JSCF NPO法人 日本せきずい基金

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脊髄損傷に関するQ&A

 ワイス・ヤング教授

 ■ 「rT3」とは何か?
    また、脊髄損傷におけるその役割は?


2000年11月16日

 rT3とは、生理活性をもつヨウ素を含む甲状腺ホルモンの一種、トリヨードチロニンと呼ばれるホルモンのひとつの型である。

 甲状腺ホルモンは甲状腺で作られる。甲状腺ホルモンは細胞の代謝(エネルギー活動)を制御するホルモンとして長く認識されてきたものである。甲状腺ホルモンはヨウ素化合物であり、通常、われわれは材料となるヨウ素を海塩から摂取する。このため、ヨウ素は栄養素として重要なものである。

 ヨウ素を含む甲状腺ホルモンは「T3」と「T4」とよばれる2種類があり、それぞれ2個および3個のヨウ素原子をもっている。さらに、T3は、ヨウ素原子がホルモン分子のどの部位に付着しているかによっていくつかの型に分けられる。「rT3」はこれらのうちのひとつの型である。細胞内にはさまざまな脱ヨウ化酵素(ヨウ素原子をホルモン分子からはずす酵素)が含まれている。

 甲状腺ホルモンは、疎水性(水に溶けにくい性質)が極めて強く、膜内に容易に浸透する。このため、血流にのせて甲状腺ホルモンを身体のさまざまな部位に送るためには、キャリアープロテイン(運搬体蛋白質)と結合させて、水溶性の高い状態にしなければならない。蛋白と結合したT3およびT4は、各細胞へ運ばれ、膜を貫通して細胞内に拡散し、細胞内の核に局在するホルモンレセプター(受容体)に作用する。また、甲状腺ホルモン存在下では、膜の硬直性が増加する。ハールバートは2000年に、甲状腺ホルモンは、その生理活性作用(細胞のエネルギー代謝)を膜の硬直性を増加させる作用とレセプターへの作用の両方によって発揮していると、 提唱している。

 長年、TRH (サイロトロピン放出ホルモン)が、脊髄損傷において神経保護作用をもつことが報告されている。TRH(サイロトロピン放出ホルモン、または甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)は視床下部から分泌されるペプチドホルモンで、下垂体にはたらき、サイロトロピン(甲状腺刺激ホルモン)を放出させる。さらに、サイロトロピンは、甲状腺にはたらき、T3, T4の産生を刺激する。TRHとその類似物質は脳においてさまざまなはたらきを示すため、一概に甲状腺ホルモンの影響によるものとして説明することはできない。

 例えば、高用量のTRHは、鎮静剤のレセプターも阻害し、神経系の興奮を亢進させる。特に、興味深い点として、早期の脊髄損傷の治験では、高用量のTRHによって、ペントバルビタール(通常、静脈注射によって使用する麻酔薬)やガス麻酔を阻害することが示唆されている。

(訳注) オリジナル英文に誤りがあったため、他の成書の記述に従い以下の解釈で修正翻訳した。 TRH:下垂体ではなく視床下部から放出されるホルモン。

 Thyrotropin:下垂体から放出されるホルモン

 脊髄の代謝に関しては、早期の脊髄における代謝の研究の多くが、脊髄損傷部位の多くの細胞が壊死していることを考慮していなかったことをぜひ理解していただきたい。

 損傷部位の80%の細胞が死んだとすると、組織の代謝能は劇的に減少するはずである。したがって、医師は損傷部の残存する細胞数で、代謝能を正常レベルまで戻す必要がある。しかし、脊髄損傷での代謝能を研究してきた医師のほとんどが、損傷部位に残存する細胞数を考慮していなかった。このため、脊髄損傷部での代謝能の減少は、軽視されがちであった。

 脊髄損傷部での甲状腺ホルモンレベルについてはほとんどわかっていない。しかしながら、脊髄損傷患者では血中のT3レベルが低いことが報告されている。Prakash (1983)、Bugarestiら(1993)は、脊髄損傷患者では、血清中のT3は低いが、rT3は高いことを報告している。同様にBaumanとSpungen (2002)も、多くの脊髄損傷患者でT3レベルが低く、rT3が上昇しており、これが合併症に関与していると報告している。

 これらの研究者は、脊髄損傷が原発の甲状腺疾患ではないため、現状では脊髄損傷患者に甲状腺ホルモン異常に対する治療が行われていないことを指摘し、同時に甲状腺ホルモン異常を是正することによって、脊髄損傷患者の寿命や生活の質を改善できる可能性を示唆している。

(訳注)  rT3(reverse triiodothyronine、逆位トリヨードチロニン):サイロキシンよりも合成量が少ない甲状腺ホルモンで、生物学的不活性異性体。



 ■ 横隔神経とはどのようなもので、どこにあるのか?

2000年11月29日

 横隔神経は、脊髄から横隔膜へ達する神経である。横隔膜は、胸部の最下位に位置し(胸腔と腹腔を隔てる膜)、呼吸運動の一端を担っている。

 横隔神経の軸索(神経細胞の非常に細長い細胞質)は、脊頚髄分節C3, C4およびC5(頚髄はC1-C8の分節に分かれている)にある横隔神経核より伸びている。また、約75%の人にはC5からC6にかけて副横隔神経核が存在する。

 胸鎖乳突筋とよばれる細長い筋肉が、顎から鎖骨の骨頭にかけて存在している。鎖骨は、肩から首の前方の根元に至る水平に長い骨である。Grantの解剖学アトラス成書にあるように、横隔神経はいくつにもの分枝にわかれてこの胸鎖乳頭筋の下を通って、鎖骨下静脈(鎖骨の下を流れる静脈)部で合流し、胸部へ下降する。



 ■ ASIA分類システムとは何か?

 2000年11月22日

 脊髄損傷者の多くが、ASIA A, B, CあるいはDと分類されるのを頻繁に聞く。 ASIAとは、アメリカ脊髄損傷協会(American Spinal Injury Association)の略で、合衆国およびカナダの脊髄損傷患者の約70%の治療にあたる医師が本協会のメンバーとなっている。

 約10年前、本協会の医師らによって、運動神経および感覚神経の検査による脊髄損傷の程度および損傷部位の表し方の標準的な分類法が定められた。このASIA分類法は、国際パラプレジア学会 (IMSOP: International Medical Society of Paraplegia)とよばれる全世界のより多くの脊髄損傷に携わる医師より構成される国際学会でも支持・承認されている。

 このため、この分類法はよく国際脊髄分類法(International Spinal Cord Classification System)とも呼ばれている。



 ■ NIL-Aとは何か?

 2000年11月18日

 NIL-Aとは、ニューロイムノフィリン(neuroimmuno-philin)とよばれる物質で、ギルフォードとアムジェンがパーキンソン病の治療のために共同開発したものである[1]。

 NIL-Aは、先行して開発されていたGPI-1046とよばれるイムノフィリン製剤を受け継いだ第二世代の製剤である。GPU-1046自体は、前臨床の開発段階で中断されているらしい[2] 。

 NIL-Aの薬効および体内動態についてのデータは、1998年8月に合衆国ラスベガスで開催された「急性神経損傷:新規治療法」紹介に関する会議で公開された。このNIL-Aは、経口投与でも50%のバイオアベイラビリティ(生物医学的利用能:この場合、経口摂取した製剤の50%が、吸収されて未変化体として血中に入る)があり、体内半減期や吸収面でも優れているのに加え、GPI-1046と比較して約25倍の薬効を示した。

 NIL-Aは、年間売上が10億ドルのブロックバスター(強力な影響力のある薬剤)になる可能性を秘めているため、投資家たちからは熱烈な歓迎を受けている[3] 。NIL-Aの分子化学構造に関する詳細は未公開の状態である。www.biospace.com [4]によれば、NIL-AはGPI-1046の構造を修飾したもので、より薬効、生体内持続性、経口吸収性を改善したものである。一方、GPI-1046の薬効に関してはかなり疑問視されている(アブストラクトリストページ参照)。
  1. http://www.findarticles.com/m0FQN/2000_August_7/64159635/p1/article.jhtml2
  2. http://www.findarticles.com/m0FQN/1998_Oct_1/50340696/p1/article.jhtml3
  3. http://www.businessweek.com/2000/00_35/b3696189.htm4
  4. http://www.biospace.com/ct/detail.cfm?ClinicalID=132704
(注) 1,2,3 のリンク先が不明になりました。



 ■ 損傷脊髄について

 2000年11月17日

http://www.cando.com/forums/messages.jhtml?TOPICID=1005953&offset=0&GROUPID=1より   ←(注)リンク先不明

【質問1】 脊髄が損傷を受ける時、事態が最悪でない限り、圧力がかかって脊髄は損傷されるのか。あるいは、状況によっては脊髄が切断されることはありうるか。

 ▼ 脊髄は、銃弾やナイフによる傷害でない限り、切断されることはめったにない。最も起こりやすいのは、脊椎骨あるいは椎間板(脊椎と脊椎の間の軟骨)がずれることにより、急性あるいは慢性に圧迫を受けるものである。損傷の程度やはじまりは、その圧迫のスピードによって変わる。

 ゆっくりとした長期的な圧迫の場合、脊髄への血流が遮断されて傷害が起こる。脊髄白質(神経細胞の核ではなく、神経線維〔軸索〕が多く占める部分)は、脳に比べて一般的に虚血(血流停止)に対して抵抗性を示す。血流が10〜20分間以上障害されると、圧迫を受けている組織は壊死し始める。

 一方、急性の圧迫では、いわゆる「挫傷」とよばれる状態となる。脊髄は硬膜と呼ばれる比較的伸展性に乏しい膜に包まれている。硬膜内が高圧になると脊髄は長軸方向にずれ、細胞成分が伸びたり、裂けたりする。 

 脊髄は、圧迫の持続時間が10〜20分間以内で、しかもその圧迫による伸展が1秒間に0.5 mよりも遅い場合には、伸展したり、圧迫により変形しても、損傷を受けずに耐え得ることができる。しかし、圧迫率が0.5 m/秒を超えると、軸索がゴムバンド状に傷害され、急激に大きく伸びきってしまう。

 動物実験では、脊髄の中心部の軸索ほど、大きな動きが生じやすく、傷害を受けやすいことが示されている。また、情報伝達に長けた長い髄鞘をもつ軸索ほど、髄鞘(ミエリン)と髄鞘の間のランビエ絞輪とよばれる部分(髄鞘のない部分)に、集中して圧がかかり、伸びきってしまいやすいため、損傷しやすい。


【質問2】 挫傷時に、細胞は、

    A) 死滅するのか?
    B) 脱髄が起こるのか?
    C) 軸索が破壊されるのか?
    D) 上記A〜Cによる複合的な傷害やA〜Cの
       すべてを含む傷害が起きるのか。
       あるいは脊髄損傷の程度により異なるのか?

 ▼ 細胞の死滅、脱髄、軸策の破壊はいずれも起こり得る。脊髄に圧迫病変が生じると、細胞および軸索は伸張により切断される。脊髄の圧迫部位には、軸索、ニューロン、星状膠(アストログリア)細胞、稀突起膠(オリゴデンドロサイト)細胞などがある。

 これらの細胞が受ける傷害の程度は、圧迫による伸張と切断の生じる速度および程度によって決まる。外傷が出血を伴なう場合は、血液は細胞にとって有害であるため脊髄損傷の一因となる。最終的に、受傷組織は、さまざまな化学物質を放出をし、組織に対して、さらに悪影響を与えることになる。

 この化学物質には、フリーラジカル、炎症性サイトカイン、神経毒性を示す神経伝達物質などがある。


【質問3】 受傷レベル以下では何が起きているか?神経細胞は生存しているのか? 時がたつにつれ神経細胞は死んでいくのか? あるいは、脳と神経細胞との連絡は遮断されても、損傷レベル以下で、神経細胞同士のつながりは保たれたままでいるのか?

 ▼ 細胞体から切断された軸索は死んでしまう。軸索の死滅は、数日から数週間で起きる。しかし、軸索の接合先の神経細胞は、機械的に直接、損傷を受けない限り、通常、死滅するようなことはない。同様に、自らの軸索に傷害を受けた細胞も、その軸索傷害部位が細胞体に隣接していない限り、生存できる。

 損傷部位の上下いずれであっても、神経細胞は互いにつながったままである。実際、損傷後いかなる場合でも、神経細胞の多くは互いに新たな接合を始めるため、これが痙性の原因と思われる。同様に、損傷より上の神経細胞には、互いに新しい接合を始めるものもあり、これが神経障害性の疼痛の原因と思われる。


【質問4】 挫傷の場合、瘢痕が形成されるのはどこか。脊髄外の周辺か、脊髄の表層か、あるいは、脊髄を貫通して形成されるのか?

 ▼ 脊髄損傷部位で生き残ったグリア細胞は増殖する傾向がある。しばしば、増殖したグリア細胞が傷害部位を厚い層をなして取り囲み、「グリア性瘢痕」と呼ばれる組織を形成する。

 損傷は、脊髄を貫通している場合もあり、通常脊髄内に存在しない線維芽細胞が損傷部位に浸潤し、グリア細胞のみからなる瘢痕ではなく、真の線維性瘢痕組織を生じることがあり、さらに、大きな線維性瘢痕や硬膜との癒着に進行する。次に、硬膜は、周辺組織と線維性癒着を形成するようになる。

 このような瘢痕化は、特に、損傷による出血がある場合は起きることが多い。この場合は、脊髄損傷は、「繋留」(ケイリュウ)となることがある(詳しくは次項を参照)。


【質問5】 挫傷時に脊髄の外側に瘢痕が形成されるのなら、神経や軸索は、なぜ挫傷時に成長する必要があるのか? 挫傷が脊髄を貫通しているかどうかは確認できるが、挫傷内部についてはどのような事象が起こっているのか?

 ▼ 脊髄と周辺硬膜との癒着および脊髄の繋留は、脊髄に有害作用を及ぼす。まず通常は、脊髄と硬膜とのすき間には脳脊髄液が流れる。脊髄と硬膜との癒着は、脳脊髄液の流れを妨害することがある。すると、脳脊髄液は中心管や他の経路を探して流れていかざるを得なくなる。

 時がたつにつれ、この異常な流れは脊髄内に肥大した嚢胞を引き起こすようになり、この疾患は脊髄空洞症と呼ばれる。

 次に、通常、脊髄は、硬膜内でなめらかに滑る動きをしている。この滑りが損なわれると、動くたびに脊髄に余分な緊張が加わり、伸ばされたり、引っ張られたりするようになる。これは、やがて進行性の障害および機能喪失の原因になることがある。脊髄において、このような癒着や繋留を除去することは有効である。


【質問6】 なぜ損傷部位の上と下の神経細胞は再結合できないのか? なぜ、神経細胞の成長は、それほどの距離に及ばなければならないのか?特に脱髄の場合だが、脱髄していても神経細胞が繋がっていれば、髄鞘が再形成されることによってすべてが解決するということが理論上、言えるのではないか?

 ▼ 損傷部位で切断された軸索は、成長して元の細胞に再び結合しなければならない。受傷した軸索は少し成長するが、脊髄損傷部位までくると成長が停止することが多い。成長がなぜ停止するかについては多くの議論が交わされている。

 一般的な理論となっているものが数件ある。 長年、損傷部位周辺のグリア細胞の増殖(グリア性瘢痕)が機械的に軸索の成長を阻害していると考えられてきた。しかし、軸索が一定の環境下でグリア性瘢痕内でさえ増殖し得ることが多数報告されたため、この機械的閉塞論は支持されなくなった。このため、現在では、多数の科学者が、グリア細胞が軸索の成長を抑制する化学物質を放出すると考えている。

 特に注目されているものに、グリア細胞および炎症細胞より分泌される「コンドロイチン6-硫酸 プロテオグリカン」(CSPG)という化学物質であり、軸索の成長に対して強い抑制作用をもつ。稀突起膠細胞(稀突起グリア細胞)が、軸索の成長を抑制するタンパク質を発現していると考えている科学者もいる。

 多数の研究により、稀突起膠細胞が形成する髄鞘を有する軸索(有髄神経)は成長しにくい、ということが明らかになっている。この軸索の成長を抑制するミエリン関連分子の中で有力視されているものが、「Nogo」と呼ばれるタンパク質である。稀突起膠細胞の形成する髄鞘の表面にはNogoが認められている。「IN-1」という抗体は、Nogoを阻害し、脊髄を再生させるということが証明されてきている。Martin Schwab は、この抗体の開発を手がけ、臨床試験に入ると思われる。

 その他に、「ミエリン関連糖タンパク質」(Myelin-associated glycoprotein or MAG)という分子も、軸索の成長を抑制することが確認されている。また、「コラプシン」という細胞外基質タンパク質も軸索の成長を抑制すると考えられている。このタンパク質は、セマフォリン・ファミリーであることが確認され、現在、「セマV」と呼ばれている。

 しかし、ぜひ留意していただきたいこととして、通常、見落とされがちであるが、効果的な再生を阻む2つの障害があることを挙げておきたい。すなわち、時間と距離である。軸索の成長は、緩慢であり、速くても1日に1 mmという毛髪の成長速度ほどであろう。したがって、軸索が損傷部から成長し、元のニューロンまでたどり着くのに何ヶ月、あるいは何年も要するのである。上述したいくつかの作用物質の影響というよりも、この長い修復期間の間に単純に軸索の成長が止まってしまうのかもしれない。すなわち、軸索が一定期間内に標的のニューロンまで到達しないと、軸索は、成長が止まって、死んでしまうのかもしれない。


【質問7】 脱髄により刺激伝達が行われなくなるのか、あるいは伝達速度が遅くなるのか。

 ▼ 脱髄した軸索ではうまく情報の刺激伝達を行なうことができなくなる。稀突起膠細胞という細胞が分節ごとに軸索のまわりに髄鞘を形成する。各分節の長さは数ミリメートルに及ぶこともある。また、軸索は、通常、損傷後に部分的に髄鞘を再形成する。

 刺激伝達の障害は、脱髄と髄鞘の再形成の程度によって決まる。脱髄により、刺激伝達が遮断されたり、遅くなったりすることがある。さらに重大なことに、脱髄により、連続性の刺激伝達が妨げられることもある。軸索では、情報の刺激伝達が爆発的に増加することがしばしば起こる。

 脱髄した軸索では、単一刺激を伝達することができても、速い連続性刺激に対応することは困難な可能性がある。また、脱髄により、刺激伝達のための安全因子が減少することもある。すなわち、ひとつの刺激が脱髄したところを通る確率は少ないかもしれないが、刺激伝達量が増加すれば、それらのいくらかが脱髄部分を通る確率も増加し、その結果、脱髄、あるいは髄鞘形成異常により、軸索が伝達できる情報量が減少する。


【質問8】 L1にある中枢ニューロンは何か。なぜL1以下の脊髄損傷者は、損傷レベル以下の機能を失うのか、あるいは、なぜ、機能的電気刺激(FES: Functional Electrical Stimulation)に反応しなくなるのか。

 ▼ 椎骨L1 (第一腰椎)には、髄節L1〜S4(第一腰髄〜第四仙髄)を担う脊髄の大部分が通っている。髄節L1〜S4の神経支配の範囲は骨盤部および下肢である。

 ここでは、多数のニューロンによって様々な機能がコントロールされている。この機能には、歩行(移動)、排尿を起こす一連の反射、性機能などがある。この部位のニューロンは、下肢運動のコントロール・協調という反射も担っている。つまり、骨盤部および下肢の筋を神経支配するニューロンの多くは、髄節L1〜S4に位置している。

 この部分の運動ニューロンが死ぬと、神経支配を受ける筋は萎縮を起こす。萎縮した筋は、電気刺激を受けても、動くことができないことがある。


【質問9】 10%の修復があれば機能の回復が起きることは理解するが、脊髄損傷などなかったかのように完全に回復するには、何パーセントの修復が必要か(演者の個人的見解を知りたい)?

 ▼ 質問を言い換えると、運動などの機能回復には、軸索が10%だけ修復すれば充分であるということである。いわゆる「不全」脊髄損傷の人々の多数は、歩行できるまでに回復するのはこのためである。不全脊髄損傷の人々のうち、歩行できるようになる人は50%もいる。軸索の修復が5%あるいは8%であり、機能が損なわれている多くの人々もいる。こうした人々は、軸索の2%あるいは5%が保存され、修復され、あるいは再成長すれば、機能はかなり回復するだろう。

 ごく普通に歩くので、他の人が見ても脊髄損傷を受けたようには見えない人々に会ったこともある。しかし、「損傷前とまったく同じように歩けるわけではない」と彼らは言う。運動の協調や動作は、損傷前と同じでないかもしれないが、機能としては、損傷前と同じ機能をもっているということである。質問の答えとして、当然ではあるが、100%の機能回復には100%の脊髄修復が必要であるが、10%修復して結合すれば、かなりの機能が回復するといえる。


【質問10】 瘢痕だけが急性期と慢性期の違いなのか、急性期後には、脊髄にどのようなことが起きるか、急性期とよばれる期間はどのくらい続くのか、2週間か、数日か、あるいは1ヶ月か?

 ▼ 演者は、脊髄損傷の「急性期」とは、傷害が継続して起きている期間と定義している。「亜急性期」とは、脊髄で継続して起きていた傷害が止まり始め、修復が開始される時期のことである。その後、回復期が始まり、何年もかかることがある。回復の終末期には、修復反応が沈静化し、状態が安定してくる。この安定した状態を「慢性」脊髄損傷と呼んでいる。

(訳注)  通常、[myelin: ミエリン(髄鞘の構成成分)]、 [myelin sheath: 髄鞘]と使い分けるが、文脈からしてmyelinのみで髄鞘を示していると思われる箇所は、myelinを髄鞘と訳した。

〔翻訳:赤十字語学奉仕団・石田勝彦/渡辺理恵子〕



 いわゆる「不全」脊髄損傷の人々の多数は、歩行できるまでに回復するのはこのためである。不全脊髄損傷の人々のうち、歩行できるようになる人は50%もいる。軸索の修復が5%あるいは8%であり、機能が損なわれている多くの人々もいる。こうした人々は、軸索の2%あるいは5%が保存され、修復され、あるいは再成長すれば、機能はかなり回復するだろう。

 ごく普通に歩くので、他の人が見ても脊髄損傷を受けたようには見えない人々に会ったこともある。しかし、「損傷前とまったく同じように歩けるわけではない」と彼らは言う。運動の協調や動作は、損傷前と同じでないかもしれないが、機能としては、損傷前と同じ機能をもっているということである。

 質問の答えとして、当然ではあるが、100%の機能回復には100%の脊髄修復が必要であるが、10%修復して結合すれば、かなりの機能が回復するといえる。


【質問10】 瘢痕だけが急性期と慢性期の違いなのか、急性期後には、脊髄にどのようなことが起きるか、急性期とよばれる期間はどのくらい続くのか、2週間か、数日か、あるいは1ヶ月か?

 ▼ 演者は、脊髄損傷の「急性期」とは、傷害が継続して起きている期間と定義している。「亜急性期」とは、脊髄で継続して起きていた傷害が止まり始め、修復が開始される時期のことである。その後、回復期が始まり、何年もかかることがある。回復の終末期には、修復反応が沈静化し、状態が安定してくる。この安定した状態を「慢性」脊髄損傷と呼んでいる。

(訳注)  通常、[myelin: ミエリン(髄鞘の構成成分)]、[myelin sheath: 髄鞘]と使い分けるが、文脈からしてmyelinのみで髄鞘を示していると思われる箇所は、myelinを髄鞘と訳した。

〔翻訳:赤十字語学奉仕団・石田勝彦/渡辺理恵子〕





 ■ 札幌医大・脊髄損傷、幹細胞移植で回復

(読売:2001-10-29)

 脊髄損傷、幹細胞移植で回復 ラット実験 札医大成功

 脊髄が損傷したラットに人の様々な神経細胞のもとになる神経幹細胞などを移植して運動機能を回復させることに札幌医科大学の本望修講師のグループが成功。患者にも応用可能とみられ、脊髄損傷の治療につながる成果と期待される。

 本望講師らは、脊髄の一部を切り取って、足の運動が不自由になったラットに、人間の胎児の脳と成人の脳、成人の骨髄から採取した三種類の幹細胞を移植した。

 三つの幹細胞のどれを使った場合でも、ラットは移植六週間後、歩いたり、走り回ったりするなどの運動機能が、約半分の水準ながら回復した。

 実際に治療後の脊髄を調べたところ、移植した細胞が、脊髄の神経細胞となって組織の修復に役立っていることが確認できた。

 本望講師は「三つの幹細胞には、増殖のスピードなどに差はあるが、ほぼ同等の成果が得られた。臨床応用を考える場合、採取に倫理的な問題がなく、本人の細胞を使えて免疫拒絶反応の心配がない骨髄の細胞の利用が有力だろう」と話している。


 ■ 札幌医大・神経幹細胞を培養

(朝日:2001-08-08)

 神経幹細胞を培養 札幌医科大 献体を教育外利用

 札幌医科大学の研究グループが、解剖実習のために献体された遺体の脳組織から、多様な神経細胞を生み出す「神経幹細胞」を分離して培養することに成功した。この細胞は、脳こうそくなどで壊れた神経の再生・治療の基礎研究に使える。本来は医学教育用だった献体が、再生医学研究の進歩で、使われる目的が広がってきた。

 提供者の同意の必要性の有無などについて、国レベルの議論が必要となる。同大の本望修講師によると、使った遺体は、生前に献体篤志家団体「札幌医大白菊会」登録していた人のもので、遺族から改めて研究利用の了解を得ている。

 これまでに70〜90代の7人の、死後数時間以内の遺体の脳の側室と呼ばれる部分から細胞を採取。独自の方法でその中から神経幹細胞を分離し、培養することに成功した。培養細胞を脳こうそくや、せき髄損傷を起こしたサルの患部に注射したところ、症状が改善されたという。

 遺体からの神経幹細胞の培養は、今年5月に米国の研究者が初めて報告しているが、日本では初めてだという。

 同大倫理委員会は昨年5月にこの神経細胞再生の研究を承認、さらに今年7月までに、献体された死後約6時間以内の遺体の組織を使って、加齢に伴う脳の変化と、肩の関節の動きを調べる2研究の実施も承認した。

 遺体からの神経幹細胞の培養は、今年5月に米国の研究者が初めて報告しているが、日本では初めてだという。

 同大倫理委員会は昨年5月にこの神経細胞再生の研究を承認、さらに今年7月までに、献体された死後約6時間以内の遺体の組織を使って、加齢に伴う脳の変化と、肩の関節の動きを調べる2研究の実施も承認した。

 献体法では、本人の意思表示が必要な献体の目的を医学教育の解剖実習に限っている。一方、死体解剖保存法では遺族の合意だけで遺体を研究利用できるとしており、遺体利用の解釈が分かれている。


 遺体利用ルール きちんと議論を

《解説》

 欧米では、遺体を利用した研究は広く行われており、遺体の特定の組織だけを集めいてる研究機関もある。死後まもない遺体を使えば、再生医療に限らず人への臨床応用に直接役立つデータが得られる。

 しかし日本ではまだ、遺体を使った研究についての同意の取り方が徹底していない。札幌医大の村上弦教授(解剖学)が献体を受けている全国の施設を調べたら、同意を取る際に、研究利用を明示している施設は3割に満たなかったという。

 病死や胎児なども含めた遺体一般の研究利用に関して、死体解剖保存法は遺族の同意だけでいいとしている。しかし、この法律は50年以上前に作られたものだ。

 札幌医大が利用している献体は、「献体法」で定められているように医学系学生の人体解剖学習が目的で、研究利用を前提にしていなかった。

 文部科学省は「遺族から改めて同意をとれば問題ない」とするが、星野一正・京大名誉教授は「献体はあくまで教育が目的。研究に使うなら、生前に本人からきちんと同意をとるべきだ。遺族に本人の遺志は代弁できない」という。

 遺体の細胞培養が臨床応用されれば、脳神経やせき髄などの機能を修復させる可能性もある。それだけに基礎研究の段階から、遺体の組織・細胞を臨床利用することの是非や、提供者への同意の取り方などに関して、きちんと議論を重ねるべきだ。また、再生医学などの発展を考慮せずに制定された死体解剖保存法や献体法の見直しも必要だ。

(科学部 大岩ゆり)






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