■ 長期ベンチレータ依存型高位頸髄損傷者の
ベンチレータ離脱訓練とその転帰について
「日本脊髄障害医学会雑誌」16巻P212-213 212-213.pdf 773kb

 長期ベンチレータ依存型高位頸髄損傷者のベンチレータ離脱訓練とその転帰について

 笠井史人 水間正澄
 昭和大学リハビリテーション医学診療科

 Key words: High cervical spinal cord injury (高位頸髄損傷), Weaning(ウィーニング)
 Mechanical ventilation (人工呼吸)


【目的】 我々は1995年より長期ベンチレータ依存型高位頸髄損傷者のベンチレータ離脱に取り組んできた。全例、急性期病院では離脱困難と判断され、生涯ベンチレータ依存を家族に告知された症例であったが、完全離脱できた症例も少なくない。今回はそれらを比較検討し高位頸髄損傷患者のベンチレータ離脱の可能性と転帰について考察する。


【対象】 当科でベンチレータ離脱訓練を行った長期ベンチレータ依存型高位頸髄損傷者10症例(5歳〜64歳、依存期間5ヶ月〜5年)を対象にした。依存度は終日依存が7例、夜間のみ依存が2例、6時間だけ離脱可能が1例。ASIA分類ではA:2例、B:5例、C:3例。損傷高位レベルは延髄下部まで損傷が及ぶもの1例、Cl残存1例、C2残存4例、C3残存2例、C4残存1例、C5
残存1例である。


【方法】 以下の3方法を併用しベンチレータ離脱訓練を行った患者の結果と転帰について検討した。
T. 同期式間欠的強制換気(SIMV: synchronized intermittent mandatory ventilation) +圧支持換気(PSV: pressure support ventilation) 減圧方式
SIMVの換気回数を減らしていく過程で、PSVを併用してウィーニング開始前と同等の換気量を確保しておき、次にその圧を徐々に減らしていく。ウィーニングは昼間開始し、夜間は調節機械換気(CMV: control mechanical ventilation)にして呼吸筋を十分休ませる。PSV圧が3〜5cmH2O程度でSIMV O〜3回程度でも血液ガスPaO2 > 75mmHg、PaCO2 < 45mmHgを保てれば日中離脱に踏み切る。後はon-off法と同様に時間を延長する。
U. on-off方式
単純にベンチレータを外した時間を徐々に延ばしていく。上記Tの方法がうまく進まない症例はこちらに切り替える。
V. 呼吸理学療法
内容は@離床と全身理学療法A排痰法B胸郭・肩甲帯・頸部の可動域訓練C呼吸筋力増強訓練、である。呼吸筋力増強訓練は横隔膜が十分に動く場合には腹式呼吸を意識してもらい、上部胸郭呼吸補助筋を使用しない呼吸パターンに変えていく。しかし横隔膜が弱い、もしくは動かない場合は逆に上部胸郭呼吸補助筋を十分に使うように指導する。僧帽筋上部(副神経・C2〜4支配)、胸鎖乳突筋(副神経・C1〜3支配)、斜角筋群(C1〜8支配)の収縮による上部胸隔挙上で吸気し、胸隔・肺の弾性復元力で呼気する(図1)。

図1.呼吸補助筋増強による呼吸訓練 症例はC2残存 ASIA A

僧帽筋上部(副神経・C2〜4支配)、胸鎖乳突筋(副神経・C1〜3支配)、
斜角筋群(C1〜8支配)の収縮による上部胸郭挙上で吸気する。


表1.ベンチレータ離脱訓練の結果と転帰

【結果】 ベンチレータ離脱訓練の結果と転帰を表1に示す。完全離脱できたものは4症例あり、就寝時のみベンチレータに依存する日中離脱例が2症例であった。これらをあわせた6症例は少なくとも片側には横隔膜運動が認められていた。ASIA分類と損傷高位レベルの組合せから見た離脱訓練の結果を表2に示す。表中に右下がりの対角線を点線で入れてみたが、点線より下方に離脱できなかった症例と短時間部分的にしか離脱できなかった症例が入った。点線より上方には完全離脱例と日中離脱例が入り、麻痺が重度で損傷レベルが高いほど離脱には不利であることが窺える。転帰では、完全離脱できた4症例が転院のうえ更なるリハを継続した。その他の症例は自宅(1症例は夫が医師であったため、夫の病院に)へ退院した。


【考察とまとめ】 ベンチレータを完全離脱もしくは日中離脱できた症例には少なくとも片側の横隔膜運動が見られたことから、自発呼吸の耐久性には横隔膜運動が大きく関係することが窺える1)。完全離脱できた症例のなかには受傷から約5年を経過しているものも含まれていた。受傷当時の呼吸能力がどの程度であったか不明であるが、今回の訓練開始時には不全麻痺で横隔膜運動もみられていたため離脱する能力を十分に持ち合わせていた。Ooらは、C1〜4損傷で急性期にベンチレータ管理を必要とした33例のうち、12例(36%)に遅発性の横隔膜麻痺の回復をみたと報告している。

 横隔膜麻痺の回復は受傷後平均143±116日からみられ、その後95±78日ベンチレータ離脱にかかったという2)。この報告から横隔膜麻痺の回復に時間がかかる症例もあり、ベンチレータ離脱の可否の判定にも相当の期間を要するといえる。安易な生涯ベンチレータ依存の宣告は慎むべきであり、その判定は慎重にすべきでありまた定期的な再評価も必要であると考える。

 横隔膜運動のみられなかった4症例のうち2症例は短時間ではあるが呼吸補助筋を使い自発呼吸が可能となった。在宅ベンチレータ依存型四肢麻痺者の死亡事故例は回路トラブルが多く、異常を知らせ介助者が駆けつけるまで自力呼吸できることが重要である。数分でも自力呼吸できれば安全性はかなり高まる。また夜間依存例を含めベンチレータ部分依存症例の方向性として、適切な呼吸補助法の導入により気管切開孔閉鎖もできる場合があるので、その可能性について検討する必要がある。

 ベンチレータ終日依存となった2症例はいずれも小児であり、つらい呼吸訓練に本人の十分な協力を得ることは難しく、積極的な訓練を進めることはできなかった。成長にあわせ再評価をしていく必要があると思われる。

 転帰では、完全離脱した4症例は転院のうえリハを継続することができた。転院後も進路の選択にバリエーションがある。しかしベンチレータ依存の6症例は自宅(1例は夫の病院)に帰らざるを得なかった。ベンチレータ離脱できないとリハ目的の転院ができず、在宅しか選択肢がないという問題点が示された。

表2.ベンチレータ離脱訓練の結果


文献
1) 笠井史人:ベンチレータ依存型四肢麻痺の間題点.総合リハ30: 219-224, 2002.
2) T. Oo et al: Delayed diaphragm recovery in 12 patients after high cervical spinal cord injury. A retrospective review of the diaphragm status of 107 patients ventilated after acute spinal cord injury, Spinal cord 37 (2), 117-122, 1999.


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