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運動機能回復のための
集中的トレーニングの効果


(Effect of intensive training on motor recovery)
事務局試訳
 
ワイズ・ヤング、M.D.(米国ラトガーズ大学、2002)
( http;//carecure.Rutgers.edu/spinewireより)


【要約】

 集中的な訓練やエキササイズは、慢性脊髄損傷者の運動の再生や運動機能の回復をも向上させることができるであろう。これらの訓練の効果は運動機能の「学習された不使用」(learned non-use)*のメカニズムの機序を逆転することによるものだろう。神経回路の遮断は、理論的にみれば運動システムの不使用の結果である。最近の研究データからは、受傷により脊椎の影響力が不在であるにも関わらず、脊髄が学習する能力を有していることを示している。

 トレッドミルによる「免荷式歩行訓練」**は、慢性脊髄損傷者の地上での歩行動作の驚くべき回復をもたらす。研究データは、集中的な運動療法の最大限の利用が、とりわけ慢性脊髄損傷者の免荷式トレッドミル・トレーニングにおいて効果的であることの強力な論拠を明らかにする。

訳注* 「学習された不使用」:受傷により脊髄が運動神経を使用しないという学習を行なったことを指す。このため末梢神経を刺激することにより、逆に脊髄に歩行を再学習させることが機能回復に効果的であると考えられる。

訳注** 「免荷式歩行訓練」:トレッドミル上での訓練の際、リフトで吊り上げることによって患者の体重による負担を軽減・解消し、効果的な訓練を行なう技法。


「学習された不使用」

 最近の研究は、脊髄損傷により対マヒになった人々が集中的トレーニングやエキササイズにより、運動機能の回復に有益な効果をあげていることを報告している。

 1993年にTaubらは、脊髄損傷や中枢神経系障害による慢性対マヒ者の機能回復のための「強制誘発(constant-induce: CI)運動療法」について述べている。良肢を強制的に運動させることで対マヒの患肢を無理に使用することで「学習された不使用」の機序を逆転させることができる。これはタウブら(1994)が提案したもので、行き過ぎた運動機能の不全は、中枢神経系の損傷後に生じると説明される。

 1997年、Liepertらは強制誘発運動療法は運動機能の回復を示すだけではなく、手の運動皮質の増大はヒトの脳の大規模な神経学的可塑性を暗示するものだと報告している。

 ドイツではKunkelら(1999)が、1日6時間、14日間の強制誘発運動療法により5人の慢性患者の腕の機能を十分に回復させた例を示している。Miltnerら(1999)は、米国の慢性患者15人に実施し同様の結果を得た。Taubら(1999)は、回復に共通する治療因子として、マヒした手足の集中反復使用による誘発をあげ、手足の使用による運動皮質の大量の再組織化を指摘している。

 強制誘発運動療法の有益な効果を含めた多くの事実があるにも関わらず、患者とセラピストはこの療法に懐疑的である。Pageら(2002)は、米国北西部の208人の患者、及び85人のOT・PTに強制誘発運動療法について意識調査した。大多数の患者(68%)は、このような療法やその実施受けジュールに関心がない。セラピストは患者が支持するかどうかと安全性に関心を寄せ、これを行なう医療資源が施設にないことに思い巡らしている。ある著者は、この療法の有益な効果は目新しいものではなく、単にエキササイズの厳しさと運動機能回復の持続性とのよく知られた相関性を反映しているに過ぎないと考えている。

 確かに筋電図を用いた神経筋刺激、運動イメージ療法、音楽療法を含む運動機能の促進にはほかにも多くの手法が行なわれている。同様に、バイオフィードバック療法は長い間機能回復に用いられ、それは太極拳のようなシステマティックな運動である。身体の様々な部位のシステマティックな運動は同様の有益な効果がある。事実、Kloseら(1990)は、運動療法、神経筋刺激、筋電図を用いたバイオフィードバック療法による機能回復を比較し、これら3つの手法には有意差がないことを示した。すべての研究は、運動の活性化が運動機能の回復と相関することを示している。多くの方法が、毎日、数ヶ月にわたってトレーニングすることで、運動能力を引き出すことに利用されている。


トレッドミル(ラウフバンド)トレーニング

 おそらく、「学習された不使用」の逆転のもっともドラマチックな事実は、脊髄損傷者の訓練結果である。WerningとMullerは1992年、何人かの脊髄損傷者に対する免荷式トレッドミル(=ラウフバンド)による歩行訓練の結果を報告している。受傷後5ヶ月から20ヶ月の不全マヒ者に週5日、毎日30分〜60分の訓練を1ヵ月半から7ヶ月実施した。この訓練では、支えなしに平面を100〜200m歩行する能力を含め、有意な歩行能力の回復を果たした。

 このうち5人は、片足の運動機能・感覚機能を完全に失っていた。訓練の終了により体重の免荷は40%から0%に減少されたが、支持なし歩行では最初の第1週に0〜104mであったものが、訓練の最後の週には200〜410mと有意に増加した。歩行速度は同様に、毎分0〜10mが13〜23m/分へとなった。

 Werningら(1995)らの次の実験では、89人の不全マヒ者の歩行訓練が行なわれ、従来の療法を受けた62人の患者と比較された。訓練プログラムはトレッドミルによる免荷式立位歩行訓練でであり、脚の動きはセラピストが援助した。

 3〜20週の訓練を受けた44人のうち、33人は車イス依存(支えなしに立位や歩行ができない)で、6人のみが階段を上ることができた。訓練開始時には歩行ができない33人のうち25人(76%)は自立歩行の能力を獲得し、7人は運動能力を改善したが支えが必要であり、1人は改善できなかった。44人のうち6人(14%)だけが階段を上ることができたのだが、さらに44人のうち34人(77%)が階段を上れることができた。

 Werningら(1998)はこれら35人の患者を半年〜6年半追跡し、歩行能力は33人が維持し3人が改善、1人だけ減少したことを見出した。25人のうち20人は訓練により自立歩行が可能になるまで車イス依存であった。興味深いことに、これら多くの人々はわずかに随意筋活性の改善のみを示し、多くの歩行の改善は反射作用の改善、運動に協応した自律筋、筋群の活用や好ましい補完作用によるものであることを示唆している。この実験は一層の集中的訓練なしに訓練効果を維持できることを示唆している。歩行能力を維持した結果については筋電図の記録によって立証されている。このように支持運動訓練は、受傷後6年半経過しても大多数の人々の歩行機能を改善させることができることを示唆している。


日常的歩行訓練の効果

 他の欧州の機関でもトレッドミルによる免荷式歩行訓練を取り入れ同様の結果を得て
いる。チューリッヒのバルガリスト・リハビリセンターのDietzら(1998a)は、脊髄損傷者の臨床的・電気生理学的変化を調査し、完全マヒ者の脊髄の運動活性が自発的な改善をみせ、約5週間で最高域の平衡状態に達したことを示した。毎日の歩行訓練は、免荷した両下肢の能力を12週を超えるまで改善させた。しかしながらこれは、両下肢の随意運動のどのような改善とも相関するものではなかった(1998b)。

 Wirzら(2001)は、訓練後3年以上経過した患者を追跡調査し、完全マヒ者が歩行訓練せずには維持できなかったのに対して、不全マヒ者は下肢の伸筋活性レベルを訓練後も維持し、一般に運動活動が出来たことを示した。

 Dietzら(2001)は、受傷後の運動機能の改善に貢献する2つの適応形態を挙げている。それは、トレッドミル訓練による筋緊張と、脊髄の歩行中枢の活性化である。彼は、抗痙攣薬の服用が歩行訓練と関係するであろうことを指摘している(2000)。運動訓練は筋活性を十分に適切なレベルに向上させ、不適切な痙性を十分に減少させる。

 免荷式トレーニングは、当然ながら労力を集中させなければならないため、いくつかのグループでは訓練中に脚を自動的に動かす機器のデザインを試みている(Colomboら、2001、本号に掲載)。

 米国の多くの機関で予備的研究を実施しており、これは欧州の研究を確証しようとするように見える。

 ガードナー(Gardner,1998)らは、C5患者に対して6週間のトレッドミル免荷式訓練を実施し、歩行、速度、エネルギー消費の改善を示した。

 フロリダ大学ゲインスビル校のBarmanとHarkema(2000)は、4人の慢性不全マヒの被験者を評価し、ステッピングと1人介助による平面の移動において有意な改善を示した。

 同校のTrimbleら(2001)は、この1回の訓練における歩行速度と「H-リフレックス」(上斜位反射?)調整の影響を評定した。ASIAスケールD(下肢機能あり)の4人の被験者では、1回の訓練セッションで平面の歩行速度を25%向上させ、その間のH-リフレックスを減少させた。このことは、不全マヒ者は1回のセッションでも即座に歩行速度を改善し、急性の神経生理学的変化をもたらしたことを示唆している。

 Protasら(2001)は、3人の慢性胸髄不全マヒの被験者(ASIA-DかC)に対して実施した。トレーニング重量の40%を免荷し、時速160m、1日1時間、週5日の訓練を3ヶ月、20分のセッションとしてスタートした。3人とも歩行速度は毎秒0.118mから0.318mへと向上し、持続力も5分で20.3mから4分で63.5mとなった。付け加えれば歩行による酸素消費量も1.96ml/kgから1.33ml/kgと34%減少した。

 マイアミプロジェクトにおいてField-Fote(2001)はASIA-Cレベルで受傷後1年以上の19人の被験者に対して免荷式訓練と機能的電気刺激(FES)を結合させた実験を行なった。被験者は1日90分、週3日、3ヶ月の訓練を行なった。筋の電気刺激は片脚に行なわれた。訓練により平面での歩行速度を毎秒0.12メートルから0.21メートルへ向上させ、トレッドミルの速度を毎秒0.23mから0.49mへと速め、トレッドミルによる歩行距離を93mから243mへと向上させた。全ての被験者は、平面やトレッドミルで、また下肢の強度において有意な改善を示した。

 欧州のいくつかの機関では、受傷後すぐにトレッドミル訓練をはじめ、運動機能の「学習された不使用」を予防する研究を開始している。

 ハイデルベルグのAbelら(2002)の最近の報告では、受傷後すぐに訓練した7人の患者の結果を述べている。彼らは、患者からセラピストの支えなしに十分な安定した歩行ができ、歩行機器への十分な持久力が出来るようになるとすぐに歩行分析を行なった。トレッドミル訓練は、25%の免荷(0〜35kg)、最高歩行速度0.28m/秒(0.15〜0.7m/秒)、最高歩行持続時間4.7分(3〜7分)で開始された。歩行速度は毎秒0.67m(0.23〜1.1m)に増加し、最高歩行持続時間は11分(8〜15分)に増加した。患者は歩行により整形外科的問題を持つことなく、有意の合併症を起こすことはなかった。


完全マヒ者の歩行訓練の効果

 ヒトの運動機能回復に関する大多数の研究は不全マヒに焦点を据えてきたが、完全損傷の動物とヒトを対象に歩行の改善を図る運動訓練の研究も数多い。

 脊髄は非特異的歩行パターンや薬理学的刺激に関与することができる。
 Rossignolら(1996)は、ヒトの脊髄の完全横断損傷と同レベルのネコや霊長類などの運動能力について報告している。それによれば、トレッドミルにおいて横断損傷の実験動物はよく協応した後肢の歩行運動をみせた。その運動は歩行の速度と揺れの双方に適応することができた。

 クロニジン(α‐アドレナリン受容体遮断薬、降圧剤)などの数種の薬剤が、横断損傷のネコの運動能力の回復を促進させた、という報告がある。脊損ラットへの胎仔細胞の移植もまた、運動能力の回復を促進させた。薬理学、運動訓練、及び機能的電気刺激の組み合わせは、運動機能の回復をもたらす。

 Edgartonら(1975,1982)は研究の初期段階において、横断損傷の動物が運動中の筋群のネットワークと同様に、トレッドミル訓練で筋電図と後肢筋群の組織学的出現の双方が改善されたことを示している。これらの筋群は、良好な筋間の活動パターンを示すだけでなく、その強度も増した。成体の横断損傷ネコは、免荷運動を学習することができる。予想とは正反対に、若年で受傷した動物は成体の損傷動物と同様に、短潜時筋活性の回復を見せることがなかった。

 トレッドミル運動の間、完全マヒ・不全マヒを問わず、歩行による感覚情報の入力はステップ・サイクルに同調した下肢の筋活性を誘発する。脊椎の影響力が不在であるにもかかわらず、脊髄は著しい可塑性を持ち、出来事を学習する能力を有している。一例を挙げれば、Harkemaら(1997)らは動物実験が示唆するのと同様に、ヒトの腰仙髄が複合した方法であるステッピング中の負荷について判断していることを示した。

 De Leonら(1998)は、横断損傷ネコの訓練効果と自然回復を比較した。彼らによれば、ステップ訓練は有意の運動機能の促進ないし再形成を見せ、運動中のしかるべき神経を増進させる確率を高めること。そして訓練は、他の付加的伝導路の発生の促進よりも、残存する感覚運動伝導路の機能を促進・再形成することを示唆している。De Leon(1999)は、ネコにおいては訓練効果が持続したことを示した。


脳脊髄の再組織化の推進

 運動訓練の効果は、まさにエキササイズが仲立ちすること以上に現れる。エキササイズと筋肉動作の改善を単独で行なうことは、強制誘発療法及び免荷運動訓練のいくつかの側面から見て好ましくない。いくつかの所見は、運動訓練が脊髄及び脳の再組織化を推進させることを強く支持している。

 第1に、運動神経の訓練効果は、トレーニングのパラメーターとして明確に示される。例えば、免荷運動は受傷後の運動能力の回復を促進するが、もっとも確実なことはトレ ッドミルをしばしば行なうことである。Sullivanら(,2002)は、24人の片マヒ者で実験を行なった。すべての被験者の歩行速度は正常値の50%以下であった。彼らはトレッドミル速度が「遅い」「速い」「不規則」のグループに分けられ、1セッション20分の歩行訓練を12セッション、4週間受けた。

 すべての被験者は平面の歩行速度で有意な改善を示し、訓練後3ヶ月にわたってその能力を維持した。しかしながら、顕著な改善を見せたのはトレッドミル速度を速くしたものだった。すべての被験者の訓練期間は同一であったことから、より速いトレッドミル速度はより効果的であることを示唆し、訓練効果は筋肉の変化にではなく仲介する神経にあることを見て取ることができる。

 第2に、訓練効果はある機能から他の機能へと一般化されるのではない。例えば、立位やステッピングの訓練の効果は、相互に一般化されるものではない。

 De Leon(1999b)は、ネコにおいて立位とステップの訓練を行なった。損傷後に立位訓練を行なったネコはステップができず、ストリキニン(グリシン受容体遮断薬、強力な中枢神経刺激剤)の投与により、30〜45分間、全荷重をかけたステッピングを引き出した。ところが、ステップ訓練したネコは好ましいステッピングをしたが、それはストリキニンの投与によって行なったのではなかった。立位とステッピング訓練は、ネコの神経と筋肉の異なった適応をもたらした。脊髄化(spinalization)は、筋量の減少と腓腹筋の活性化された緊張の最大化した結果である。立位訓練はこれらの変化を改善するが、ステッピング訓練はそうではない。

 同様に、機能的電気刺激はトレッドミル訓練がするような有効な運動を作り出すことができない。例えばKernら(1999)は、萎縮した筋群(過酷に使用され長期間刺激が持続している)の強直・収縮を活性化するために、足首の加重や他のエキササイズとともに機能的電気刺激を行なった。しかし患者には、免荷式トレッドミル訓練を受けた人のような、いくつかの運動能力の改善はみられなかった。

 第3に、訓練効果は、筋群および神経回路を含む訓練に明確であり、エキササイズがホルモン変化をもたらすような一般的メカニズムが仲介されることは起こりそうもない。例えば、歩行訓練の効果は四肢マヒ・対マヒ双方にあり、それゆえ対マヒにおいてカテコールアミン(神経伝達物質)の上昇がより際立って示されることや、他の筋群に作用する成長因子の増加はありそうもない。訓練は、機能の実行を最大限にするよう脳・脊髄の再組織化を推進するポテンシャルを持っている。


エキササイズの他の効果

 エキササイズは筋萎縮を防ぎ、筋量や強度、その他の特質を向上させる。Royら(1999b)は、ヒラメ筋と腓腹筋の除去により足底筋が過重負担になるとしている。訓練された・訓練されなかったラットの双方において、足底筋は増加した。しかしながら、ステッピング訓練を受けたラットは、有意に足底筋が増加した。足底筋は筋神経の数の増加を示し、筋のサイズを比例して増加させた。この増加は、脊髄の運動ニューロンのサイズや数の変化なしに成し遂げられた。筋量の増大は、毛細血管が比例して増加したことによ るものだろう。

 エキササイズの増加の効果は、脳下垂体からのホルモン量の増大によっても今後同定されるだろう。McCallら(2001)は、新奇の筋‐神経内分泌腺伝導路があり、それは求心性骨格筋からの求心性入力の刺激による、同定されていない脳下垂体成長因子の分泌作用の調整によるものであろうと提言している。

 Bigbeeら(2000)、Gosselinkら(1998)は、成長因子によって刺激された筋の活動性は、免疫学的に検定可能なホルモンの増加によるものでないことを早い時期に示している。

 De Leonは(2000)らはさらに、低閾値の速筋からの求心性入力はこの因子の急進性を増加させたが、骨格遅筋の活性化はこの因子の活動を抑制することを示した。

 集中的なエキササイズは、脊髄損傷者の上肢の骨量を維持するが、下肢の脱無機質化を阻むことが出来ない。

 Frey-Rndvaら(,2000)は、受傷後6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月の脊髄損傷者の撓骨、尺骨、脛骨の骨梁及び皮質骨塩密度の喪失を評価した。その結果、脛骨の骨量の喪失は四肢マヒ・対マヒのどちらにも生じ、それは身体活動や痙性のレベルとは関係なかった。

 Needom-Shropshireら(1997)は、「パラステップ1」運動システムを使用して同様の結果を示した。この装置は、歩行訓練中に機能的電気刺激を用いるものだが、骨塩密度を変えることはなかった。

 Bloomfieldら(1996)らもまた、6〜9ヶ月のエキササイズの観察からは下肢の骨塩密度の有意な増加がみられなかったことを報告している。しかし彼らは、ホルモン・レベルのオステオカルシン(骨グラタンパク)の増加を見出した。

 他方、Mohrら(1997)は、マヒした下肢の骨塩密度が長期の電動アシスト自転車による訓練で増加したことを報告しているが、これは12ヶ月の訓練後のことである。さらに言えば、訓練を減少させた6ヵ月後にはこれらの効果は消失した。

 エキササイズは脊髄損傷者の代謝に複合的な効果をもたらす。例えば、エキササイズは脊髄損傷者の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の値を好転させる。しかしKjaerら(2001)は、エキササイズ中には血漿中の遊離脂肪酸が低下するが、それは受傷していない場合と同様でないことを示した。同様に筋のグリコーゲンは失われ、下肢のグルコース摂取、糖質酸化、乳酸塩の遊離は、著しく有意に増進する。脊髄損傷者のアドレナリン作動性交感神経の値は、エキササイズは脂肪酸再生の通常の増加を引き出すには十分でないことを暗示している。


【結 論】

 神経機能不全の新しい理論は、大きな注目を引いている。この理論は「学習された不使用」が中枢神経系の損傷による機能不全の主要な要因であると断定する。集中的・反復的な運動神経活性により「学習された不使用」の機序を逆転させることができ、強制誘発療法、あるいは「強制使用(forced-use)療法」と呼ばれる新たな手法をとることによってマヒした上下肢を含む活動を促進することを、多くの例証が示唆している。

 現在、いくつかの研究グループが報告しているが、強制使用療法はマヒして何年も経過した人々の機能を修復することが出来る。しかし、この療法には懐疑論もある。一部の人たちは、強制誘発療法にはエキササイズと運動神経活動をまさに増加させた兆候があると信じている。

 集中的な運動訓練は、大多数の脊髄損傷者の機能を増大させることができる。過去10年にわたり欧米の多くのリハビリテーションセンターは、トレッドミルによる免荷式歩行訓練が慢性脊髄損傷者の歩行活動の増大をもたらしたことを報告している。

 運動機能の改善は、筋群の良好な随意筋活性化と協応していないが、反射の協応及び脊髄が歩行を学習することを促進しているように見える。現在いくつかのセンターでは、「学習された不使用」を予防し運動能力を回復させるために、受傷後早期からの免荷式歩行訓練を始めている。

 歩行訓練は完全マヒに対しても有益であろう。動物とヒトの双方の研究からは、脊髄が運動パターンの不特定の反応や薬理学的刺激に関係していることを示している。訓練は、脊椎のコントロールを必要とせず、歩行パターンを活発化ないし誘発する。例えば動物実験では、横断損傷動物のトレッドミル訓練は、筋萎縮の回復や筋肉の他の変化と同様に、協調があり効率の良い後肢の歩行を増進させる。

 運動神経訓練は、エキササイズや機能的電気刺激を単独で行なうこと以上の効果として現れる。とりわけ、明確なトレーニングのパラメーターに依拠する運動神経の訓練効果は、ある機能から他の機能へと一般化されるのではなく、筋群と神経回路に明確な変化をもたらす。それはエキササイズによるホルモン変化や、エキササイズの一般的効果のような全般的メカニズムとして説明できるものではない。

 エキササイズは複合的効果を持つが、その機序はまだよく知られていない。多くの研究は、エキササイズが筋萎縮を回復させ、筋量やその強さ、その他の性質を向上させることを示している。それらのエキササイズの効果のいくつかに中には、今後同定されるであろう脳下垂体成長因子が含まれる。それは低閾値の速筋知覚シグナルの活性化として現れる。

 とはいえ、エキササイズは骨塩密度、ブドウ糖負荷、脂肪の遊離などのような他の特質の改善は注目される。いくつかの研究では、頸髄損傷者はこのような反応を示さないことを示唆している。



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