「日本脊髄障害医学会雑誌」16巻P202-203
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■ 「日本脊髄障害医学会雑誌」第16巻、2003年

 リハ専門病院における脊髄損傷データベースの構築

 伊藤良介* 横山 修* 林 輝明**
 神奈川リハ病院 *リハ科 **整形外科

Key words: Spinal Cord Injury (脊髄損傷)、Data Base (データベース)


 リハビリテーションにおけるデータベースの有用性は改めて述べるまでもない。しかし実用に耐えるデータベースを創り運用することは実際にはなかなか困難である。神奈川リハビリテーション病院でもこれまで沢山の脊髄損傷に関する研究を行ってきており、その際にも多種多様なデータが集められてきたが、用いられたデータはその時だけの利用に限られ、個人的に管理されるだけのことが多かった。そこで、治療システムの一部に組み込み、継続して利用できるような基礎的なデータベースを考案したので報告する。


【データベースの作成】

 データベースの利用目的としては、以下の項目を満足するものを目指した。
(1) 診療の補助、効率化:
 院内スタッフとの確実な情報交換、院外へのもれのない情報提治療プログラムの進行管理。
(2) 治療効果の記録:
 客観的なできるだけ数量化したデータを残し経済効率などの評価を行えるようにする、治療効果について他施設との比較を行い治療の質を向上させる。
(3) 疫学的データ蓄積:
 継続して蓄積することにより色々な変化を早期に把握し、課題の整理と対応に役立てる。実際のデータベースとしてはすでに沢山の既成のものがあり、脊髄損傷に限っても海外では米国脊損データベース(The National Spinal Cord Injury Database)、国内には全国労災病院脊髄損傷データベースなどがある。このようなデータベースは実績があり、それらを参考に当院の特性や患者層に配慮して項目の再検討を行った。また、院内の既存のデータベースとの整合性確保、外部のデータベースとの互換性にも配慮することにした。日常で使う際のことを考慮して、巨大なデータベースではなく、基礎データベース(この報告のもの)、動作能力チェック表、FIM経過表、クリニカルパスを同時に使用することにし、それぞれの部門で入力することを考えた。

 データベースの項目としては、結局労災病院データベースが基礎となり、いくつかの項目を追加したものとなった。主要な項目は表の通りである(表1)。



表1.データベースの項目                     .

 医事情報
 医療情報
    受傷日、受傷原因(外傷性、非外傷性)、etc
    急性期治療、etc
    入院の主目的
 合併症、併存症
    褥瘡、呼吸器感染、糖尿病、精神疾患、etc
 身体機能、ADL
    ASIA、FIM、Zancolli、MAS
 社会的背景、情報
    同居人、退院先、身体障害者手帳、介護認定、etc
 転帰                                  .


 当院は脊髄血行障害や脊髄炎などの非外傷性脊髄障害、精神疾患による自殺企図(飛び降り)が多いため項目に付け加えた。また亜急性期のリハだけでなく、合併症の治療のための入院が多いため、入院の目的の項を付け加えた。身体機能では、従来のASIAの評価、Zancolliの分類に加えて、痙性の評価としてMAS(Modified Ashworth Scale)を加えた。このように作製したデータベースに、現在新規入院患者のデータ入力と同時に、既存のデータから可能な部分の変換を行っている。


【データベースの利用】

 データベースの利用として、その一部を紹介する。ここでは1980年以来5年毎の入院患者の変化と、2000年度のリハビリテーション目的の入院者についてまとめた。

 まず1980年から、5年毎に1年間の患者データを集計した。1年間の入院延べ人数は95年まで120〜160人前後であったが、2000年には293人と倍増している。1999年に脊損用病床が増えているが、その割合を上回って増加している(図1)。

図1.1年間の延べ入院者数(5年毎)

 入院時の年齢は、徐々に60歳以上の高齢者が増加し、2000年には全体の約1/3に達している。従来の脊損者の高齢化と、高齢者の受傷自体が増加していることが原因と考えられる(図2)。高齢者はOPLLなどの基礎疾患を持つ場合が多いため、不全四肢麻痺の増加が著しい(図3)。


図2. 入院時年齢


図3. 身体障害

 入院の目的としては、リハと褥瘡はほぼ一定の割合で経過している。糖尿病など内科的合併症、骨折痛み等の問題が増加している(図4)。

 2000年度について集計すると、受傷の原因として対麻痺と四肢麻痺に分けてみると、非外傷性の脊髄障害は対麻痺に多く、転倒による障害はもっぱら四肢麻痺である。在院日数は徐々に短縮傾向にあり、四肢完全麻痺で約5ヶ月、対麻痺で約4ヶ月となっている。退院先は自宅が80%であるが、入院中に自宅の改造が間に合わない又は施設入所まで長期間を要するためやむをえず転院する場合がある。

図4. 入院の主目的


 以上の分析から幾つかの問題点が抽出された。
(1) 高齢者の増加:合併症、随伴症の対策と、物的人的な介護環境の整備が必要。
(2) 非外傷性脊髄障害:適切な医学的管理(リスク管理)が必要。特に大動脈解離による血行障害などでは、解離が完治していないこともあり、血圧などの適切な管理が必要である。
(3) 四肢不全麻痺の増加:障害の個人差が大きく、治療経過・転帰がまちまちなためクリニカルパスのような定型的なプログラムを適用しにくい。回復が長期にわたるため入院期間・治療期間の見極めが難しく、残存する障害に対する対応が遅れがちになる。
(4) 多彩な合併症、併存症:褥瘡をはじめとする合併症はまだまだ多く、予防のため啓蒙、研究が必要。精神科疾患、内科的問題も多くなっている。
(5) 入院期間の短縮:入院期間の短縮は社会的な要請ではあるが、当院での入院期間をこれ以上短縮すると治療に問題が生じかねない。またより長い入院期間で治療を行おうとしても入院希望者の数から限界がある。いわゆる社会的入院を避けること、さらに長期にわたりリハ的対応を続けるには身体障害者更生施設利用や地域の医療・福祉資源との役割分担が望まれる。


【まとめ】

 当院で使用中の脊髄損傷データベースの概要について紹介し、データベースを利用した統計の一部を報告した。確実なデータ入力と保守、個人情報の保護、他施設との情報交換など課題は多いが、データベースを利用して脊髄損傷の治療システムの改善や治療プログラムの改良を検討していく予定である。


【文献】

住田幹男他:脊髄損傷のOutcome、医歯薬出版 2001




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