脊髄損傷データベースの構築と発展に向けて
日本型脊髄損傷センターはなぜ普及しないのか
住田幹男* 金田浩治* 土岐明子* 徳弘昭博** 真柄 彰***
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:関西労災病院リハビリテーション科 |
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:吉備高原医療リハビリテーションセンター |
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:燕労災病院リハビリテーション科 |
Key words: spinal unit(脊損センター) spinal cord injury(脊髄損傷)
database(データベース)
はじめに:
我が国における脊髄損傷の治療内容については、先端的な内容を含めて、先行する欧米諸国のそれと比較して決して劣るものではない。しかしながら医療システムとしてみた場合、多くの問題点をはらんでおり、治療効率では著しく低下している。我々は平成6年よりデータベースを作成し、その後その内容を更新しながら、疫学調査の内容と合併症、治療成績、職業復帰、死因、生存率などについて検討してきた。
その成果を検討する過程で、アメリカのModel Systemと連動したNational Spinal
Cord Injury Statistical Center(NSCISC)の報告に触発されて、その目的やシステム、成果を比較研究して報告してきた。NSCISCの目的は、地域に根付いた総合的な急性期治療から入院リハ、外来での縦断的調査、職業リハを推進するシステムが、脊損患者の治療成績を向上させること、医療費の対費用効率に貢献していること、さらに新しい装置や治療方法などを取り入れた場合の効果の判定などとしており、データコレクターを配置して継続的に研究・検討を推進していくものである。
今回我々は日本においてなぜ総合脊損センターのような一貫した一施設完結型の脊損治療システムが各地に普及していかないのかを検討する目的で日本における医療政策の歩みと近年増加している救命救急センターからの脊損者の問題、さらに全国労災病院データベースにおいて各地の労災病院の脊髄損傷治療における病院機能を検討したので報告する。
1.日本の医療制度と脊髄損傷治療
池上1)らは「日本の医療の状況としてその特徴として国民全員が医療保険に加入しており、保険証一枚あれば費用のことをあまり気にしなくてもどこの医療機関でも受診できる。一方、医師は基本的に自由に診療することができ、出来高払い制度に基づいて診療した内容に応じて収入が増えるようになっている」としてその特徴を述べている。さらに医療機関を典型的なタイプに、大学病院、公的一搬病院、私的一般病院、私的老人病院、伝統的診療所に区別して、いずれも施設として未分化、専門医の未確立を指摘している。
「このような状況下で診療報酬等による制度的制約が医療機関の機能分化を阻んだこともあるが、むしろ各医療機関が自然発生的に誕生したため、分化はもともとしていなかったことに対応して現在のような診療報酬となった要素の方が大きい可能性がある。」としている。診療報酬を中心とした医療政策の大規模な変遷期を迎えているなかで診療報酬の点数による利益誘導による医療政策の舵取りは、脊損治療などのきわめて専門的かつ包括的な治療内容が要求される専門分野においてはきわめて困難であると言わねばならない。
2.救命救急センターの登場と整備
救急医療の二一ズは大きな社会的関心の的となり、マスコミなどにおいてもその問題点が大きく報道され、大学病院や公的病院においての救急救命センターの開設が推進されてきていることは周知のところであろう。専任の医師の教育も同時になされてきている。脊髄損傷の治療にも多くかかわるようになり、我々の施設においても救命救急センターからの転院が増えて来ている。
しかし、高位脊損者の呼吸管理や、皮膚管理、膀胱管理にはいまなお問題をかかえていることも事実である。重度多発外傷の一環として扱われており、急性期合併症がかかえる問題点がその後の治療成績へ及ぼすことへのフィードバックがなされておらず、さらに救命救急センターへのリハ医の関与も多くのセンターにおいてされていない。急性期医療の終了と後送病院への転送とする考え方が多く、地域ネットワークとして脊損センターの視点に立った運営は成功しているとはいえない。急性期ケアとして救命救急センターで行い、その地域で早期に脊損リハ治療可能病院への転送で完結させていくことも今後の可能な方策と考えられるが、その鍵となるのは両者にまたがるリハ医の役割であろう。2)オーストラリアのパース脊損センターにおいてもリハ医が脊損の治療の発生の報告を受けると救急センターに連絡をとり、往診して脊損病棟への移送を行っている。今後急性期ケアと早期リハビリの連動は重要になってくると思われる。
3.労災病院データベースからみた脊髄損傷治療における機能分化
我々は平成6年度より全国労災病院脊髄損傷治療データベースを作成し、労災病院群として脊損治療の状況を調査し、その結果を報告してきた。その中で第2次調査として徳弘らは、データベースからみた各労災病院の病院機能の分析を行い、「労災病院においても一施設一貫治療システムから、即日から2週間以内の急性期対応、3ヶ月以内の回復期対応、6ヶ月以内のリハ専門病院対応と様々であり、この点ではアメリ力のModel
Systemと大きく異なる。それぞれの地域での自然発生的に形成された棲み分けがなされている。」と報告している3)
。
今後多くの施設が急性期を指向していくことが予想されていく中で、脊髄損傷治療内容の入院前期間の短縮社会的入院の是正、入院期間における家屋の改造や車いすなどの補装具作成のための待機などの社会的入院の解消、合併症の減少に向けた治療システムの確立が急務である。データベースは、治療の質的向上、対費用効率に加えて病院機能を明らかにすることも可能であり、労災病院群以外も含めた多施設の参加を促進していくことで今後の脊損センターのあり方を見出していくことも可能であろう。第3次調査の結果を図1、2、3で示す。
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| 図1.入院前期間 |
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| 図2.入院期間 |
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| 図3.転帰 |
4.最後に
今後医療政策のなかで病院機能の分化が大きく推進されようとしている。データベースを構築する中でそれぞれの病院機能を検証し、さらに合併症の予防と治療成績の進展を検討していくことは我々の進んでいこうとする道標を確認し、ひいては脊損者の未来を開いていくためにも重要な課題であると考える。
文献
- 池上直己、J.C.キャンベル 日本の医療 統制とバランス感覚 中公新書1314 1996
- 菊地尚久 他 救命救急センターにおける脊髄損傷患者のリハビリテーション−リハの効果と退院後の転帰に注目して−日本パラプレジア医学会誌2002;15:112-113.
- 徳弘昭博 他 脊髄損傷治療における労災病院の機能 日職災医会誌2000;443-448
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