pdf形式でダウンロード kokyuukironbun2.pdf  654kb
器械呼吸長期依存頸髄損傷者の
呼吸発声訓練経過について

− 第2報 −
松井 和子

浜松医科大学医学部臨床看護学部
(現、国立看護大学校看護学部部長)
〔「日本パラプレジア医学会雑誌」第13巻 pp.190-191、2000〕

   Keywords:High Quadriplegic (高位頸髄損傷)、
Long-Term Mechanical Ventilnation(長期器械呼吸)、
Weaning(離脱)



 [目的] 
 急性期の器械呼吸離脱に関する報告は多いが、長期依存者を対象とした離脱訓練の報告は皆無に近い。とくにC2以上の高位頸髄損傷者は大半が急性期に離脱不可能と診断され、訓練の対象外にある。しかし自力呼吸も自力発声も不可能な状態での在宅生活は器械呼吸の管理上、極めて危険と指摘され、実際、器械呼吸依存頸髄損傷者(以下、VD頸損と略)の事故や死亡報告は絶えない1)。

 松井はVD頸損であっても安全性を目的とした離脱訓練が在宅でも可能とその実施例を昨年の本学会で報告した2)。その後の継続研究によってほぼ24時間器械呼吸離脱可能になった1例と短期問に数時間の離脱が可能になった1例を経験した。さらに本研究の対照群(カナダBC州のVD頸損)中1例が受傷後10年目で24時問離脱に成功したので、その1例を加えた3例を対象に長期VD頸損の離脱訓練の有効性について検討する。


 [対象と方法]  
 対象3例とも交通事故によるC2以上の外傷性VD頸損である。その基本的属性は表1に示す。国内の2例A、Bは家族を通じて相談を受け、カナダBC州地域呼吸管理の責任者I,Hanleyの協力を得て継続的に情報を提供しつつ、数回の訪問調査及びインターネットを通じてデータを収集し経過観察してきた事例である。他方、事例Cは1994年、95年、96年と3回訪問面接調査を実施、97年以降はインターネットで必要なデータを収集した。3例とも受傷直後人工呼吸器で救命されたが、急性期、離脱の可能性に関する予測は小児のAが不明、成入のB、Cが不可であった。

 離脱訓練開始のきっかけをみると、事例Cは日中自力呼吸で過ごせるようになったVD頸損との直接交流であったが、国内の2例は筆者が提供した情報であった。離脱訓練の開始時期は受傷後数ヶ月から5ヶ月といずれも急性期である。訓練方法は3例とも器械呼吸を外し、自力で呼吸し、その離脱時間を延長するON-OFF法であった。

 表1 損傷レベルと離脱訓練時期
事例 受傷
時期
受傷
年齢
損傷
レベル
初期離脱
予測
離脱開始
時期

A

1996/6

3歳

C2

不明

5ヶ月後
B 1998/5 30歳 C1/2 不可 4ヶ月後
C 1990/4 22歳 C2 不可 数ヶ月後


 [結果]

 (1) 事例Aは受傷後1ヵ月で僅かに自発呼吸が認められたが、呼吸器を外すことに抵抗が大きく、SIMV(同期式間欠強制換気法)で徐々に呼吸設定数を減少し、呼吸数9回/分、1回換気量150mlで過ごせるようになった受傷後4ヶ月、ON-OFFによる離脱訓練を開始した。

 訓練開始直後、離脱時間は0分、5日目3分であったが、図1をみると、1ヶ月後約1時問、2ヶ月後7、8時間まで延長した。なお離脱中、SpO2〔経皮的動脈血酸素飽和度〕は93以上、EtCO2〔終末呼気炭酸ガス濃度〕はほぼ40台であった。さらに訓練開始から5ヶ月後に10時問の離脱が可能になった。

 この段階で両親は睡眠中の離脱を試みたが、日中、居眠り状態となり、離脱時間の延長方法について筆者らに助言を求めてきた。そこでI.Hanleyが作成した睡眠中の離脱プログラム、すなわち小児は成人以上にゆっくりとしたペースで実施すること、離脱時間の延長を訓練目標とせず、両親の就寝前30分間と覚醒前30分間づつ人工呼吸器を外し、離脱時間を短時間づつ延長するメニューである3)。

 この方法で約半年間の訓練継続後、24時間離脱に成功し、自力呼吸で過ごせるようになった。完全離脱から半年後の面接時、事例Aは呼吸補助筋を使った努力型の自力呼吸であった。日中、ときに本人から器械呼吸を要求することもあるが、24時間自力呼吸になって約1年半経過、この間呼吸器合併症の罹患なしである。


図1 事例Aの離脱時間

 (2) Bは受傷後3ヶ月で本研究対象に加わった事例である。当初、家族は離脱訓練が実施可能な施設へ転院希望であったが、主治医との話し合いの結果、入院中の病院でその訓練を開始した。離脱時間は図2に示すように訓練初日に数分の自力呼吸が19日後100分可能になった。離脱中、SpO2は94以上で維持され、脈拍は90前後であった。訓練開始から9ヶ月後、ほぼ半日自力呼吸が可能になり、この問呼吸器合併症の罹患なしである。


図2 事例Bの離脱時間


 (3) 事例Cは1994年調査開始時、急性期の自主的な離脱訓練によって車椅子上で30分、ベッド上仰臥位で1〜2時間の自力呼吸が可能であった。その離脱時間は1994年から1996年までほぼ同じであり、地域生活開始後、離脱時間の延長を目的とした訓練は実施せず、器械呼吸依存による苦痛や不安の訴えも皆無であった。1999年3月初旬、偶然出会った医師の離脱時間延長に有効との薦めで催眠療法を週数回受けるようになった。Cは完全離脱を望んでその療法を受けたわけではないが、週数回の頻度で7、8回受けたころより離脱時間が急速に延長し、3月末、ベンチレータを完全離脱、24時間自力呼吸で過ごせるようになり、すでに6ヶ月経過、この間呼吸器合併症の罹患なしである。


 [考察] 
 器械呼吸離脱の可否は身体的要因のみならず、心理的要因の関与が極めて大きいと指摘される。しかしVD頸損は身体的要因、すなわち頸髄の損傷部位が急性期離脱予測の決定要因とされる。そのC2レベル以上VD頸損が実施した長期離脱訓練の結果、当初の目標を大きく上回る長時間の離脱が可能になった。その離脱の方法は3例ともON-OFF法である。

 C3、C4レベルに対象が限定された研究であるが、VD頸損の離脱は間欠的強制喚起法(IMV)に比べON-OFF法が非常に有効と実証した報告がある4)。それも受傷後早期に開始ほど離脱効果ありと指摘された。本事例の3例とも急性期、入院治療中から開始した訓練開始であった。3例中1例はほぼ24時間器械呼吸依存の生活10年経過後に試みた催眠療法を契機に完全離脱が可能となった。しかし離脱時間の延長と催眠療法との関係は未分析である。なお催眠療法について、VD頸損が対象ではないが、バイオフィードバックとの組み合わせで器械呼吸の離脱訓練に非'常に有効性を発揮した症例報告があり5)、離脱の心理的効果の試みとして注目'される。

 [結語] 
 C2以上VD頸損3例を対象に離脱訓練の有効性について検討した結果、以下の知見が得られた。

@ C2以上は離脱不可と、損傷レベル重視の急性期の離脱予測に反し、3例とも急性期より開始した離脱訓練により短期間で顕著な離脱時問の延長を示した。
A 1例は計画的な長期離脱訓練の結果、他の1例は器械呼吸依存生活10年後、数週間の催眠療法後、完全離脱、24時間自力呼吸となった。
B VD頸損の離脱予測因子として損傷高位は必ずしも決定要因ではない。
C 長期離脱あるいは完全離脱より半年から1年半、呼吸器合併症は3例ともなしである。


 文 献

1) 松井和子:高位頸髄損傷の死亡例からみた在宅呼吸管理の安全性、日パラプレ医誌、11、 54、1995
2) 松井和子:器械呼吸長期依存頸髄損傷者の在宅における呼吸発声訓練、日パラプレ医誌、12、1945、1999
3) 松井和子、他:カナダBC州在宅人工呼吸ケアから学ぶこと、訪問看護と介護、3、275-286,1998
4) W. Peterson, eta1:Two method of weaning persons with quadrip1egia from mechanical ventilators, Paraplegia、32,102,1994
5) P.J. LaRiccia, et al: Biofeedback and Hypnosis in Weaning from Mechanical Ventilators, Chest, 87, 2, 267-9, 1985



NEXT