2001年(平成13年)1月1日 毎日新聞に掲載された
 「せき髄再生 研究前進」の記事


毎日新聞 2001年(平成13年) 1月10日(月曜日)


せき髄再生 研究前進


 神経を接合し、再生する。
ひと昔前にはできないとされていた「神経の修復」を最新医学は可能にしつつある。神経の修復が日常化すれば、交通事故などで中枢神経や末しょう神経を切断し、手足がまひしても、回復できる。患者団体は治療や研究の進展に大きな期待を寄せる。

 ダンススクールに通う女性(26)=東京都目黒区=は、少しだけ右腕を上げ、指を動かしてみせた。 「まだリハビリの途中だからぎこちないけど、手術前はまったく動かなかった。夢のようです」 女性は1996年、交通事故で負傷した。右腕の神経が切断していたため、左足から約30センチの神経を移植するという、ほとんど例のない難手術を受けた。

 手足を走る末しょう神経は、直径数ミリ以下。約1万本もの神経線維が詰まっている。顕微鏡下で行う微細手術の進歩や、神経線維の束が運動系か感覚系かを見分ける技術が生まれ、最高レベルの医療機関で手術がようやく可能になった。

 女性の13時間に及ぶ手術は成功し、2000年9月には、約1000人の観衆を前に舞台で踊れるようになった。神経を取った左足にも支障はないという。 手術を担当した慶応大の仲尾保志医師(42)=末しょう神経外科=は、末しょう神経の再生治療を目指したマウス実験も行っている。

 1982年に交通事故に遭い、首からしたが不自由になった「日本せきずい基金」の藤木徳雄事務局長(43)は「こうした治療や研究が積み重ねられると、自分も自力で歩けるようになるのではと、希望がわいてくる」と話す。




 米映画「スーパーマン」の主役として知られる俳優、クリストファー・リーブさん(48)は95年、落馬事故でせき髄を損傷した。車椅子生活を余儀なくされたが、翌年には「クリストファー・リーブ財団」(現クリストファー・リーブ麻痺財団)を設立し、せき髄再生の研究を支援する活動を続けている。

 末しょう神経を修復した例は出てきたが、せき髄のような中枢神経が切れた場合は、有効な治療法はない。しかし、動物実験では、スイス・チューリヒ大や京大、大阪大のほかにも、せき髄再生の可能性を示す実験結果が報告されている。



夢へ「材料はそろった」


 2000年10月、リーブさんは、米マイアミ大に完成した「ポープ・ライフ・センター」の落成式に招かれた。建設費3700万ドル(約42億円)を患者団体などの寄附でまかなった世界最大規模のせき髄損傷研究施設である。

 あいさつに立ったリーブさんは、戦争で障害を負った退役軍人や車椅子の子供ら数千人を前に「(せき髄損傷の治療のための)材料は出そろった。私自身の損傷もきっと回復するはずだ」と力強く訴えた。

写真説明: マイアミ大の「ポープ・ライフ・センター」の落成式に車椅子で出席し、
スピーチするクリストファー・リーブさん=2000年10月、A P





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