JSCF NPO法人 日本せきずい基金


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第3回 脊髄再生研究促進市民セミナー


2003年6月9日(月)

午前10時半〜12時


【主 催】


社 団 法 人  全国脊髄損傷者連合会

特定非営利活動法人 日本せきずい(脊髄)基金



【講 師】

岡野 栄之 先生

(慶応大学医学部教授・生理学)


脳の海馬の介在ニューロン(細胞体と樹状突起)

(社)全国脊髄損傷者連合会    (特) 日本せきずい基金


 <講師略歴>

 岡野 栄之(オカノヒデユキ)

略歴
  1959年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。 
  筑波大学基礎医学系教授、大阪大学医学部教授を経て、
  現在、慶應義塾大学医学部教授。
  日本神経化学会理事, 日本再生医療学会理事,
  日本発生生物学会運営委員,日本分子生物学会評議員,
  日本生理学会常任幹事, 日本神経科学会理事 など
  研究テーマ:中枢神経系の再生と発生。

論文
* Transplanted neural progenitor cells differentiate into neurons in
   vivo and improve motor function after spinal cord contusion
   injury in rats. J. Neurosci. Res. 2002

* Translational repression determines a neuronal potential in
   Drosophila asymmetric cell division. Nature 411, 94-98, 2001




                      【資料集・目次】

  神経系について
  脊髄について 
  『再生医療ーその可能性』
より
  中枢神経系再生への戦略    岡野栄之(慶大)
  中枢神経再生への挑戦      岡田洋平 岡野栄之(慶大)
  治癒のための5段階        ダルトン・デートリヒ
                       (マイアミ・プロジェクト)
  脊髄再生・移植に関する基礎知識 特集にあたって
                          岩崎喜信(北大)
  中枢神経再生の最近の動向  黒田 敏ら(北大)
  脊髄損傷に対する再生医療   金子慎二郎、中村雅也、
                       岩波明生、小川佑人、
                       岡野栄之、戸山芳昭(慶大)
  神経再生医療の基礎知識    佐々木祐典、本望 修、
                       宝金清博(札幌医大)
  神経再生の研究の最新知見  高見俊宏、露口尚弘、
                       原 充弘(阪大)
  脊髄の修復             伊勢田努力、西尾健資(京大)
  神経系幹細胞を用いた神経機能再生  高橋淳(京大)
  ヒトES細胞株の樹立とその意義  中辻憲夫(京大)  
  ヒトES細胞と再生医療      中畑龍俊(京大)        
  神経幹細胞を用いた移植治療と再生医療  森 裕、
                        武田雅敏、岡野栄之(阪大)
  第2回日本再生医療学会総会・抄録より (2003-3)
  再生医学用語集                     

*  本資料集では掲載に際して 、英文表記の一部を和文にした。
   また論文は一部を除き要旨のみを掲載した。〔JSCF事務局〕



1.神経系について (参考資料)

 ニューロン(神経細胞):体のほかの部位の細胞にはまったく見られない特殊化した形態をしている。またニューロンの形態は、存在部位や動物によってきわめて多様である。脳には10の12乗のニューロンがあり、それぞれ1000にのぼる他のニューロンと繋がっている。ニューロンの機能は情報伝達にある。

ニューロンの情報伝達の方法:
  @ 電気的シグナル:細胞内部での情報処理と伝達に使われる
  A 化学的シグナル:細胞間の情報伝達に使われる。

 外界からの情報はシグナルが多様なため、処理が難しい。感覚ニューロンはそのために特殊化し、電気シグナルに変換している。

 介在ニューロンは、感覚ニューロンの電気的シグナルを化学的シグナルに変換し次の細胞に伝える。この情報は細胞内で再び電気的シグナルに変えられる。この情報は最終的に運動ニューロンか分泌腺細胞などを刺激する他のニューロンに伝えられる。


樹状突起:細胞体から木の枝のように伸びた多数の突起
軸索:細胞体から樹状突起と反対の方向に伸びた長い1本の突起。

 軸索の終末部は、次のニューロンや樹状突起、細胞体の上で終わっている。
軸索は活動電位と呼ばれる電気的インパルスを細胞体から末端に伝えるため特殊な構造となっている。活動電位とは、細胞膜をはさんでの電位の一連の急激な変化である。人の脳の軸索の太さは1μm。

 ヒトの軸索の長さは1メートル以上のものがあるが、活動電位は毎秒100メートルにものぼり、末端まで伝わるのに2,3ミリ秒しかかからない。



シナプス:ニューロン同士のつなぎ目。
 生物学者カハールが100年以上前に唱えた「ニューロン説」は今日の神経系を理解する基本となっている。

「ニューロン説」:

@ それぞれのニューロン(神経細胞)は独立した単位であり、信号(インパルス、活動電位)はニューロン間の接触部を通して伝えられる。
A ニューロンには機能的な極性(磁石のN極とS 極のような性質)が存在する。樹状突起(受容器)が信号を受け取り、軸索(伝導器)が信号をニューロンの終末(実行器)に伝える。ニューロンは軸索の長さにより2つに分類できる。

@ 投射ニューロン:長い軸索を持ち、遠く離れた部位のニューロンに信号を送る。中継ニューロン、主要ニューロンとも言う。
A 固有ニューロン:短い軸索を持つかまったく軸索を持たない。局所介在ニューロンとも呼ばれ、神経系の神経核や皮質などの限られた領域での信号処理に関与する。

 グリア細胞:ニューロンの細胞体や軸索を囲んでいる細胞。脊椎動物の中枢神経系では、グリア細胞の数はニューロンの数よりも10〜50倍も多い。グリア細胞には、@オリゴデンドロサイト、Aシュワン細胞、Bアストロサイト、の3種類がある。 ニューロンは興奮性を示しいったん分化すると分裂できないが、グリア細胞は興奮性を示さず、大半のグリア細胞は分裂できる。







ミエリン鞘(髄鞘ズイショウ):オリゴデンドロサイトとシュワン細胞は、軸索を何重にも包み込んでミエリン鞘を形成し、軸索を電気的に絶縁する。ミエリン鞘で絶縁された軸索を有髄軸索と呼ぶ。

 1つのオリゴデンドロサイトは、中枢神経系の白質で複数の軸索を囲んでいる。
 1つのシュワン細胞は、末梢神経内で1本の軸索を取り囲む。


ランヴィエ絞輪(コウリン):ミエリン鞘に覆われた有髄軸索には、約1mmごとにミエリン鞘におおわれたくびれた部分があり、これをランヴィエ絞輪という。インパルスの信号は、この部分を飛び飛びに伝導する(跳躍伝導)ので、ミエリン鞘のない無髄軸索よりはるかに高速に信号を伝えられる。


アストロサイト:たくさんの放射状の突起を伸ばし、突起の末端が足状に広がってニューロンや毛細血管の内皮細胞(血管壁を覆う細胞)と接触する。


ミクログリア:造血組織に由来する小型の細胞で、変性したあるいは損傷したニューンを食べて(貪食)、環境を維持する。

 ニューロンが損傷すると、その周囲のミクログリアやアストロサイトが活性化されて、さまざまな神経栄養因子やサイトカイン(免疫細胞や様々な細胞が分泌する生理活性物質)を合成・分泌し、損傷を修復すると考えられている。

 介在ニューロンは、感覚ニューロンの電気的シグナルを化学的シグナルに変換し次の細胞に伝える。この情報は細胞内で再び電気的シグナルに変えられる。この情報は最終的に運動ニューロンか分泌腺細胞などを刺激する他のニューロンに伝えられる。

 典型的運動ニューロン:細胞体から筋細胞まで伸びた1本の長い軸索がある。

 哺乳類の運動ニューロンはランビエ絞輪と軸索末端を除き、ほぼ全長に渡ってミエリン鞘(髄鞘)で覆われている。

 脊椎動物の感覚ニューロン:細胞体からたった1つだけの突起を出し、それが細胞体から少し離れたところで枝分かれする。一方は、感覚受容細胞からのインパルス(信号)を脊髄のすぐ近くの背部神経節にある細胞体に伝える。他方は細胞体からのインパルスを脊髄あるいは脳に伝える。



2.脊髄について

 脊髄は、脊柱管の中にあり、細長い円柱形の索(ロープ)状をしていて、長さは40〜45cm、重さは25グラム程度。

 太さは、胸部で前後の直径8mm、左右約10mmだが、頸部や腰部は紡錘形をしている。

 脊髄の上は延髄に連なり、下は第1〜第2腰椎の高さで糸状の終糸に連なる(この部分を脊髄円錐という)。脊柱管の残りの隙間には脊髄はなく、脊髄下部に出入りする多数の脊髄神経根(馬尾)がある。

 脊髄の中心管のまわりには神経細胞に富みH型をした「灰白質」があり、前角、側角、後角からなる。

 脊髄の「前角」には運動ニューロンがあり、前根から末梢神経が出ている。

 脊髄の「側角」には自律神経系(平滑筋、心筋、分泌腺)などの生命維持に必要な自律神経系のニューロンがある。

 脊髄の「後角」には知覚ニューロンがあり後根から末梢神経からのインパルスを脳に伝える。

 灰白質の周囲にある「白質」は主として有髄神経維であり、前索、側索、後索からなる。白質には上行性伝導路、下行性伝導路が走っている。


脊髄の断面図



『再生医療−その可能性』 より
  
       (じほう、2003年4月刊.pp.179-183)

 岡野栄之<慶大教授・生理学> 脊髄損傷の研究に関してわれわれは出来るだけ早くフェーズT[第1相治験]に突入出来るよう頑張りたいと思いますが、その場合、幹細胞を用いたセルテラピー[細胞療法]に関するコンセンサスを、厚生労働省あるいは国レベルできちんとつくらなければいけない。そこが一番のネックになっているところです。

 それから大量培養形態です。意外と思ったより難しく、スモールスケールでは確かに神経幹細胞をエクスパンド[増殖]出来ますが、企業ペースで何万人の方にディストリビュート〔分配〕するために生産するにはどういうシステムをつくるか、単にシャーレの数を増やせばよいという問題だけでなく、高品質で安定に供給するためにはどうするかが、トランスレーションリサーチ[基礎から臨床への橋渡しする研究]の一番重要なターゲットになると考えております。

 脊髄損傷の一番の問題点は、移植するためのテラピューティックタイムウインドー[治療の最適な時期]が短いことがわかってきたことで、脊髄損傷の多くの方々に対して、どうやって対応していくか考えています。テラピューティックタイムウインドーを広げるためには、やはり動物実験を必要としますので、基礎研究を含め、実用まで何年も必要かと思います。意外にアメリカでの脊髄損傷の研究はあまりアグレッシブ〔意欲的〕でもないですし、比較的狭い世界でやっているといえます。海外のグループの多くは、アクソン[軸索]の伸展のほうにむしろ力を注いでいて、セルテラピー的なところの競争は、まだきつくはなく、われわれもあせって論文を出すことなく、じっくりと仕事に取り組むことが出来ます。

 また神経系の場合に大事なのは、構成する細胞が多様性に富んでいるということです。特定の種類の細胞がやられるような変性疾患とかがいろいろあります。そのため疾患ごとに、セルテラピーのセルソース[細胞試料]も違ってきます。ある疾患ではES細胞〔胚性幹細胞〕が適切であったり、損傷では組織幹細胞である神経幹細胞が適切であったりします。その場合に神経発生を考えてみると、ニューロン[神経細胞]の産生が起き、その後しかるべき場所に移動し定着する。それをヒストジェネシス[組織産生]と呼びますが、その後さらに神経回路網形成という組織構築上、一番際立って複雑な現象が起きていきます。ステムセルバイオロジー[幹細胞生物学]で何とか出来るのは最初のステップであるサイトジェネシス[細胞生成]のところで、あと2、3年で色々な細胞をES細胞から誘導させることが出来ます。その後、その細胞をいかにヒストジェネシスさせるか、ネットワークフォーメーション[情報網の形成]させるとかは膨大な仕事で、まだ10年や20年はかかると思います。

 神経疾患とは疾患の病態によって相当ゴールが近いものから遠いものまであり、脊髄損傷やパーキンソン病はだいぶ見えてきたと思います。パーキンソン病に関してはES細胞から誘導する方法が出来てきましたし、あとはマウスのストロマセル[細胞基質]ではなくヒトのストロマセルかあるいは完全にディファイン[定義]された化合物を使って、ヒューマン[ヒト]のES細胞をドーパミンニューロンに誘導する。その後、誘導されたドーパミンニューロンを純化する。これらは比較的個々の技術の集結で何年か以内にいくのではないかと思います。

 まとめますと複雑な組織構築や投射性ニューロンのシナプス[神経細胞相互の接合部位]形成を再現させるというところはまだまだまだ難しい。しかしながらシナプス形成について局所ですむ。すなわち局所なネットワークを形成するニューロンが破綻したことによる疾患に関しては、比較的ゴールが近く2、3年の勝負だと思います。


 西川伸一<理化学研究所> もともとのプロセスがあって、そこの一部が欠けたときに、細胞だけ入れてやれば後は個体のほうで何とかしてくれる可能性はないですか。

 岡野 それは十分あるのです。決して組織レベルでは復元はしないですが、体が動くとか、全く不規則にでたらめにシナプスを作っているようだけど全体としての行動として回復しているようなことがあります。結構、体任せのところがあり、まだわれわれはサイエンティフィックに理解していないのです。

 須田年生<慶大教授・発生分化生物学> 岡野先生がおっしゃられた、神経回路形成あるいは組織形成機構を知る方向に今の研究が進めばいいですが、あまり再生医学、再生医療のみクローズアップされフォーカスされると、技術的なことにここ2、3年はブームのように走ってしまう可能性があると思います。

 岡野 そういう意味ではベーシックな神経発生の研究は何年もやっています。

 須田 それを大事にしないといけないと思う。すぐ再生出来ますか、病気につながりますかという視点だけで動いてしまうのではないかと気にしています。

 西川 ただ私はそんなに心配はしていません。そういう発想を今まで基礎の案件に持ってこなかったのは事実で、逆にそういう発想が持ち込まれると、今まで考えてなかったことを考えることで新しいものが生まれる方向にいくのではないかと思います。はっきりゴールが示されたときに、基礎の人たちが今まで自分がやってこなかったことを選択しなくてはいけないと気づくのではと思います。中でも重要な課題はデザイン問題で、生命のデザインというものを生物学では一切扱ってこなかった。

 岡野 確かに神経発生研究のトップランナーたちは、デザインをして再生医学の進展を意識し出しています。バッタの神経回路がどのように出来ているかを研究し、かなりいいところまで行っていた人が大学を休業しバイオベンチャーをつくってしまった。バッタの基礎研究をしている人がそういうことを意識し出したことが、再生医学の明るい背景にあると思います。 

〔〕内は事務局の補注




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