脊髄再生促進市民セミナー


s1.pdf
第一回脊髄再生促進市民セミナー資料集
PDF版のダウンロード
  551kb

 資料集(第1回)

 再生医学のめざましい進展の中で、現時点では脊髄神経と角膜の再生がもっとも有望と見られている。脊髄再生研究では、ヒトへの臨床応用が数年以内に始まると見られている現在、その現状と課題、そして当事者は何が出来るかを討論する。

*主催:NPO法人・日本せきずい基金  
*日時:5月27日(月) 午後6時30分〜午後9時
*場所:こどもの城 8F研修室 (渋谷区神宮前5-53-1   
*講師:岡野 栄之(慶応大学医学部教授)


 「脊髄再生研究の最前線」
:2001年末、サルの脊髄再生に 成功し大きな反響を呼んだ岡野先生から、脊髄再生の見通し を当事者に分かりやすく講演して頂きます。

S.イエスナー弁護士(Stwart Yesner)

 「再生研究を当事者はどう支援するか」
:イギリス の「国際脊髄基金」、及び「オーストラレーシアン脊髄基金」の創設者であるイエスナー弁護士の報告。再生研究支援のための基金(Foundation)の重要性、及びその役割として研究者にどのような形で資金を提供してきたか、その豊富な経験をお話頂き、私たちに何が出来るかを、共に考えます。


 <目次>

  (No.)
  1. 慶応大学・神経幹細胞で脊髄損傷回復  (東京:2001-12-10)

  2. 慶応大学・サルのせき髄、機能回復  (朝日:2001-12-11)

  3. アルツハイマーで喪失の神経細胞……(日経:2002-5-1)

  4. 脊髄機能回復 ラットで成功(読売2000-9-5)

  5. せき髄再生研究促進に重点支援を(公明:2002-03-20)

  6. 京都大学・ヒトES細胞作成承認(朝日:2002-03-28)

  7. 国産ES細胞承認(読売:2002-03-29)

  8. 再生医療、切り札始動(日経:2002-3-28)

  9. 未来変える? 再生医療(朝日:2002-04-19)

  10. 再生医療、指針作り急務(朝日:2002-04-24)

  11. 文部科学省・角膜など再生支援(毎日:2001-07-21)

  12. 札幌医大・神経幹細胞を培養(朝日:2001-08-08)

  13. 札幌医大・脊髄損傷、幹細胞移植で回復(読売:2001-10-29)

  14. 「骨のもと」から神経細胞(読売:2001-2-2)

  15. 夢へ「材料そろった」(毎日:2001-1)

  16. 頭部移植にも現実味 問われる人間の根源(毎日:2001)

  17. 骨・皮膚・神経 ピッカピカに再生(朝日:2001-1-1)

  18. 日本再生医療学会プログラム(抜粋、2002年4月)

  19. ICCPについて(pp. 13-16)

  20. <驚くべき結果>が定説に挑戦(The Vancouver Sun 紙 2002-5-3)

  21. 損傷後も神経細胞は生きき続ける可能性がある(NATIONAL POST ONLINE 紙 2002-5)

  22. 脊髄研究の進歩:国際脊髄研究基金の戦略(Spinal Cord 2000)



 講師略歴

■ 岡野 栄之(オカノヒデユキ)

 1959年生まれ。慶應義塾大学・医学科卒業。医学博士。筑波大学・基礎医学系教授、大阪大学医学部教授を経て、現在、慶応義塾大学教授(生理学)。日本再生医療学会理事、日本分子生物学会、日本生化学学会、日本発生生物学会会員

研究テーマ:ショウジョウバエ神経系の分子遺伝学的研究とその哺乳類神経系への応用。


 論文
“Inefficient transcription of the myelin basic protein gene possibly causes hypomyelination in myelin deficient deficient mutant mice.” J. of Neurochemistry, 48 (1987)

“The fifth exon of the proteolipid protein-coding genes is not utilized in the brain of jimpy mice.” Gene, 55 (1987)

“Myelin proteolipid of expression in normal and jimpy mutant mice.” J. of Molecular Biology, 199 (1988)

(『研究者研究課題総覧』1996より)


 ■ Stwert Yesner

1955年    ザンビア生まれ。
1974年    自動車事故により頚髄損傷。
1975−1980 Manchester Polytechnic BAの Law Degree。
1979−1985 International Spinal Trustを創設、Executive Director.
1989−2000 脊髄損傷等の受傷者のための法律活動を行なう。
1993−1996 Australasian Spinal Research Trustを創設、Executive Director.
1997年     アーストラリア勲章(the Order of Australia)受賞
2001−    コンサルタント活動


 * これまでの脊髄損傷関係の活動
a) International Spinal Trust、Australasian Spinal Research TrustのExecutive Director
b) 各種の基金設立活動。一般人、裕福な当事者、大企業、名士への募金活動。
c) メジャー・イベント
d) 脊髄研究をナショナルプロジェクトとするための各種の活動
e) 神経マヒ研究資金確保のための西オーストラリア州政府への活動




■ 慶応大学・神経幹細胞で脊髄損傷回復

(東京新聞:2001-12-10)

 神経幹細胞で脊髄損傷回復
 慶大グループ、世界初  胎児組織使い猿で確認

 ヒトの神経のもとになる「神経幹細胞」を胎児の脊髄(せきずい)から分離し、脊髄を損傷した猿に移植して運動機能を回復させることに、岡野栄之・慶応大医学部教授(生理学)らのグループが世界で初めて成功した。同教授が十日、明らかにした。


 慢性化前移植で効果
 神経幹細胞は、ヒトの脳や脊髄に含まれ、将来は神経細胞などに成長する未分化な細胞。脊髄損傷は、背骨の骨折などで背骨の中をとおる脊髄の神経が傷つき、手足などにまひが起きる。

 毎年新たに五千人の患者が出るといわれ、症状が慢性化すると機能回復は困難とされる。

 今回の実験は、損傷後の特定の時期の移植で効果がみられたという限定的なものだが、ヒトと同じ霊長類の猿での治療効果が確認できたことで、神経幹細胞によって脊髄損傷が治療できる可能性が出てきた。

 グループは、死亡した胎児の脊髄から独自の方法で神経幹細胞を選び出して培養。それを試験管内で大量に増殖させ、脊髄を損傷して両手の不自由になったマーモセットという小型の猿五匹(いずれも成獣)の脊髄に移植した。

 猿が棒につかまる力は、損傷のため正常時の一割以下までに低下していたが、移植の八週間後には正常時の半分近くまで回復した。移植した幹細胞が神経細胞に成長し、切れていた神経の回路が再びつながったと考えられるという。

 岡野教授らは、脊髄の損傷直後に幹細胞を植えても、急性の炎症のためうまく回復しないことに着目。炎症がおさまり、症状が慢性化する前の時期を見極めて移植し、効果を挙げた。

 岡野教授は十日午後、横浜市で開催中の日本分子生物学会で成果を発表。「今後は、損傷からもっと時間のたった慢性期に有効な治療法を検討したい」と話している。

 脊髄損傷 脳と体の各部分をつなぐ細長い神経組織である脊髄が、首や背骨の骨折などによって、損傷を受けること。症状は損傷の場所や程度により異なる。損傷の初期に薬物による治療が行われるが、体が動かせないなど重いまひが残るケースが多い。




■ 慶応大学・サルのせき髄、機能回復

(朝日:2001-12-11)   

ヒト胎児の神経幹細胞移植 
サルのせき髄、機能回復  慶応大実験

 せき髄が傷ついたサルに、死亡したヒト胎児の神経幹細胞を移植して運動機能を回復させることに、岡野栄之・慶応大教授(生理学)らが成功した。10日、横浜市で開かれた日本分子生物学会で発表した。ネズミ同士の実験はあったが、霊長類の実験の報告は初めてという。研究が進めば、せき髄損傷患者の治療に使える可能性も出てきた。

 死亡胎児の神経細胞は国立大阪病院(大阪市)で倫理委員会の承認を受けた後、両親に研究計画を説明、同意を得て提供された。さまざまな種類の神経細胞のもとになる神経幹細胞を、培養によって増やした。

 せき髄が傷ついて腕が動かなくなったサル、マーモセット5匹に、1匹あたり約100万個の神経幹細胞を移植した。

 約2カ月後、最も機能が回復したサルはほぼ元の状態に戻り、ほかのサルも、移植しなかった5匹と比べると、回復が進んでいた。

 「日本には約10万人のせき髄損傷の患者さんがいる。これまで神経は再生せず、治療はむずかしかったが、新たな治療法の可能性が示せた」と岡野教授は話している。

 死亡胎児の神経細胞を利用した治療として、パーキンソン病患者の脳への移植が欧米で行われているが、1人の患者に数人以上の胎児が使われてきた。神経幹細胞を分離した今回の方法では、1人の胎児の細胞から、多くの患者の治療が可能になると期待される。




■ アルツハイマーで喪失の神経細胞

(日経新聞:2002-5-1)

アルツハイマーで喪失の神経細胞 ES細胞から作製
慶応大教授らマウスで成功

 マウスの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使ってアルツハイマー病で失われる特定の神経細胞を作ることに、慶應義塾大学の岡野栄之教授と島崎琢也助手らが成功した。ES細胞からアルツハイマー病治療につながる成果が出たのは初めて。

 アルツハイマー病は神経の情報伝達を担う物質アセチルコリンを作る脳の特定部の神経細胞がなくなるのが特徴。岡野教授らはマウスES細胞を特殊な手法で培養、こうした神経のもとになる細胞を含む塊を作った。この塊を、アセチルコリンを作る神経細胞を壊して人工的にアルツハイマー病に近い状態にしたマウスの脳に移植してみた。

 移植した細胞塊は脳内でアセチルコリンを作る神経細胞に自然に変わり、迷路をたどってマウスの記憶力を試すテストでは、かなり成績が向上した。将来、ヒトのES細胞で同様の効果が確認できれば、有力な治療法の開発に役立つ可能性がある。

 アルツハイマー病治療ではアセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害する薬が投与されているが、病状の進行の抑制にとどまり、根本的な治療法はまだない。

成果は科学技術振興事業団の研究プロジェクトの一環。




■ 脊髄機能回復 ラットで成功

読売新聞(2000-9-5)

阪大チーム 幹細胞を移植

 脳や脊髄の細胞を作り出すもとになる「神経幹細胞」を移植することで、脊髄が損傷したラットの機能を回復させる実験に、大阪大学医学部の岡野栄之教授、小川祐人研究員らの研究チームが成功した。細胞を移植することで、体の機能を正常に戻すという治療に道を開く研究として注目を集めそうだ。四日から横浜市で開かれている日本神経科学大会で六日、発表される。

 研究チームは、ラットの胎児の脊髄から神経幹細胞を取り出し、培養。首の部分の脊髄に外傷を与え、運動が不自由になった十五匹のラットに移植した。五週間後に運動機能を調べたところ、箱の中に入れたエサを取り出すなど、器用な運動ができるまでに機能が回復したという。

 また、実際にラットの脊髄を調べたところ、あらかじめ神経幹細胞の遺伝子に付けた特定の目印が、移植したラットの脊髄の神経細胞(ニューロン)で確認でき、移植した神経幹細胞からニューロンが新たに作り出され、神経組織が回復していることが分かった。

 体外で目的の組織や臓器を作りだし、それを移植することで治療を目指す再生医療は、世界的な注目を集めており、小川研究員は「今後、さらに機能回復が図ることができるよう、研究を進めていきたい」と話している。




■ せき髄再生研究促進に重点支援を

(公明:2002-03-20)

せき髄再生 研究促進に重点支援を
◇ NPOと太田幹事長代行が文科省に要請◇
池坊政務官 社会復帰へ“希望の光”広げる

 公明党の太田昭宏幹事長代行は十九日午前、脊髄損傷者の社会復帰をめざすNPO(特定非営利活動法人)「日本せきずい基金」の大濱眞理事長らとともに文部科学省を訪れ、池坊保子大臣政務官(公明党)に脊髄再生研究の促進に関する要望書を手渡した。

 大濱理事長らは、昨年十二月に岡野栄之・慶応義塾大学教授(生理学)らが、脊髄が傷ついたサルに死亡したヒト胎児の神経幹細胞を移植して運動機能を回復させることに成功したことを紹介。「霊長類での脊髄再生の成功例は日本だけ。日本には十万人の脊髄損傷患者がいるが、医学の進歩で治療に使える可能性も出てきた」と述べ、基礎と臨床の連携した脊髄再生研究センターの設置と同研究へのさらなる重点支援を要請した。これに対し、池坊政務官は「角膜も含め、脊髄の再生医療への技術開発には力を注いでいる」と述べた上で、「治療法として確立すれば、患者の社会復帰の道も開ける。岡野教授の研究で“希望の光”が見えてきたところであり、しっかり支援したい」と強調。技術開発支援などの予算確保にも努力する考えを示した。




■ 京都大学・ヒトES細胞作成承認

(朝日:2002-03-28)

ヒトES細胞作製を承認 
京大計画を文科省 臓器再生へ研究開始

 文部科学省の専門委員会は27日、ヒトの受精卵から胚性(はいせい)幹細胞(ES細胞)をつくるという、京都大・再生医科学研究所の中辻憲夫教授が申請した計画を条件付きで承認した。ヒトES細胞の研究の承認は初めて。(3面に「時時刻刻」)

 この細胞は「万能細胞」と呼ばれ、うまく育てれば人間の心臓や脳の細胞にもなる。移植医療を変えると期待される一方で、受精卵を壊すことには生命倫理などの問題も指摘される。

 計画によると、ES細胞は、受精卵を数日育てたのち内部の組織を取り出し特殊な条件で培養してつくる。早ければ来春には作製される見込み。研究者に無償で配布され、様々な臓器の細胞に育てる研究に用いられる。受精卵は、不妊治療でつくられ冷凍保存されている中から使われなくなったものを提供してもらう。提供者となる夫婦には書面で同意を得る。

 専門委は、受精卵提供の手続きや計画の内容が妥当と判断した。

 提供するのは、京都大付属病院と豊橋市民病院(愛知県)の予定。

 専門委は、豊橋市民病院の倫理委員会で中辻教授が計画を説明することを条件にした。市民病院の倫理委の論議不足が指摘された。京大と別の大学病院も提供する予定だったが、学内倫理委が未承認なので削除された。




■ 国産ES細胞承認

(読売:2002-03-29)

国産ES細胞承認 
臓器や組織の再生実現に期待 
研究者には一層の倫理的責任

 様々な組織になる人間の胚性幹(ES)細胞を作る国内初の研究が国に承認された。科学部、行成、靖司。

 ES細胞は、受精後五〜七日立った受精卵の一部を取り出し、培養して作る。多様な臓器に変化する力があり、将来は、病気でだめになった臓器や、老化で機能が悪くなった組織の再生が実現できると期待される。世界中の研究者が先陣争いを繰り広げるホットな先端医学だ。

 「いよいよES研究が始まるわけで、責任を感じている。」京都大再生医科学研究所の中辻憲夫教授は、国の審査をパスした二十七日の会見で、緊張した面持ちでこう語った。今回の研究は我が国のES研究の第一陣で、今後も次々と、ES細胞から血管、心筋といった組織を作る研究が京大、信州大などで始まる見込みだ。

 これまでわかっているだけでも、米国やイスラエルなどの研究グループによって「脳神経細胞」「血管」「血液細胞」「心筋」「すい臓の一部細胞」の五種類の細胞が、人間のES細胞から作製されている。

 「二、三年後には実用される」と期待されるのが、脳神経細胞のパーキンソン病への応用。これは神経伝達物質の不足から運動障害が起きる病気だが、この物質を作る細胞の移植で症状が改善できる。白血球などの血液細胞は、白血病の治療などに役立つ。すい臓の細胞はインスリンを出すもので、糖尿病患者に朗報となる成果だ。

 夢のような医療だが、研究を進める上では、医学的な安全性、確実性に加え、倫理的な責任が研究者らに課せられている。

 ES細胞が、生命に成りうる受精卵を壊してつくられるからで、各国の研究推進への対応もまちまちだ。米国では昨年八月、すでに作られたES細胞に限り公的資金の拠出を認めた。英国では幅広く承認。ドイツは作製を禁止し、輸入は容認した。

 我が国は昨年九月、研究を解禁。ただし指針によって、研究機関と国による研究内容の二重チェック、成果の公表などが義務づけられた。世界中で研究競争が加熱する中、研究の遅れを懸念する声も強かっただけに、京大が「国産」のES細胞を作ることの意義は大きい。

 信州大が心筋などを作る研究は、米国ウィスコンシン大から提供されるES細胞が使われる予定だが、この研究の成果を特許化した場合、同大などに無償で利用させることを認めるといった条件が付いている。一方京大が作るES細胞は研究機関に無償か実費で配られ、何より特許などの権利関係の制約を受けずに、自由に研究を続けられる利点がある。京都大チームでは、提供者が現れれば、六月ごろ研究に着手。来月初めにも研究機関への提供を始めたいという。研究の進展を期待したい。

 だが文部科学省専門委員会の今回の審査では、受精卵の提供病院の審議が不十分だった点が問題となった。提供病院の一つ(都内の大学病院)が、指針の求める「倫理委員会の承認」を経ていなかったことが判明。提供先から除外された。




■ 再生医療、切り札始動

(日経:2002-03-28)

再生医療 切り札始動
ヒト万能細胞 京大作製へ 文科省承認

 文部科学省の専門委員会は二十七日、京都大学が申請していた人間の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の作製研究を承認した。様々な人体組織に成長するES細胞は万能細胞とも呼ばれ、病気やけがで傷ついた組織を修復する再生医療の有力手段。世界的に競争が激化しているヒトES細胞の研究に日本も参入する。

 科学技術・学術審議会ES細胞研究専門委員会(主査・豊島久真男住友病院長)が承認したのは京都大学再生医科学研究所の中辻憲夫教授らのグループ。同グループは京大病院や豊橋市民病院から不妊治療の余剰受精卵の提供を受け、六月からES細胞の作製に着手する。豊橋市民病院については同病院の倫理委員会のES細胞研究への理解が不十分と指摘、京大に再度説明させることを承認の条件とした。京大は来年初めをメドに国内の研究機関にES細胞を無償配布する。

 同日の会合では京大の別のグループと信州大学医学部が申請している、輸入ES細胞を使った研究をあわせて審査。ES細胞の輸入は了承したが、再生研究の是非については次回以降に結論を出すことにした。


【主な国の動向】

(国) (状況)
英国 治療目的の作製を認可。ヒトクローン胚からの作製も可能
フランス 作製禁止
ドイツ 作製禁止。輸入は認可
米国 新規作成の研究は認めないが、既存の細胞による利用研究には公的助成を認可
オーストラリア 作製と利用を認可
イスラエル 作製と利用を認可
スゥェーデン 作製と利用を認可
インド 作製と利用を認可
シンガポール ES・セル・インターナショナル社が供給開始



 受精卵から様々な組織に/臓器移植などに活用

* ES細胞とは
 受精卵が分裂を繰り返しある程度の数の細胞になると、将来体になる細胞の塊ができる。この中にどんな組織にも成長できる細胞が少量含まれる。

 これが胚性幹細胞(ES細胞、Embryomic Stem Cell)。幹細胞は「臓器や組織のもとになる細胞」という意味で、受精卵(胚)から得られるため、この名がある。

 ES細胞はねずみなどいくつかの動物で早くから存在が知られていたが、一九九〇代に入って国立シンガポール大学や米ウィスコンシン大学などの研究者が人間の受精卵からES細胞を取り出すのに成功。再生医療の材料としてがぜん注目を集めた。

 ES細胞とよく似たものとして、大人の体内から取れる「体性幹細胞」がある。骨髄細胞などがその代表。ES細胞のようにあらゆる組織に成長できるかどうかは確認されていない。皮膚や軟骨の再生など限られた用途でES細胞より一足先に医療への応用が始まっている。


* 何ができる
 ES細胞は化学物質を与えたり、普通の細胞と一緒に培養したりすると、こうした刺激に応じて特定の組織や臓器に成長し始める。

 動物実験を含めると、これまでに神経細胞、心臓の筋肉、血管、すい臓細胞、骨、皮膚などをES細胞から作り出すことに成功している。

 期待される治療法として、脳の神経細胞の異常によって起きるパーキンソン病の患者にES細胞から作り出した神経細胞を移植するなどが挙げられる。心臓病の人に心筋細胞を移植したり、糖尿病患者にインシュリンを分泌するすい臓の細胞を移植したりするといった治療も想定される。

 当面は細胞のような小さい組織の再生が中心となるが、理論的には肝臓のような立体的な臓器を作り出すのも可能。実現すれば、移植用臓器の不足が解決するほか、老化して機能が衰えた臓器を「人体パーツ」のような感覚で取り換えて若返りをはかることもできるようになる。


* 実用化の見通し 
 人間のES細胞は米国、シンガポール、イスラエル、スウェーデンなどで作製しており、各国の研究機関やバイオ企業が、ES細胞から思い通りの組織を作り出すための研究を進めている。

 日本でES細胞を材料とした再生医療の実用化時期について中辻教授は「神経細胞の移植などは五年以内に始まるだろう」との見通しを示した。肝臓など立体的な臓器ができるのは十年以上先になるとの見方が強い。



 避けられぬ倫理問題   医療応用には課題

 研究にゴーサインが出たとはいえ、ES細胞を利用して作った臓器の移植など現実の医療に応用するまでの道のりはなお遠い。再生医療で世界に先行しようとするなら、受精卵や胚の利用に伴う倫理問題を避けて通れない。

 ES細胞を作成するには生命の初期段階である胚を壊して必要な細胞だけ取り出す必要がある。また患者と同じ遺伝情報を持ち拒絶反応を起こさない臓器にするにはクローン技術の併用が欠かせない。

 今回の審議のよりどころである「ヒトES細胞研究指針」は対象を研究だけに限定。社会的な論議を呼ぶ医療応用をどうすすめるのかについては論議を先送りしている。現状では、仮に研究室で再生臓器が完成しても臨床応用への道は閉ざされている。

 ES細胞への対応は国によって異なる。フランスやドイツはヒト受精卵の扱いを規制する法律があり、不妊治療以外の目的での利用を禁止。ES細胞の作製・研究も許可していない。米国もブッシュ政権になってから規制を強化。

 既存のES細胞を用いた研究は認めるものの、新たに作製する研究には政府助成をしない方針だ。議会にはヒトクローン胚の作製禁止法案が提案されすでに下院を通過している。




■ 未来変える? 再生医療

(朝日:2002-04-19)

受精卵・胎盤も利用  実用化に倫理面課題

 将来の医療を大きく変えると期待される再生医療。18日、京都市内で日本再生医療学会の初めての総会が2日間の日程で始まり、その「芽」がいくつも発表された。

 学会発表に産業界注目 

 再生医療では、軟骨や皮膚などはすでに臨床研究が進んでいる。

 ヒトの骨髄細胞に含まれる幹細胞には柔軟な性質をもつものが含まれ、骨や軟骨、筋肉などの細胞になる。

 この性質を利用して国立大阪南病院はひざの関節の治療に、関西医大や山口大では血管再生をめざして心臓病の治療に用いている。

 皮膚や粘膜の細胞を培養した培養皮膚を商品化する計画も進む。欧米ではすでに実用化しているが、国内でも臨床試験が始まろうとしている。


 移植治療一変

 広く臨床に使われ始めると心臓病やけが、やけどの治療が一変する。

 学会では主に動物実験とはいえ、神経難病や糖尿病など多くの病気の治療に道を開くと期待される研究が発表された。

 慶応大の岡野栄之教授と島崎琢也助手らはマウス実験で、記憶障害を改善させた。

 使ったのは胚(はい)性幹細胞(ES細胞)という細胞。受精卵から作製するもので、万能細胞とも呼ばれ、臓器や組織に変身できるとみられている。これから神経細胞をつくり、記憶障害マウスの脳に移植した結果、症状が和らいだという。

 ほかにも、膵臓(すいぞう)や肝臓、目、腸など各種の細胞をES細胞からつくったという発表が続く。

 さらに、出産後に医療廃棄物として捨てられる胎盤や羊膜を「材料」として使う試みも目立つ。

 国立精神・神経センター神経研究所の桜川宣男・前部長らは、胎児を包んでいる羊膜の細胞の中から神経幹細胞を取り出すことに成功した。パーキンソン病などの治療につながる成果だ。

 東京大・医科学研究所の高橋恒夫教授らは、胎盤の中に幹細胞とみられる細胞を発見。これを培養して神経細胞をつくったと19日に発表する。

 信州大の二階堂敏雄助教授らは羊膜の表面の細胞を糖尿病マウスに移植したら血糖値が下がったという。この細胞を培養してインスリンを分泌させることにも成功した。

 難病に苦しむ患者たちの期待も大きい。全国脊髄(せきずい)損傷者連合会(本部・東京都)の妻屋明会長(60)は「脊髄損傷の治療にも光明が見えてきた。受精卵を使うという倫理的な問題を乗り越えてもらいたい」と話す。

 内閣府によると、この分野への国の研究予算は昨年度だけでも約100億円。京都大・再生医科学研究所など研究拠点も誕生した。


 商機狙う企業

 産業界も注目する。米国ではベンチャー企業の活動が際立つ。特許もからみ、技術を求めて積極的に買収に動く企業もある。国内でもベンチャー企業が育つ兆しがある。

 先月半ば、野村証券などが開いた催しには、延べ2千人が集まった。同社の安東俊夫専務は「バイオビジネスの市場規模は現在1兆円。10〜15年後には最大で25倍に膨らむといった見方もある」。

 ただ、学会で発表された各種の細胞が本物と同じように働くのかは未知数だ。再生医療の「材料」は死体や胎児からも採取する可能性がある。

 発表の合間に「社会的に議論してコンセンサスを得る必要がある」といった議論もなされた。




■ 再生医療、指針作り急務

(朝日:2002-04-24)

ベンチャー参入で臨床試験目前の分野も

 傷んだ臓器や組織をよみがえらせる未来の治療として期待される再生医療。ベンチャー企業が参入し、臨床試験目前の分野がある一方、細胞が変化する仕組みなど未解明の部分も多い。基礎的な研究をしっかり進めるとともに、国民が安心して受けられる医療になるよう、安全、倫理面での指針作りと開かれた議論が求められる。(科学医療部・大岩ゆり、瀬川茂子)


 万能細胞にハードル

 再生医療では、病気などで傷んだ細胞や組織の代わりを体外で作って患者に移植したり、再生を促す物質を患部
に注射したりして治す。


 米国では承認

 皮膚や骨、軟骨、歯ぐきの骨などは、「種」となる細胞を患部に注射したり、培養して患者に移植したりする。再生医療としては第1期=図=に当たり、国内外のベンチャー企業が取り組む。米国では4社の製品が食品医薬品局(FDA)の承認を受け、日本では臨床試験目前の状態だ。

 第2期以降は、多様な細胞になる能力を持つ胚性幹(ES)細胞などを利用して、必要な細胞や組織を作る。まだ動物実験の段階で、実用化までにはハードルが多い。

 目的の組織をいかに効率的に作るか。また、役割不明の細胞が含まれたまま移植すると、がん化の心配がある。目的の細胞だけを取り出す技術の開発も必要だ。


 臓器はまだ先

 パーキンソン病では、治療に必要なドーパミンを出す細胞がすでに、サルES細胞から効率よく作られている。しかし、臨床試験までに最低3年はかかるという。

 「サルに細胞を移植して効果や副作用などを見るには、1回の実験で1年以上の観察が必要」と、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹グループ長(京都大教授)はいう。

 原理的にはあらゆる細胞になれることから「万能細胞」とも呼ばれるES細胞だが、実際に万能性を発揮させるのは簡単ではない。受精卵が分割を始めた胚から作るが、胎内と培養皿では環境が大きく異なるからだ。

 胎内の発生段階で初期にできる神経細胞や心筋、血液、血管などは人工的に作りやすい。糖尿病の治療に使うインスリンを出す膵臓(すいぞう)の細胞や、肝臓の細胞は、あとからできるため、難しい。

 網膜のように多彩な細胞が何層も組み合わさった、複雑な構造をした組織にするのは容易でない。ましてや一つの臓器を丸ごと体外で作るのは、ずっと先の話だ。

 また、ES細胞は受精卵を壊して作るため、倫理的な問題もある。ふつうは他人の受精卵から作るので、免疫的な拒絶反応への対策も必要だ。

 この点で注目されているのが、骨髄など大人の体内にある体性幹細胞だ。筋肉や骨などさまざまな種類の細胞に変身できると報告が続き、関西医大など約20施設で臨床試験が始まった。

 ところが今年に入り、体性幹細胞の能力を疑問視する論文が立て続けに発表された。寺田直弘・米フロリダ大準教授らは「筋肉や軟骨に変化したという報告は、ほかの種類の細胞と融合しただけかもしれない」とした。「幹細胞の科学がまだ未熟だということを示した」と寺田さんは話す。


 解禁求める声

 こうした中、現実を後追いしているのが指針作り。厚生労働省は1月から、体性幹細胞を使った臨床研究について指針の検討を始めた。患者の人権保護など倫理面と、安全面に配慮した指針を来年3月をめどに作る。

 この指針の対象は大学などでの研究。企業が製造、販売する際は薬事法で規制される。再生医療も視野に入れ、従来より厳しい薬事法改正案が今国会に提出された。

 一方、昨秋できたES細胞の使用指針は基礎研究を認め、臨床応用を禁じているが、いずれ見直しが必要になりそうだ。

 体細胞の核を卵子に移植して作る「人クローン胚」の取り扱いも課題だ。現在、国の指針では作製が禁止されているが、19日まで京都市で開かれた日本再生医療学会では、「解禁」を求める声が相次いだ。患者のクローン胚からES細胞を作れば、拒絶反応のない細胞や組織を作ることができるからだ。高久史麿・自治医大学長は講演で「ES細胞を使う再生医療には、治療用のクローン胚がなければ意味がない」と主張した。

 人のES細胞ができて4年。研究のスピードと広がりを考えると、整合性の取れた規制作りに早急に取り組むとともに、最新の研究成果を機敏に反映できる枠組み作りも求められる。




NEXT  ページ2 (全3ページ)

1