讀賣新聞 2002年(平成14年)7月29日(月曜日)に掲載された
 「車イスのスーパーマン 訴え」の記事


讀賣新聞  2002年(平成14年)7月29日(月曜日)

車イスのスーパーマン 訴え

 クローン技術で「自由な身体を」

 落馬で脊髄損傷◆米上院審議に一石

 禁止か、容認か――米国内でこう着状態となっていた、難病治療を目指すクローン研究の是非論議に、動きが出てきた。下院は昨夏、人間の卵子を使うクローン研究には道徳的に問題があるとして「医療目的も含め全面禁止」とする法案を可決。現在、上院で審議中だ。ところが映画「スーパーマン」の主演俳優で、七年前に落馬事故で全身まひとなったクリストファー・リーブさん(49)が、車いすから「研究は数百万の患者に恩恵を与える可能性がある」と訴え、大統領顧問機関の勧告に研究容認も併記されたからだ。上院の審議にも一石を投じることになりそうだ。

(ワシントン支局 館林 牧子)


 リーブさんの自宅は、ニューヨーク市郊外、緑に囲まれた高級住宅街にある。かつてのスーパーマンは、介護スタッフが動かす電動車いすに乗って玄関まで迎えてくれた。のどから延びたチューブが、車いすに装着された人工呼吸器につながれ、シューッ、シューッと音を立てる。スクリーンで何人もの強敵と戦ったヒーローは、首から下が動かない自身の体と闘っていた。

 「食べることも、トイレに行くことも、今は一人ではできない。でも、私は再び動ける日が来ると信じている。そのためにもクローン研究は必要なのです。」

 卵子に患者の体細胞核を入れたクローン胚からは、拒絶反応を起さずに体の様々な臓器や組織に変化できる能力のある胚性幹(ES)細胞を取り出すことが可能だ。研究が進んだ将来、その細胞を使い、七年前の落馬事故で損傷した脊髄を再生し、移植して、自由な体を取り戻すことが、リーブさんの夢だ。

 しかし、米国では宗教的な見地から、人間の卵子を操作するクローン研究に反発する人たちも多い。 上院には、研究の「全面禁止」と「容認」の双方の法案が出された。当初は五月に採決の予定だったが、「クローン人間の作製禁止」では一致したものの、論議は行き詰まったままだ。

 クローン研究は、脊髄損傷のほか、糖尿病、肝臓疾患など、多くの難病の再生治療に役立つ可能性が指摘されている。一方で、生命の本質に極めて近い領域を操作するため、この医療技術に対する不安や宗教的な反対意見は各国にあり、ドイツ、フランスはクローン胚作製を禁止、一方、英国は研究目的には認めている。

 日本では、クローン技術規正法によって、クローン人間作りと共に、クローン胚の作製も禁止しているが、研究者の間では「クローン人間を作ることと、医学研究のためのクローン胚作製は明確に分けるべきだ」との見方が主流。

 今年四月の第一回日本再生医療学会でも、治療目的での人間クローン胚の研究解禁を強く求める声が上がり、学会で独自の指針作りを進める方針を打ち出している。
 一方、リーブさんは、クローン研究の必要性を、難病患者たちの夢を議会の公聴会やテレビで語り続けてきた。研究推進を訴えるだけでなく、私財で財団を創設し、脊髄損傷の治療研究への助成もしている。地道な活動がいま、実を結びつつある。

 ブッシュ大統領の諮問機関、生命倫理会議は七月十一日、医療目的のクローン研究に対し、「一時的に四年間見合わせ、規制措置を論議する」と「一定の制限の下で研究を容認する」の二案を併記した勧告をまとめた。二案とも、「医療面も含めた研究の全面禁止」を求めた大統領の立場とは一線を画するものだ。上院での論議の行方に影響を与えるのは間違いない。
 
 「七年の車いす生活で、私は状況を受け入れることを学んだ。同時に、受け入れることと、あきらめることは違うということも学んだ。体が動かなくても、著作活動などを続けられる。三人の子どもたちに触れることはできなくても、父親として生きる姿を示すことができる」一語一語ゆっくり、しっかりした口調でリーブさんは話した。

【写真説明】
 クリストファー・リーブ
映画「スーパーマン」シリーズ(一九七八〜八七年)の主演で有名に。乗馬が趣味で、九五年に馬術大会で競技中に落馬して首の骨を折り、脊髄も損傷して体の自由を失った。
 翌年、アニメの声優で再起し、九七年にはテレビ映画の監督、九八年にはヒチコックの「裏窓」をテレビ用にリメークした作品で俳優としてカムバック。 最近も映画監督の話が持ち上がるなど、積極的に活動している。 

(写真は山岸直子撮影)



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