障害者とボブ・ドール氏との懇談会
日本せきずい基金 大濱 様
全国脊髄損傷者連合会 妻屋 様
     日本オストミー協会 阿部 様

 障害者とボブ・ドール氏との懇談会

 日時 :1999年6月25日 10:30-11:30
 場所 :ホテルオークラ(東京)

 <ドール氏スピーチ>

  今回皆様にお会い出来たことを大変光栄に感じています。アメリカ人として日本を訪れますと、日米間の友情の強さを改めて感じます。この友情は政府間だけにではなく、アメリカ人と日本人の個人の間にも感じます。

  もともと私が男性の健康に興味を持ち始めたのは1945年です。第2次世界大戦中にイタリア戦線で頸椎の一部を損傷し、完全な麻痺状態に陥りました。幸いにも私の脊髄が完全に損傷しなかったためでしょうが、6カ月、8カ月、10カ月と経つうちに徐々に歩けるようになりました。しかし、今でも右手は完全に麻痺していますし、左手の感覚も完全には戻っていません。

  私は米国議会でも、政治家として長年健康問題を取り扱ってきました。障害を持つようになった人が社会の中心で再び活動できるようにと、障害者関連の法案を通過させてきました。アメリカでは、脊髄損傷に関して、政府からの研究用の資金調達、また、民間のいろいろな方面からの援助が得られるようになってきています。これから先、皆さん方が活躍している時代にこの分野で革新的な変化があればと思っています。脊髄損傷にしても、オストミー関連にしても、アメリカではかなり状況が改善されました。

  91年になって、私は前立腺癌になりました。アメリカでは、一般的に男性は前立腺癌のことを話したがりません。恐らく日本では、もっと話したがらないのではないでしょうか。ですから、手術をしてもそのことを秘密にし、そのまま生活するといった感じなのではないかと想像します。

  しかし、最近になってアメリカでは状況が少し変わってきました。フォード大統領の奥様のベティー・フォード女史がご自身の乳癌をオープンに話したあたりから、「健康について色々と話してもいいのではないか」といった風潮ができてきました。皆様は、プロゴルファーのアーノルド・パーマー氏をご存知のことと思います。彼や、また、湾岸戦争で指揮を執ったシュワルツコフ氏などのアメリカの有名人が、自分たちが前立腺癌になり、手術を受けたことをオープンに話しました。彼らの活動によって認識が変わってきました。「男性は医者のところに行かなければならない、そうしなければそもそも病気かどうかわからない、だから積極的に医師のところに行くべきだ」という認識ができてきました。

  アメリカが日本と違うのは、脊髄損傷でも前立腺癌でもそうですが、最近アメリカの政府が、それらの医療の研究に積極的に資金を出していこうという態度を持つようになってきたことです。これは、とりもなおさず政治家の方たちの認識が高まったことで、それが政府や投票権を持つ人たちに力を与えているということに他なりません。今後、日本でも同様の動きが起こるのではないでしょうか。

  かつては「乳癌、前立腺癌などといったプライベートなことを人前で話すべきではない」という風潮だったのが変わりつつあります。それらに関わる後遺症の話もだんだんオープンに話せるようになってきました。脊髄損傷、前立腺癌のみならず、後遺症の頻尿、ED(勃起不全)などといった問題もオープンに話されるようになってきています。

  特にEDに関してはアメリカの泌尿器科関連の協会が積極的なプロモーションを始めています。「とにかく医師に相談しなければ、どう対処すべきかがわからない。いろいろな基礎疾患の兆候であるかもしれないから、医師にかからなければ、その結果それらの基礎疾患がひどくなる恐れもある」という内容です。

  私はもう議会のメンバーではありませんが、先週、癌関連の公聴会に招かれました。記者会見も兼ねており、私が勇気をもって色々なことを話したことに対し、癌関連の団体から表彰されました。また、前立腺癌に関する公聴会にも招かれました。

  日本においても、国会でこれらの問題が取り上げられるためには、やはりメディアの力を使うのが最も有効だと思います。アメリカの場合、メディアの中には、こういったことに無関心であったり、人の問題をおもしろがって報道するものもありますが、反面、困っている人にサポートを与えることに義務と責任を感じて報道するメディアもあります。日本においても、そういったメディアの協力を仰ぐことが重要ではないでしょうか。

  (今日も主要テレビの関係者が来ていらっしゃいます。:<ドール氏の間違い>)皆様の声が国会に取り上げられることが一番重要です。そのためには、皆様がどういった問題で悩んでいるのかを世の中に知ってもらう必要があります。皆様のようにエネルギーがある方には、それでも大変なこととは思いますが、同じ障害を持つ方々のために、そうした活動をする義務があると思います。メディアに取り上げてもらう活動をぜひ積極的にやって頂きたいと考えます。

  以上で私の話しを終わります。皆様のゴールについて、私も心の中でわかっているつもりです。そのゴールが達成されるよう心からお祈り致します。


<各患者団体の紹介>

(日本オストミー協会)

  当協会の会員は、直腸癌、膀胱癌などによる手術によって人工肛門、人工膀胱を持っています。現在会員数が1万2000名の全国組織です。日本におけるオストメイトは推定20〜30万です。本年、設立から30年を迎え、5月30日には、東京で記念大会を開きました。非常に成功裏に終わることができました。

  この様な組織ですが、活動は多岐に渡ります。オストメイトの福祉の向上、また、補装具の経済的援助を国に要請しています。しかし、まだ完全には実行されていないことを感じています。

  今日は特に性機能の問題について、当協会がこれまでどのように対応してきたか、簡単にご説明したいと思います。表面化しやすいオストメイトの問題は、排便、排尿が主なものです。性機能の問題はなかなか表面に出てきません。同時に日本ではシモの問題はタブー化されていて、オープンになることが非常に少ないので、ヒソヒソと個人の問題として話されてきたようです。

  これをなんとかしなければいけないと思ったのが1989年頃のことです。協会として積極的に性機能を取り上げようということで、全国的なキャンペーンをはりました。当時は、医師の指導により、男性の性機能障害の治療として塩酸パパベリン注射とプロステーシスを紹介しました。

  最近は陰圧式補助具がはやってきています。バイアグラについては、各自の病状によって取捨選択され、使えない場合もあるといった医療問題を抱えているため、協会としては今のところ積極的ではありません。更に健康保険が適用できず経済的な問題もあるため、もうしばらく様々な意見を聞きながら対応していきたいと考えています。

  性機能障害について不満なり苦情を持っているのは会員の50〜60%と推定しています。今日の話は主に男性の性機能障害ですが、最近、「男性の性機能が取り上げられるならば、女性の性機能の問題も考えてもらいたい」という要望が女性の会員の間から出されてきています。障害のある女性の心の持ち方をどうするか、また、手術による膣の狭さくで性行為ができなくなる人がいるという悩みがあり、これらの問題が女性のオストメイトの中で論議されています。オストメイトの仲間には、男性もさることながら女性の性機能障害もあることを付け加えさせて頂きたいと思います。

  当協会は国際オストミー協会に加入しており、3年に1回世界大会が開かれ、来年はオランダで開かれる予定です。アジアにもオストミー協会があり、そちらにも加入しています。今年の9月にはマレーシアのペナンでアジアの大会が開かれますが、我々も参加する予定です。

  こういう国際会議の中で、性機能障害の問題についても、意識的に取り上げていけたらと思います。今日の会合をきっかけにして、なんとかいい方向が見いだせればと思っています。

(全国脊髄損傷者連合会)

  1959年に神奈川県で発足した会です。福祉制度の問題、医療の問題、社会環境の問題の解決を目指して、全国の労災病院の患者が集まって結成されたという経緯をもっています。全国の約700名の会員数で発足しましたが、そのときの写真が今でも残っています。いまから見ると実に古めかしい車いすに全員が乗っていて、また、ひざには毛布が掛けられていて、いかにも患者らしい姿で写っています。

  現在ちょうど40周年を迎えるところです。来年は40周年を記念した大会を開く予定です。発足以来、まず医療問題ではリハビリ、脊髄の治療、蓐瘡の治療、泌尿器では尿失禁や便失禁についてずっと追求してきました。

  制度問題では、年金制度を発足させたということが挙げられます。1959年当時は、労働災害で脊髄損傷になっても一時金のみであったが、それを年金制度にしたことは会員に大きなインパクトがありました。また、交通、医療費の割引制度などもたくさん勝ち取ってきました。

  これらを裏返せば、会員の所得が少ないということで、やむを得ず割引制度を要求することになったといえますが、いまだにわれわれの団体の会員は低所得で生活が豊かではないところがあり、今後もいろいろな割引制度を要求していきたいと思います。

  一方、社会環境については、車いすで自動車や電車にに乗って旅行に出かけたり、レストランに入ったり、映画館に行ったりという環境が、以前の全く整っていなかった時代からくらべると、現在ではかなり改善されています。多くの車いす用のトイレが設置されるなど、障害者にとって非常に住みやすい社会になったと思います。しかしそれはまだ一部に限られており、これからも運動を続ける必要を感じています。

  そういった劣悪な環境から発足したため、ひたすら安定した生活をもとめることに打ち込んできました。従って、性の問題についてはごく最近になってようやく少し騒がれ出したところです。性が個人的な問題と考えられていることも、なかなか表に表れない理由の一つだと思います。年金の問題や社会環境の問題については表立って訴えられますが、性は表に出しにくい問題です。

  性の問題で最も深刻なのは、若い脊髄損傷者が結婚して子どもが欲しい場合です。どの医療機関でどういった治療をすればいいかも良くは知られておらず、大きな悩みとなっています。最近は脊髄損傷者でも一部は子どもが生めるような時代を迎えました。しかし、大きなハンディを持っていることは明白なのに、この領域の医療費についてはすべて自己負担です。EDの治療薬であるバイアグラも、根本治療にならないという理由で厚生省は保険を適用しませんでした。またわれわれが新たな課題を背負ったと思っています。

  いまは劣悪な環境からほぼ脱したと言っていいと思います。これからは生活の質の向上を目指した活動も必要と感じています。

(日本せきずい基金設立準備会)

  日本せきずい基金設立準備会という組織は、全国脊髄損傷者連合会のバックアップで3年程前に立ち上がりました。性や脊髄再生といった医学的な問題を積極的に取り上げるなど、連合会ではやりにくいところ、すなわち、要求活動ではなくて問題を世の中に提議していく活動を中心に据えています。

<質疑応答>

(日本オストミー協会:稲垣副会長)
  我々は、性機能の問題がとても大きなことと思っています。この問題が解決すれば、われわれの過半数、50〜60%の仲間が再び昔の生活に戻れるという重要な課題です。克服するのはなかなか難しいと思いますが、そのいちばん大きな原因は日本の文化的な考え方にあるのではないかと考えています。皆が黙って、秘密にしているため、性機能の問題はなかなか話題になりません。ドール氏の話を聞き、アメリカはその点非常にオープンであるとの印象を受けました。これからの我々の活動にアドバイスがあればと思います。
 
(ドール氏)
  日米間で性に関する文化が大きく違うとは思いません。だれかが声高に言っているかどうかが違いを生んでいるのだと思います。また、聞く耳を持っている人を探すことも重要です。

  政府の方たちに働きかけるのがいちばん有効だと思います。政府の中のだれかがこの問題に興味を持ってくれます。EDは男性だけの問題でなく、奥さまがたにもかかわる問題です。

  これまでも世界で大きな変化があったとき、常にその変化の最初は一人か二人によってはじめられました。それが 200、2000、20万、 200万と増えていき、最終的にみんなが同じ問題を抱えていたことに気づくのです。だれかがいちばん初めにやらなければならないのです。

  アメリカでも、いまだにEDに関して誤解があります。テレビ、新聞、ラジオなどメディアの側にもこの問題にまったく無知な人がいて、事実を取り違えるということもたくさん起こります。私がファイザー製薬と協力して、医師に「EDの問題を取り上げてください」と啓発する活動でさえ、やらないほうがいいのではと忠告する人がいます。

  私は、製品がいいと宣伝して回っているわけではありません。また、保険適用を認めろと言っているわけでもありません。それは各国で国民が決めていくことです。私が今回皆さんにお伝えしたいのは、「まず医療機関にいきましょう。そして、EDの問題があれば、それを相談してみましょう」ということです。それは脊髄損傷の結果あらわれたものかもしれませんし、まだ表れていない隠れた病気の兆候かもしれません。

  糖尿病、動脈硬化、飲み過ぎ、喫煙などいろいろなことがEDを引き起こします。EDの兆候を感じた場合、医師に相談しなければ、家族、会社、更には社会に対する自分の責任を放棄する結果に繋がりかねない、ということを伝えようとしているのです。

  ところで、たとえば東京で脊髄損傷患者の会があるときに、そこには新聞やテレビの方たちが来て、ちゃんと記事にしてもらっているのですか?

(日本せきずい基金設立準備会:大濱理事長)
  6月6日に大宮で、脊髄損傷者の性の問題を取り上げました。その中で、ファイザー製薬の協力もあり、バイアグラも講演会の演題として含めました。約 200人が集まったこの講演会については共同通信などが協力してくれて、国内各地の新聞に取り上げられました。

(ドール氏)
  いま日本で 900万人近くの男性がEDの問題に苦しんでいるということは、もし結婚なり何なりしていれば、同じ数の女性も問題を抱えていることになります。ラジオ、テレビ、新聞といったメディアの方たちに健康欄でその問題を積極的に取り上げてもらうことが必要と思います。声高に訴えていかなければなりません。そして、日本の一般の方々にとって、EDの問題は性だけの問題ではなく、生きるということの問題であり、幸せにも関連していることを取り上げてもらうべきと思います。

  また、脊髄損傷だけではなく、糖尿病などいろいろな病気の方たちがEDに悩んでいることと思います。会員の間で話し合いが始まったばかりということですが、これからは、皆さんが率先して、EDをオープンに話せる社会環境を醸成することが大切です。

  ファイザー製薬の支援をするわけでありませんが、例えばファイザー製薬のようなところが半日から1日に渡るED関連の会議を開き、そこにメディアや政治家といった影響力を持った人たちを数多く招き、そういった人たちに皆様の思いを書いたり話したりしてもらっては如何ですか。事態が変化しない理由は、実はメディアや政治家といった人たちが問題を知らないことによる場合が多いのだと考えます。だから、まず知ってもらうことが第一の課題だと思います。

  また、本人だけではなく、パートナーにもそういう会議には参加してもらうほうがいいと思います。なぜならば、EDの問題は、パートナーと家族の問題でもあるからです。

以上

Back

トップページに戻る