定

 B. ES細胞樹立施設
  責任体制
 研究者の資格、専門的知識、能力、設備
 余剰卵、余剰胚からES細胞樹立の倫理、技術規定
 ES細胞樹立以外の目的での余剰卵の使用禁止
 余剰卵の生殖医療への厳格な使用禁止規制
 クローン実験を目的とした余剰卵の使用禁止規制
 インフォームドコンセントの内容に沿った実験
 余剰卵提供者のプライバシーの保護
 公開性、(プロトコールの内容)を担保する、審査過程を公開する
 施設内倫理委員会(IRB)および国の審査機関での審議を経る
 無償でES細胞使用機関へ提供
 記録の保管、報告義務、立ち入り検査
 特許は認める
 国に対する手続き、罰則規定


2  ES細胞使用における問題点

 A.ES細胞使用施設
  責任体制
 研究者の資格、専門的知識、能力、設備
 施設内倫理委員会(IRB)および国の審査機関での審議経る
 公開性、(プロトコールの内容)を担保する。審査過程を公開する
 研究はES細胞から臓器、細胞を作るまでの範囲に限定する
 クローン実験を目的としたES細胞の使用禁止規制
 ES細胞を他施設への提供禁止
 記録の保管、報告義務、立ち入り検査
 特許は認める
 国に対する手続き、罰則規定
 当面は研究のみに限定して使用する


3 ES細胞から作成した幹細胞、成熟細胞を用いた臨床応用の問題点検討中





■「BIO CLINICA」15(6)2000【要旨】

神経幹細胞を用いた移植治療と再生医療
大阪大学大学院医学系研究科
森 裕・武田 雅敏・岡野 栄之

 1. 神経幹細胞

 哺乳類中枢神経系はニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、およびミクログリアなどから成る多様な細胞集団によって構成されている。

 哺乳類中枢神経系の多様な細胞は同一の神経幹細胞に由来し、発生過程や部位に応じてそれぞれの細胞系譜をたどっていくという事が分かってきた。

 さて、げっ歯類においては成体においても神経幹細胞が存在することが明らかとなってきたが、果たしてヒトにおいてはどうなのか? 

 これまでのげっ歯類などで神経幹細胞の存在を証明してきた方法は、ヒトには適用できなかった。しかし、Erikssonらにより成人の脳にも神経幹細胞が存在する可能性が大きく示唆されるようになった。また、筆者らの大阪大学神経機能解剖研究室では米国Cornell大学のGoldman博士との共同研究により、nestinとともに神経系前駆細胞のマーカーであるMusashi Iを指標として、側頭葉切除術を受けた難治性てんかん患者の側脳室の脳室下帯(SVZ:subventricular zone)に神経幹細胞あるいは神経系前駆細胞が存在することを示した。Musashi IはRNA結合性タンパク質で、種間でその構造が非常によく保存されており、Musashi I抗体を用いることにより様々な種の神経系前駆細胞を同定することができ、神経幹細胞を含む神経系前駆細胞の有用なマーカーと考えられている。これらの報告により、成人の脳にも神経幹細胞が存在することが明らかとなってきたのである、


 1. 側脳室脳室下帯、海馬歯状回における神経新生とその後の運命

 ヒトにおいては側脳室下帯および海馬の歯状回でニューロンの新生が明らかとなっている。残念ながらヒトにおいては脳室下帯、海馬歯状回で新生したニューロンの新生後の運命についての報告はまだない。

 しかし、昨年にサルの成体脳でのニューロンの新生について衝撃的な報告がGouldらによってなされた。それは大脳の高次機能を司る大脳新皮質のニューロンが成人においてもなんらかの条件が整った時に新生する可能性を示唆しており、今後、大脳新皮質の他の領域への移動がみられるか、あるいはヒトにおいても実際にサルと同様の側脳室脳室下帯から大脳新皮質への移動が見られるかなどについて更なる報告が待たれる。

 一方、海馬ではラット成体脳において検討がなされている。KuhnらはBrdUでラベルされる歯状回のhilum(門)と顆粒細胞層との境界付近で新生したニューロンが顆粒細胞層まで移動したことを報告している。

 大脳皮質連合野、とりわけ前頭前野は霊長類およびヒトで顕著に発達している。この部位の両側性の傷害(眼窩部脳腫瘍、前頭葉外傷など)によって人格の変化、知性の低下、自発性や道徳性の低下などの精神脱落症状を呈することは以前より知られている。

 一方、海馬は大脳辺縁系の重要な構成要素であり、両側海馬の切除により、前頭前野の障害でも見られるような自発性の欠如や人格の変化、無感情などの精神症状が見られる。また、意識障害や時間および空間に対する失見当識、短期記憶の障害が見られる。アルツハイマー型痴呆では“記銘力障害”、“見当識障害”で代表される痴呆症状が病相初期より見られるが、まさにその痴呆症状の責任病巣として、前頭前野を含めた大脳新皮質に投射するマイネルト基底核に細胞体を持つコリン作動性ニューロンと中隔核に細胞体を持ち、海馬へ投射するコリン作動性ニューロンの脱落および変性が挙げられる。

 アルツハイマー型痴呆で障害されるコリン作動性ニューロンの軸索投射部位と新生したニューロンの行き着く部位が一致しているのは偶然であろうか? この両者の一致はアルツハイマー型痴呆に対して、神経幹細胞によって新生されるニューロンを利用することは出来ないかというアルツハイマー型痴呆に対する新しい治療法のヒントを与えてくれる。 

 そこで、次章以降で、神経変性疾患のうち神経幹細胞を用いた移植治療、再生治療の研究が最も進んでいるパーキンソン病と上述したアルツハイマー型痴呆への神経幹細胞を利用した、移植治療、再生医療について述べることにする。


 2. 移植治療、再生治療へのアプローチ

 神経幹細胞を用いた治療の方法は大きく二つに分けることが出来る。一つは移植ではないが、患者の海馬の歯状回や側脳室の脳室下帯(SVZ)に存在する神経幹細胞を患者の脳内において、何らかの液性因子(神経幹細胞をin vivoにおいて増殖、分化させる外的因子)の投与により増殖、分化させる方法である。

 必要な数だけ神経幹細胞を増やし、必要な場所に必要な機能をもったニューロン、或いはグリアを増やす。その液性因子と効果的なドラッグデリバリーシステム(DDS)を併用することにより患者にとっては自分の神経幹細胞を利用するという点においてもより生理的であり、免疫反応や感染症、或いは外科的侵襲から開放される利点がある。しかしそのためには、神経幹細胞があるにも係わらず、なぜ成人では恒常的にニューロンが新生しないのかという疑問にも答えなければならず、神経幹細胞を増殖させる内的因子や外的因子や、ニューロンやグリアなどへ分化させる内的因子および外的因子の分子機構が詳細に解明されなければならない。

 もう一つは神経幹細胞を患者の体外で増殖、分化させて移植する方法である。先に述べたように神経幹細胞は自己複製能があるため条件によっては無限に増やすことができる。Royらは筆者らの研究室との共同研究において、nestinのエンハンサー制御下にEGFP(変異型緑色蛍光タンパク質)を組み込んだプラスミド、或いは若いニューロンのマーカーであるTα1tubulinのプロモータ制御下にGFP(緑色蛍光タンパク質)を組み込んだプラスミド〔細胞質因子。ベクターとして使用〕を脳外科的手術を受けた成人患者の海馬および側脳室脳室下帯由来の細胞群にトランスフェクション〔細胞に核酸を取り込み増殖〕させた。そしてフローサイトメトリー(FACS:蛍光自動細胞分離分析装置)を用いてEGFPまたはGFP 陽性の神経系前駆細胞を濃縮することに成功した。FACSで集めてきたこれらの神経前駆細胞を種々の神経細胞に分化させることにより、移植治療の材料として用いることが可能となる。


 4. パーキンソン病への神経幹細胞を用いた移植治療、再生医療の適応(略)


 5. アルツハイマー型痴呆への神経幹細胞を用いた移植治療、再生医療の適応(略)


 表3 1gMパラプロティン血症を伴うニューロパチー〔末梢神経障害〕  
     における1gM M蛋白の反応性と臨床的特徴の対応
 1gM M蛋白の結合する抗原         臨床的特徴
MAG、SGPG、
PO、PMP-22
GD1b、GD3,GT1b、GO1b、
等ジシアロシル基をもつ
ガングリオシド
GM1、GD1b、GA1、など
Gal-Ga1NAc基をもつ糖脂質
GD1aあるいはGD1aを含む
シアロシルガラクトシル
基をもつガングリオシド
脱髄性ニューロパチー
感覚障害優位型が多い
感覚障害性失調性ニューロパチー


運動障害優位型、運動・感覚型
感覚障害優位型などさまざま
運動障害優位型ニューロパチー




 おわりに

 高齢化社会の到来と共にアルツハイマー型痴呆、パーキンソン病を患う患者が増えてくることは明らかであり、神経幹細胞を用いた移植治療および再生医療は神経新生に向けて非常に有用な治療法になることが期待される。中枢神経において空間特異的、時期特異的にどのような内的因子や外的因子によって神経幹細胞が制御されているのか? これらが詳細に解明されることはもちろんであるが、神経幹細胞を用いた移植、再生医学をより臨床的に有用な治療法として確立していくためには、それらだけでなく神経産生をうながすための固体レベルでの環境の調整、訓練などについても検討が必要となってくるだろう。

 移植 “医学”、再生“医学”が“医療”に変わる日はそう遠くはない。神経の免疫組織染色ではミエリンが染色され、患者の末梢神経ではミエリンへ1gMの沈着がみられる。また1gM M蛋白のニワトリへの全身投与により、脱髄をきたすとの報告もある。したがって1gM M蛋白がMAG〔ミエリン由来の軸索成長阻害因子〕やSGPGなどのミエリン抗原を標的として結合し、脱髄を引き起こすというメカニズムが考えられる。

 一方症例数は少ないが、ジシアロシル基(シアル酸が2個連続したエピトープ)をもつGD1bなどのガングリオシドに結合する1gM M蛋白は、感覚障害による失調症状のつよいニューロパチーに特異的に関連することが知られる(表3)。一次感覚神経細胞である後根神経節細胞にはGD1bが局在することから、このタイプの1gM M蛋白の標的となっていると考えられる。ウサギにGD1bを免疫することにより、感覚障害性失調性ニューロパチー〔末梢神経障害〕の動物モデルをつくることができる。これはガングリオシド〔臓器にあるシアロ糖物質〕に対する免疫反応により、明らかな臨床症状をきたす免疫性ニューロパチーの動物モデルが確立されたはじめてのケースである。

 1gM パラプロティン血症〔生理活性を失ったものが血漿中に存在する疾患〕を伴うニューロパチーは難治性である。しかし免疫制御薬の投与、プラズマフェレーシス〔血漿交換〕、免疫グロブリン大量療法などの有効例が報告されている。またステロイドの有効例もある。


 *** 自己免疫性ニューロパチーについて概説した。特にGBSと1gMパラプティン血症を伴うニューロパチーは、末梢神経の糖鎖抗原に対する血中抗体の結合が臨床病理を規定するうえで重要な役割を果たすことをいくつかの例を上げて述べた。今後さらに病態が詳細に解明されることにより、新たな治療法が開発されることが期待される。




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