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神経系発展の世紀 II
再生研究の展望
神経学の研究者たちは、過去1世紀以上にわたって神経システムを理解しようと努力を重ねてきた。『Science Update−Sprint 1999』には、神経細胞の成長、神経に栄養を与えその成長を導く物質、これらの物質とそのレセプター、および中枢神経系(CNS)の』成長を抑制する物質の特定の組み合わせに関する数々の研究成果がまとめられている。
現段階での研究の焦点は、これらの知識を外傷や疾病によって損傷されたCNSの治療にどう活用してゆくかに集まっている。
1950年代において画期的だったのは、脳に傷害を受けたラットが、徐々に子供にえさをやる行動を取り戻したという報告であった.これが、それまで信じられていた、成長した哺乳類の中枢神経系には再生能力がないという定説を覆す第一歩となった。
つまり、脳の配線はつなぎなおせる、あるいは可塑性があるということを示唆した研究であった。
中枢神経系の可塑性がGeoffrey Raismanによって解剖学的に証明されたのは、それから10年後のことだった。
1970年代から80年代には、最近のUPDATE にまとめられているように、損傷後の神経細胞の保存および成長にとって、成長促進因子が決定的な役割を果たしていることがわかってきた。
再生研究の再生
20世紀初頭、Ramon y Cajal とTello が、中枢神経系再生が成功しなかったのは、「決定的な失敗でも、取り返しがつかない挫折でもなく、おそらく若返りの過程においてシュワン鞘が欠けていることによるものであろう」という推測を発表した。
彼らの研究によれば、成長促進因子はセオドア・シュワンが説明した末梢神経の細胞で作られている。
1975年までには、Richard Bunge が、そのシュワン鞘の研究から、患者の神経からとられたこれらの成長促進細胞が、中枢神経損傷をつなげるために利用可能であるということを提案している。1980年代初期に、Albert Aguayo とその共同研究者が、長い間埋もれていたTelloの、末梢神経をせき髄に移植しようというアプローチをふたたび取り上げた。
彼らが発表した画期的な論文は、移植された神経片によって、損傷を受けたせき髄神経線維が移植組織を通って中枢神経との境界まで成長することを可能にしたということを報告している。
神経線維のあとをたどるという新しい手法を用いて、彼らは、成長後の哺乳類において、中枢神経の再生が可能であるということを決定的に証明した。
彼らの発見はさらにMartin Berryの実験室において確認された。
こうして、中枢神経の再生が決定的にしかも繰り返し証明されたことによって、多くの研究者がこの新たな研究分野に引きつけられた。
新たなる戦略
せき髄損傷の治療法として、胎児のせき髄、および末梢神経のシュワン細胞の移植という2つの方法が有望視されている。いずれも、損傷を受けて成長能力を失った中枢神経部分を自然に神経の成長を促進する組織で置き換えようというものである。胎児の組織を移植できれば、神経細胞を置き換えるだけでなく、成長を促す細胞(グリア)をも移植することができる可能性があることが、Paul Reilerらによって報告されている。
また、AlainPrivatらの実験は、移植された胎児の神経細胞は、単に成長できるというだけでなく、適切な目標を見つけて、そこに向かって成長し、運動に影響を与えることができるということを示している。
胎児の神経細胞を広範囲にわたって利用するということには技術的にも、倫理的にも多くの困難があるだろう。それにもかかわらず、フロリダ州ゲインズヴィルやスウェーデンにおいて、肥大性ののう胞のあるせきそん患者を対象に、この方法が安全かどうか、移植された組織が生きつづけられるかどうかをみる試みが始められている。
シュワン細胞と末梢神経の移植組織は、神経細胞に取って代わるものではないが、せき髄組織の隙間の橋渡しをするという、独自の能力があることがわかっている。近年、研究の重点はなぜ神経線維がこれらのブリッジの中を、長い距離にわたって成長するのに、中枢神経と抹消新家の接合部に来るとその成長が止まるのか、という点の解明に置かれている。
いずれの方法も、その他の成長促進因子を付加することによって、より効果的になる。Barbara Bregmanは、胎児の移植組織を用いてこれを証明した。また、Mary BungeとJohn Houleは、脳細胞は、成長促進因子を付与した場合、最もよくせき髄シュワン細胞や末梢神経移植組織へと再生するということを報告している。
1996年、Henrich Cheng および Lars Olsonは、成長促進因子である18PN,血液製剤と外科的な安定処置を複雑に組み合わせることによって、ラットの脳内の細胞から、完全に損傷したせき髄を通過し超えての神経再生が促進され、運動能力の改善が見られたと報告した。
Olsonの業績は、まだ、この方法を試す他の実験では確認されていないが、研究者の間では、実用性のある神経の再生と機能回復を実現するためには、おそらくいくつかの方法を組み合わせる必要があるだろうという見方が一般的である。
Bunge,、Xiao Ming Xuらは、シュワン細胞ブリッジは、神経保存的な方法と組み合わせて用いられた場合に最も効果的であること、また、成長促進因子の注入によって、軸策が移植組織を超えて、目標に向かって成長するように導くことができるということを示した.遺伝子工学的な処理をほどこしたシュワン細胞は、さらに多くの成長促進因子をつくり、それがさらに成長を促進する。
繊維芽細胞は、皮膚やその他の組織から簡単に成長するが、それ自体では、神経の成長を促進する働きはない。しかし、これらは、Fred Gage およびMark Tuszynskiが証明したように、遺伝子療法の有力な候補である。彼らは、成長促進因子の遺伝子をこの繊維芽細胞に付与した.この繊維芽細胞は、移植されると、成長促進因子を分泌し、神経細胞の再生を促進する。
Tuszynskiは、これはせき髄損傷後の四肢機能の改善につながるとしている。ごく最近になって、Itzhak Fischerらは、遺伝子工学的に処理された繊維芽細胞もまた、ブリッジとなりうることを証明した。つまり、再生した繊維が、移植組織から出て、移植を受けたラットのせき髄の内部まで成長したのである。
障害を乗り越えて
成人のせき髄でさえ、損傷後もある程度までつながりうる。足を進める動きも、せき髄神経回路との協調によって、訓練によって強化されうる。せき髄を損傷した人が、何らかの機能を回復するのに、損傷を受けたせき髄のすべてを再生する必要があるわけではないのは明らかである。
むしろ損傷部位よりも上の部分から、それより下の部分にある神経細胞に、何らかの情報を運んでいる繊維は、せき髄神経回路に影響を与えることによって、機能を大きく改善することができる。損傷部位を越えて、せき髄組織の中で成長が起こることが必要であろう。そしてそれには、中枢神経再生抑制作用を克服することが要求される。
再生抑制因子は、再生を阻害するもので、ミエリンと成人中枢神経の損傷部位の近辺で発見されている。Schwabはラットの再生しつつある繊維から、ノゴと呼ばれる抑制物質を隠すために、抗体を用いた。また、ミエリンを形成する細胞それ自体を除去した実験もある。このような小動物へのアプローチを、人間の組織に適用する試みも、困難ではあるが、進行中である。
Jerry Silverは、本来ならば神経の成長を促進する環境を提供するはずの中枢神経細胞が、損傷を受けると、成長抑制因子を分泌することを示した。さらに最近では、成長しようとする神経細胞が、これらの抑制物質の存在する部分をくぐりぬけることができれば、あとはせき髄組織の奥まで、伸びていくことができるということが報告されている。
これらの障害を乗り越えるひとつの方法として、成長しようとする神経線維が、抑制因子の存在する部分を突破できるように案内役をする細胞を付加するという試みがある。嗅覚器を覆うグリア(OEG)は、この案内役として非常に有望であり、(Science Update, Summer 1998) シュワン細胞のように、中枢神経の軸策に髄鞘を形成することができるかもしれない。これらの細胞の細胞の正確な機能および人間のOEGを入手する技術が目下の研究課題となっている。
免疫システムと神経系との相互作用についても、活発な研究が行われている。せき髄受傷後、免疫細胞の分泌物のあるものは、さらなる細胞死や機能の喪失を惹き起こす。これを阻止するために神経保護のための戦略が考えられている。
マイケル・シュヴァルツは、神経乃再生が自然に起こっている末梢神経で活性化された免疫細胞は、中枢神経の再生も促進することができることを報告している。
これらの有益な、あるいは有害な作用の最適なバランスと薬物療法あるいは細胞移植療法を行うべきタイミングを明らかにすることは、極めて重大な研究課題である。ある種の薬物は、受傷直後に投与されると、中枢神経組織を保護(?)するが、数時間後には逆に損傷を悪化させるもの
もある。
最後に、せき髄損傷およびその他の神経障害に対する有望な治療法として、幹細胞が注目を集めている。幹細胞は、原初的な細胞で、刺激を与えることによって、多くのタイプの細胞に成長することができる。
定義上、幹細胞はまた、関連原細胞(?related progenitor cells)とは異なり、幹細胞相互の置換が可能である。Progenitorは、成長してニューロンのようなある種の細胞になるようにあらかじめ決められている。研究者たちは、これらの細胞の発達をコントロールする方法を発見しようと努力しており、これが機能回復への応用の鍵となるだろう。
実験室から臨床現場へ
臨床研究者たちは、人間を対象とした治験への第一歩として、新しい治療法の安全性の評価がなされなくてはならないという点で意見が一致している。
その上で、無作為に選ばれた患者の機能の有意義な改善をもたらしたことが証明されれば、新たな治療法として受け容れられることになるだろう。有効性を証明するためには、厳密で客観的な追跡調査が必要である。裏づけに乏しい、漠然とした機能改善の報告が一般にあてはまることはめったにない。
最も頼りになるのは、たまたま起こったにすぎない変化と、治療法の実際の効果とを峻別する、体系だった研究である。せき髄損傷からの自然な回復のケースを、実験段階にある治療法の効果であると誤って解釈した結果、むしろ有害かもしれない治療法のために多額の研究費が無駄になり、回復への真の希望を与えてくれないばかりでなく、それ以後のきちんと証明された他の治療法を追求するチャンスをかえって減らしてしまうことにもなりかねないからである。
再生研究の可能性を現実化して、臨床の現場での治療法とするのは、時間のかかるプロセスである。なんといっても、まだまだわかっていないことがたくさんあるからである。ここに紹介したさまざまな研究は、確かに、中枢神経は再生できないという定説を覆したが、これらの治療法を臨床的に応用できるまでには、更なる研究が必要である。一人一人の損傷はそれぞれ違うので、臨床研究者は、実験の成果を患者に適用するには非常に慎重である。
また受傷直後に試された治療法が、受傷後時間のたった患者に有効かどうかという疑問も投げかけられている。受傷後、最初の一週間は、神経細胞は、いわば『最適』の状態、つまり、成長促進因子に極めて反応しやすい状態にある。損傷を受けてから時間の経った神経の末端は反応しないかもしれない。受傷後時間のたったせき髄への移植の成功の決め手となる研究分野は、軸策の成長を再開させる遺伝子の解明である。
<終わりに>
げっ歯類の細胞への移植がうまくいけば、次は、人間の細胞での実験が必要である。これは、シュワン細胞については、すでに成功が確認され、神経芽細胞についても場合によっては成功している。人間のOEGに関してはまだ詳しい結果は出ていないが、マイアミプロジェクトでは、現在この研究が進行中である。
治療法は、おそらく機能回復のいくつかの戦略の組み合わせとなるだろう。どの治療法も単独では有効ではない。受傷時の中枢神経の保護や複雑な移植治療、そしてその後のリハビリによる再訓練が、せき髄損傷後の機能回復に最も高い成果を上げる治療法となるだろう。
ここに名前を挙げて紹介した研究のほかにも、中枢神経再生の可能性を求めて研究を続けている世界各国の研究者の貢献に謝意を表明したい。
また、SCIENCE UPDATE誌のバックナンバーや、さらに詳細な情報、およびマイアミプロジェクトから刊行された研究論文のリストについては、下記のホームページを参照されたい。
www.miamiproject.miami.edu
<驚くべき結果>が定説に挑戦状
The Vancouver Sun紙 2002年5月3日付け
Tetzlaff博士およびKwon博士による3年間に及ぶ研究結果が、著明なアメリカ国立科学アカデミーが発行するThe Proceedings of the National Academy of Science の3月5日号に掲載された。
1年以上局所的に麻痺したラットを用い、脳由来の神経栄養因子であるプロテインをラットの脳に直接注入したところ、驚くべき結果が得られた。脳から脊髄へと信号を伝える細胞が損傷しても、神経細胞は「死ぬ」のではなく「冬眠」状態になることが判明したのである。この結果から、損傷後1,2ヶ月以上経過した神経細胞は修復不可能と思われていた、従来の考えを覆すことになりそうだ。
「損傷した神経細胞も、元通りの大きさに戻り、しかも全て生きているのを目にしたときは驚嘆したよ。」と博士はコメントしている。
今回の実験では、ホルモン注入は脳に直接行わなければならなかった。脊髄に注入しても高い効果は望めなかったからというのが、Tetzlaff博士の弁である。
ラットの脊髄損傷自体は回復しなかったものの、再生した神経細胞は脊髄内にある「橋」の上で成長したため、この再生した神経細胞が、再び脊髄に直接つながることを研究者たちは期待している。
「再生した神経細胞を、元のあるべきところに戻して固定する必要がある。」とTezlaff氏は述べる。
それが実現すれば、新たにつながった神経細胞が筋肉の動きも修復するのかどうか、酸性テストが行われる。
「今回の実験結果は、今後盛んに行われるだろう同種の実験の先陣を切ったことになる。ただ、これですぐに脊髄損傷患者が治療を受けられ、車椅子から解放される生活がやってくるというものではない」、と Tetzlaff氏は釘を刺す。「(それが)実現するには少なくとも、あと10年かかる。まだ治療レベルではない。」 しかし、「確かに今回の実験は、脊髄損傷の治療に向けて最初の一歩を踏み出したことは間違いない。」
Tezlaff博士はまた次のようにも指摘する。「今回の実験で用いた化学物質およびこれを脳に直接注入するという方法も、ヒトに応用するには実用的ではない。この方法は容易ではなく、また潜在的危険性もあり、体重減少といった副作用が起こる。」
一方、脊髄の研究キャンペーンを5月後半から、6月にかけてカナダ国内で実施するハンセン氏も、研究が治療レベルまでにこぎつけるには、まだまだ時間がかかることを心に留めている。しかし、「今や、科学の進歩は目覚しい。だから国民に向かって、『聞いてくれ、素晴らしい研究プランがあるんだ。今度は次のレベルに進むんだよ』って呼びかける時が来たのさ。」と語る。
15歳の時トラックと衝突し麻痺となった、リッチモンドに住むある患者はthe Man in Motion Foudationと、リック・ハンセン・インスティテュートを通じ、1億7,800万ドル以上の寄付金を集めた。集まった寄付金は研究も含め、脊髄損傷に関連する活動、意識改革および車椅子スポーツに向けられる。
「他人を助け、不可能と思われていたことを達成するのが今の自分の生きる目的となっている」とハンセン氏は言う。「かといって、いつかは、車椅子から解放されるというTetzlaff博士およびKwon博士の発見により、この生きる目的を失う、という訳じゃない。」
「私の目的は、自力で歩くことにあるのではなく、自力で歩ける機会そのものにあるんだよ。そりゃあ、車椅子から解放されるチャンスなら喜んで受け入れたいし、そんなこと考えただけでもゾクゾクするよ。」
一方、トロントウエスタン病院のKnembil神経科学センター所長を務めるMichael Fehlings博士は今回の実験には関わっていないが、Tetzlaff博士およびKwon博士が再生した神経細胞が、神経線維を再び作り出し始める割合を控えめに評価しようとしたことを指摘し、「今後すべきことは、異なったタイプの成長因子を用いても、再生能力を高められるかどうか見極めることである」と警鐘を鳴らした上で、今回の実験の成果を「かなり期待できるもの」と評価した。
これまで、神経線維の再生を促すあらゆる技術が動物実験で検証されたが、その成果が実際認められたのは急性期(損傷して数日後から2、3週間以内)の脊髄損傷のみであったことを考えると、今回の実験結果は脊髄損傷で、長期に及ぶ車椅子生活を余儀なくされている人にも希望を与えるだろう。
Krembilセンターはカナダでも最大の神経科学の治療機関かつ研究機関であり、脊髄損傷の治療や研究も精力的に行われている。
(翻訳:松野裕美)
損傷後も神経細胞は生き続ける可能性がある
NATIONAL POST ONLINE 紙(カナダ、バンクーバー)
カナダの研究班は脊髄の神経細胞が、損傷後少なくとも12ヶ月間、生き続けることができることを発見し、麻痺患者を救う治療に大きな進展が見られることになった。
「損傷後も神経がまだ生き続けているとは、とても興味深い。」と、トロント大学の神経学教授、Charls Tactor氏は語る。なお、Tactor氏は今回の研究メンバーではない。
カナダでは脊髄を損傷し、車椅子生活を送っている人が25,000人もおり、このニュースは彼らにとっても、とてもエキサイティングなニュースに違いない。
現在まで動作に欠かせない脳細胞は、事故に遭えばまもなく死ぬか機能不全に陥るというのが神経科学者たちの間では定説であった。しかし、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)の研究者たちがラットを用いある実験を行ったところ、損傷から1年経過後、傷ついた細胞に成長因子を注入すると、神経線維を再生する可能性があることを突き止めた。
「この発見で、長期間麻痺に苦しんでいる患者にも一筋の光が見えてきそうだし、この発見により全く新たな研究への道が開けた。」と代表調査員であるWolfram Tetzlaff博士は述べている。
これまで、ほとんどの研究は急性期の脊髄損傷――脊髄が損傷されてから間もない場合のことを指す――を対象に行われてきており、損傷後6ヶ月以上経過した人は慢性的な麻痺とみなされ、基本的に回復の望みが薄いと考えられ、麻痺を改善すると思われる将来有望な研究も、そのほとんどが慢性麻痺患者向けに行われたものではなかった。
「憂慮すべき点は、[患者の]会に属する95%が慢性患者であり、いかなる研究発表であれ、耳に入る度にその研究は彼らにも恩恵があるのかどうかと尋ねることにある。」とTetziaff博士は語る。
歩くといった動きを調整するシグナルは神経細胞を伝って脊髄に送られるが、この神経細胞の中には1メートルに達する細胞もあり、これら神経細胞は全て脳をはじまりとする。
Tetziaff博士およびそのメンバーらはこれら神経細胞の中に、赤核脊髄路の細胞として知られる細胞が、切断するとただ縮むだけで、死んだわけではないということを突き止めた。死ぬのではなく、ある種冬眠のような形で何年も行き続けるのだろうとTetziaff博士は推察する。
どんな種類の神経伝達シグナルが、赤核脊髄路の細胞を通して伝わるのかいまだ解明されていないが、歩くなど大きな動作をするのに重要な役割を果たしているに違いない、と研究者たちは考えている。
「もし、患者が車椅子から解放され、例えば100メートルでも歩けるようになったら、日常生活の質もかなり改善されるのではないだろうか。」とTetziaff博士はコメントする。
「ただし、それでピアノが弾けたりといった精緻な動作までできるとは考えにくい。」
脊髄が元通りに再生するのに、大きな妨げとなるのが損傷箇所にできる瘢痕であり、この瘢痕は神経の成長を妨げる。ブリティッシュコロンビア大学の研究者らは現在、脊髄に形成された空洞を超える橋を作って、神経接合の再構築が完全に行われるような方法を模索している。
「今回我々は、損傷から長期間経過した神経細胞も再生する可能性があることを発見した。次は損傷部分を超えて神経が成長するかどうかである」と、バンクーバー病院で脊椎専門の整形外科医であり、今回の研究メンバーでもあるBrain Kwon氏は語る。
無論、慢性的に麻痺した脊髄が再生させるにはあと10年はかかるだろうと、Tetzalaff博士は楽観的ではないが、それでもなお、今回のニュースは吉報ではないだろうか。
「10年前は、損傷から長期間経過した神経細胞も再生できるかもしれないとは、誰も夢にも思わなかったのだから・・・・」 バンクーバーにあるリック・ハンセン研究所の代表者を務める、麻痺患者のリック・ハンセン氏は、過去を振り返り、未来に夢を託す。
「初めて、治る可能性があるんだという
具体的な証拠を麻痺患者もいくつか得られるようになったのだ。」
研究結果は The Proceedings of the National Academy of Science に掲載。
( 翻訳 松野裕美)
■ 脊髄研究の進歩
―― 英国・国際脊髄研究基金の戦略 ――
International Spinal Research Trust,
Spinal Cord 〔2000〕38, pp449-472
M.S. Ramer et.al.
《抄録》
中枢神経系の再生の実現は、神経生物学におけるもっとも知的で実践的挑戦の一つであり、しかもなお、脊損患者がどのように回復の希望をもつのかの絶対的要件としてある。
1980年に創設された国際脊髄研究基金(ISRT)の使命は、脊髄研究への資金調達により、永続的なマヒに終止符を打つ展望を得ることにある。
このレビューは、近年の脊髄損傷メカニズムの解明へ向けた主要なステップのいくつかを要約し、それらの発見がISRTの目的に添ったものであることを示す。ここでは、以下のアプローチに関し論評する。
1) 急性期の神経細胞死や瘢痕形成のような損傷反応を防止すること。 2) 中枢神経系の環境条件を最小限に抑制し、損傷神経の活性を最大限に促進すること。 3) 軸索誘導システムの理解は、神経そのものの伸長(outgrowth)や機能的再結合に必要とされるであろうこと。 4) 残存する神経システムの機能を最大化すること。
本稿では、脊損動物モデルの典型的な基礎研究や、神経の成長や機能的復活を精密に捉える定量的手法も含め、脊髄の臨床研究によって得られた神経再生のためのインフラストラクチャーの必要条件となる応用技術についても述べる。
さらに我々は、研究者間のコミュニケーションの重要性を指摘する。研究者集団間で知識を共有する必要性は、神経の損傷と修復のメカニズムへの理解を進めるうえできわめて重要である。
同様に重要なことは、基礎と臨床の間のコミュニケーションであり、ISRTのめざすゴールにいたる上で欠かすことができない。適切な治療戦略の発展は、脊髄損傷患者に恩恵をもたらすものである。
《はじめに》
脊髄損傷の課題の理解
残念ながら脊髄損傷は不治の障害をもたらす。このことは、われわれが希望もなしにあるべきだ、ということではない。
過去数年間で、脊髄損傷の基礎研究は修復戦略の可能性と、根本的な生物学的課題との双方で長足の進歩を遂げた。
それらのいくつかは臨床応用が射程にはいってきた。それらが、脊髄損傷患者の治療の基礎研究に何のインパクトも与えなかったとは言えない。
国家的急性脊髄損傷研究(NASCIS)として、最初の実験室での調査に基づき、脊髄損傷の急性マヒが早期に2次損傷となることを予防するために抗炎症コルチコステロイド(副腎皮質ホルモン)のメチルブレドニゾロンが一般的に投与されるようになった。
しかしながらこの価値ある療法は、マヒ後の細胞のさらなる損傷を予防している間、損傷組織をなんら修復に導くものではなく、また機能回復を誘発するものではない。
多面的な問題に直面しているあいだに、ヒトの脊損医療はもっとも重大な2つの中心的テーマに頼ることとなった。
第一の課題は、中枢神経系において期待通りの(coaxing)軸索の成長である。この課題の最初の実例は実験室で記録されることになるだろう。
勇気付けられる(そしてたぶん驚くべき)ことには、わずか10年前には乗り越えるべきハードルと考えられたいたことが、いまや可能になろうとしていることである。神経の様々な成長促進、あるいは抗抑制的アプローチにより、少なくともラットにおいて、軸索はセンチメートル単位の成長がみられるようになったのである。
第二の課題は、(おそらくいくつかの基礎研究における発見の積み重ねにより曲面の大きな転換が今求められているが)、動物実験で得られた知見をヒトに臨床応用することである。
これらの基礎生物学的課題を解明すること、その知見をISRTの第一目標である臨床につなげることが必要である。
《ISRTの研究戦略》
ISRTの最初の研究戦略は1996年に刊行された。それは、首尾一貫した研究戦略を確立すべき理由を明らかにしたものである。脊髄研究で明確にされた領域は、究極の目的である損傷脊髄の修復及び利用可能な機能の復活のための、資金や助成の優先すべきものを示すものであった。……
しかしながら、過去数年にわたる脊髄の基礎生物学的理解の重要な前進により、ISRTは研究戦略を練り直し、基礎研究をヒトへの応用を目指したものを中心にすえるものとした。……
◆ 研究戦略
<これらはそれぞれ5〜10のステップから構成されている>
* 到達目標(Vertical Target)
1.有害な影響を与える初期のマヒ、炎症、瘢痕形成の最小限化。
2.軸索の再生に影響する栄養因子・成長因子の一体的開発。
3.軸索の適切な連結の確立及び再成長の促進の誘導。
4.不全マヒにおける残存する中枢神経軸索機能の最大化。
* 全般的事項(Horizonal Capability)
1.典型的な脊髄損傷動物モデルの開発。
2.中枢神経軸索の再成長及び修復機能の測定技法の開発。
3.脊損に及ぼす新たな問題への臨床的試みを指揮できる能力の確立。
4.学際的トレーニング、共同研究、臨床ネットワークの促進。
《結論》
このISRTの研究戦略はまず第一に、外傷性脊髄損傷の修復及び再生の分野での主要な発展を論評するためにまとめられた。
第二に、目標の構造化された枠組みは、脊損患者のための治療戦略の応用と発展にとって重要であるとISRTは信じる。
重層的に構成された研究戦略の関門となるものは、生物学的課題にある。……
1) 脊髄損傷の急性期後遺症
炎症や急激な組織の消失(clearance)は有害なのか、潜在的な成長・促進要因となるのか。
2) 栄養因子 vs. 抑制因子
損傷神経の成長活性の最大化と、傷害された環境下にある抑制因子の最小化のバランス。
3) 軸索の成長の誘導
軸索の直接的な伸長による適切な神経組織促進因子の再分化(?)と、損傷により物理的連結性が「ごちゃまぜ」(スクランブル)になったとしてもそれを復活させる切迫した(?Impending )シナプスの可塑性,との間での相反する作用の可能性。
4) 残存機能の最大化
残存する神経線維の有用性と、有害な痙性の活性化。
このように、究極的ゴールに至るには、「分離の影響」から真の統合へ、それゆえ複合体が必然的であり、その多面的影響を理解するという、思考上のメジャーシフトが必要である。
注記) この原論文はA4判23頁に及ぶものであり、その骨子のみを事務局で<試訳>したものである。
(最終ページ)
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