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長期人工呼吸器使用頸髄損傷者の
社会参加と関連要因
松井 和子
浜松医科大学医学部臨床看護学部
(現、国立看護大学校看護学部部長)

〔「日本パラプレジア医学会雑誌」第14巻 pp.106-107、2001〕

 Keywords:High Quadriplegic(高位頸髄損傷)、
Ventilator Dependent(人工呼吸器使用)、
Participation(社会参加)



 [目的] 
 WHOの障害の新概念によると、日本の長期人工呼吸器使用頸髄損傷者(VD頸損)は、Impairmentのみならず、ActivityとParticipationの制約が著しく、社会復帰は極めて困難な状態にある。その主な阻害要因は急性期のリハビリテーションと地域における呼吸管理システムの問題と指摘されてきた1)。しかし最近、それら要因の変化なしに、VD頸損にも主体的な情報収集や外出など社会参加が若干多様性を示す。Activityの制約、すなわちADLレベルの自立はなお著しく困難でありながら、VD頸損のParticipationはどのような要因が可能にしているのか。その参加の実態と関連要因について明らかにすることが本研究の目的である。

 [対象と方法] 
 対象は12例、すべて気管切開によるVD頸損である。いずれも1980年代末から1999年末までに家族や医療関係者を通じて係わり、継続的な経過観察によってデータを収集してきた事例である。全例とも成人男子、年齢は、20歳代が3人、30歳代が4人、40歳代が4人、65歳が1人である。12人中自宅生活者8人、残り4人は施設生活である。人工呼吸依存年数は最短2年から最高19年、平均8.2±4.9年である。VD頸損の社会参加を分析する変数は、車椅子の種類と使用方法、外出頻度と目的、友人・知人の交流頻度と方法、さらにADL、人工呼吸器の使用時問、介助者、同居家族を媒介変数とした。

 [結果] 
(1) 社会的交流
 VD頸損が家族や介助者以外の人々との交流を社会的交流と捉え、その交流方法を示したのが表1である。まず表1の社会的交流を見ると、社会的交流ありは12例中5例である。その交流手段は5例ともインターネットである。表1で明らかなようにパソコン使用者は8例であるが、うち3例は、インターネット接続なしでパソコンのみの活用であり、音声会話も不可、社会的交流不可である。さらに社会的交流可能な5例中4例は音声会話も可能であるが、音声会話が不可であっても1例はインターネットで社会的交流を可としていた。

 しかし、電話による社会的交流は音声会話可能な4例に限られている。しかし音声会話可能な4例中、必要なときいつでも自力発声可能な例は皆無である。本対象者12例はすべてカフ付き気管チューブの使用であり、うち音声会話可能な4例中1例はカフの収縮によって、3例はPassy-Muir Speaking Valveなど発声ディバイスの使用による自力発声であった。4例ともカフの収縮と発声ディバイスの装着に介助者の介入が不可欠な発声方法である。うち1例は、自宅内で妻とのコミュニケーションにも音声会話より表現しやすいとインターネットを活用している。


 表1 社会的交流の方法
対象 人口呼吸年数 音声会話 電話 パソコン インターネット 社会的交流
1 19
2 14
3 12
4 10
5 8
6 7
7 7
8 6
9 6
10 4
11 3
12 2


 (2) 社会参加
 表2はVD頸損12例の外出手段と社会参加の関係を示す。なお表2の社会参加とはVD頸損の生活に関する情報交流を目的とした集会への参加とし、周辺の散策、買い物、旅行などの外出は除外した。表2を見ると、その社会参加ありは12例中6例である。

 関連要因をみると、調査期間中の居住場所は施設が3例、自宅が3例と差はない。外出時の使用車椅子は、表2で明らかなように自力操作可能な電動車椅子が2例、うち1例が社会参加あり、他の1例は自宅周辺の散策のみである。残り10例は手動の車椅子、すなわち自力操作不可で移動に介助が必要な移動手段である。

 表2でさらに注目されるのは、外出時の介助者であり、いずれも家族の介助である。自力操作可能な電動車椅子使用者の2例を含め、12例とも外出時、しかも白宅周辺の散策でも介助者付きである。社会参加を目的とした外出時の介助者が1人で可能な対象者は1例のみ、日中、人工呼吸器を必要とせず、自呼吸で過ごせるようになった事例12であり、他の7例は2人から数人の介助者が付添った社会参加である。表2で社会参加あり6例中3例は、音声会話不可である。その3例は集会でのコミュニケーションに家族の通訳が必要であった。


 表2 外出手段と社会参加
対象 損傷高位
(発症時)
居住
場所
外出時
車椅子
外出時
介助者
社会
参加
1 C3 施設 手動 母、他
2 C2 自宅 電動
3 C2 施設 手動
4 C3 自宅 手動 母、妻、他
5 C4 自宅 手動 両親、他
6 C4/5 自宅 手動 両親、他
7 C2 施設 手動 両親
8 C2/3 自宅 手動
9 C2 自宅 電動 両親
10 C1 自宅 手動
11 C2/C34 自宅 手動 両親
12 C2 施設 手動 姉、他


 [考察] 
 脊髄損傷者の社会的不利に関する研究報告によると、社会復帰の目標である社会参加に、機能障害はそれほど大きな影響を与えず、例え機能障害が重度であっても社会不利、あるいは参加の制約を克服することことは可能と指摘される2)。デンマークで1995年実施された全国調査でも、同様な結果の報告がある3)。すなわち人工呼吸長期依存者110人のうち気管切開による人工呼吸器使用者は79人、うち一日の吸引回数2回以上8割、5回以上46%であるが、日中の大半を電動車椅子で過ごし、自力移動を可能にし、外出も「制約なし、あるいは週40時間以上」が調査対象者の4割弱、週20時間以上の外出が7割と、機能障害が重度にも関わらず、参加の制約は克服された実態報告である。

 しかも配偶者以外の家族と同居生活者は110人中18人、うち4人は18歳以下である。すなわち人工呼吸器使用者でありながら84%は家族に依存せずに社会参加が可能な実態である。他方、本対象者の大半は手動車椅子の使用であり、2例の電動車椅子使用者を含め外出時の介助者が不可欠であった。本対象者が介助者を必要とする理由の1つは痰の吸引であるが、他の理由は車椅子使用中頻繁に必要となる座位姿勢の矯正介助である。

 さらにデンマークの調査によると、気管切開79人中カフ付きチューブ使用者は29例、37%であり、そのうち夜間のみカフをインフレートするのが数例とあり、日中は大半がカフをディフレート、すなわち気管切開でも大半が日中音声会話可能である。

 カナダBC州では長期人工呼吸器使用者はカフなし気管チューブ(図1の右)が一般的であり、カフ付きチューブ使用者(図1の左)にはカフをディフレイト後、発声ディバイスを使用し、医療職対象の呼吸ケア研修マニュアルにも音声コミュニケーションスキルが導入されている4)。

 BJ Makeは80年代半ば、VD頸損の急性期リハビリテーションは移動の自立と音声会話の訓練が不可欠と強調した5)。しかし本対象者はいずれも介助なしには白力発声不可である。その要因はすでに報告したように6)、カフ付きの気管チューブの使用、使用チューブのサイズが大きすぎること、人工呼吸の1回換気量や呼吸数の量的不足である。



図1 気管切開による発声  右:カフなし 左:カフ付き


 [結語] 
 VD頸損12例を対象に社会参加の実態と関連要因について継続的調査の結果、以下の知見が得られた。

1) VD頸損者で社会的交流を可とするのは5例、4割強であり、いずれもインターネットの活用によってであった。
2) 社会参加を可とするのは6例、5割であるが、大半が手動車椅子使用であり、1人以上の付添者が必要な社会参加であった。
3) 家族などの付添いでVD頸損者の社会参加は可能になってきたが、音声会話不可であると、直接交流に通訳の介助者が不可欠であった。


 文  献

1) 松井和子:高位頸髄損傷者のQOLと自立型ケア、日パラプレ医誌10:212-213、1997
2) 青柳紀代他:脊髄損傷者の社会的不利に影響を与える要因、リハ医学36:604、1999
3) HS Kristensen et al:Report on Domiciliary mechanical ventilation in Denmark, Muskelsvindfonden,124,1995
4) BC Rehab George Pearson Site, 松井和子訳:カナダBC州の地域呼吸管理システムと教育プログラム、24、浜松医科大学、2000
5) BJ Make:Long-term management of ventilator-assisted individuals, Respiratory Care 31: 306, 1986
6) 松井和子:器械呼吸長期依存頸髄損傷者の在宅における呼吸発声訓練、日パラプレ医誌12: 194-5, 1999。Weaning from Mechanical Ventilators, Chest, 87,2,267-9-1985



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