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自立生活型呼吸ケアと
在宅人工呼吸器使用者の生活の質(QOL)
松井和子1 佐川美枝子1 俵麻紀1 Irene Hanley2


1: 国立看護大学校 〒204-857東京都清瀬市梅園1−2−1 〔E-mail: matsuik@adm.ncn.ac.jp〕
2: British Columbia Paraplegic Association

「国立看護大学校研究紀要」第2巻 第1号 pp.17-23,2003年〔一部改変〕

 【keywords】
長期人工呼吸器使用long-term ventilator dependent,
生活の質quality of life,
呼吸ケアrespiratory care,
カフなし気管カニューレuncuffed tube,
自立生活independent living

 【要旨】
 呼吸筋麻痺による在宅人工呼吸器使用者を対象に、在宅生活のQOLに影響する呼吸ケアの特徴の解明を目的として、呼吸ケアの先進国、カナダBC州との比較によって析出した呼吸ケアの2タイプ、すなわち生命維持型(急性期型)呼吸ケアと自立生活型呼吸ケアとQOLの関係を分析した。

 データは郵送法調査によって収集した。分析対象者は自立生活型ケア受給者としてカナダBC州の在宅者18人(67%)、生命維持型ケア受給者として日本の在宅者33人(77%)であった。生命維持型ケア群と自立生活型ケア群の間で基本的属性、人工呼吸器を必要とする障害および人工呼吸器使用時間に統計的に有意差はなかった。

 障害および基本的属性に有意差のない2群間において、有意差を示した呼吸ケアは気管カニューレのカフの有無、すなわち自力発声の可否であった。自立生活型ケア群は全員がカフなしの気管カニューレを使用し、自力発声可能であり、全員が音声会話可能であるが、生命維持型ケア群は全員がカフ付きの気管カニューレ使用者であり、自力発声不可であり、カフのエアを抜いてもらっても音声会話不可が61%と高率であった。

 生命維持型ケア群は自立生活型ケア群にくらべ日中の吸引回数が有意に多かった。生命維持型ケア群は自立生活型ケア群にくらべ日中もベッド上生活者が多く、移動の自立が有意に低率であった。

 生命維持型ケア群は自立生活型ケア群にくらべ生活の満足度が有意に低レベルであった。家族の生活満足度も同様な結果であった。本調査結果から在宅入工呼吸器使用者および家族のQOL向上に、地域で供給する人工呼吸ケアは生命維持型ケアから自立生活型ケアヘの移行が必要条件として示唆された。


 T.はじめに

 長期人工呼吸器使用者が病院ではなく、地域で生活が可能になったのは、日本では1990年代以降であるが、ポリオ後遺症者が多く、人工呼吸管理の経験豊富な欧米でも1980年代以降である1)。

 1990年末米国で実施された全国調査によれば、長期人工呼吸器使用者は11,419人、うち在宅者はわずか25%であり、多くはなお急性期病院に入院中と推定された2)。長期人工呼吸器使用者の多くが急性期ベッドを占有するのは費用とQOLの2点で大きな損失であり、症状の安定した人々は費用も安く、生活の質、すなわちQOLの良好な在宅生活に移行すべきであると強調された3)。

 米国ではすでに1986年、自宅退院や退院指導を目的に胸部専門医団体の呼吸ケア部門が作成した長期人工呼吸管理に関するガイドラインがある4)。そのガイドラインによれば退院計画で特に重視されたのは、移動とコミュニケーションの白立であった5)。終日ベッド上で過ごし、かつカフ付き気管力ニューレ使用による音声コミュニケーションの障害は、自宅退院後、人工呼吸器使用者にとってQOLを著しく低下させるからである。いいかえれば、急性期リハビリテーションにおける移動とコミュニケーションの自立訓練は長期人工呼吸器使用者の退院計画および在宅生活におけるQOL向上の必要条件と考える。

 さらに長期人工呼吸器使用者の在宅生活における必要条件と重視されるのが、自力呼吸訓練である。人工呼吸器から完全な離脱は不可能であっても、数分でも人工呼吸器を外せる時間、すなわち自力で呼吸できる時間は人工呼吸器使用の安全性のみならず、在宅生活のQOLにとって非常に重要という指摘である6)。

 日本でも、1990年4月在宅人工呼吸療法が保険診療に導入されて以来、在宅人工呼吸器使用者は年々増加傾向にある。木村7)によれば、その入数は1993年200名弱から1995年4月536名、1997年1月1250名と4年間で6倍強の増加であり、その急増に対し、現実の支援システム開発が追いつかず、先進諸国との格差はなお著しく大である。その格差とは何か、木村は具体的に述べていない。高位脊髄損傷者を対象にした著書らの比較研究では、先進国との格差は在宅入工呼吸器使用者のQOL、具体的には社会参加と生活の満足度にあると示唆された8,9)。

 Makeら10)は、急性期病院、中間施設に比べ在宅化によって費用が最小、かつQOLが最高になるモデルを提起した。そのモデルは長期入工呼吸管理のガイドラインを満たし、したがって在宅生活に必要な急性期リハビリテーションにおける移動とコミュニケーションの自立訓練を前提としたものである。しかし著者らの研究によると、そのリハビリテーションを受けずに、いいかえれば、長期人工呼吸ケアすなわち自立生活型人工呼吸ケアヘの移行なしに急性期ケアのまま、さらにいいかえれば生命維持型ケアのまま在宅に移行する例がなお多い11)。その点を考慮すると、長期人工呼吸器使用者のQOL規定要因は、Makeらの2要因、すなわち費用と生活の場に加えて、急性期呼吸ケアから自立生活型呼吸ケアヘ移行の有無を追加すべきであると考える。その要因は急性期ケアのまま地域へ移行することの多いわが国では特に分析が必要となるからである。

 そこで本研究は、高位脊髄損傷による在宅人工呼吸器使用者を対象に、呼吸ケアの先進国との比較によって析出された呼吸ケア供給の2タイプ、すなわち生命維持を主な目的とする急性期ケア型呼吸ケアと、地域の自立した生活を目的とする自立生活型呼吸ケア、それぞれのケア受給者とQOLの関係を分析し、在宅生活者のQOLに大きく関与する呼吸ケアの特徴と機能について解明することを目的とした。


 U.対象と方法

 対象は高位脊髄損傷による長期人工呼吸器使用者とし、自立生活型呼吸ケアの先進国としてカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州と略)を選択した。選択の理由は次の3点である。

 1つは、カナダBC州で1980年代半ば、世界初の長期人工呼吸器使用者専用のグループホームが開設され、質の高い生活を可能にする地域呼吸ケアシステムが開発、供給されている。2つは、グループホーム設立当初の入居者は外傷性高位脊髄損傷による人工呼吸器使用者であり、脊髄損傷による呼吸不全は非進行性のため米国のガイドラインでも在宅人工呼吸管理の最適例とされている12)。3つは、高位脊髄損傷は急性期呼吸ケアおよび自立生活型人工呼吸ケアスキルが確立された障害であり、そのスキルの導入によってQOLの向上が促進可能なモデル的対象と考えた。

 急性期型呼吸ケアの対象者は、著者の一人、松井が1990年以降在宅相談などにかかわりつつ継続観察してきた43人、札幌から熊本まで日本国内の居住者である。他方、自立生活型呼吸ケアの対象者は、著者の一人、HanleyがBC州地域呼吸管理でかかわっている36人、大半がバンクーバー市内の居住者である。

 データの収集方法として、自記式調査票を作成し、郵送法調査を採用した。まず日本語で調査票を作成し、その英文版を作成した。調査票作成の基準は、2国間で比較可能な変数とし、基本的属性、人工呼吸器と気管切開ケア、家族、居住条件、介助、移動手段、外出頻度、社会参加、生活の満足度を含む42の質問項目を作成した。なお、音声コミュニケーションついては、過去の調査でBC州の対象者は全員可能であるが、日本の対象者は声を出せるのが少数であり13,14)、今回の調査ではコミュニケーションの自立に関してカフ付き気管カニューレ使用の有無を問う項目を作成した。

 調査票は日本、カナダBC州ともに2001年7月中旬に発送し、約1か月後の8月中旬までに回収した。なお、倫理的配慮として、調査票の発送前、調査対象者および家族の全員に対し、本調査の目的、調査結果のまとめ方および結果の公表方法について電話あるいは直接説明し、本調査協力の同意を得た。さらに本調査票発送時、再度、調査の目的と結果の活用について説明した文書を同封し、その文書に同意された対象者から自記式調査票によってデータを収集した。

 調査票の有効回答率は、日本が77%(33人)、カナダBC州が67%(24人)であった。なお日本の対象者はすべて脊髄損傷時の呼吸筋麻痺レベル、すなわち頸髄(以下、Cと略)4番以上の損傷である。しかしカナダBC州の回答者中、損傷レベルC5−7が2名、胸髄1−8が4名含まれていた。2群の障害を同レベルとするため、すなわち人工呼吸器を必要とする障害を同一とするため、損傷レベルC5以下の6人は本論の分析から除外した。したがって分析対象数は日本が33人、カナダBC州が18人となった。以下、日本の対象者を急性期型呼吸ケア供給群(以下、生命維持型ケア群と略)、カナダBC州を自立生活型呼吸ケア供給群(以下、自立生活型ケア群)と分類し、結果と考察を述べていく。


 V.結 果

1. 基本的属性と人工呼吸ケア

 表1は、分析対象者の基本的属性について2群間の比較で示す。調査時平均年齢は自立生活型ケア群(カナダBC州)の39±15歳に対し、生命維持型ケア群(日本)は36±17歳と平均3歳若いが、統計的な有意差は示されていない。性別は、両群とも男性8割弱、女性2割弱であり、年齢と同様に2群間で有意差なしである。さらに分析対象者をC4レベル以上に限定した損傷レベルは表1で明らかなように有意差なしである。人工呼吸器使用期間も、両群ともに平均8年強であり、有意差なしであった。なお生命維持型ケア群のみ施設生活者が2名含まれたが、他は両群とも自宅生活者である。


表1 対象者の基本属性
変数 日本
生命維持型ケア群
(n=33)
カナダ
自立生活型ケア群
(n=18)
χ2検定





年齢 36.3±16.5 39.2±14.9 有意差なし





性別 男 性
女 性
81.8%
18.2%
83.3%
16.7%
有意差なし





呼吸器
使用期間
(年)
8.5±5.7 8.1±6.4 有意差なし





損傷レベル C1−4 6.1% 5.6% 有意差なし
          

 表2は、人工呼吸器の機種と気管切開ケアについて示す。まず人工呼吸器の機種をみると、両群間で有意差はなく、BiPap〔バイパップ〕の使用者がともに約6%である。しかし他の機種は2群間で差異が目立つ。すなわち自立生活型ケア群はLP6プラス〔多用途ベンチレーター〕の使用が約8割占めるのに対し、生命維持型ケア群で最も多いPLV100〔ボリュームサイクル陽圧人工呼吸器〕が1/3強に留まり、自立生活型ケア群にくらべ生命維持型ケア群は多様な機種の使用が目立つ。次に気管切開ありは両群ともに94%と大半を占め、2群間で有意差なしである。

 2群間で顕著な差異を示すのがカフ付き気管チューブの使用率である。生命維持型ケア群の対象者9割がカフ付きカニューレの使用であるが、自立生活型ケア群では全員がカフなしカニューレの使用であった。その自立生活型ケア群は全員が音声会話可能であるが、生命維持型ケア群では61%が音声会話不可である。さらに酸素吸入は本来脊髄損傷による在宅人工呼吸器使用者には不要であるが、生命維持型ケア群の対象者に2名の使用が示された。


表2 人工呼吸器の機種と気管切開ケア
変数 日 本
生命維持型ケア群
カナダ
自立生活型ケア群
χ2検定




呼吸器 PLV−100
      LP6 Plus
      LP10
      BiPap
      他
35.5%(n=31)
16.1
6.5
6.5
35.5
16.7%(n=18)
77.8
0.0
5.6
0.0
有意差なし




気管切開あり 93.9%(n=33) 94.4%(n=18) 有意差なし




カフ付きカニューレ 90.3%(n=31) 0.0%(n=17) p<.001
カフなしカニューレ 9.7 100.0




酸素使用 6.3%(n=32) 0.0%(n=18) 有意差なし
〔注記:PLV-100, LP6 plus, LP10は陽圧式/経気管用, BiPapは非侵襲的陽圧換気法/NIPPV・鼻マスク〕

 図1は一日の人工呼吸時間を示す。損傷部位で有意差のない2群間で、調査時における人工呼吸器使用時間は、全員が8時間以上であり、両群に有意差は示されていない。しかし24時間使用、すなわち一日中人工呼吸器使用は、生命維持型ケア群が6割に対し、自立生活型ケア群では1/3と少ない。反対に8〜10時間使用は生命維持型ケア群が1割強に対し,自立生活型ケア群は3割弱と約3倍であった。

図1 一日の人工呼吸時間

 図1の人工呼吸時間と負の相関を示すのが、図2の自力呼吸時間である。図2をみると、人工呼吸器を外し自力で呼吸できる時間は、図1の人工呼吸時間と同様に両群間で有意差を示していない。

 しかし図2で明らかなように、自立生活型ケア群の対象者は自力呼吸時間が長く、生命維持型ケア群の対象者は短い。特に、自力呼吸時間ゼロが自立生活型ケア群では6%弱に対し、生命維持型ケア群は18%と約3倍である。反対に8時間以上自力呼吸が可能な対象者は自立生活型ケア群で3割弱に対し、生命維持型ケア群は1割未満である。

図2 自力呼吸時間

 本対象者は大半が気管切開による人工呼吸であり、痰の吸引作業は介助負担を大きく増す要因である。図3の平均吸引回数をみると、日中、夜間ともに生命維持型ケア群が自立生活型ケア群に比べ多いが、特に日中は自立生活型ケア群が平均2.9±2.0回に対し、生命維持型ケア群は11.2±9.2回と著しく頻度の高い吸引回数である。

 生命維持型ケア群は日中の吸引10回が42%、5回以上でみると72%である。図3に示したように日中に比べ夜間は両群間で有意差なしであるが、生命維持型ケア群は夜間5〜6回と高頻度の吸引が15%占めている。

図3 気管内吸引


 2.移動の自立

 図4は、ベッド上で過ごす時間と車椅子上で過ごす平均時間を示す。まずベッド上で過ごす1日平均時間は、自立生活型ケア群が9.4±1.8時間に対し生命維持型ケア群は22.2±3.1時間と自立生活型ケア群の倍以上の長さである。自立生活型ケア群の全対象者が14時間以下であるが、生命維持型ケア群の約8割は20時間以上であり、14時間以下は6%に過ぎない。

 反対に車椅子で過ごす時間は、自立生活型ケア群が平均12.7±3.2時間に対し,生命維持型ケア群は2.3±3.4時間と著しく短い。具体的にみると、自立生活型ケア群の8割強が一日10時間以上車椅子で過ごすが、生命維持型ケア群では10時間以上過ごす人は6%と少なく、反対に一日中車椅子使用なしが45%占める。車椅子使用なしの生活とは、四肢麻痺の障害を持つ本対象者にとって終日寝たきりを意味し、それが生命維持型ケア群で1/2弱占めていた。

 車椅子使用時間は移動の自立を示す指標でもあるが、移動の自立をより明確に示すのが車椅子の種類である。四肢麻痺の障害を持つ本対象者が自力移動可能な車椅子は手動ではなく、電動車椅子である。自立生活型ケア群の対象者は全員が自力移動可能な電動車椅子の使用者であるが、生命維持型ケア群の対象者は24%であった。

図4 身体可動性


 3.生活の満足度

 本対象者のうち家族と同居生活者は両群とも7割強である。一日に家族の援助を必要とする時間は、自立生活型ケア群では5時間以内が42%であるが、生命維持型ケア群の家族は一日19時間以上の援助が45%占めた。その点を考慮して、対象者のみならず、家族を含めて示したのが図5の生活の満足度、5段階によるQOL評価である。


図5 生活の満足度:QOL

 まず図5左をみると、自立生活型ケア群の対象者は“good”が54%と過半数であり、それに“excellent”を加えると、6割強を占める。反対に“poor”は1%で、“extremely poor”は皆無である。他方、生命維持型ケア群の対象者は最も多いのが“average”40%であり, “good”は21%、“poor”は21%、“extremely poor” は15%と、自立生活型ケア群に比べ生活の満足度が有意に低い。

 次に図5右をみると家族の生活満足度は当事者と近似した分布を示す。すなわち“excellent”は自立生活型ケア群のみ、それに“good”を加えると、自立生活型ケア群は83%に対し、生命維持型ケア群の家族はわずか3%のみである。反対に“extremely poor”は生命維持型ケア群の家族のみ、それに“poor”を加えると、生命維持型ケア群の家族は36%であるが、自立生活型ケア群は6%と少ない。

以上、生活の満足度は、対象者、家族ともに2群間で有意な差を示す。


 W 考 察

 米国における長期人工呼吸器管理のガイドラインの公表から12年後、米国胸部専門医学会は「ICUを超えた器械呼吸」というタイトルで最新の長期人工呼吸管理に関する分厚い報告書を公表した15)。その中で、現実的な生活の場を急性期病棟、中間施設、および在宅を含む長期ケア施設と3区分し、コスト的に急性期病棟から中間施設、さらに長期施設と軽減し、中でも在宅でのコストが最低になり、反対にQOLは急性期病棟が最低で、在宅が最高というモデルを提起した16)。

 カナダBC州ではすでに1987年に長期ケア施設と地域生活における長期人工呼吸器使用者のQOLに関する2年間の追跡調査結果の報告書が公表された17)。その報告によれば、地域生活は、コスト、健康状態、ケアの質、生活の満足度のすべてにおいて施設生活に比べ良好であった。

 さらに1993年デンマークで実施された長期人工呼吸器使用者の地域生活に関する全国調査によれば、筋ジストロフィーなど進行性の呼吸不全を含む110人中、良質な生活という回答が80人と、7割強占め、やや不良が17%、貧困な生活は2%であった18)。

 他方、同じく在宅生活者であっても、本調査結果で示されたように、生命維持型ケア群の長期人工呼吸器使用者は、良好なQOLが21%に留まり、同一障害である自立生活型ケア群で良好が54%、非常に良好を含めた62%に比べ、著しく低レベルのQOLであった。

 その主な要因は、前述の1986年ガイドラインで重視された急性期リハビリテーションの成果、本対象者では移動の自立と音声コミュニケーション、さらに自力呼吸ではないかと考える。本調査結果で実証されたように、その3条件とも生命維持型ケア群の対象者は自立生活型ケア群と比べ有意に著しい低率を示した。自立生活型ケア群、すなわちカナダBC州のみならず、同じく在宅の生活の質が高いデンマークと比較しても同様の傾向が示される。

 すなわち、前述のデンマーク全国調査報告によると、110人中気管切開は79人、うちカフ付きカニューレの使用者は29人、37%とBC州に比べると高率であるが、その大半は夜間のみカフ内に空気を注入し、カフを膨張させ、日中はカフ内の空気を抜き、カフを収縮させているので、音声会話は可能である。さらにベッド外で過ごす時間と外出頻度で移動の自立をみると、まず一日につきベッド外で過ごす時間は、自宅生活者98人中97人が8時間以上であり、15時間以上は50人、51%と過半数である。

 ベッド外で過ごすのが7時間は1人のみであった。外出頻度は屋外で過ごす時間で測定され、自宅生活者98人中週40時間以上が38人、約4割である。週30時間以上は46人、47%。週20時間以上でみると、68人、約7割に達する。その外出頻度は、人工呼吸器使用時間別に分析されてはいない。しかし、デンマークの調査対象者で人工呼吸器を必要に応じて使用するのは110人中1人のみ、109人は一日6時間以上の人工呼吸器使用者であり、一日20時間以上の使用が42%占める対象集団における質の高いQOLを示した調査結果である18)。

 著者らの調査結果でも、生命維持型ケア群で電動車椅子の使用者が8人含まれていた。この8人は、入院中のリハビリテーションで電動車椅子使用の訓練を受けられた人々である。しかし本調査時点での移動状況は、8人中5人はベッド上で過ごす時間が24時間、すなわち終日寝たきりの生活,ついで20時間が1人、無回答が2人であった。さらに外出頻度でみると、毎日外出する対象者はなし、週4回が1人、週2回が1人であった。したがって入院中、電動車椅子使用の訓練を受けても、生命維持型ケア群ではその訓練が在宅における移動の自立に必ずしも直結していない実態が示された。

 その要因として考えられるのが、人工呼吸器使用者が1人で過ごす訓練の欠如である。I. Hanleyの臨床経験によると、カナダBC州では、急性期、人工呼吸器の長期使用と診断されると、入院中から電動車椅子に携帯用人工呼吸器を載せて、屋外を1人で散歩させるリハビリテーションがプログラム化されている。目的は人工呼吸器使用者でも1人で過ごす訓練である。万一、人工呼吸器の回路が外れても、数分間でも自力呼吸ができれば装置のアラーム音で援助が到着するまで自力呼吸で待機できる、声が自力で出せ、電動車椅子で自力移動できれば救助を求めることもできる。人工呼吸器使用者が呼吸不全の恐怖を感じることなく、活動的な行動も可能になるからである。

 さらに生命維持型ケア群で特徴的な結果は、気管切開の大半がカフ付きカニューレの使用である。自立生活型ケア群は全員がカフなしカニューレの使用であった。デンマークでも在宅ではカフなしカニューレ使用者が一般的であるが、カフ付きカニューレ使用者でも声が自力で出せるように日中はカフ内の空気を抜き、カフを収縮させるとの報告であった。生命維持型ケア群でも当事者と家族が病棟スタッフの承諾を得ずにカフを収縮させ、音声会話を試みている例はあるが、BC州のようにリハビリテーション・プログラムに導入している医療施設は希少である19)。

 本調査結果で顕在化した生命維持型ケア群の人工呼吸ケアは、すなわち携帯用人工呼吸器を使用しながらベッドにほぼ一日拘束された生活、カフ付きカニューレの継続使用、無声、自力呼吸訓練なしの24時間人工呼吸器依存と、ICUで供給されていた呼吸ケアスキルが在宅にほぼそのまま移行されたとみることができる。

 在宅ではICUのような交代による24時間看護体制ではなく、家族の1人が専従介助者となり、大半の家族は交代要員なしの長期介護である。その介護負担が本調査結果の図5で家族の極めて低いQOLとなって示されたと考える。


 X.結 語

 在宅人工呼吸器使用者のQOLと呼吸ケアの関連を明らかにする目的で、人工呼吸ケアの先進国との比較によって呼吸ケア供給の2つのタイプ、すなわち自立生活型ケア群と生命維持型ケア群を対象に実施した調査結果を分析し、以下の知見を得た。
  1. 障害および基本的属性に有意差のない自立生活型ケア群と生命維持型ケア群において、有意差を示した呼吸ケアは気管カニューレのカフの有無、すなわち自力発声の可否であった。自立生活型ケア群はいずれもカフなしカニューレを使用し、自力発声可能であるが、生命維持型ケア群はいずれもカフ付きカニューレを使用し、自力発声不可であった。

  2. 生命維持型ケア群は自立生活ケア群にくらべ日中の吸引回数が有意に多かった。

  3. 生命絶持型ケア群は自立生活型ケア群にくらべ日中もベッド上生活者が多く、移動の自立が有意に低率であった。

  4. 生命維持型ケア群は自立生活型ケア群にくらべ、人工呼吸器使用者も家族も生活の満足度が有意に低レベルであった。

  5. 在宅人工呼吸器使用者のQOL向上には、生命維持型ケアから自立生活型ケアヘの移行が必要条件と示唆された。

 本研究は、平成12〜13年度(文部科学省)科学研究費基盤研究(c)(2〕−課題番号1267232−の一環として実施したものである。


 ■ 文 献
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  2. B, J. Make, et a1.:Mechanical ventilation beyond the intensive care unit, Chest, 113(5), 291 S, 1998.

  3. B. J, Make, et al.:前掲書, 295 Supp1.

  4. W. J, O,Donohue, et al.:前掲書, 1 Suppl. -37 Suppl.

  5. W. J. O'Donohue, et al.:前掲書, 7 Suppl.

  6. M. Gilmartin, et a1.:Home care of the ventilator-dependent persons, Res. Care, 28(11), 1490, 1983.

  7. 木村謙太郎:在宅人工呼吸療法システムの現状と課題、難病と在宅ケア, 13(6), 6-9, 1997.

  8. 松井和子:人工呼吸器長期依存による高位頸髄損傷者の在宅化の条件, 日パラ医誌, 7(1), 124-125, 1994.

  9. 松井和子:長期人工呼吸器使用頸髄損傷者の祉会参加と関連要因,日パラ医誌, 14(1), 106-107, 2001.

  10. B. J. Make, et al.:前掲書, 295 Supp1.

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  12. W. J. O'Donohue, et al.:前掲書, 4 Suppl.

  13. 松井和子:器械呼吸長期依存頚髄損傷者の在宅における呼吸発声訓練, 日パラ医誌, 12(1), 194-5, 1999.

  14. 松井和子:器械呼吸長期依存頚髄損傷者の呼吸発声訓練経過について−第2報, 日パラ医誌, 13(1), 190-191, 2000.

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